Anna Nicole がオランダでテレビ放映された!

Bravaが1月下旬と2月初旬に、ターナイジ作曲のオペラ『アナ・ニコル』(2011年初演)
をTV放映した。既に昨年、DVD化されていたのだ。

c0188818_1930818.jpgAnna Nicole:  Eva-Maria Westbroek
Old Man Marshall:  Alan Oke
The Lawyer Stern:  Gerald Finley
Virgie:  Susan Bickley
Daddy Hogan:  Jeremy White
Cousin Shelley:  Loré Lixenberg
Larry King:  Peter Hoare
Aunt Kay:  Rebecca de Pont Davies
Older Daniel:  Dominic Rowntree
Blossom:  Allison Cook
Doctor:  Andrew Rees
Billy:  Grant Doyle
Mayor:  Wynne Evans

The Band
Drummer:  Peter Erskine
Bass Guitar:  John Paul Jones
Guitarist:  John Paricelli

Composed by: Marc-Anthony Turnage
Libretto by: Richard Thomas

The Royal Opera Chorus & The Orchestra of the Royal Opera ,
Conductor: Antonio Pappano

Directed by: Richard Jones

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プレイ・メイトで究極のゴールド・デイガー、超年齢差のある億万長者と結婚し、夫の死後も様々な
ゴシップを提供した実在の人物、アナ・ニコル・スミスの哀しい半生をオペラ化したものだ。
タイトル・ロールを、エヴァ=マリア・ウェストブルックが歌い演じるというので、注目していた。

アナ・ニコル・スミスのえげつない人生は、人口に膾炙している。ゴシップ紙や芸能ゴシップ番組に
とっては格好の美味しい素材であり、話題の供給源であるという点で、某デヴィ夫人の若い頃に
少し似ているが、アナ・ニコルのほうは、あまり長生きできなかった。
世の人々の顰蹙を買うような彼女の生き方は、典型的・正統的オペラ・ヒロインの流れを汲んでいる。
現代オペラの素材としてこれ以上ピッタリはまる人物はなかなかいないのではないか。
現代版、道を踏み外した女である。

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アナ・ニコルのよく知られた半生をほぼそっくり見せるような展開で、背景も衣装もカラフルでポップ。
I wanna blow you all, blow you all, a kissと、モンロー張りに歌うウェストブルックの表情は
本物のアナ・ニコル・スミスそっくり。よく研究したものである。
前半の、マリリン・モンローに憧れセレブを夢見るちょっと頭の弱い田舎の女の子であるアナ・ニコルは
可愛く憎めない。夢の実現に驀進し、豊胸手術のおかげで、人気と金蔓も手に入れた。

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フゴーの爺さん役のアラン・オーケも、汚いじじいの演技が上手く笑いを誘う。
現代アメリカが舞台だから、歌詞にも実在の人物の名前や放送禁止用語などが沢山出てくる。

ジミー・チューの靴を履いてレッド・カーペットの上を歩く、その足音と感触にサクセスを体感する
という浅薄さが秀逸である。『マノン・レスコー』で、逃走する前にマノンが宝石にうつつを抜かす
のと同じで、きっとそうだろうなあ、わかるわかる、と思いつつ苦笑してしまう。

とにかく、アナ・ニコルの夢は、有名になりたいという名声欲と物欲とで成り立っているのである。
それらは現代一般の夢の一つの典型であり、それを心の底に描いたことはないと言い切れる人は
少ないはずだ。だから、製作側と観客のアナ・ニコルへの視線は冷たく突き放したものではなく、
同情と共感も入り混じった暖かさが感じられた。

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短い結婚生活を頂点としたアナ・ニコルの人生は、夫の死後遺産も手に入らず凋落の一途を辿る。
悲劇のオペラ・ヒロインの人生路線から外れていない。
遣り手法律家の新しい夫(ジェラルド・フィンリーの役作りと歌も光ってる)とともに、様々の方法で
メディアに身を晒すことで金を手に入れようとするのだが、酷い食生活と酒とドラッグに溺れたアナ・
ニコルの体型はどんどん崩れていき、豊胸手術の影響で腰痛にも苦しむ。
ほとんど、自虐的な態度でTVショーに出演したりする。
そして、最愛の息子の死。
砂糖菓子でできたような脆いアナ・ニコルも長くは生きられなかった。
古典的でありながら現代の(アンチ)ヒロインの面目躍如かもしれない。

メディアの一群が最初から最後まで舞台にいて、頭がTVカメラで出来ている鳥のような姿の
ダンサーたちとともにアナ・ニコルを追いかけるのが、現代的かつ象徴的である。
プライバシーを売ってまでセレブとして生きたい、そこにしか生きる道を見つけることができなかった
アナ・ニコルは、1人で体を張ってきたが、メディアとゴシップを欲する人びとに食いつぶされたのだ。

そういう可愛くも哀れな女にエヴァ=マリア・ウェストブルックがなりきっていて、目が離せない。
現代オペラなので長いアリアなどはなく、歌手として自慢の喉を披露する機会が少ないのが残念
だったかもしれないが、彼女のために作られたオペラとしか思えないほどドンぴしゃりの役だし、
演技や表情の役作りも素晴らしかった。

ROHのカーテンが普段のEIIRという文字の替わりにANSになっていたり、客席やロビー
の照明もアナ・ニコル(ウェストブルック)の妖艶に微笑む写真が被せられていたりして、オペラ
ハウス自体がショーの会場になりきって盛り上げているのも面白かった。
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by didoregina | 2012-02-10 13:15 | オペラ映像 | Comments(8)
Commented by hbrmrs at 2012-02-11 10:46 x
この映像、私も興味津々だったんですよ。日本でもDVDで売っていますが、日本語対訳がないので、躊躇していました。(まあ、英語でもある程度は理解できますけど、細かいニュアンスまでは得られません。)

レイネさんのレポで、なんとなく概要がつかめました。面白そうですねー。演出、奇才リチャード・ジョーンズですもんねー。

音楽はどうでしたか?現代音楽っぽいの?それともオーソドックス?

