マースメヘレンの教会で復活祭オラトリオ

フランス・ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラとダニエル・ロイス指揮カペラ・アムステル
ダムにソリストとしてマイケル・チャンスが参加する『復活祭オラトリオ』が、比較的近場の
ベルギーの教会で演奏されると知って、心待ちにしていた。復活祭の1週間前とちと早く、
オランダだったら受難曲シーズンである。

c0188818_16301894.jpg2013年3月24日@St.Barbarakerk Maasmechelen
Orkest van de Achttiende Eeuw
o.l.v. Kenneth Montgomery
Cappella Amsterdam o.l.v. Daniel Reuss
Ilse Eerens (sopraan)
Michael Chance (alto)
Thomas Walker (tenor)
David Wilson-Johnson (bas)


Johann Sebastian Bach (1685 - 1750)
Missa in F BWV 233 (1738)
pauze
Oster-Oratorium BWV 249 (1725)

当日の朝、目を覚ますと外の風景は一変していた。またしても15センチの積雪で、一面の銀世界
である。ああ、晩までに少しは融けてくれるだろうか。
極々局地的な降雪だったようで、マーストリヒト以外はほとんど降らなかったのが救い。
日曜なのに道路の除雪はすぐにされた。雪が積もったままなのは、自宅の敷地だけである。
第一の関門はなんとかクリアできそうだ。

教会でのコンサートの場合、座席は自由で早い者勝ち!という場合が多い。開場と同時に入場
するため、コンサート開始45分前には会場に着いていようと思って、余裕を見て家を出た。
通常、車で30分の距離である。20時15分からのコンサートに行くのに19時少し前に出発した。

しかし高速に乗ってしばらくすると、いきなりの急停車でそのまま車の列は動かなくなってし
まった。
どうやら事故が起こったらしい。完全な渋滞で全く進まない。ああ~、よりによってこのタイ
ミングで事故って。しかし、ここで諦めてはいけないのだ。とにかく、ネヴァー・ギブアップを
念仏のように唱えてポジティブな運気を誘い込む。その願いは通じて、7,8分後には車の列が
動き出した。
高速道路の右側ガードレイルにナンバープレートがついたバンパーが張り付いている。左車線
には前がもがれてエンジン・ルームむき出しの車が180度回転してこっちを向いている。大方、
スリップでもしたのだろう。でも、高速道路上には雪は一片も見られないのだが。警察も来て
いないので、皆そろそろと事故車を避けつつ運転している。
ああ、ここもなんとかクリアした。

ベルギーに入ってマースメヘレンで高速を降りたら次の村に行くだけだ。しかし、なんと、
その村への道が道路工事のため閉鎖されている。
通行止めになってても、迂回路の表示などないのがいかにもベルギーである。引き返すしかない。
ほぼ一直線の道のりだし近いので、地図もナビも持たずに家を出てしまった。もう、あとは適当に
目星をつけた方向に進むしかない。
教会のある辺りは村と森に挟まれて、ヴィラという感じの高級住宅が多い。家々は鉄の柵と門扉の
奥深くに鎮座している。道を聞こうにも寒い晩だから人はほとんど外を歩いていない。
たまたま歩いている人を見かけたので、教会への道を尋ねた。かなりわかりにくい道であるが、
彼女は以前その近くに住んでいたそうなので、詳しく説明してくれたおかげで、ようやく辿りついた。

わたしの心境はまさに、Against All Odds



コンサート開始25分前くらいに着いたのだが、前の方のいい席は埋まってしまっている。かなり
後ろの方のしかし中央通路側の席をなんとか確保した。
プログラム・ブックは空いてる椅子の上に置いてある。それを読むと、なんと、指揮者が変更に
なっているではないか。
フランス・ブリュッヘンの代わりにケネス・モンゴメリーとな。

もうこうなると、ブリュッヘンの代わりがコープマンになってもヘレヴェッヘになっても驚かない。
ご高齢のブリュッヘンを見逃したくないと思って、ここまで困難も厭わずにやってきたというのに。
大体、このコンサートがこういう田舎の教会で開かれるというのが不思議である。
ツアーの(当初の)メンツは上掲写真のCD録音とほぼ同じで、ベルギーではここのみだし、
他はヨーロッパのもっと大きな都市である。
理由が分かった。ソプラノのイルゼ・エーレンスは、ここマースメヘレンの出身だったのだ。
彼女のコネで、このコンサートが実現されたと言ってもいい。

↓の動画は、ヘレヴェッヘ指揮、テノールはマーク・パドモア!


