リンブルフ古文書館は、元フランシスコ会修道院とその教会

別の用途に利用されている元教会の建物という記事が、シリーズ化しつつある。
それほど、マーストリヒトには、フランス革命で没収・解散させられた修道院の元教会が多く
残っているのである。
マーストリヒトのフランシスコ会修道院もまた、歴史の波に翻弄され数奇な運命を辿った。
この修道院の敷地は市内2箇所にあり、第一と第二の教会が残っているのも不思議だ。
今回は、第一の方を見ていきたい。
現在の国立リンブルフ地方古文書館(HCL)である。

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            後期ゴシックの教会正面ファサード。
            堅く閉ざされた扉の向こう側、教会内部は閲覧室。

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            教会右手の修道院側が古文書館の入り口。

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        中庭から眺めた修道院の回廊(左)と教会(右)およびガラス張りの
        90年代に作られた新しい回廊。


フランシスコ会修道院がマーストリヒトに設立されたのは1234年のことだ。覚えやすい年号である。
(世界史が大好きで世界史クラブにも所属していたことがある高校時代には、4桁までの数字、
すなわち年号を覚えるのは全く難しいと思わなかった。好きこそものの上手なれ、の一種か)

1300年ごろに教会の礎石が置かれ建設が始まったが、内陣完成を見たのは15世紀になってから。
しかし、1485年頃には既に荒廃して廃墟の様相を呈していたという。(宗教改革以前のことで
ある。理由を知りたい。HCLのサイトの記述がそうなっていたのだが、要出典だ)

そして、1579年、アルバ公指揮下のスペイン軍にマーストリヒトは攻略され、修道院の再建が
始まった。(スペインはカトリックに対する庇護は厚かった)

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       修道院の西棟は、マースランド・ルネッサンス様式。
 
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       中庭を取り囲む修道院の建物のうち南棟は荒廃が激しく、
       1990年代に新しく建て直された。

だが、1632年、フレデリック・ヘンドリック総督率いるオランダ軍(プロテスタント)が市を奪回した
ことによって、修道院の命運も尽きるのであった。
あろうことか、1638年に、フランシスコ会のフィンク神父他5人が、スペインに通じてオランダ軍を
転覆させようとした(もしくは市の城門の鍵を渡した)という罪で処刑された。(実は冤罪だった
らしい)
断頭された5人の首が城壁の上にさらされた。さらし首になった場所は現在でも「5人の首」という
名前で残っている。
翌年、フランシスコ会の修道士は全員、マーストリヒトから追放された。

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            第一の中庭の向こうに見えるゴシックの教会部分。

無住となった修道院の建物は、1640~1680年までプロテスタント教会が経営する孤児院、
1685~1798年まで軍病院、その後1917年までは兵舎として使用されることになる。
1917年に、別の場所に大きな兵舎が建てられたことにより、修道院は、また別の用途に使用され
るようになった。炭酸工場、芸術家のアトリエ、目の不自由な人や結核患者のための社会福祉の
仕事場などだ。

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        中庭を巡る建物はそれぞれ建築年代が異なる。古い部分が残っている
        建物も大掛かりに修復されたり、新たに建てられたりした部分も、うまく
        調和している。
        アーチの向こうに見える第二の中庭の地下は、古文書庫。地下3階建て
        地下10メートルの書庫の本棚の全長は25,3Km。そのうち、23Kmが
        すでに本で埋まっている。自動昇降装置付き、温度・湿度が調節された
        適切な環境下で古文書が保管されている。

修道院付属の教会は、1867年までは武器庫、その後1876年までは兵士のための体育館および
宿舎として使用された。
しかし、天井と屋根が劣化していたため、そういう目的に使用するのは不適格とされ、1880年に
バロックの丸屋根は撤去され、元のゴシックの天井と屋根に修復された。
1881年から、教会の一部は古文書館として再利用されるようになった。

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         教会内部は、現在、古文書の閲覧室。

1939年に修道院の建物および教会を国立古文書館に利用すべく修築が始まり1941年完成。
その後、1991年~1996年の再修築を経て、現在の姿になった。

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          新しい回廊は教会外壁から離れた位置に作られてブリッジで
          結ばれている。ガラス張りで採光もいい回廊と教会との隙間
          部分は、礎石やモザイクの床が見えるようになっている。
          モダンとゴシックが隣り合わせ。


今回は、受付の人に写真撮影の了解をもらってから撮った。
実は、この建物の歴史を調べているうちに興味深い新発見もあったので、そちらをメインにして
訪問したのだ。
ここの古文書から、最近、マーストリヒト出身のMarcus Teller (1682 - 1727)が作曲した
楽譜(1726)が見つかった。バロック時代の作曲家だが、地元ですらほとんど知られていない。
新発見の合唱、ソロ歌唱、器楽合奏、通奏低音から成る9 Motetta brevia pro temporeは、
Hans Leenders指揮 合唱Studium Chorale 器楽演奏Ensemble Agimont および
ソリストによって昨年録音されCDになった。
それを手にとって見たかったのだ。


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by didoregina | 2012-03-12 15:44 | 教会建築 | Comments(0)


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