朗読コンサートは、ピアニストと作家のコラボ

作家のAnna Enquistと、ピアニスト Ivo Janssenによる朗読コンサートがあった。
ピアノ演奏の合間に、詩や小説・戯曲を作者自身が朗読する。
この二人は、すでに10年もこういう形式の朗読コンサート活動を行っているという。

アナ・エンクィスト自身も音大でピアノを専攻し、アムステルダムのスウェーリンク音楽院で教えて
いたという作家で、また心理学も学んだアナリストでもある。

ピアニストのイーヴォ・ヤンセンは、1年半前にファルケンブルクの野外コンサート(雨のため
洞窟に会場が変更された)で、カント・オスティナートを演奏したのを聴いた。
昨年のマーストリヒトでのムジカ・サクラでは、ヒンデミットのピアノ曲を演奏した。

c0188818_1926469.jpg


De Uittocht    Concertlezing met Anna Enquist en Ivo Janssen

Leos Janacek: On an overgrown path

Anna Enquist: Mendel Bronstein

Robert Schumann: Papillon op. 2

Anna Enquist: De Tussentijd, Nieuws van nergens

c0188818_20554130.jpg


一般的知名度は、作家のエンクィストの方が上だろう。だから、会場は市立図書館の入っている
Centre Céramique一階の展覧会や小規模コンサートなどが行われる多目的スペースだった。

センターの予想通り、日曜朝11時から始まるというのに会場は大盛況・満席である。
予約しておいてよかった、と友人のNともども胸をなでおろした。
12ユーロ50セントの入場料には休憩中のコーヒーまたは紅茶込みで、2時間の朗読コンサート
だからコスト・パフォーマンスも高そうだ。

どうやら、会場には、作家目当ての文学好きの聴衆が多いように思えた。
わたしは、彼女にも多少興味はあったが、プログラムにヤナーチェクのピアノ曲集『草陰の小径
にて』があることを知ってこの朗読コンサートに行く気になったのだ。
ヤナーチェクは大好きな作曲家だし、このピアノ曲集は去年の夏前に練習したから、ヤンセンの
生演奏を聴いてみたかった。

前半は、12の小品のピアノ演奏の合間に、エンクィストが『マンデル・ブロンシュタイン』という
モノローグ・ドラマを朗読する。
マンデル・ブロンシュタインという風変わりなユダヤ人テイラーが、ロッテルダムからニューヨークへ、
そしてまたロッテルダムに戻ってくるという船旅のドラマが、作家自身によって、歯切れのよいリズム
と的確な感情を込めた独白として朗読される。
その内容と、ヤナーチェクのピアノ曲の曲調とが絶妙にマッチしている。まるで、この曲集を元に
書かれたかのようだ。


      『草陰の小径』より4曲。「フリーデクの聖母マリア」
      「彼女らは燕のようにしゃべりたてた」「言葉もなく」「おやすみ」


ヤナーチェクの『草陰の小径にて』には、ひたひたと押し寄せる戦争の足音への怯えと、作曲家
の亡くなった娘への哀惜の念が切々と込められ、叙情と不安が入り混じった心理的ドラマの要素が
ある。
いかにも東欧の作曲家らしい独特の淡白さで描かれた自然風景は、日本人であるわたしをとても
懐かしい気分にさせて、心に染み入る。
そして、軍靴と戦車に蹂躙されるチェコの未来を予測させるような、息苦しさと、束の間の幸せとを
表現したメロディーも交互に現れる。

残念なことに、朗読との音響バランスをとるためにか、ピアノの下にマイクロフォンが設置され、
演奏は音量が増強されているので、ピアノ自体から聴こえるはずのデリケートな音色が消えて、
この曲集のはかなげな暗さ、不安を掻き立てるような感覚が足りなくなっていた。


休憩中のコーヒーか紅茶には、クッキーが付く。それは、この辺りではカフェでもどこでも一般的だ。
しかし、先週のデン・ハーグでのボストリッジ博士リサイタルでは、飲み物はタダだったが、クッキー
は付かなかった。そんなところにも、南部と北部の違いがはっきり出ている。

c0188818_20535461.jpg


そして、休憩中には、本とCDが販売され、サイン会も行われた。いずれも飛ぶような売れ行きで
かなりの売り上げになったと思われる。
本とCDは別々になっているものも、今回の朗読コンサートと同じ内容でピアノと朗読が収められた
ものもある。

