『オルランド』@モネと『ファルナーチェ』@コンセルトヘボウ

モネ劇場でヘンデルの『オルランド』を鑑賞したのは、もうかれこれ一ヶ月近く前だ。
すぐに記事にすればよかったのに、字幕が見えない席だったため、モネのサイトからの
ストリーミング配信を見てから書こうと思ってのばしのばしにしていた。しかも、5月は超多忙
だったため、そのストリーミングを見たのは、なんと昨日、ようやく6月になってからだった。
そうなるともう、初回の感動は失せてしまっている。

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        『オルランド』カーテンコールでのアンジェリカ役ソフィー・カルトホイザー


そして今日は、コンセルトヘボウでヴィヴァルディの『ファルナーチェ』コンサート形式を
聴いてきた。これも、今日中に書かないと、セイリングから戻る2週間後になってしまう。
それでは、また『オルランド』@モネと同じ轍を踏むことになる。

そこで、趣向を変えて、両方ともカウンターテナーが主役であるというに着目してこの二つ
のオペラ公演を比較する形でレビューを書いて(お茶を濁して)みようと思う。

また、主役がCTであるという以外にも、この二つのオペラを比較するのはさほど荒唐
無稽な試みとは言いきれない共通項がいくつかあるのだ。

まず、ヘンデルとヴィヴァルディというほぼ同時代のバロック・オペラ好敵手による作曲である。
そして、どちらの作品でも苦悩する騎士が主人公である。
最後にはいきなりハッピーエンドになるのもお約束であるが、それまでの過程には紆余曲折
があり、主人公やその愛する人にとっては理不尽ともいえるような愛憎の葛藤の存在も共通
する。


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             絶好調だった公演後のチェンチッチ。
             パープルがかった茶色のビロードのジャケットに
             金色っぽい幅広のネクタイがダンディー風。


Handel Orlando@ De Munt 2012年 5月 6日

Muzikale leiding    René Jacobs
Regie   Pierre Audi
Decors en kostuums   Christof Hetzer
Belichting   Jean Kalman
Video   Michael Saxer

Orlando   Bejun Mehta
Angelica   Sophie Karthäuser
Medoro   Kristina Hammarström
Dorinda    Sunhae Im
Zoroastro   Konstantin Wolff

Baroque Orchestra B’Rock

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     けなげな看護婦のようなドリンダ役のスンハエ・イムとオルランド役のベジュン・メータ


ベジュン・メータが主人公オルランドで、CTの中でも明らかに暗い彼の声が、この役には
とても合っている。そして、メータは、毎年聴くたびに歌唱が上手くなっている。
ショルと同年とはとても思えないほど、40代に入ってもまだまだ進化を止めないのだ。
比較的歌手としての寿命の短いCTとしては、驚異的である。
彼はまた、大スクリーンに映し出される茫然自失の表情も素晴らしく、役者としても成長して
いる。

アンジェリカにソフィー・カルトホイザー、ドリンダにスンハエ・イムという共に可憐で清楚な
ソプラノ2人に対して、メドーロ役のクリスティーナ・ハマーストレームのズボン役がヴィジュ
アル的にもバッチリ決まっていた。ドラマを影で操るザラストロは出ずっぱりで、オルランドの
上司というより創造主のような趣。
ズボン役には、北欧系歌手が一番、とかねがね思っているのだが、ハマーストレームには
その歌声ともども惚れ惚れさせられた。

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           凛々しいメドーロ役のクリスティーナ・ハマーストレーム


ヘンデルの『オルランド』は、主要登場人物が5人と少ないため、室内劇のような息詰まる
サスペンスの趣で、悩める主人公の心理劇になっている。今回のオーディによる演出では、
オルランドの狂気を表現するのに、屈折した彼を放火魔の消防士にしてしまうというもので、
めらめらと燃える炎が病んだ精神の暗闇を炙り出している。この心理描写の着想は秀逸で
オーディは(ハネケの)映画にインスパイアされた手法(フラッシュ・バックやフラッシュ・
フォワード)を用い、舞台後方のスクリーンで映像を流した。今までのオーディらしくないが、
新境地開拓という意味で興味深かった。シンプルかつシャープな舞台装置もわかりやすくて
よかった。

