Le Havre はほとんど理想郷 『ル・アーブルの靴みがき』 

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監督・脚本・製作 Aki Kaurismäki
キャスト
マルセル André Wilms
アルレッティ Kati Outinen
モネ警部 Jean-Pierre Darroussin
イドリッサ Blondin Miguel
クレア Elina Salo

2011年 フィンランド フランス











今年のロッテルダム映画祭に来蘭した監督は、Volkskrant紙のインタビューで「難民を扱った
映画が少ないから、作ろうと思った」と語っていたが、近年、難民をテーマにした映画は結構沢山
作られていると思う。少なくともわたしの中では難民ものというカテゴリーが存在する。
そして、それらの難民もの映画に共通するのは、あまりに悲惨な難民(主に子供)の現実を
ストレートに映し出すため、どうしても社会派リアリズムっぽく暗いお話になることだ。だから、
自分から進んで見たいとはあまり思わない。
そういう映画は、もちろん大手配給にならないから通常の映画館では上映されないが、リュミエー
ルなどのアートハウス・ミニシアターや各種映画祭はもちろん、TVでも定期的に新作が上映される
ので見る機会は割りと多いのである。

このLe Havre(邦題『ル・アーブルの靴みがき』)は、そういったありがちなステレオタイプとは
一線を画していた。
まず、映像カラーが、まるで総天然色を謳った昔の映画のように誇張されて非現実的なのが新鮮
だ。ポスターやスチール写真からもわかると思うが、色調や人物の服装や対話姿など古めかしくて
郷愁を誘う。「現代のメルヘン」もしくは「物語」であることを強調しているのだと思う。
舞台はフランス北部、ノルマンディーの港町ル・アーブルだ。第二次世界大戦で破壊された町並
にも港湾の風景にも詩的な雰囲気は乏しい。
イギリスへの大型フェリーやコンテナ船の発着する岸壁と漁港が隣り合わせになっていて、60年間
経済発展とは無縁に生き永らえたような昔ながらの路地裏には、貧乏人同士助け合うのは当たり前
という漁師町気質みたいなものが存在することがだんだんわかってくる。

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カフェのインテリアも女将も客達も、パン屋や八百屋の風情も、21世紀とは思えないほどノスタル
ジックなので時代の特定が難しいほどだ。時の流れにも経済の繁栄にもまったく取り残されている
彼らの生き方は単純で、お金とは縁がないが満ち足りていて、虚飾とも無縁のシンプルなものだ。

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ほとんど『アメリ』の世界に近い。現代の都会の狭間のファンタジーというか、メルヘンチックな
舞台と人物達であり、現代ではこういう所が実際にあったり、そういう生活を送る人々がいるとは
考えにくい。だが、そういうナイーブなトーンが全体を通してこの映画を楽天的にしているので、
辛く物悲しく悲惨な現実の描写はほとんどなくて見やすい。
フランスらしいさっぱりとドライな人情と義侠と連帯とユーモアで成り立っているのだ。これは、
難民もの映画としては、画期的ではないだろうか。

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アフリカからコンテナに隠れて密航しフランス北部まで流れ着いた少年を助け、イギリスに渡らせる、
というミッションに取り組む主人公の飄々とした生き方がコミカルに描かれて、悪人がほとんど登場
登場しないし、フィール・グッドになる映画である。

この映画のロケ地にもなった、Jungle de Calais(カレーのジャングル)と呼ばれる、英仏海峡の
海岸に自然発生して、そこからイギリスに渡ることを夢見るアフリカや中東やアフガニスタンなどから
の難民・違法入国・違法居住者たちが住むキャンプは現実に存在する。
貨物船や大型トラックのコンテナに紛れ込み、海峡を渡って、親戚などのいる別天地イギリスを
目指す人々の群れは絶えることがないという事実。ヨーロッパの恥部ともいえる。
しかし、この映画では、そういう人たちの過酷な運命に関してはほとんど触れていない。幸運な少数
である少年を巡る、良心溢れるフランス人たちの奇跡の物語だ。

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       「奇跡は起こるかもしれない」と言う医師。
       「わたしの所には奇跡はないわ」と言う病気のアルレッティ。


カレーからイギリスを目指すそういう人たちの存在は、何年かに一度くらいの割でニュースになるが、
普段は全く忘れられている。

5年前に初めてヨットでロンドンまで行こうと計画した。潮流・風向き・満干などが非常に不利な時期
だったので、結局イギリスには渡れなかったが、我が家の子供達2人+甥をヨットに乗せていた。
ヨットのチャーター会社から、甥のパスポートはもちろんのこと、親の同意書を携帯するように、と
言われた。
大陸からイギリスにヨットで渡るにはカレーからが、直線距離上も潮流も浅瀬などの障害物の関係
からも一番いい。しかし、カレー周辺には虎視眈々とイギリスへの密入国を狙っている未青年の難民
が多い。上記のカレーのジャングルに住む多数は未青年であるという。イギリスの港に着いてから
そういう密入国者と疑われてトラブる可能性もあるのだ。

今年は、ベルギー、フランス北部の海岸をヨットでル・アーブル近くのディエップ辺りまでセイリング
する計画だ。こういう映画を観た後だと、フランス北部の海岸を眺める視線も変わるだろう。

来週は、また別の難民もの映画Terrafermaを見に行こうと思っている。こちらは、シシリアの小島
が舞台だ。
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by didoregina | 2012-03-08 15:56 | 映画 | Comments(0)


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