後半のプログラムは、苦手なシューマンと、やはり詩心の足りないわたしには入りこみにくい詩の
朗読だった。
まあ、ヤナーチェク目当てで行ったのだから、前半のパフォーマンスだけでもよかったのだ。

この二人の朗読コンサートは、3月にヘーレンでもまたある。バッハの『ゴルトベルク変奏曲』と
それに霊感を得たエンクィストのContrapunt (対位法)という小説の組み合わせだ。
今回の朗読コンサートがなかなかよかったので、行ってみようか、という気になっている。

何がよかったかというと、音楽的素養があり朗読も上手い作家自身が、的確な間を取りながら
読み聞かせてくれるというのは、それ自体が上質なパフォーマンスで、リラックスできる。
ピアノだけのリサイタルだと、演奏する方も聴く側も、お互い歯を食いしばるような感じになって
しんどい。
こういうコラボによって文学好きと音楽好きの2種の聴衆を集めることができ、双方の垣根を低く
することになり、新たなファン獲得に繋がり商業的にも成功するという点で、上手い事を考えた
ものだな、と思う。
わがピアノの師匠も、こういうのを企画してみたらいいのではないかと思った。
[PR]
by didoregina | 2012-02-01 12:52 | コンサート | Comments(0)


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


by didoregina

プロフィールを見る
画像一覧

S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


最新のコメント

Vermeerさま、多分..
by レイネ at 01:38
トマスのソロ・コンサート..
by Vemeer at 01:25
Vermeerさま、この..
by レイネ at 20:56
詳細なレポート、楽しく拝..
by Vermeer at 18:02
ロンドンの椿姫さま、それ..
by レイネ at 17:03
大満足のマスタークラスで..
by ロンドンの椿姫 at 23:41
鍵コメさま、ヴェロニカ・..
by didoregina at 18:57
Mevrouwさま、北海..
by レイネ at 18:46
レイネ様も怒涛の更新で、..
by Mevrouw at 23:33
Mevrouwさま、サー..
by レイネ at 22:10
Mevrouwさま、夏の..
by レイネ at 22:05
新作オペラに挑むのは本当..
by Mevrouw at 20:56
クロアチア~ベネチアを自..
by Mevrouw at 20:27
Mevrouwさま、ご高..
by レイネ at 20:19
ようやく一息つける日なの..
by Mevrouw at 19:57
Mevrouwさま、癒し..
by レイネ at 16:49
このところネットからも音..
by Mevrouw at 16:37
斑猫さま、もうすでにパリ..
by レイネ at 16:57
ロンドンの椿姫さま、まさ..
by レイネ at 16:54
こんにちは CT研究会..
by 斑猫 at 00:16

以前の記事

2016年 11月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 06月
2015年 04月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月

タグ

最新のトラックバック

究極の愛を描いたワーグナ..
from dezire_photo &..
バッハが人類に残したメッ..
from dezire_photo &..
バッハが『ロ短調ミサ曲』..
from dezire_photo &..
ルター派のプロテスタント..
from dezire_photo &..
ダンテの『神曲』 ”地獄..
from dezire_photo &..
ポン=タヴァン派、総合主..
from dezire_photo &..
倉冨亮太さんの繊細な美し..
from dezire_photo &..
ダイナミックで刺激的な多..
from dezire_photo &..
贅沢と快楽に生きる娼婦な..
from dezire_photo &..
バッハとヘンデルの音楽性..
from dezire_photo &..

カテゴリ

全体
バロック
映画
オペラ実演
オペラ映像
オペラ コンサート形式
着物
セイリング
コンサート
美術
帽子
マレーナ・エルンマン
イエスティン・デイヴィス
クイーン
CD
20世紀の音楽
旅行
料理
彫金
ビール醸造所
ベルギー・ビール
ハイ・ティー
サイクリング
ダンス
ハイキング
バッグ
教会建築
カウンターテナー
演劇
未分類

検索

ファン

記事ランキング

ブログジャンル

音楽
映画

画像一覧