『オルランド』@モネの指揮はルネ・ヤーコブスだが、オケはモネ専属でも、当初予定されて
いたというフライブルク・バロック・オーケストラでもなく、ベルギーの若手古楽オケのビーロック
であった。この名前を最初に見たとき、どうもあまりいい予感がしなかった。去年聴いた
『四季』その他のヴィヴァルディの演奏があまりにこじんまりとしていて、若さや躍動感に
乏しかったからだ。
このオケに白羽の矢が立ったのは、予算的な理由であると、インテンダントも指揮者も明言
している。だからあまり期待していなかったのが幸いしてか、首都の王立オペラ出演という
ことで発奮して練習もバッチリで臨んだのか、全体的にそれほど悪いとは思わなかった。
ただし、演奏にギアが入ってドライブ感が出てきたのは Fammi combattere以降からだ。
それまではなんだかおずおずといた調子だったので、ああまたか、と思ってしまった。



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       一番乗りできたサイン会でチェンチッチとツーショット


Vivaldi - Farnace RV 711@ Concertgebouw 2012年6月2日

I barocchisti o.l.v. Diego Fasolis

Farnace   Max Emmanuel Cencis
Gilade   Vivica Genaux
Bernice   Mary Ellen Nesi
Tamiri   Sara Mingardo
Pompeo   Daniele Behle
Aquillo   Emiliano Gonzalez Tro
Selinda   Carol Garcia

対する『ファルナーチェ』のタイトル・ロール、マックス・エマヌエル・チェンチッチの声は、
今日コンセルトヘボウで聴くと、CDとは全く異なる印象だった。男らしさよりは、古典的な
女っぽさ(女性演歌歌手のような艶っぽさ)を感じさせる。
前回のコンセルトヘボウでの不調を挽回するかのような力強さが漲り、コントロールも自由
自在に利いているので、聴いていて安心感がある。
指揮者ファゾリスとも、共演歌手との息もぴったりと合っていて、座長の風格すら感じさせる
チェンチッチの堂々たる歌唱であった。
しかし、この『ファルナーチェ』は、主役の登場場面が少ないのと相まって、対訳と歌詞の
ブックレットを見ながら聴いていたMevさんによると、かなり端折っての公演だったらしい。
だから、座長格のチェンチッチは、美味しいところをとって甘い汁を吸ったと言えるかもしれない。

『ファルナーチェ』の演奏は、ディエゴ・ファゾリス指揮イル・バロッキスティだ。生で聴くのは
多分初めてだと思う。
まず、ファゾリスのノリノリのしかしオーヴァーアクションとは無縁でポイントを絞った指揮姿の
美しさにびっくり。体全体から発散されるオーラでオケを引っ張っていく。しかも、立ったまま
チェンバロも弾く。チェンバロの音はほとんど聴こえてこないから、通奏低音というよりリズムを
リードするための弾き振りなのだった。あの体格だから、小型のチェンバロが壊れそうなくらいで、
キース・エマーソン張りのエネルギッシュな弾き方が見ていて楽しかった。
オケは、どうも、弦が弱い印象であったが、リュートは八面六臂の大活躍。

そして、女性歌手が全員素晴らしい充実度。ネジは堂々たる迫力で率先して全体を引っ張って
行ったし、ミンガルドは、声量こそ少な目ながら滋味のある深い歌声でしみじみと聞かせる。
ネジに比べて華やかさも声量もないから損な人だが、コンセルトヘボウの客は見掛け倒しの
派手さにだまされる人たちではない。まるで『スターバト・マーテル』を思わせる味わいの
ミンガルドの美しい弱音の魅力溢れるアリアに対して「ブラーヴァ」が飛んだ。
ネジは、ギリシャ風デザインの薄いシルクの花柄ドレスが素晴らしく似合っていて、美しい。
自信満々で悪役を歌うからかなり得なのだが、さすがの実力で圧倒的。
CDでは、なんだか鼻にかかったべったりしたような声で、男性的だが魅力に乏しいと思って
いたのとは生の声が全然異なりびっくりさせられたのは、ヴィヴィカ・ジュノーだ。
CTばりの唱法と声質のため、歌唱の変化に乏しいきらいはあるが、テクニックの凄さには圧倒
された。
アジリダの回り具合はもちろん余裕でしっかりと決まるし、リズムの安定したポルタメントが小気味
よい。もっと生のオペラ舞台で聴きたい観てみたいと思わせる人である。

アラン・カーティス指揮の『アリオダンテ』(サラ・コノリーがディドナートの代役で主役)を
コンサート形式で聴いたときにも感じたのだが、CD録音後にCDとほぼ同じキャストで各地を
巡回公演していたから、チームワークというか歌手同士の結束が強まり、コンサートも納得の
行く出来だった。
それに対して、2年前の『スザンナ』は、その時クリスティーがコンヘボでのコンサートを録音
するとか言っていたが、あまりいい出来のコンサートではなかった。その日、チェンチッチは病
上がりみたいだったし、録音のために歌いなおしすらさせていたが、歌手の出来不出来に
差が大きすぎた。まず、練習を積んでからスタジオで録音してこなれてから、そのキャストで
コンサートを行う方がよさそうだ。


