Chéri  紳士用の帽子とフエルト・ジャケット

寒さが厳しいときには、頭を帽子で覆うだけでかなり暖かく感じる。
2月上旬、ヨーロッパが極寒だった頃、主人から紳士用の黒い帽子の注文があった。
今までに紳士用では、カウボーイ風の茶色の帽子、夏のパナマ帽、そして叔父に紺のフエルト
帽を作っている。
黒の帽子はコートにもジャケットにも合うし、飾りによって改まった雰囲気にもカジュアルに
もなる。
出来上がったのは2月も終わりで、寒波は去った後だった。

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      黒のボルサリーノ・タイプ。南米風の織模様のリボンでカジュアルに。
      Chériと名付けた。

布を縫ったりしない、本格的な帽子の作り方は以下の通り。
フエルトの帽体に、糊を内側から塗りスチームで全体を柔らかくしてから木型に合わせてアイ
ロンをかけながらぎゅうぎゅうと伸ばす。
ブリムの下を木型に鋲で留め付け、クラウンとブリムの間を紐で縛る。頭頂やブリム正面の窪
みはアイロンをよく押し付けたあと、重しを乗せておく。
一週間そのままにしておけば形が出来上がるので、その後、針金を入れてブリム回りの始末をし、
内側にサイズ・ベルトを縫い付ける。
好みのリボンや羽根などの飾りを付けると、帽子の完成だ。


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        なぜか日本ではソフト帽とか中折れ帽とか呼ばれるが、
        全然ソフトではない。バランスよく仕上がったと思う。


帽子の名前は、コレット原作の映画『シェリ』からいただいた。

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20世紀初頭ベルエポックのパリやノルマンディーが舞台で、ミシェル・ファイファーが演じる
中年の元高級娼婦と元同僚の息子の恋物語だ。その年齢差は25~30歳。

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          優雅な暮らしの、中年から初老の元高級娼婦たち。

なぜ、そう名付けたかというと、日曜日に行ったヨハネット・ゾマー他のコンサートで、着物を
着ていたわたしは、数人の人からきれいですねえと言われたのだが、着物=芸者、というナイー
ブなイメージで注目されていたように思えたからだ。

「着物着てるからって芸者とは限りませんよ。これは日本のナショナル・コスチュームなんです
から」と、ツーショットの後「芸者さんですか」と聞いてきたバート・シュニーマンに説明した。
彼が使う「芸者」という言葉に全く悪気は感じられず、感に堪えたように無邪気そのものであった。
また、「日本を舞台にした小説を読んだばかりですのよ」と話しかけてきたご婦人に、「どういう
ストーリーですか」と問うと、「戦前から終戦にかけての高級娼婦のお話なのよ」と答えてから
ハッとしたようにバツが悪そうな表情になった。
それで、わたしは、『シェリ』の元高級娼婦になったつもりで鷹揚に微笑を返したのだった。

外国で着物を着るからには、そういう誤解も引き受ける覚悟がないといけない。そして機会が
あれば、着物は高級なお出かけ着もしくはソワレに相当するフォーマルな社交着だ、と説明する。



帽子の師匠Pがフエルトのジャケットを綿から作った。縫い目がない一体化タイプの大作だ。
大変な手間がかかっている。
赤をベースにオレンジ、フクシャなどの色を加えて作り上げたグラデーションが美しい。

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              ほぼ1日中、綿のようなフエルトを
              ごしごしと石鹸で擦って作った。


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         ヴィンテージの赤のキャスケットを合わせるとキュート。


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         つばが広めのフェードラ帽を合わせるとシックになる。


Pはどんな帽子でも似合うし、被りこなせる人だ。
    
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by didoregina | 2012-02-29 22:51 | 帽子 | Comments(10)
Commented by Mev at 2012-03-01 07:28 x
えー?あのような帽子はそういうふうにして作ったものなのですか?知らなかった、、、。 面白いですねえ。そう言われてみれば縫い目も無いわけだし。買うと高いけど、それは当然なんですね。手間を考えれば。 
ほんとにすてき。

着物はフォーマルですよね。それはきっとインド人のサリーと同様に理解されているような気がしていたんですが、、、、。
Commented by アルチーナ at 2012-03-01 12:01 x
帽子も素敵ですけれど、師匠のジャケットも素敵ですね。大作!!
帽子は型があるのでしょうけれど、ジャケットは?部分的には縫い合わせているんですよね?

