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Wuthering Heights 『嵐が丘』2011年版は今年のベスト3入り確定

Wuthering Heights 『嵐が丘』2011年版は今年のベスト3入り確定_c0188818_15165363.jpg監督 Andrea Arnold
脚本 Andrea Arnold, Olivia Hetreed,
based on the novel by Emily Brontë
キャシー(大人) Kaya Scodelario
ヒースクリフ(大人) James Howson
イザベル Nichola Burley
エドガー Oliver Milburn
キャシー(少女)Shannon Beer
ヒースクリフ(少年) Solomon Glave

Camera Robbie Ryan
Editor Nicolas Chaudeurge
Production design Helen Scott
Sound Design Nicholas Becker
Muziek Mumford & Sons
2011年 イギリス

アンドレア・アーノルド監督による最新映画版『嵐が丘』は、クリシェを排したストレートな
展開とまことに斬新な映像とで、今までの映画およびTV版とは一味も二味も異なり、この古典
作品の何度目になるんだろうと思う映画化だが、この作品では存在価値が大いに光っている。

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         自然の中で育った野生の少女キャシー

ポスターにある美しい大人の女になって洗練されたキャシーよりも、少女時代の丸ぽちゃで
飾り気などまったくない自然児そのもののキャシーのイメージが前面に押し出されている
前半が特に印象的だ。

ヨークシャーの荒野の茫漠たる風景や、風の谷間に立つ嵐が丘の過酷で寂しい佇まいは
叙情的という言葉の範疇には入りにくい。鳥の羽や動物の死骸や麦わらや干草、ぬかるみの
泥道が、子供達のおもちゃであり宝物であり遊び場である。
アーノルド監督は、それらの要素を驚くほど自然に見せつつ巧みに映像化して、見る者の心に
失われた子供時代への郷愁を誘うのだ。

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          ヒースクリフとキャシー

まるで是枝監督作品に登場する子役達のように、演技以前の自然な表情と振る舞いで大自然の
中を駆け抜ける少年少女のヒースクリフとキャシーの関係は、姉と弟のようなおおらかなものだ。
だが、思春期のエロスの萌芽は、21世紀の映画化らしく、大自然のなかの営みの一部のような
形で表現されている。
そして、二人は分かちがたいソウル・メイトであることが納得でき、後半に繋がるようになっ
ている。

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今回の映画化で話題になったのは、ヒースクリフが黒人であることと、少年時代の彼を演じる
のが無名の素人ということだった。突飛ではあるが説得力もある。
また、キャシーの兄ヒンズリーなど、現代のスキンヘッドのフーリガン風である。
そのせいもあるし、あまりに原始土着的な嵐が丘の生活描写が生々しく、時代を超越している
ので、前半は特にコスチュームものという感じがしない。太古から永劫変わらぬような
大地に根ざした生活の中では時代判別が難しくなっているのだが、その超時代・普遍的
感覚が、とても新しい。
いわゆるコスチュームもの映画で繰り返し使われる、使い古した手法から脱皮しているのだ。

Wuthering Heights 『嵐が丘』2011年版は今年のベスト3入り確定_c0188818_15471433.jpg

         大人になって嵐が丘に戻ってきたヒースクリフ

後半は、大人になったキャシーとヒースクリフにエドガーとイザベル兄妹が絡む。
情熱と復讐がキーワードになっているが、その発散および表現があまりに純粋というか直載な
ため、何か隠された秘密を匂わせるようなゴシック的な要素は少ない。ロマンチックな要素と
なるとほとんど皆無である。その辺りの感覚もとても新しく、現在また映画化した意味がそこ
にも見出せる。

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             冷酷なキャシー

キャシーが「自分より自分らしい」と思うヒースクリフだが、兄や裕福なエドガーから邪険に
扱われたため、自分が貶められたかのように感じただろう。それが、愛情と裏腹の嫌悪感に
繋がってサディスティックに振る舞い、果てには狂気に陥ってしまう。
ヒースクリフは、愛するキャシーから裏切られたゆえの憎しみからの復讐心に燃える。
自分に似た人間に対する愛情と裏表に存在する嫌悪感・憎悪のエネルギーの凄まじさ。


全体の大きな部分を占める大自然の描写と、主人公二人の心の複雑な確執とがフラッシュ・
バックやフラッシュ・フォワードで交差するので、普通の『嵐が丘』もしくは昔ながらの
コスチュームものを期待して見る人には、ストーリーも映画の革新性もなかなかわかりにくい
ようだった。

全く正反対のアプローチだが、時代を映し出す鏡として思い出したのは、1999年の公開時は
電気ショックのようなインパクトのあったリュック・ベッソン監督の『ジャンヌ・ダルク』を
思い出した。叫んだり流血シーンの多いヒステリックなあの作品も、作られた時代の申し子
だったのだ。

この『嵐が丘』は、今年の映画ベスト・スリーに入ること間違いなしだ。
by didoregina | 2012-05-11 09:31 | 映画


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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