Alto Giove 聴き比べ

今年の目標として「カウンター・テナーを極める」を掲げた。
しかし、各地の歌劇場でのバロック・オペラ上演回数ががっくりと減ってしまった今シーズンは、
CTの生の声に接する機会があまり多くなかった。
また、バロック・オペラが演目にあっても、キャストにはCTではなくメゾ・ソプラノが選ばれること
の方が多い。実力ある若手CTが次々と育っているといるというのに、これはどうしたことだろう。

歌劇場のプロダクションやキャスティングに望みを託し手をこまねいているばかりでは、CTの未来
や立場には不確実な要素が多すぎるから、自らイニシアティブをとって魅力ある企画でCTを売り
出そう、と、マックス・エマニュエル・チェンチッチとそのパートナーによるプロダクションの『アルタ
セルセ』がナンシーの歌劇場での実演にこぎつけたのは、今年のあまり明るいとはいえないCT界に
とってもバロック・オペラ界にとっても画期的な出来事だった。
『アルタセルセ』には、人気の点でも実力の点でも今が旬で素晴らしいCTが5人も勢ぞろい
しているという点もユニークだ。もう一人のテノール歌手と合わせて歌手は男性ばかり。

ナンシー以外のヨーロッパ各地での巡業公演は、全てコンサート形式であるというのが惜しまれる。
特に、当初は共同企画の姿勢を示したケルン歌劇場が、財政縮小を余儀なくされたため、公演
回数を減らし、しかも舞台形式での上演ではなくなったというのが、ファンとしては辛いところだ。

さて、前置きが長くなったが、12月のケルン歌劇場でのヴィンチ作『アルタセルセ』公演の前祝い
というか、気分を盛り上げるために、(なぜか)ポルポラのオペラ『ポリフェーモ』中の有名アリア
Alto Gioveの聴き比べ大会を開催したい。

まずは、映画『カストラート』から。歌はデレク=リー・レイギンによる吹き替え。


 

10月の東京でのオフ会はCT愛好者の集まりであった。そのとき、どのCTを聴いたのが最初で
深入りのきっかけになったのか?という質問があった。とっさには思い出せなくて、マイケル・チャンス
かも、意識して実演を聴いたのはベジュン・メータからかな、というあやふやな回答をしたのだが、
やっぱり、レイギンの声がわたしのCT萌え原点である。

この曲といえば、PJことフィリップ・ジャルスキーの十八番である。彼の歌は皆様よく聴く機会が
おありかと思うので、ここではちょっと意外な人による音源と動画を紹介したいと思う。

↓は、デヴィッド・DQ・リーの歌に、ヤニク・ネゼ=セガン(!)によるピアノ伴奏。



ピアノ伴奏がなんだかロマン派っぽいのがご愛嬌だが、リーの歌唱は彼の個性である溌剌たる
パワーに満ち溢れしかも叙情性があって素晴らしい。この2004年の録音はかなりレアではないか。
この二人の組み合わせはカナダ人同士というつながりだろうか。

意外にも、CTによるこの曲の録音でいいものが見当たらない。メゾやアルトならば、ヴィヴィカ・
ジュノーやアン・ハレンベリの歌唱がCTやカストラートの印象に近いものを与える。
しかし、もっと意外なのは、ソプラノ歌手が歌っている場合が、結構多いのである。
ヴェロニカ・カンヘミやカリーナ・ゴーヴァンなど。(追記・訂正:ゴーヴァンはポルポラの曲を集めた
CDを出しているが、この歌は録音していない)

ここでは、より意外かつレアな映像を紹介したい。ユリア・レージネヴァが歌っているもの。


         尻切れトンボでもうしわけない。


ユリアちゃんといえばまだ20代前半だから、この動画の頃はもしかしたら20歳になったかならないか
の年齢かもしれない。この早熟な歌唱力は驚異的。七色の声とテクニックを駆使できるユリアちゃん、
恐るべし。

聴き比べに格好の歌手といえば、ケルメス姐だ。ユリアちゃんとは声質も年齢もルックスも曲への
アプローチも対極に位置していると言えよう。

シモーネ・ケルメスの新しいCD DRAMMAから。



バロック・オペラのニナ・ハーゲンかと思える見かけとは裏腹に、ここでの彼女の歌唱は清楚かつ
さらりとしたもので、感情の込め方に嫌味がない。天上および地上の王を慰めるための歌という
真髄を突いたと思える表現力はさすがである。
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by didoregina | 2012-11-20 19:52 | バロック | Comments(10)
Commented by アルチーナ at 2012-11-20 22:21 x
動画は又ゆっくり見させていただきます〜。で、アルタセルセも全編YouTube
にアップされましたし、ご覧になりました?(と、しつこいw)
ポリフェーモは今年の年末年始にかけてもシュヴェツィンゲンで上演されるようです。アチはTerry Way。…で、以前見かけたマルティナ・フランカとブレーメンでの公演の演出をすると言っている方がいるのですが、2014年にジャルスキーがブレーメンでアチと言う情報を見かけました。因みに情報源はヴィンチのアルタセルセを教えてくれたサイトです。来年のマルティナフランカはレオナルド・レーオの最後の喜劇だというリーク?もあり、正式発表はまだ…です。
Commented by レイネ at 2012-11-21 02:26 x
アルチーナさま、『アルタセルセ』全編がとうとうアップされましたか!それは、見なくちゃ。
『ポリファーモ』の公演情報ありがとうございます。来年の夏のマルティナ・フランカでファジョーリがアチという説(?)を信じたいのですが、まだ推測の域というか希望的観測の段階なのですね。。。でも、ブログに書くと夢が叶うことが多いので、希望を持ち続けます。正式発表は3月頃かしら?
Commented by bonnjour at 2012-11-21 03:23
PJ様の十八番バージョンをあえて外すところがレイネさんらしくて、いいわー。レイギンさんのは、微妙に音程が揺れるところが変態チック。リーさんは見かけによらず、可憐でさわやか。ユリア嬢、堂々たる歌唱。メルメス姐は、なぜか由紀さおりの「夜明けのスキャット」を思い出してしまいました(何故だ)。