着物がそう見られているとは・・・ちょっと意外でした。
でも声をかけてくれる方は誤解を解くこともできますけれど、
声をかけてくれない方が誤解したままだとこまりますね・・
Commented by レイネ at 2012-03-01 16:15 x
Mevさま、フエルトの帽体を、サイズとデザインがぴったりの木型にスチームで沿わせて本格的な帽子を作るには、特殊な道具が色々必要だし、手間も材料費も比較的高いです。単色の薄いフエルト製でブリムがほとんどない釣鐘型の帽体なら25ユーロくらいからありますが、柄プリントがあったり、アンゴラとかべロワとかビーバーとか毛の質がよくて厚手でブリムの幅が広い帽体なら50ユーロ以上します。

着物というものをサリーのようなナショナル・コスチュームだと理解している人のほうがオランダでは少ないように思います。因習的な一部地方に残っている以外、オランダにはそういう伝統的民族衣装がほとんどないので、感覚としてわかりにくいのだと。
Commented by レイネ at 2012-03-01 16:34 x
アルチーナさま、こういうジャケットはフエルトの加工から自分でするのです。ふわふわの綿のような羊毛を何層にも重ねて、石鹸水で擦って縮ませて繊維を作るので、縫い目はどこにもありません。薄い羊毛の綿を重ねてから擦って繊維を密着させ、最終的に3分の2くらいに縮ませるので、型紙は縮む分を見込んで大きくボール紙で作り、それに合わせて立体的に作るんです。ああ、説明しづらい。。。色も全部自分で調合します。

キモノという単語は、オランダでは柔道着とかバスローブを指すので、わたしが着ているものは「芸者ドレス」などと言われます。映画や本に出てくる芸者が着ているものという意味です。着物とは日本の伝統的民族衣装だと知ってる人がそもそも少ないのです。だって、実物の着物を見る機会がオランダではほとんどなく、映画で芸者が着ているのか日本料理店のウェイトレスさんの着物くらいでしょう。テキスタイルとかファッションに造詣が深い人は、また違う目で見てくれます。
Commented by galahad at 2012-03-01 17:10 x
紳士用帽子、ふっくりとしたかんじでステキです。 
寒い時は帽子で頭を暖かくするのが一番ですね。
それに師匠様のフェルトジャケットの色! 素晴らしく綺麗です。 染色もプロなんですか?
ジャケットのモールド、フェルト作りも難しそう~。 
Commented by レイネ at 2012-03-01 17:22 x
galahadさま、お褒め頂きありがとうございます。この紳士用帽子は、我ながら上手く出来たと思ってます。サイズは、作ってるうちに縮んだりするので心配になったのですが、主人に被ってもらったらピッタリでした。

師匠Pは簡単な染色もしますが、このフエルトは、自分では染めずに色んな色の綿を混ぜて色を出していました。去年、彼女といっしょに日本に行ってたら、藍染めとか草木染の体験をさせてあげようと準備してたのですが。。
フエルト作りの作業は難しいものではなく、比較的単純です。だから、作り始める前にデザインや色などのヴィジョンを明確に描けていないと、出来上がりは悲惨なものになります。。。。
Commented by straycat at 2012-03-03 23:10 x
レイネさん♪

もしかしてこちらの師匠が、昨年来日される予定だった方ですか?素敵!ジャケットと帽子がすごく似合ってらっしゃいますね。
こういう赤、好きだわ~。憧れです。冬枯れの街に赤、周りの気分も元気づけるようですね。
帽子は各部のバランスが大切なのですね。私は頭が小さくて、いつも学校の赤白帽などはガブガブで格好悪かったんです。自分で手作りするとそういう心配もないですね。
シェリは南米風のリボンのセレクトも素敵。帯締めにしても面白そうな織模様ですね。
Commented by ろき at 2012-03-04 08:39 x
帽子素敵です、プロフェッショナルな仕上がりですね~。
一つ一つの過程を丁寧に仕上げないといけませんね。職人芸だ。

着物から芸者、芸者から娼婦、という連想はどちらも間違っていて、困りますよね。
オランダは日本の鎖国時にもつきあいがあったのに、あまり知られていないものなんですね、残念。
むしろイギリスの方が、サリーを着ている人が普通に歩いていて、着物も特別視されないのかも。
Commented by レイネ at 2012-03-05 00:00 x
straycatさま、赤のフエルト、色を自分の好みにミックスするのが、まずセンスの見せ所だし難しいんです。その点でも、このジャケットは成功してます。
straycatさん、小さい頭なら帽子がきっとお似合いになるわ。自分サイズの帽子を作れば、頭にぴったりして風にも飛ばされず快適ですよ。
この織リボンを帯締めに使用したらというアイデアが素晴らしいです。考えてみませんでしたが、カジュアルな着物や着物風に着る浴衣にきっとピッタリだわ!
Commented by レイネ at 2012-03-05 00:10 x
ろきさま、シンプルな紳士用の帽子は、時の流れと伝統に磨かれて生き残ったスタイルなので、下手すると荒が見えてしまい気が抜けません。お褒め頂き、ありがとうございます。

オランダ人一般は、日本についてあまり知りません。日本側からのアピール努力が足りないということと、太平洋戦争中のインドネシア(旧オランダ領)でのオランダ人強制収容所のネガティブなイメージがいまだに根深いのです。日本は鎖国時代の蘭学というポジティブなイメージでオランダを見ているのですが、オランダからの日本への視線は厳しいものがあります。だから、オランダで着物を着る場面と場所はよくよく吟味して選びます。イジメにあったらいやなので。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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性別:女性
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オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
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音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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