   最初見た時、とてもパドモアとは思えなかった。最近のワイルドでかっこいい彼とは
   同一人物とは信じられないほどナードっぽい、昔のパドモア。最後の方に出てくる
   ショル兄にも注目のこと。一体何年前?


さて、会場になっている教会は、別名「炭鉱のカテドラル」で、炭鉱地帯として19世紀から20
世紀初めに栄えたこの地にふさわしいインダストリアルなデザインである。すなわち、ガタイは
でかいが無骨で寒々しく、装飾もほとんどない。内壁はコンクリに漆喰を塗ってるのではないかと
思われるほど、つるりとした感じ。カテドラルという別名の通り、身廊の天井はゴシックを真似た
穹窿が高く、嫌~な予感がする。

器楽演奏が始まって、その予感がだんだんと実感に変わっていった。残響が長すぎ、エコーが
かかりすぎ、音が時間差で重なって団子状態になる。トランペットなんていつも1泊遅れて音が
届く感じになり、冴えないことおびただしい。悪いのは全てこの教会の音響のせいである。
合唱になると、もっといけない。カペラ・アムステルダムは一流の合唱団である。それなのに、
歌詞もパートもクリアに聞き取れないから、ほわんほわんしてるだけで、上手い下手の区別がつく
どころではない。
『受難曲』などは教会で聴くのに限る、と思っていたが、それは聖ヤンのようにコンサート会場と
して音響が理想的な教会に限られるのであって、多少有り難味は薄れても、ちゃんとしたホールで
聴く方が音楽としては楽しめるのだ。

『復活祭オラトリオ』は、華やかで明るい喜びを歌った曲だから、前半には、暗めのを持ってきて
対比させたらよかったのに。『ミサ曲ヘ長調』は、とても短くて初めて聴く曲であるが、どうも
印象に残る部分がないのであった。ホワンホワンとした音響に包まれて、何度かうとうとして
しまった。

『復活祭オラトリオ』も比較的短い曲だが、合唱部分が少なくて、ソリストの配分がなかなか
上手くて聴き応えのあるアリアがちりばめられている。ソプラノのアリアとバロック・フルートの
オブリガート、テノールのアリアとブロックフレーテ、アルトのアリアとオーボエとの絡みが
いずれも楽しい。

↓は、ショル兄の歌うアルトのアリア



当日の花、ソプラノのイルゼ・エーレンスの声にも歌唱にもどうも好みのツボにハマるものが
なかった。いかにも教会系の声だがピュアに澄んでるだけでなく暗さもある声質なので陰影を
感じさせるかと思いきや、歌唱がどうもあまり感心できないのだった。

期待していたのは、CTのマイケル・チャンスである。彼は現在では大御所なので隠居の身かと
思ってたら、今だに結構バッハなんかには出演しているのである。(2、3年前、デン・ハーグで
マイナーなスカルラッティの『ユディット』に乳母役で出演したのを実演で聴いた。)
こういうほのぼのした宗教曲ではオペラほどのテクニックは必要なさそうなので、まだまだ
マイケル・チャンスにもチャンスがあるのだ。期待を裏切らないオーラと声量とで、他の歌手を
圧していた。

『受難曲』ほど肩肘はった感じがしなくて、ひたすら明るい『復活祭オラトリア』は、いかにも
春の訪れを寿ぐのにふさわしい。もっと有名になってコンサートで聴く機会が増えるといい曲だ。
[PR]
by didoregina | 2013-03-26 10:28 | コンサート | Comments(4)
Commented by Vermeer at 2013-03-27 11:15 x
来月上旬から中旬までブリュッヘン・プロジェクトがすみだトリフォニー・ホールで予定されており、手兵&新日本フィルでモーツァルトとシューベルトを振るはずです。最後の来日とされており、御大の健康が心配ですね。

