モネ劇場の新企画 3 Films / 1 Artist

ブリュッセルの王立歌劇場モネが進む路線は、注目に値する。
強い意志の感じられる演目選定で、気鋭の演出家と指揮者の手になる公演が続々登場し、スター
歌手出演で集客を図ることは最初から諦めているが、見逃すと後悔するプロダクションばかりだ。
しかも、実演を見逃しても、全公演が終了後3週間はオンライン・ストリーミングで見られるという
お膳立てのよさ。オンデマンドでタダだし、一挙に視聴できなくても次に見るときにはストップした
その続きからという配慮も素晴らしい。オランダ語フランス語に加えて英語字幕も選べるようになった。
歌劇場がイニシアティブを取るオンライン・ストリーミングに関しては、他の劇場の数歩先を進む
モネ劇場だが、新シーズンから新たな企画を開始して、顧客サーヴィスに余念が無い。

それは、3 Films / 1 Artist と名付けられた企画だ。
各プロダクションを担当する作曲家もしくは演出家に映画を3本選んでもらって、公演期間中に
その映画を上映するというものである。最初の映画上映の前には、作曲家もしくは演出家による
45分のトークがあり、その映画を選んだ理由やその映画が及ぼした影響などを語ってもらう。

これは、オペラの作曲や演出に対しての映画芸術の影響力の大きさを十分に物語るものだと思う。
映画監督がオペラ演出も手がける例は昔から多々あったし、近年では映画の様々な手法を用いた
オペラ演出をよく見かけることからも、演出家にとっての映画というメディアおよび芸術の重要性は計り
知れない。

まず、9月公演はパスカル・デュサパン作曲の『パッション』(サシャ・ヴァルツ演出・振付)で
現代ものだから、若手作曲家自身が次の映画3本を選んだ。
9月3日  パゾリーニの『王女メディア』 (上映前にデュサパンによるトーク付き)
9月7日  フェリーニの『魂のジュリエッタ』
9月24日  エレム・クリモフの『炎628』

10月公演はベルクの『ルル』で、演出家のクリストフ・ワルリコフスキが選んだ映画は以下のとおり。
10月15日 パゾリーニの『テオレマ』(上映前にワルリコフスキによるトーク付き)
10月22日 ヴィスコンティの『地獄に堕ちた勇者ども』
10月29日 ファスビンダーの『ケレル』

両者ともパゾリーニを第一に選んだというのが興味深い。パゾリーニの映画はいまだに汲めども
尽きぬインスピレーションの泉というわけか。
フェリーニにしろヴィスコンティにしろ、イタリア映画最盛期の監督作品は、やはりオペラとの接点も
太く大きいのは、よくわかる気がする。

モネの企画はそれだけではない。
ベルクの『ルル』といえば、1979年にパリのオペラ・ガルニエで上演されたブーレーズ指揮、
パトリス・シェロー演出、テレサ・ストラータス主演のプロダクションが伝説的だ。そして、それは
TV用に収録されたのだがDVDとしては出回っていないのだという。そのお宝映像が10月4日に
モネ劇場で上映されるのだ。
しかも、シェローを招いてのインタビューも事前にあり、オペラ演出について、またベルクの『ルル』
について語ってもらうのだという!
この伝説的プロダクションの『ルル』は、ピアニストにして文筆家の青柳いづみこさんがフランスに
留学中、実演鑑賞されていて、著書『無邪気と悪魔は紙一重』に書かれているので、興味津々
だったものだ。それが、モネの企画で特別上映の運びになったとは、欣喜雀躍の心持である。

だから、今シーズンもモネ劇場からは目が離せないのだ。



  モネ劇場を賛美するにふさわしい動画は、ペット・ショップ・ボーイズ。
  I can't take my eyes off of you
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by didoregina | 2012-08-25 13:43 | 映画 | Comments(10)
Commented by さわやか革命 at 2012-08-25 22:07 x
ファスビンダーの『ケレル』、懐かしい!6本のうち唯一映画館で見た作品です。
ただ、これと『炎628』はオペラ的かというと??? どうなんでしょう。
Commented by Vermeer at 2012-08-25 22:10 x
さすがに切り口が多面的で鋭い!ですね。劇場のドラマトゥルグ≒文芸部、または企画に優秀なスタッフがいるのでしょう。一つのことから、無限に世界が広がる、素晴らしい体験だと思います。

シュローを招いて語ってもらう!⇒
今さっき買ってあって観ていなかった『王妃マルゴ』(94年、イザベル・アジャー二が壮絶な美しさ!)観終わった所でした!ますます『ユグノー教徒』を実演で観てみたいです。

結局『リング』演出の世界は、シェロー以来新しい局面が拓けていないのでは…。最近あまり活動的でないのが残念ですが、傑出した20世紀の演出家ですよね。
Commented by レイネ at 2012-08-26 01:05 x
さわやか革命さま、べスト映画3本だけ選べ、と言われたら、長いこと考え込んじゃいそうです。6本のうち観た事あるのは、フェリーニとヴィスコンティのだけ。パゾリーニのはなんとなく知ってる程度で、ファスビンダーとクリモフのは、タイトル聞くの初めて。。。渋い選択と言えましょう。
ところで、『ダークナイト・ライジング』観ました。突っ込みどころ満載ですね。
Commented by レイネ at 2012-08-26 01:19 x
Vermeerさま、モネは、インテンダント以下素晴らしいブレインが揃っている歌劇場だと思います。時代の先取りでは他の追随を許さないという気概が感じられて。