もし実際に見てみたら、演出で派手に強調されたデカ胸役のウェストブルックばかりに目が行って、クラクラしてしまうかもしれません(笑)。

オペラじゃなくて、ミュージカルでもいいんじゃないですかねー。


Commented by レイネ at 2012-02-11 18:55 x
hbrmrsさま、ロンドンで実際に観賞したらもっと面白かったろうと思います。パーティーみたいなショーを共有した感じになったのではないかと。総合的な演出が抜群でしたから。

現代音楽なんですが、キャッチーなメロディーと歌詞が判りやすくて、耳なじみがいいです。ほどほどの匙加減で、ターネイジって上手いなあと思いました。

ミュージカルじゃなくてオペラっていうところがミソだと思います。軽薄でいかにも現代的な素材を、さほど高踏的でない音楽のオペラにしてしまう、それをショーとして成功させる、というのがすごいなあと。ミュージカルにしたらつまらない俗物趣味に堕したことでしょう。
Commented by Mev at 2012-02-12 02:54 x
これは見ませんでした~。 後悔。
なんとなく現代物は見るのに躊躇するのですが、なんでも見てみたほうがいいですね。ショー仕立てというのも面白い趣向ですものね!

ヒロイン、ちょっとPマッカートニーの前妻さんみたいですよね。
デヴィ夫人は色々言われてますけど、今日本のテレビのバラエティ番組などで体当たり出演でなかなか頑張っていて結構好感度高いです。今の若い人たちには受けているみたいだし。 人生わからないものですねー。
Commented by 守屋 at 2012-02-12 03:14 x
こんばんわ、昨年の初演時のときには、コメントありがとうございました。

>プライバシーを売ってまでセレブとして生きたい
 ことイギリスに限れば、こんなのばかり。それでいて、社会を敵に回す度胸もないから、今の世の中Z急ばかりに思います。その点からすると、オペラの「アナ」は立派でした。

 昨年の12月に、ターネイジが新作コンテンポラリィ・ダンス用に作曲した曲、のりがよくてきもち良かったです。彼は、オランダでも人気があるのでしょうか?
Commented by レイネ at 2012-02-12 04:30 x
Mevさま、見逃されたとは残念!われらがウェストブルック主演なので、昨年の初演前から興味津々でしたが、彼女なくして『アナ・ニコル』というオペラ自体成立しなかったのではと思わせるほど、圧倒的存在感だし、現代ものオペラとしては優れたプロダクションでした。ROHの力の入れ方も凄かった。

実際のアナ・ニコル・スミスには、デヴィ夫人みたいに長生きして、若者にも受けるセレブになってもらいたかったですわ。
Commented by レイネ at 2012-02-12 04:44 x
守屋さま、ROHでの初日をご覧になったのがうらやましいです。ROHがアナ・ニコル一色になってしまっているのが映像でもわかり、その場の独特の雰囲気を味わいたかった!ウェストブルック以外の歌手によるアナ・ニコルは考えられないので、再演も難しいでしょうね。

マリリン・モンローの伝記映画が公開中ですが、生前はその存在が時代を代表し、死後も伝説化するような人物は稀ですね。

ターネイジは、この作品で初めて名前を知りました。。。
Commented by ロンドンの椿姫 at 2012-02-13 01:54 x
こんにちは。いつまでも寒くて、いやになりますね。
もちろん私もこのオペラは観たのですが(少なくとも2回、もしかしたら3回)、その頃忙しかったので結局ブログ記事にできなかったことが悔やまれるユニークな作品でした。スタートするかなり前に実はセットも少し実際に見ていて楽しみにしていたのですが、大いなる宣伝にも拘わらず切符の売れ行きは最悪で、随分早くから学生に10ポンドでダンピングしたりしてました。蓋をあけてみたら大評判でホットチケットになったのですから、結果論ですが、ダンピングに踏み切るのをあまりにも早まったと思います。今までROHでいくつか新作オペラを観てますが、その中でも一番のヒットとなり、近いうちにリバイバルはしてくれると期待してます。ウエストブルックはたしかにはまり役でしたが、歌唱的にそんなに難しいわけではないし、胸に詰め物でもして綺麗で若いソプラノさんにやって欲しいと思います。
Commented by レイネ at 2012-02-13 04:41 x
ロンドンの椿姫さま、雪が積もるととたんに交通マヒしてしまうのが困るけど、寒くても青空が広がっていると気持ちいいです。

『アナ・ニコル』は、ROHが相当力を入れて話題作りしたプロダクションという印象です。若者向けオペラだから、ダンピングしてでも若い人に沢山来てもらって、会場の雰囲気を盛り上げるというのはよろしいかと。年寄りや普段のオペラ観客受けが悪くてコケたら取り付く島がなくなるから、予防線張ったのかもしれませんね。
わたしは、あのアナ・ニコルはウェストブルックでなきゃいやだわ。太って凋落していく悲哀も、前半の能天気な明るさも、彼女のキャラで持っていたように思えるので。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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