ドン・カルロに会いに、エル・エスコリアルへ。マドリッドで絵を見る その2.

王宮を見学した翌日は、バスでマドリッドから1時間のエル・エスコリアルまで足を伸ばした。

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スペイン国王フェリペ2世の離宮と修道院が合体し、広大な敷地に建つ建物は迷宮のよう。

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順路に従って内部を見学する。
最初の部分は修道院の建設に関する展示で、設計図や模型や建築に使われた工具や機械が
大量に展示されていて、建築の専門家や学生には興味深いだろうと思われる。
その後、暗くて寒々しい小部屋を沢山通るのだが、インテリアよりもそれらの部屋部屋に
掛けられている絵画の数に驚嘆する。主にフェリペ2世が当時スペインの属領だったフラン
ドルから集めたものが多い。

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       大小の中庭を囲む複雑な作りで、建物内部の写真撮影は禁止。
       この庭をドン・カルロスは、フィアンセから一転継母になったエリザベッタ
       といっしょに散歩したりしたのだろうか。

外庭に面した王宮部分の内部には、少し開放感と家庭的な雰囲気が感じられる。
しかし、そこから地下にある王家の霊廟に進むと、あっと驚く。
王や王妃や、王位を継ぐことが出来なかった王子や王女などの石棺の並ぶ廟が続くのだ。

面白いなと思ったのは、王子や王女の墓碑や石棺にAとBという文字が交互に並んでいる
ことだ。
なんだろうと思ったら、Aはオーストリアの略でBはブルボン家の略なのだった。
スペインでは、王家にはハプスブルク家という代わりにオーストリアのという形容が付いて
いたのだ。


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       スペイン国王カルロス1世(神聖ローマ皇帝カルロス5世)と
       その子フェリペ2世の墓のある廟ではなぜか写真撮影が許される。

父王フェリペ2世とその子ドン・カルロスの確執は、ヴェルディのオペラ『ドン・カルロ』で
有名なので、皆誰でも判官贔屓でドン・カルロスに特別の憐憫の情を感じるのではなかろうか。

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       昨シーズン、アムステルダムの歌劇場で再演された『ドン・カルロ』。
       エル・エスコリアルの霊廟のイメージがスタイリッシュな舞台装置に。
       しかし、実際の霊廟はもっと権力や血の匂いが漂い、生々しかった。

ドン・カルロスの石棺は、王位を継承できずに若死にした悲劇の境遇を物語るかのようにシン
プルで、母の石棺と同じ部屋にひっそりと置かれてあった。

ヴァチカンに次ぐ量と質というエル・エスコリアルの図書館の蔵書の間に、この宮殿で過ごした
時間の長かったフェリペ2世の家族それぞれの肖像画がかかっている。

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       フェリペ2世(1557年) アントニス・モル画 エル・エスコリアル蔵

フェリペ2世は、典型的なハプスブルク家のルックスの人物である。そして、いかにも権力へ
の執着が非常に強そうなのは、粘っこい目付きとエル・エスコリアルの建築や装飾やとてつも
ない数の蔵書や絵画コレクションからも覗い知れる。

首には、ブルゴーニュ公国から引き継いだ金羊毛騎士団の金の勲章をかけている。その点でも
フランドルには断ち切れない絆がありありと描かれているので、オランダ・ベルギー人の彼を
見る目は複雑である。

画家のアントニス・モルは、オランダ人だが、当時スペインやポルトガル王家に重用された。
また興味深いのは、スペインからのオランダ独立の立役者であるオラニエ公ウィレムの若かり
し頃の肖像画(不敵な面構えで非常にかっこいい)も、同じ画家が描いていることだ。
この二人は敵同士であったのに。

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        オラニエ公ウィレム(1555年) アントニス・モル画 カッセル美術館蔵

このオラニエ公ウィレムの肖像画には、3年前にデルフトのプリンセンホフ美術館でお目にか
かった。
今は美術館になっているその館で、彼は暗殺されたのだった。スペインからの開放を勝ち取った
彼はオランダ建国の父として現在でもオランダ人から非常に崇められている存在だ。(一番好
きな歴史人物とかオランダ史で重要な人物投票では常にナンバーワン)