『王妃マルゴー』は、大好きな映画で、ハンドル名のレイネもここから取ったほど惚れこんでます。(La Reine Margot = 丸郷レイネ)
アジャーニも最近あまり見ませんね。去年観たデュパルデュー主演の映画に元恋人の幽霊役で出てましたが、太ってしまってて。。。

シェローに最近あまりお声がかからない、というのは、残念ではあっても、オペラ界全体での新陳代謝が活発な結果だと思えば、ある意味健全とも言えましょう。オペラ界だってどんどん進化して行ってるんだから、新世代の演出家が次々に活躍する場を得ているというのは、喜ばしいことです。
Commented by Kinox at 2012-08-26 02:03 x
> 全公演が終了後3週間はオンライン・ストリーミングで見られる
素敵! 欧州以外の我々にもどんどん斬新な演出を見せてくれて、その名をどんどん轟かせていただきましょう!

> 3 Films / 1 Artist と名付けられた企画
これまたとても興味深い、いい企画ですね。これは特定の演出関連ということではなくて本人が感銘を受けた映画、ということなのかな。
この間のバイロイトのパルシファルも少々ヴィスコンティなところがあったと個人的には思っていて、昨晩見直ししていたところでした。
仰るとおり、ヴィスコンティ、パゾリーニ、フェリーニ、そして黒澤の一部の映画は非常に音楽的で、わたしにとってはほんとに見ごたえある、こういうものを上げてくる演出家には大変期待いたしますわ。

> ベルクの『ルル』といえば、1979年にパリのオペラ・ガルニエで上演されたブーレーズ指揮
これとは違うのかしら。日本語字幕つきだったので、ジリジリ雑音がするにも拘わらず、先ごろ喜んで鑑賞していたところでした。http://youtu.be/DDSHpPnqrGE
Commented by レイネ at 2012-08-26 07:12 x
Kinoxさま、モネの先シーズンは、ワルリコフスキ演出の『メディア』やヘアハイム演出の『ルサルカ』やオーディ演出の『オーランド』やチェルニャコフ演出の『イル・トルヴァトーレ』など素晴らしいプロダクションの数々でしたから、来シーズンも期待に応えてくれるはず。

3 Films / 1 Artistではどういう基準で3本映画が選ばれたのか知りたいのですが、それは選者自身がトークで語ってくれるのでしょう。モネのサイトでトークの動画もしくは文に起こしたインタビューが公開されるのではないかと思ってます。

>この間のバイロイトのパルシファルも少々ヴィスコンティなところがあった
そうそう、Kinoxさんがそうおっしゃってたので、『パルジファル』youtubeでまたしっかりと見ようと思ってて、まだ時間がなくて果たせてないのです。。。『地獄に堕ちた勇者ども』の原題はイタリア語で『神々の黄昏』みたいなので、わたしもちょっと混乱しましたわ。

ブーレーズ指揮でシェロー演出の『ルル』はDVDになってなくても多分youtubeにアップされてるんじゃないかな、とは思ってましたが、やっぱり。これに違いありません。しかも日本語字幕付きとは!ご紹介ありがとうございます。
Commented by さわやか革命 at 2012-08-26 12:56 x
『ケレル』は骨の髄まで、そして画面の隅から隅までゲイの映画という感じです。従って、この三本のセレクトは……(汗)

『ダークナイト……』はトム・ハーディ分かりましたか?私は見終わっても分かりませんでした。
でも、巷の女性の映画ファンの間では「可愛い」(ハートマーク付き)と評判のようです。
Commented by レイネ at 2012-08-26 17:38 x
さわやか革命さま、『ケレル』見るチャンスがあるといいなあ。。。
先シーズンの『サロメ』@モネは、演出家ギィ・ヨーステン自身が、ヴィンターバーグの『セレブレーション』をパクッたと言ってるし、オーディも『オルランド』にフラッシュ・バックやフォワードなど映画の手法を取り入れてたし、今シーズンはハネケ演出の『コジ』もあるし、オペラ演出は映画をかなり意識してますよね。

トム・ハーディ命!で観に行ったので、最初からマークしてましたが、あの姿で「可愛い」と評判になるとは、第二のルト様か!
Commented by Vermeer at 2013-10-08 18:08 x
シェローが亡くなったんですね。享年68歳。ということは伝説のバイロイトリンクは31歳だった!最後の演出はエクサンプロヴァンスの『エレクトラ』だった様です。
Commented by レイネ at 2013-10-13 23:02 x
Vermeerさま、亀レスで失礼します。今、日本なんですが、なかなかパソコンのオンライン環境にいなくて。
シェローの訃報お知らせいただきありがとうございます。本当に、まだまだ若かったんですね。エクスの「エレクトラ」は未見なんですが、オンラインで全編見られますよね、多分?
来週のオフ会での再会を楽しみにしております。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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