オランダ・バッハ協会のバッハ『ロ短調ミサ曲』@フレイトホフ劇場

オランダ・バッハ協会は、日本ツアーから日を空けずに帰国後すぐ、日本公演と同メンバーで
同じ曲のオランダ・ツアーを行っている。
日本へ行く直前の11月29日にアムステルダムのコンセルトヘボウでまずコンサートをしてから、
日本から戻って12月13日のミドルブルクを皮切りに、ほぼ連日または一日おきのコンサートが
全部で8回だ。
オランダ帰国後の2回目のコンサートは、昨晩、マーストリヒトのフレイトホフ劇場で行われた。

Hohe Messe 2011年12月15日 @ Theater aan het Vrijthof

De Nederlandse Bachvereniging orkest en ripienisten
Jos van Veldhoven dirigent

Solisten:
Dorothee Mields, Johannette Zomer sopraan
Margot Oitzinger alt
Charles Daniëls tenor
Peter Harvey bas

Johann Sebastian Bach (1685-1750)
- Mis in b 'Hohe Messe'

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        マーストリヒトの町の中心にあるフレイトホフ広場に面した
        フレイトホフ劇場(写真中央奥)。 手前はカーニバルの
        仮装した人々をモチーフにしたカラフルな像。

オランダ各地でのコンサート会場は、6箇所のコンサート・ホールおよび市民会館と、3箇所の
教会となっている。日本ツアーでも、大部分のコンサートはコンサート・ホールで行われたと思う。
なぜ、そんなことにこだわるのかというと、音響問題にどう対処するのか気になったからだ。

バッハをはじめとする宗教曲のコンサートは、なるべくなら教会で聴きたいが、あまりに残響の
長すぎる大聖堂などはいけない。私的には絶対に避けたい。しかしながら、市民会館みたいな
会場というのも、反響が少なすぎて味気ないものである。
フレイトホフ劇場は、中規模の多目的ホール兼劇場で、音響的にさほど優れているわけではない。
それで、オランダ・バッハ協会が好んでコンサートを行う聖母マリア教会と比べてどちらがいいか、
と問われると、答えに窮するほど微妙なものがある。

しかし、今回のコンサートでは、私が危惧していた音響問題は、絶妙に処理されていた。

オケの配置は、下手に高音弦楽器その後方一段上にチェンバロ、上手に管楽器と打楽器、
中央にオルガンとその後方一段上に低音弦楽器という具合だった。
合唱団はオケの後ろの一段高いところに一列で左右5人ずつ立ち、間に低音弦楽器を挟んで
下手にアルト2人とバス・バリトン1人バス2人、上手にテノール2人とソプラノ3人に分かれていた。

わたしの座席は平土間6列目中央よりやや右よりだった。
そして、音響的には大事な要素でもある観客数だが、ホールはほぼ満員だった。

まず、冒頭の「キリエ」で合唱のソプラノがやたらと声高に主張しているように聴こえ、あれっ
と思った。
それから、各パートが霧のように混じりあうことがなく、はっきりすぎるくらい分離しているのにも
驚いた。合唱の人数が少ないから、ほとんど個人の声が聞き分けられるくらいだった。

器楽演奏も、くっきりと輪郭が見えるような具合で、音が明瞭である。そして、どの奏者も全く
力んだりしたところがない演奏で、軽やかでひそやかでいて音量は心地よく、過不足なく耳に届く
のだった。

う~む、これは、予想外であった。しかし、考えてみたら、当然とも思えるのだ。
多分、オランダ・バッハ協会は、今回のツアー会場には教会が少ないことを考慮に入れ、合唱団
およびオケの構成と配置を決め、まずコンセルトヘボウで納得できる理想の音を作り出し、それを
準拠にした音を日本およびオランダ各地のホールで再現しようとしたのではないか。
そうして練り上げられた音は軽さのあるクリアーなもので、押し付けがましさや威圧的なところが
全くない。上から轟々と降り注ぐような神々しさはないが、しみじみとして親しみの溢れるものだった。
それは『ロ短調ミサ』には、まことにふさわしい。悲しみや畏怖とはほぼ無縁の音楽だからだ。

今回一番聴きたいと思っていたのは、ヨハネット・ゾマーの歌う「ラウダムス・テ」だ。
手持ちのヘルウェーゲ(日本ではヘレベッヘの表記が一般的だが、ベルギーのクラシック・ラジオ
局のアナウンサーによる発音では、ヘルウェーゲまたはヘルウェーヘという表記が一番合うと思う)
指揮のCDでは、ゾマーはソプラノ・パート1で、これはソプラノ・パート2担当のヴェロニク・ジャン
スが歌っているのだが、メリスマがなんだか頼りないというか曖昧な感じで、ヴァイオリン・オブリ
ガートとの絶妙なやり取りも、ジャンスではなんだか物足りなく思っていたのだ。

ゾマーが歌う動画は、ダニエル・ロイス指揮ベルリン古楽アカデミーのヴェズレーでのコンサート。
聖マドレーヌ聖堂でのライブだろうか。。。



フレイトホフ劇場でも、ゾマーは余裕たっぷりで熟成しかつ甘美さある歌声を披露してくれた。
ヴァイオリン・オブリガートにも軽妙さがありながら、丁々発止で、聴いていて楽しい。