ついでに言うと、オランダ王家代々の墓は、デルフトのマルクトに建つ新教会の地下にあるの
だが、非公開である。それに対して、スペイン王家の墓は、ここエル・エスコリアルで一般公開
されていて、その事実からも、両国国民性および王室の対極のような隔たりを感じる。


さて、フェリペ2世の息子の1人であるドン・カルロスは、虚弱児だったらしい。
上掲の二人の肖像画と近い時期に描かれたドン・カルロスの肖像画も比較のためご覧いただき
たい。いかにも癇の強そうな、青筋がぴくぴくしているような表情だ。
カトリックの象徴かつフランドル支配も暗示する金羊毛騎士団のメダルを掛けていないのが、
大人になってからの彼の悲運を予兆するかのようだ。

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   プラド美術館蔵のドン・カルロス(1558年) アロンソ・サンチェス・コエーリョ画


エル・エスコリアル見学を終えて、近くのタパス・バーに寄った。そこに置いてあったビールは、
オランダのアムステル。なんとなく因縁めいている?

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        カウンターではビールもワインもピンチョス(一口のつまみ)も目茶安。
        テーブルで食べてる人の料理を見たら、どれも美味しそうだった。
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by didoregina | 2013-01-06 15:42 | 旅行 | Comments(4)
Commented by galahad at 2013-01-07 23:33 x
エル・エスコリアル行ってみたいです。この霊廟とフェリペ2世の肖像画の写真を使って、こっそりクリップ作っちゃったりしてます。実際の霊廟のなかの空気に触れてみたいです。行きたいとこばかりあってこまります。マドリッドは私みたいのが一人で出かけても大丈夫そうですか?
Commented by レイネ at 2013-01-08 00:52 x
galahadさま、どの肖像画を使ったクリップなのかしら。ミーシャ=フェリペのでしょう。エル・エスコリアルは世塵から隔絶されてますが、マドリッドの下町にはスリやひったくりが多くて剣呑。歌劇場周辺は渋谷か竹下通りみたいな賑わいなので、貧乏そうな格好して(ブランドものなどは絶対に持たず)、いつでも四方八方に目を配り、人混みが嫌でも裏通りは避けて、貴重品は肌身離さず、自信に満ちた態度でひたすら真っ直ぐ目的地に向かってささっと歩いてれば大丈夫でしょう。皆から受けた注意を守ったので、おかげさまで無事でした。とにかく気を一瞬でも抜いたらダメよ。
オペラ観劇に便利なように歌劇場近くのホテルにしたのですが、金持ちが多くてブランドの店が連なるサラマンカ地域に流れる空気はまるで別物でした。
Commented by bonnjour at 2013-01-08 06:40
ドン・カルロスってオペラでは薄幸の王子様みたいな扱いだったのでちょっと感情移入しましたが(とはいえバリトン・フェチの私はロドリーゴ様に<<はあと>>マーク)、史実では血族結婚を繰り返した末の、かなり重度の精神障害者ときき、それじゃエリザベッタとの悲恋なんて、絶対ナイナイと思いました。

スペインは夜が遅くていいですね。マドリッドにオペラを見にいったとき、終演後に出待ちして(PJのビズも有難く頂戴し)、夜24時頃から日仏混合女子チーム4人で飲みに行きましたが、軒並みカフェが営業中なので、驚きました。
Commented by レイネ at 2013-01-08 16:31 x
bonnjourさま、ハプスブルク家の人物には変わった人たちが多くて興味が尽きません。特にカルロス1世とフェリペ2世の時代はオランダ史とも密接なので、ウィーンやマドリッドの美術館や宮殿ではわくわくするような発見が。

クリスマス前のマドリッドは、町中異常な浮かれ具合でした。夜8時まで美術館で過ごして、そのあとぶらぶらと歩きながら食事場所を探すんですが、9時以降ですね、ようやくレストランが混みだすのは。
おっかけでもない限り、今後、マドリッドの歌劇場に行く機会はなさそうです。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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