歌劇場でのコスチューム・セール参戦記@リエージュ

歌劇場で不要になり場所塞ぎの衣装を放出するセールというのは、リエージュでは大体、
3年おきくらいにあるように思う。
アムステルダムの歌劇場では、知ってる限り今までに1回あった。
興味は大いにあっても、なかなか実際にセールに出かける機会に恵まれなかった。
満を持して、本日、リエージュまで行ってきた。同行したのは、ファンションに関しては情熱を
共有するPである。

実は、昨日、Pといっしょにマーストリヒト市内にあるウェディング・ドレスや式典およびパーティ用の
服専門店のセールに出かけた。オートクチュールで、オーソドックス過ぎず遊びのあるデザインと
素材およびシルエットで満足できるジャケット2着をゲットしたばかりだ。オペラやコンサートやパー
ティーにピッタリ。しかし、おかげで懐はあまり暖かくない。

リエージュでは、いつかヴェネツィアのカーニヴァルで着るためのドレスを狙うことにした。

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       事前に目を付けていたのは、『ユグノー教徒』のマルグリット・ド・ヴァロワ
       役でアニク・マッシスが着たドレス。

一体いくら位になるのか見当が付きかねたが、100ユーロを上限と決めた。オークションと同様に
セールに参戦する時には、自分の決めた上限を絶対に超えないことを厳守する。そうでないと、
その場の熱気に押されて、どうでもいいようなものを安いからという理由で買って後悔することになる。

セールに勝つための鉄則はシンプルで、誰よりも早く、狙っているもの目がけて突撃することだ。

しかし、まず、出だしで躓いた。
11時開始のセール会場、すなわち歌劇場に到着したのが11時20分ごろ。出遅れている。
すでに入り口から黒山の人だかりで、恐れていた通り、デパートのバーゲン・セールのような様相を
呈している。開場前から並んで待って入った人が多いのだろうな、と思う。

ホール、フォアイエ、廊下などに、木製のコンテナのような衣装保管および移動用のケースが立ち
並び、その中に様々な衣装がハンガーにかかっている。全部で800点ほどだという。
試着室などないから、男女入り乱れて、その辺の廊下で真剣に試着している。すごい熱気である。
目指すタイプのドレスは、もうほとんどしっかりと誰かの腕に抱えられていて、探しても見当たらない。
そして、主役用の手の込んだドレスは大体、200ユーロくらいと、お安くない。

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     一番欲しかった、やはりマルグリット・ド・ヴァロワのドレスは、今回の
     目玉商品のようで、レジ近くのマネキンが着て立っていた。凝った
     素晴らしい素材(シルク)とデザインが光っていて、実物は工芸品の趣。
     さすがに300ユーロ。しかもバニエなし。


わたしの手が届きそうな値段のドレスは、その他大勢の合唱団員が着ていたようなものだ。
それでも120から160ユーロはする。そして、もうあらかた残っていない。
かろうじて、これならばと思えるドレスを一着見つけた。『ランメルモールのルチア』の結婚式の
場面で招待客の一人が着ていた衣装で、赤のロング・ドレスにブロカードのロングのガウンと
同布の帽子のセット。

c0188818_6285544.jpg

       左手後ろの方に立ってる女性が着ている衣装を試着。

このドレス・セットは、ワインカラーに黒で模様を織り出したブロカード素材でルネッサンス風提灯袖の
ロング・ガウンと、下の赤のロング・ドレスの胴の部分にヴェネツィアのカーニヴァル用仮面そのものの
デザインの鳥の羽とライン・ストーンを使った豪華でアーティな飾りがポイントになっている。
シルエットはオーセンティックだが、ディテールが凝っていて、全体的に派手で、ヴェネツィアの
カーニヴァルで着たいという目的にどんぴしゃだ。
ドレスの上半身部分は、デコルテがスクエアに開いていて、ビスチュエのようにしっかりした作りで、
背中は交差した紐を縛って結ぶようになっている。
スカート部分が安っぽい透けるようなオーガンジーなのだけが不満であるが、丈もウエストもぴったり。

ロングドレスはいずれもコルセットのようになった紐を後ろで締めるデザインになっていて、1人で着る
のは不可能なので、着付け部屋みたいなところで着せてもらえる。『風と共に去りぬ』の主人公が
小間使いにギューっとコルセットの紐を締められているところを思い出してもらいたい。
フォアイエの両面にある鏡の前に立って、着姿をチェックしてみた。かなり楽しいコスプレである。

買うべきかどうかかなり悩んだのだが、お値段が120ユーロで、予算を20ユーロ・オーヴァーした
ので、原則を貫いて諦めた。カメラを持っていかなかったので、着姿を写真に収められなかったの
が、返す返すも残念だ。


c0188818_6561941.jpg

       『エルナーニ』で使用された帽子その他をPはゲット。

Pとは、目指すものが異なるから、時間を決めて出口で待ち合わせることにした。
彼女はなんと、帽子5つ、ワンピース、エプロン、スカート、ショールの計9点を合計65ユーロで
ゲットした。(わたしは、結局何も買わなかった)

実際に舞台で着用されたものだから、全てに、歌劇場の名前、演目名、役名、そして歌手の名前の
タグがブランド・ラベルの代わりに縫い付けられている。
それを読むだけでも楽しい。