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          Mevさんが疑惑の目を向けたチェンチッチの髪形。
          ステージでは、かなり金髪に近く見える薄いモヒカン。
          これって、地毛それとも鬘?
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by didoregina | 2012-06-03 01:01 | オペラ実演 | Comments(6)
Commented by Mev at 2012-06-03 14:59 x
素早いレポありがとうございます。同感! そしてヘンデルのオルランドとの対比も面白いです!
いつぞやレイネさまはヴィヴァルディはあまり好きではないとおっしゃっていましたが、今回なかなかよかったですよね?!

あ、そうそう、私も台本にサインもらっちゃいました。他にもCD買わなくてサインをもらっている方々いらっしゃったので、私も図々しく、、、ふふふ。 チッチ、さすがに磨きのかかった優しーい物腰でしたね。ファソリスにもサインもらいましたが、そちらも見てくれは怖いですがニコッとしてもらうとほっとしました。
Commented by レイネ at 2012-06-03 17:32 x
Mevさま、昨日も楽しいひとときをどうもありがとう。歌手が粒ぞろいだし、ファゾリスの指揮もよかったですね。

おお、サインもらえてよかったわね~!写真撮るのに忙しく、せっかくサインしてもらったCDを置いてきてしまうところでしたが、チッチが目ざとく見つけて渡してくれました。さすがオネエの気配り。でも、ツーショット撮ってあげましょうという仕切りオヤヂがいて、そいつがやたらとおしゃべりでチッチとファゾリスを独占してしまったので、わたしは蚊帳の外になってしまいましたのよ。。。
Commented by アルチーナ at 2012-06-04 12:54 x
前回のジュリオ・チェーザレといい、オルランド、ファルナーチェと私は実演を観ることはできませんが、ネットで共有出来るのが本当に嬉しいし楽しいですね!

それはそうと・・メータって私は甲高い声だなと思ってましたが・・(笑)
それにチッチも今回は調子が良かったようで何より。そして女性的な声なんですね・・・リールのポッペアでも時折手つきが女性的だったので女性役はピッタリなのかもしれません・・

サイン会の時の仕切り屋ってもしかしてジョージかしら?
それとも普通のお客さんなのに仕切ってたのかしらん?
蚊帳の外になってしまって残念でした。でもツーショット写真が撮れて・・
ってブレてますけれども仕切り屋オヤジが撮った写真?
Commented by レイネ at 2012-06-04 14:30 x
アルチーナさま、実演鑑賞が叶わなくても、こうして世界中にネット配信されるのは有り難いですよね。皆で、あれこれ言い合う楽しさ!

わたしは、メータの声って、地味で暗いなあといつも思うのです。でも、男性的な力強さはある方です。
それに対して、チッチの声にはキャピキャピしたような明るさが感じられ、男性的なイメージからは遠い。本人のキャラに合った(オネエ的)明るさだから、女性役聴くのが楽しみ。

皆様ご注目のジョージの存在、すっかり忘れてました!彼はフランス人、それともアメリカ人なの?
仕切り屋オヤジは、話す英語がオランダ人ぽく、チッチにもファゾーリスにもなれなれしく話し掛けてたので、呼び屋さんかな、と思いました。こういうオヤジがサラ様アリオダンテのサイン会にもいました。
オヤジが撮ってくれた写真は、「上手く撮れてるか確かめてみて」というので見てたら、ファゾーリスが来たので、オヤジの興味はそちらに移ってしまい、撮り直しを頼めなかったの。。。。会場が暗かったしね。
Commented by アルチーナ at 2012-06-05 11:18 x
ジョージは本当はゲオルグ?だと思うのですが・・オーストリアの方かしら??チッチがジョージって紹介していたのでジョージと呼んでいますが・・
ログインしないで見られるかどうか分かりませんが・・
http://www.facebook.com/georg.lang.165

意外と前に出てくるタイプのようでw、そういう意味ではあまり裏方っぽくない人のような・・(笑)

Commented by レイネ at 2012-06-16 06:30 x
アルチーナさま、亀レスで申し訳ありません。ジョージやデュモーともお近づけになれるツイッターやフェイスブックって、すごいですね。わたしは、一応FBには登録してるけど、全く自分からは何の活動もしてませんの。

すぐにご帰宅の予定だったMevさんの写真が上手く撮れてるのがうらやましい。。。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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別名: didoregina
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オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
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