Laurence Anyways  「わたしはロランス」 純粋胸キュン・ラブ・ストーリー

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監督: Xavier Dolan

Melvil Poupaud (Laurence Alia),
Suzanne Clément (Fred Belair),
Nathalie Baye (Laurence's mother)
Monia Chokri (Stéfanie Belair),
Yves Jacques (Michel Lafortune), e.a.

カナダ・フランス  2012年








フランスを代表するイケメン俳優メルヴィル・プポーが、性同一性障害に長年苦しむロランスと
いう男性が30歳の誕生日を境に、今後は女性として生きることをパートナーや家族に告白し、
実践に移すという難しい役を演じている。
しかしもっと難しいのは、男性としての彼と数年暮らして今後もサポートしようとするフレッド
(女性)役かもしれない。スザンヌ・クレマンはこの役で今年のカンヌ映画祭の「ある視点」
部門で最優秀女優賞を受賞した。(前回ブログ記事にしたA Perdre la Raisonに主演したエミ
リー・ドゥケンヌも同賞を同時受賞)

そして、この映画を監督したのは、弱冠23歳のカナダ人俳優でもあるグザヴィエ・ドランである。

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      カンヌ映画祭でのドラン監督。若い頃のジョニー・デップに似てキュート。

こんなにルックスにも才能にも恵まれた若手映画監督というと、『ジェイン・エア』のケイリー・
フクナガも思い出すのだが、いやもう恐るべし、と言うほかない。
ドランの場合、深い洞察の掘り下げが23歳とはとても思えず、映像のキャンピーなスタイリッ
シュさもユニークで、脱帽である。

性同一性障害や同性愛のカミングアウトは、近年でこそ社会的にも認められやすくなったが、
この映画での設定は1989年だから、当人および家族にとっての状況の困難さは想像はつく
ものの、やはり世間の偏見には抜きがたいものがあったのだなあ、と同情してしまう。
本人にとっては、今までとは異なった性の人間として生きるというのは困難ではあっても、
長年の悩みから開放されたわけでもあり、前途に希望が見える道である。
しかしそのパートナーとなると、頭では理解できても、様々な場面でかたくなな世間の偏見に
ぶちあたり、感情的にコントロールが難しくなる。
ロランスとフレッドの場合、生活スタイルも理解度もツーカーのソウルメイトであっただけに、
二人で険しい道をいっしょに歩もうとするのだが。。。

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      男性が化粧してるのが気に食わないマッチョな男にぼこぼこに殴られる。

カミング・アウトしたロランスは、化粧をしてスカートをはいておずおずと職場に行くのだが、
学校の生徒達は彼を別に特別視したりしない。80年代後半から90年代のファッションって、
かなりユニ・セックスだし男性もピーコック的だったのだなあ、と懐かしく思い出された。
しかし、頭の堅い保護者や同僚達からは理解されず、退職に追い込まれる。
その教員会議の黒板にロランスは、Ecce homoと書いて去るのだった。

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           ヒエロニムス・ボッスの『十字架を背負うキリスト』

ロランスの受難の道は、ボッスの描くキリストそのまま。蔑まれたり、暴力をふるわれたり。

ソウルメイトであるパートナーのフレッドは、さばさばした性格だし、最初はThe sky is the
limitよ!と楽天的であったが、社会の偏見という壁に突き当たったり、妊娠がわかって悩んだり
心理的に脆くなりうつ状態に陥る。感性がとても似ている二人であったのに、いつのまにか
いっしょに笑ったりすることもなくなり、関係はこじれていく。

別れ、再会、またの別れ、再々会という十年の描き方が、なんとも胸をきゅんとさせるのだった。
ソウルメイトであるから、片方が欠けると、体や心の半分がなくなったような心もとなさを
互いに覚え、再会を望むのだが、遭えば遭ったで言い放題で傷つけあうことになり、良好な
関係は長続きしない。似た者同士・愛する者同士であっても、どこかでひとつボタンをかけ
違えた服のような具合で、きちんとした形に納まらなくなっているのだ。
愛と同じくらい孤独な二人の心の辛さがひしひしと感じられる。