来年の夏のマルティナ・フランカにファジョーリが出るなら、駆けつけたい。・・・遠いけど。コメントに書くと、きっとかないますよね(笑)。

ところで、「マックス・エマニュエル・チェンチッチとそのパートナー」って・・・(汗)。まあ、でもあの会社は「ラング&チェンチッチOEG」となっているから、確かに「ビジネス」パートナーですよね。
Commented by レイネ at 2012-11-21 04:30 x
bonnjourさま、PJヴァージョンはほとんど完璧に近い職人芸なので、聴き比べには適さないんです。突っ込みどころがないというか、他の人が霞んでしまうというか。歌われてるジュピターのごとく、天高く屹立してる。
上掲4人の中ではリー・ヴァージョンが飽きがこないので愛聴版。リーの声はクリアで明るく、解像度が高くて耳ざわりがよいのです。
ケルメス姐=由紀さおりって、なんとなく納得の表現です。姐はエキセントリックな見かけによらず、嫋々たる歌唱を聴かせるのがミソ。

チェンチッチとそのパートナーって、もちろんビジネス上のって意味ですよ~。
Commented by 名古屋のおやじ at 2012-11-21 21:17 x
CTを意識して聴くようになったのは、高校生の頃。アルフレッド・デラーのレコード(CDにあらず)です、シェイクスピア劇用の音楽とか、フォークソング集、そしてウィリアム・バードのミサ曲などが気に入っていました。そしてデヴィット・マンロウの仕事を通して知ったジェイムズ・ボウマン。日本初の本格的なCTらしい太刀川昭さ(ヤーコプスの所でも勉強したはず、名前を聞かなくなって久しいけど「、どうしているんだろう?)んのデビューリサイタルも、前の石橋メモリアルホールで聴いています(演奏会の途中、ホールが揺れたんですが、すぐ外で道路工事が原因だったことも、懐かしい思い出)、同じホールではヴィスの一回目(?)のレクチャーコンサートみたいなものも聴いたなあ。でも、一番印象的だったのは、やっぱりジェラール・レーヌ。そうそう、映画の『カストラート』は公開時に渋谷の映画館で観ました。クリストフ・ルセたちが音源の担当していましたよね。
Commented by bonnjour at 2012-11-21 23:21
名古屋のおやじ様、横から失礼します。私のCT入門は、同じく中高生時代にマンロウのレコード(CDなぞ跡形もない時代。笑)を通して知ったジェイムズ・ボウマン、タイトルは「十字軍の音楽」でした。そこにおさめられた「パレスチナの歌」の、男とも女ともつかない不思議なボウマンの声にひかれました。初のCT生演奏もボウマンとヴィスの共演@東京で、これまた録音とは違う、生の迫力に圧倒されました。

「カストラート」は公開時に前売券を買っていたのに仕事が忙しくて行けないうちに紙くずになってしまい、かなり後になってからDVDで見ました。今、あの映画が作られたら、CTとソプラノの声を合成せずとも、技巧が格段に進化した現役のCTで録音できそうですね。
Commented by レイネ at 2012-11-22 15:57 x
名古屋のおやじさま、さすが年季が入ってますね、CTに関しても。アンドレアス・ショルもインタビューで、彼の最初のアイドルはボウマンで、デラーの声の魔力に魅入られたと言ってました。
そして、レーヌといえばたしかPJのアイドルでした。

わたしのCT入門はずっと後からですが、最近の若手CTにはキモさがなくてファッショナブルなのも惹かれる理由のひとつかも。
Commented by レイネ at 2012-11-22 16:09 x
bonnjourさま、やはり早熟で年季が入ってますね。中高時代には、フレディ・マーキュリーやロジャー・テイラーの中世的な部分もある声に痺れてました。昔のCTってなんだかキモくて。

『カストラート』のメイキング・ヴィデオみたいなのが公開当時TV放映されたんですが、合成とは言ってもミキシングで声を混ぜちゃって人工的に作り上げた声というより、レイギンの歌唱が基本的には中心で、高音や装飾部分にソプラノを入れてる程度って感じでした。
Commented by Mev at 2012-11-27 02:52 x
もちろん、ワタシ的にはPJが一番なんですけど、ケルメスも味がありますね。聴きに行ったときもひたすらパワーかと思いきやしっとり面もあって。たぶん歌謡曲っぽいのは前奏のせいもあるのかな、と思いました。映画はもうちょっとうまい役者さんはいなかったのか、、、とか、違うこと思っちゃいまして、、、。
Commented by レイネ at 2012-11-27 16:18 x
Mevさま、PJのは上手すぎて、ちょっと。。。ケルメス姐の歌を生舞台で聴くと、バロック・オペラのアリアって歌謡曲的要素が結構あるなあ、と思いますよね。
映画では、あの失神演技があんまりですよね。名作といわれる映画でも、今観ると突っ込みどころが満載だったりします。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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