例えば、Pがゲットした帽子の一つは、『エルナーニ』でドン・リッカルドが被っていたものだし、
刺繍が素敵な大判のロング・ショールには、アンナ・カテリーナの名前が書かれているから、
「もしかしたら、アンナ・カテリーナ・アントナッチが使ったもの?」とか、物自体からストーリーが
発せられるのだ。
シャーベット・トーンのペール・グリーンのシザルで出来たつば広帽には、「コジ、フィオルディリージ、
ハーヴェマン」と書かれたタグが付いているので、そのプロダクションではバーバラ・ハーヴェマンが
フィオルディリージ役だったのだと思われる。果たして、彼女のバイオを読むと、ORWでコジ・
ファン・トゥッテに出演と書いてある。

どれも手作りの一品物、オートクチュールだから、手仕事を確かめるという楽しさもある。
その他大勢の着る衣装は、素材こそ高いものではないだろうが、結構デザインや細工が凝って
いて、縫製にも手が抜かれていない。

12時過ぎにセール会場を出る頃には、レジは長蛇の列。ホールやフォアイエを埋め尽くしたケースは
あらかた空になっていた。たったの1時間である。今日一日でほとんど全て捌けて、かなりの売り上げに
なったろう。
オペラの衣装にフィーヴァーする人たちの多いのに目を丸くしたが、マーストリヒト近辺はカーニヴァル
が盛んな地域である。皆、カーニヴァルのコスチュームをゲットするために来たんだろう。
カーニヴァルの衣装は、専門店で買うと、ちゃちなものでも結構な値段である。
手作りする人も多いが、時代もののコスチュームは、やはり専門家の手になるオペラの衣装だと
本格的であるから、100ユーロほどで手に入るなら、お値打ちともいえる。
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by didoregina | 2012-11-24 23:32 | オペラ実演 | Comments(8)
Commented by bonnjour at 2012-11-25 19:32
予想以上に激しい争奪戦だったんですね。試着したドレスの着姿が写真に残っていないのが、返す返すも残念です。レイネさんとPさんがワクテカ(=期待感に胸がワクワク、肌がテカテカしている状態)して品定めしている姿が目に浮かびます。

予算を20ユーロオーバーして潔く諦めるのは、いかにもオランダ人的? 私なら「外でお茶するのを2回諦めれば超過分を吸収できる」とか理由をつけて、買ってしまうことでしょう。
Commented by レイネ at 2012-11-25 20:36 x
bonnjourさま、きっと現金払いしか受け付けないだろうと、ATM機や駐車スペースを探すのに手間取って、入場が遅れたのも敗因のひとつ。でも、と~っても楽しかったですよ、本格的な衣装を着ることが出来て。またどこかでこういうセールがあったら、行きたい!

オランダでの長年の倹約修行のおかげで、予算に合わないものはすっぱり諦められるんです。でも、やっぱり買えばよかったと後悔して、しつこく忘れられないでいるものには、のちにめぐり巡って再会することもあります。今後も、ユグノー、マルグリットと唱え続けます。
Commented by 守屋 at 2012-11-26 16:31 x
おはようございます。本題と全く関係のない話題で申し訳有りません。お二人のやり取りから、「オランダでは英語表現のDo the dutchはどうとらえられているのか?」との疑問が。

 良い一日を。
Commented by bonnjour at 2012-11-26 21:30
こちらも横入りですみません。自爆行為を英語でKamikazeといわれて(おいおい神道の「神風」は自殺行為とは関係ないぞ)日本人が苦々しい気持ちになるのと同様、ダッチする=自殺すると使われるのは嫌な気持ちがすることでしょうね(レイネさん、実際にはどうなんでしょう?)。でも「ダッチ」というと、日本では「~ワイフ」を付けてニヤニヤする人が圧倒的(汗)。
Commented by 守屋 at 2012-11-27 02:51 x
Do the dutchは、「割り勘する」の意味です。英語って、本当にいやな言葉だとたまに感じます。他に、「見せかけの友人・友情」という意味でドイツ語の「shadenfreude」を英語として使うというのが有ります。ネガティヴなことを表すのに、他国を使うんじゃない、と。

 ちなみに、外国人が僕の前でharakiri, kamikazeを使ったら、湯沸かし器より早く沸騰します。
Commented by bonnjour at 2012-11-27 03:07
守屋さま: おおっ、割り勘は「go Dutch」という表現しか知らなかったのですが、語学は奥が深いですね。

ちなみに、do the dutchの語義を「To commit suicide; to kill oneself.」と説明している辞書もあるようです。==> http://www.dictionaryabc.com/Do%20the%20dutch

「ゲイシャ」を「美しい日本女性」くらいの意味だと思ってたフランス人がいて、在仏の友人がゲイシャといわれて沸騰したそうです(笑)。
Commented by 守屋 at 2012-11-27 03:28 x
住みません。今、大家に訊いたら、go Dutchでした。Shame on me!
Commented by レイネ at 2012-11-27 16:12 x
守屋さま、bonnjourさま、割り勘という意味のgoing Dutchとか Dutch treatという英語の表現に関して、オランダ人が気分を害したりすることはないとほぼ断言できます。プロテスタント的見地(?)からは倹約は美徳だし、割り勘は合理的かつ日常的なので、Dutchという形容も大いに結構、というところだと思います。オランダ人がケチなのを自虐するジョークも色々ありますし。

Do the Dutch(自殺する)の表現は知りませんでした。比較的新しい俗語用法ではないかしら。(わたしは、安楽死を選ぶ、という意味かと穿って勘ぐってしまった)
ネットで語源などちょっと調べてみました。以下のサイトのやり取りが結構面白いです。
http://www.phrases.org.uk/bulletin_board/26/messages/378.html


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
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