今回のソプラノ・パート1は、ドロテー・ミールズだ。ゾマーよりももっとストレートな直球を投げる
タイプで、若さゆえか豪腕のなせる業か、カマトトっぽい外見から想像するよりもずっと彼女の
歌声は力強い。
しかし、ルックス、ヘア・メイクおよび衣装は、まるで4半世紀前のエマ・カークビーそっくりだ。
同じ曲を歌う動画が見つからなかったが、昨晩とほぼ同じヘア・メイクと衣装のがあったので貼る。

ヘルウェーゲ指揮コレギウムヴォカーレ・ヘントによる『マタイ受難曲』より「我が心汝に捧げん」


       一体実年齢は何歳?、ナードの多そうな古楽界だが、
       ここまでくるとかなり時代錯誤のヘアと衣装だ。
       

ついでに、御大エマ・カークビーの大昔の動画を貼るので、上のミールズと見比べてみて欲しい。
なるべくヘア・メイクが似ているのを選んだので、曲目はまた全く異なるがご勘弁を。

 
         彼女こそ、元祖・本家カマトトかもしれない。
         どうもあまり好きになれない声と歌唱なのだ。

だんだん、本題から外れていってしまったが、熱気のある満員盛況の会場で、熱気とは無縁に
インティームな音楽を作り出したオランダ・バッハ協会の『ロ短調ミサ』は、予想以上に癒し効果の
高いものだった。マッサージや温泉に行くのよりずっと心身リラックスができるから、このコンサー
トは、お勧めだ。


      
     
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by didoregina | 2011-12-16 17:24 | コンサート | Comments(6)
Commented by アルチーナ at 2011-12-17 12:41 x
そうそう・・来日していたのですが、当日となりで「こうもり」のマチネ公演を観ていたので、場合によっては聴きに行こうか?はたまたゲルハーヘルのコンサートに繰り出すか・・という考えもよぎっていたのですが、あまりに弾まない「こうもり」ですっかり疲れてしまい・・行けませんでした。
ゾマーだけでなく、ミールズにも興味有ったのですが・・

・・・しかし、この動画を見るかぎり、顔・・お直ししてません??
間違いだったら申し訳無いですが・・
幾つなんでしょうね?勝手にそこそこ若そうなイメージを持っていたのですが・・

・・違うか・・歌っているから顔が引っ張られているように見えるだけですね・・失礼な私。スミマセン
歌は確かにカークビーはカマトトっぽいですがミールズはカマトトっぽくないですね。綺麗な声ですねえ。
Commented by レイネ at 2011-12-17 18:32 x
アルチーナさま、笑いの足りない『こうもり』ってのも、どうも、ねえ。。。

今回、オランダ・バッハ協会のソリストは皆素晴らしかったです。
お顔お直しの件は不明ですが、(ミールズのことよね?)、すっきり・くっきりして見えるのは、バッハの音楽のおかげかも。コンサート聴くだけでも癒されたし、リフトアップ効果すらあるように感じ、フェイスリフトやボトックスなんていらないわ!と思いました。

でも、ミールズの顔立ちって若い頃のカークビーに似てると思いません?
Commented by galahad at 2011-12-17 22:00 x
つい先日まで日本ツアーでもうオランダでレイネさんがお聴きになってるというのが不思議なかんじです。
たしにこの動画のお顔より、ミールズは美人だったような…。兵庫の公演を聴きに行った友人はミールズが好きで、キャンセル続きだったのをやっと日本で聴けて感激していましたが、アルトが気に食わなかったようです。
その友人がフェルトホーヴェンに訊いたところ、今度はやはり『マタイ受難曲』を持って来日してくれるということでした。 また3年後くらいに。 次も楽しみに待っていようと思います。
Commented by レイネ at 2011-12-17 22:47 x
galahadさま、日本で皆様がお聴きになったのと同じプログラムを、間をおかずにオランダで聴けたのがうれしいです。
ミールズは写真では美少女風に見えることもあるけど、コンサートで見た感じは貼り付けた動画そのままでした。若々しくて力強さのある声がいいですね。アルトのソリストはあまり印象に残りませんでした。CTだったらよかったかもね。

3年後の『マタイ』楽しみですね!来年の復活祭前後の『マタイ』、わが家の近辺ではオランダ・バッハ協会のコンサートはありません。セレブや政治家が詰めかけるナールデンの教会では数回ありますが。。。
Commented by Mev at 2011-12-19 16:59 x
Concertgebouwのに行きたかったのですが同日プラテーを観ておりました。ナールデンのやつに行きたいなあと目論んでいたのですがそれもかなわず。千秋楽のユトレヒトもきっと無理でしょう。(T_T)でも、また機会があると思うのでその日を楽しみに待ちます。
Commented by レイネ at 2011-12-19 17:16 x
Mevさま、そうそう『プラテー』とかち合っちゃったんですよね。残念。ナールデンなら行けるの?復活祭恒例『マタイ』@ナールデンを一度経験してみたいものです。オランダ・バッハ協会の受難曲コンサートは結構沢山ありますね。でも、うちの近くでは全然ないのよ。。。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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