ブリュッセルのアールヌーヴォー建築 その1

ヴィクトール・オルタの設計したアール・ヌーヴォーの邸宅が、ブリュッセルにはいくつか
残っている。
遠征時に利用するブリュッセル中央駅やその裏手にあるコンサート・ホールのボザールは、
既にアール・ヌーヴォーよりも後の時代のアール・デコ様式の建築だが、やはりオルタ設計
である。
今まで、なんと彼のアール・ヌーヴォー時代の建物を実際に見る機会がなかった。
それで建築を専攻する長男と共に、ブリュッセルまで出かけてピン・ポイントで見て回った。

まずは、アヴェニュー・ルイーズからちょっと脇に入ったヤンソン通りにあるタッセル邸から。

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         EU関連のオフィスになっていて内部見学不可。
         丁度ランチから戻る人が中に入るところだったので、玄関ドアの
         奥にあるステンド・グラスのようなものがちょっと見えた。

いかにもアール・ヌーヴォー然とした淡いブルーがかったミント・グリーンの鉄柵のあるファ
サードが、同じ通りにある他の建物とは歴然と異なるし、ブリュッセルのアール・ヌーヴォー
建築巡りツアーのグループが道に立ってたりするから、すぐにわかった。

次は、アヴェニュー・ルイーズにあるソルヴェイ邸。

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       こちらは、事前に団体で申し込めば内部見学可能。
       ドアのガラス越しに、ゆったりした玄関ホールや廊下が見えた。

もちろん予約なしだったので、ここも内部見学はできなかった。こちらは、大通りに面して
間口も広々とした堂々たる館である。窓枠と同化したかのような色合いの鉄製装飾が渋く、
ファサードだけ見ると、曲線の要素が少なくいため、ちょっとデコに近い印象だ。

しかし、アール・ヌーヴォー建築は、外から眺めただけでは全く予想がつかないような、
内装の細かいディテールにこそ、その真価が発揮されるものだから、中に入ってみないこと
には如何とも言いがたい。装飾から発展したジャンルだけに、建築の場合でも細部の美しさが
命でもある。

ようやく、現在は博物館になっているオルタ邸に入って内部見学ができた。ここは午後2時
からオープンなので、今まで入場の機会に恵まれなかったのだ。(しかし内部は写真撮影禁止)

c0188818_458100.jpg

          外から見ると結構地味な外観。

c0188818_471764.jpg

          外側は隣り合った二軒だが中で繋がっている。

パブリック的なスペースである食堂や客間などは、床も壁もタイル貼りで、なんだか寒々し
ていて、腰を落ち着けたくなくなる。音楽室や書斎も同様だ。ビジネス関連の客には、あまり
長居してほしくなかったのではないかと思えるほど。
それが、階上に行けば行くほど、居間や寝室や客室などのプライヴェートな空間になるので
インティームな内装で個性が発揮されて、ディテールも美しく凝っているのだった。
特に美しさと機能性が印象に残るのは、館の中央にある階段だ。その部分の屋根がガラス張り
になっているので明るく開放的で、廊下のかわりに階段が用途の異なる個々のスペースを
中央でまとめしかも分離する役割を果たしている。オルタのアール・ヌーヴォー建築の美しさが
ここに凝縮されている。

最上階の庭に面した側のお嬢さんの部屋が立地的にもいいし、一番気に入った。
主寝室のアン・スイートになっているバス・ルームは、当時としては最新設備のものだろう。
大きなシャワーも、ドアで仕切られたトイレも、クローゼットも機能的で使い勝手がよさそうだ。

アヴェニュー・ルイーズに戻る途中のデファック通りには、オルタと同時代の建築家ポール・
アンカールの自邸がある。

c0188818_4243161.jpg

      こちらは、ファサード上部壁面のモザイクと壁画装飾が特徴的。
      同時代とはいえオルタとは全く異なるアプローチで、絵画を装飾に
      そのまま取り入れたアール・ヌーヴォー建築である。

この家は、周囲と全く相容れない壁画で正面ファサードを飾っているから、とても目立つ。
はっきり言って、非常に派手で自己主張が強い。

同じ通りにやはりアンカールによるシャンベルラーニ邸がある。
この家のある側を歩いていて、知らずにバルコニーの下を通ったとき不思議な感覚を覚えたので、
通りを渡って反対側から眺めたら、やはりアール・ヌーヴォーの建物だったのだ。
正面から見なくても、その無言の圧力とでもいうものを傍を通っただけで感じさせる、という
のが凄い。
しかし、1階部分はそっけない作りでアール・ヌーヴォーらしさを感じさせないから、この
感覚を覚えなかった長男からは「偶然でも、よくわかったね」とびっくりされた。世紀末芸術
に関しては、年の功というか、知らずと血肉となってるのかもしれない。

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     写真に写ってる人と同じ位置を歩いてるとき、第六感がピンと来た。


さて、この日最後に見たアール・ヌーヴォーの建物は、現在、楽器博物館となっている元百貨
店のオールド・イングランドだ。とはいっても、外から眺めただけ。ここは、最上階のレスト
ランの屋上テラスからの眺めが最高だ。しかし、いつも非常に混んでいて、そこで席が確保
できたのは一度だけだ。

c0188818_458853.jpg

     元オールド・イングランド、楽器博物館の塔のある角を下から眺める。

この建物を設計したのは、ポール・サントノワという建築家で、この人は、なんとギャルリー・
サン・チュベール(グラン・プラス近くにあるアーケードで、モネ劇場に行くときは必ず
ここを通り抜ける)を設計したジャン・ピエール・クリュイスナールの孫。ついでに、お祖父
さんの方は、ブリュッセルのコンセルヴァトワール(音大)の設計も担当したという。
いずれの建築物もなぜか音楽に関係してるのが不思議というか、なんとなく縁を感じる。