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映像のユニークな点では、人物を1人だけスクリーンの中央に置くという構図の多用が目新しい。
そして、クローズアップまではいかないが、かなりの大写しが多いのである。(構図としては
日本の少女漫画のコマに似ているから、もしかしたら影響を受けているのかもしれない)
服や髪など、ポップな色の使い方がべらぼうに上手い。(衣装スタイリングも監督が行った
ようだ)
そして、埃や、雪や、雨や、光や、水や、洗濯物など即物的でさほど叙情的でない様々なものが
大量に空中を舞ったり、唐突に降ってくるという場面が多く、映像として印象に残る。
シリアスなストーリーなのに、全体が独特の明るいスタイリッシュさでまとまっているのは、
ドランがかなり新しい感覚の持ち主だからであろう。比肩できる映画監督がちょっと思い浮か
ばない。

ストーリー展開やセンスが、ペドロ・アルマドバルに少し似ている。が、アルマドバル作品
ほどにはあれよあれよという小気味のいいテンポでは進まない。
波乱のストーリーだから、長い。最初の方は、ちょっともたついた感じで展開がのろいから、
少し端折ってもよいのでは、と思えた。過去のフラッシュバックで、ロランスの決意の固さと
長年の悩みが分かるのだが、女性として生きるようになってからの、フレッドや家族との関係
の方が重要なのだから。

この映画で一つだけ気に入らなかったのは音楽の使い方だ。
時代を代表するポップスとしてデペッシュ・モードのEnjoy the Silenceの断片が流れる。
また、冒頭に近い二人の親密なシーンのバックにはキム・カーンズのBette Davis Eyes、
はたまた緊迫したシーンでは、ベートーヴェンの『運命』とかプロコフィエフの『モンタ
ギュー家とキャプレット家』など、あまりにベタで安易に選ばれたような音楽が、しかも
ほんのさわりというか短い断片のみ使われているのにイライラさせられた。
映像のユニークなのに比べて、音楽に関しては、あまりにオリジナリティが希薄なのだった。




ロランス役のプポーもフレッド役のクレマンもめちゃウマで説得力がある。二人ともが主役と
言える。
そして、ロランスのちょっと冷たい母親役を、年取っても美しいナタリー・バイが演じている!
最初なかなか彼女とは気が付かなかった。トリュフォー監督作品『アメリカの夜』や『緑色の
部屋』に出演した若い頃の彼女は、好感度抜群で好きな女優だったのだが、最近彼女が出演
する映画に接する機会がなかったからだ。

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     女装のプポーは、大島弓子の『7月7日に』および『夜羽が好き』はたまた
     萩尾望都の『メッシュ』に出てくる美しい青年を思い起こさせた。


そうなのだ、この作品に表れている美的感覚は、70年代に愛読した少女漫画に近いのだ。
胸キュンになったのには、その辺も負っているのだと思うが、近来まれに見る究極のラブ・
ストーリーである。
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by didoregina | 2012-09-27 17:18 | 映画 | Comments(4)
Commented by 守屋 at 2012-10-01 04:56 x
こんばんわ。ヴォランティア活動の一部、そして僕自身の活動野中で常に興味を持っているセクシャル・アイデンティティの話なので、興味深かったです。僕のブログでも取り上げましたが、アメリカのパンク・バンドのフロント・パーソンがトランスであることを公表したり、ウォシャウスキィsの一人が性転換をしていたことを最近になって知りました。難しい話題ですが、特別視されることではない、という流れになってほしいものです。
Commented by レイネ at 2012-10-01 05:41 x
守屋さま、いや~、なんとも困難な問題を抱えているんですね、性同一障害の方々は。決死の覚悟でカミング・アウトしても、回りの人々がサポートしてくれなかったり、一般的に好奇の目で見られるというのはシンドそうです。有名人の場合は世間も納得・許容するのに。たとえば身近な人がそうなったとしたら、現実問題としてどう対応したらいいのか悩みそう。
この映画は、映像の新鮮さも内容の掘り下げ方も素晴らしく、23歳の監督作品とは恐れ入りました。
Commented by 守屋 at 2013-09-02 01:32 x
こんにちは。ロッキング・オンの渋谷氏が絶賛していて(リンク、張ってあります)、もしかしたらレイネさんが既にご覧になったかと思ったら、ありました。自分でコメントしたことすら忘れていましたが、このような映画はイギリスには絶対に来ないでしょうね。
Commented by レイネ at 2013-09-02 04:02 x
守屋さま、この映画、日本公開されてから一部の人の間ではかなり人気を博しているようです。渋谷さんも興奮して感想が書けないほどらしいけど、続きはどうなったのかしら?今まで見たことないタイプの映画で、しかも監督(美術、衣装、脚本その他も兼ねる)がとても若くてイケメンというのも、ミソです。本当にすごい才能です。機会があったら、ぜひぜひ。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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