期待していたのはマイケル・チャンス⇒
5年前の3月、マーク・パドモア率いるOAEのヨハネ受難曲公演にて第 30 曲“Es ist vollbracht !”で痛切な表現をきかせていたと記憶しています。 まだ現役なんですね。ご立派。
Commented by レイネ at 2013-03-28 03:42 x
Vermeerさま、日曜日にブリュッヘンが登場しなかった理由はは病気ということでしたが、多分最後の日本ツアーを控えて大事を取ったのではないでしょうか。無理をしないで長く活動を続けてくれるほうがありがたいですからね。

本当に、マイケル・チャンスはまだまだ現役張れますよ、あんまり出番の多くない『ヨハネ』とか『復活祭オラトリオ』とかで。
Commented by Vermeer at 2013-03-28 11:47 x
ダニエル・ロイス指揮カペラ・アムステルダム⇒
調べてみたら2007年のラ ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンにて、ストラヴィンスキー『結婚』を聞きました。初めは不協和音や変則リズムが居心地悪かったのですが、やがて鮮烈なbarbarismに惹き込まれてしまい、終わってみれば総立ちのスタンディング・オヴェーションでした。忘れられない音楽体験です。素晴らしく技術・音楽性の高いアンサンブルですよね。
Commented by レイネ at 2013-03-28 15:18 x
Vermeerさま、ロイス指揮の合唱団はいずれも優秀と誉れ高いですね。合唱団員に自信がみなぎっている感じで安心して、音楽に身を委ねつつ聴いていられます。でも、今回のコンサートでは、音楽的云々というどころではない音響だったので、特に合唱の輪郭がぼやけてしまって全く残念です。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


by didoregina

プロフィールを見る
画像一覧

S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31

プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


最新のコメント

Vermeerさま、多分..
by レイネ at 01:38
トマスのソロ・コンサート..
by Vemeer at 01:25
Vermeerさま、この..
by レイネ at 20:56
詳細なレポート、楽しく拝..
by Vermeer at 18:02
ロンドンの椿姫さま、それ..
by レイネ at 17:03
大満足のマスタークラスで..
by ロンドンの椿姫 at 23:41
鍵コメさま、ヴェロニカ・..
by didoregina at 18:57
Mevrouwさま、北海..
by レイネ at 18:46
レイネ様も怒涛の更新で、..
by Mevrouw at 23:33
Mevrouwさま、サー..
by レイネ at 22:10
Mevrouwさま、夏の..
by レイネ at 22:05
新作オペラに挑むのは本当..
by Mevrouw at 20:56
クロアチア~ベネチアを自..
by Mevrouw at 20:27
Mevrouwさま、ご高..
by レイネ at 20:19
ようやく一息つける日なの..
by Mevrouw at 19:57
Mevrouwさま、癒し..
by レイネ at 16:49
このところネットからも音..
by Mevrouw at 16:37
斑猫さま、もうすでにパリ..
by レイネ at 16:57
ロンドンの椿姫さま、まさ..
by レイネ at 16:54
こんにちは CT研究会..
by 斑猫 at 00:16

以前の記事

2016年 11月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 06月
2015年 04月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月

タグ

最新のトラックバック

究極の愛を描いたワーグナ..
from dezire_photo &..
バッハが人類に残したメッ..
from dezire_photo &..
バッハが『ロ短調ミサ曲』..
from dezire_photo &..
ルター派のプロテスタント..
from dezire_photo &..
ダンテの『神曲』 ”地獄..
from dezire_photo &..
ポン=タヴァン派、総合主..
from dezire_photo &..
倉冨亮太さんの繊細な美し..
from dezire_photo &..
ダイナミックで刺激的な多..
from dezire_photo &..
贅沢と快楽に生きる娼婦な..
from dezire_photo &..
バッハとヘンデルの音楽性..
from dezire_photo &..

カテゴリ

全体
バロック
映画
オペラ実演
オペラ映像
オペラ コンサート形式
着物
セイリング
コンサート
美術
帽子
マレーナ・エルンマン
イエスティン・デイヴィス
クイーン
CD
20世紀の音楽
旅行
料理
彫金
ビール醸造所
ベルギー・ビール
ハイ・ティー
サイクリング
ダンス
ハイキング
バッグ
教会建築
カウンターテナー
演劇
未分類

検索

ファン

記事ランキング

ブログジャンル

音楽
映画

画像一覧