        
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by didoregina | 2012-11-17 21:12 | 旅行 | Comments(6)
Commented by bonnjour at 2012-11-19 15:55
アールヌーヴォー建築の「気」を察知したレイネさんの嗅覚、鋭い!
先日見たナンシー派のアールヌーヴォー建築は、軽快なパリのアールヌーヴォーより、むしろデコラティブなブリュッセルのものに近いそうですが、パリのアールヌーヴォー建築をじっくり見たわけでないので、よく分からんです。

建築をやっている人と一緒に建物めぐりすると、多角的な見方ができておもしろいですね。以前、建築家がリーダーの東京の町探訪のサークルに入っていて、建物を見るときに建材の説明などしていただき目からウロコでした。
Commented by レイネ at 2012-11-19 17:11 x
bonnjourさま、美術館などでも、目的があって探してもなかなか見つからない作品もあれば、ひっそり隠れたような場所にある作品から発散される「気」に誘い込まれる、不思議な(運命的な?)出会いをすることもあります。
ナンシーのアール・ヌーヴォー建築の印象は、もう薄れてしまってうろ覚えですが、あまりくどくなくて軽快なイメージが残ってるんです。パリでも、一度きちんとアール・ヌーヴォー建築を見て回りたいと思います。次回遠征のテーマにして。ウィーンにもユーゲント・シュティールの数々がありますし。

長男は、建築やってるとはいえ、まだまだ本や講義などから学んだ知識ばかりで、実際に見た数や経験では年の功の親の勝ち。
ところで、新作007映画『スカイフォール』でベン・ウィショー演じるナードの新しいQが長男そっくりなので、家族でウケました。
Commented by hbrmrs at 2012-11-19 22:42 x
こんにちは。結構ブリュッセルにアール・ヌーボー建築があるんですね。知りませんでした。
レイネさんが訪れたこれらの建物の中では、楽器博物館だけ行ったことがあります。
随分前なので少し記憶が薄れていますが、館内を巡るにあたってヘッドホーンを渡されて、展示されている楽器の音を聞ける、というのが新鮮だったことを覚えています。

屋上テラスのレストランも立ち寄りました。季節的にハイシーズンでなかったせいか、予約なしの飛び込みで入れました。そんなにいつも混んでいるのですね!

来年2月中旬、アントワープ、ブリュッセル、アムステルダムに遠征予定です!!
Commented by レイネ at 2012-11-19 23:28 x
hbrmrsさま、楽器博物館では最上階レストランに直行したのみで、ゆっくり展示を鑑賞したことがないんです。。。レストランも平日なら大丈夫なんでしょうが、日曜日は予約なしだと難しいみたいです。

来年二月というと、ウェストブルックの『マノン・レスコー』@モネもしくはモシュクの『ルクレツィア・ボルジア』にDNOの『ウィリアム・テル』とコンヘボでの『影のない女』ですね。いずれも行きたい演目です!アントワープは、『ナブッコ』だから惹かれないけど、ユロフスキー兄弟の指揮を聞き比べるという目的がおありなのかしら。
アムスかアントワープかブリュッセルのどこかでお茶などごいっしょできたら楽しいですね。
Commented by alice at 2012-11-20 13:21 x
そういえば私もパリのアールヌーボー建築はこれといって観ていませんね。ナンシーが初体験で、そのあとがブリュッセル。
インフォでオルタ美術館見学のついでに回りたいと言ったら、すごく喜んでくれてコピーを一枚とってくれて、市内地図に印をつけてくれました。それから3年くらいたって時間がなかったので回れませんでしたが、インフォには有料のアールヌーボー巡りの立派なパンフができていて、びっくり!私が行った時は愛好家の姿など全然ありませんでしたから。オルタ以外は内部の見学もできなかったので、機会があればぜひ!行って観たいです。ちなみにブリュッセルで私が見たのはタッセル邸とその近辺だけ。1Fのガラスが壊れて空き家になって修復すればいいのに惜しいと思った家はどうなったかしら。。。
最近はカタルーニャのモデルニスモを観る機会が増えました。

モネは4月のペレアスとメリザンド、ABキャストとも狙っているのですが、夫(入院中)の体調が戻らなければアウトでしょう(涙)
Commented by レイネ at 2012-11-20 15:57 x
aliceさま、パリでは、16区に多く残るギマールの設計した家々を外から見て、マキシム(アール・ヌーヴォー博物館になってる)の内部見学といきたいです。
ブリュッセルのアール・ヌーヴォーでは、アノン邸も内部見学ができるので、次回の楽しみに。
オルタ邸では、個人旅行と思しい日本人観光客5,6組を見かけました。充実したマップ付きパンフとか、色々あって便利になりましたからね。
アンカール設計の家の2階部分が貸しに出た!というニュースがありました。ベルギーだからさほど家賃も高くないし、借りて住んでみたいものです。
そうだわ、バルセロナの建築も面白そうですよね。

皆様、遠征計画が色々おありで楽しみですね。わたしの遠征は、主人の出張その他に合わせるんですが、1月下旬のミラノを夢見てます。
ご主人様のご回復をお祈りします。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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