ナショナル・レイスオペラの『プラテー』

マーストリヒトに拠点を置くオペラ・ザウドと同じく、オランダ東北部のエンスヘデーに拠点を置く
ナショナル・レイスオペラは巡業専門のオペラ団で、地方への文化伝播・文化水準維持という面で
かけがえのない存在である。
しかし、その存在は、現文化教育相が躍起になって推進する助成金削減案(再来年から60%
カット)によって、風前の灯火の様相を呈している。
首都にあるアムステルダム歌劇場は優良株として助成金削減の措置を逃れご安泰だが、地方の
文化団体は政府からの補助がなくなれば、他に活路を見出すのは非常に困難だ。そして、首都
住人のみが文化の恩恵に与ることになり、地方での文化は貧困になっていく。。。

そのレイスオペラのプロダクションである『プラテー』は、家族揃って楽しめる高度な娯楽作品
に仕上がっていた。
「どうだ、見てみろ!こちらは、通好みの演目と演出でトンガリすぎのアムス歌劇場とは違う道を
行くのだ」とばかりに、ストレートに愉快でしかし客に媚びたところのないセンスのよさだった。

Platee by Rameau 2011年12月3日@Parkstad Limburg Theater Heerlen
c0188818_19451980.jpgMuzikale leiding  Jan Willem de Vriend
Regie  Mirjam Koen en Gerrit Timmers
Decor  Gerrit Timmers
Kostuums  Carly Everaert
Licht   Uri Rapaport
Choreografie T on Lutgerink i.s.m. Marieke den Dulk

Koor van de Nationale Reisopera
Combattimento Consort Amsterdam
Platée   Harry Nicoll
Mercure/Thespis  Vincent Lesage
La Folie/Thalie  Claron McFadden
Clarine/L’Amour  Eugénie Warnier
Cithéron/Momus (proloog)  Frans Fiselier
Momus (akte II en III)  Ashley Catling
Jupiter/Un Satyre  Philippe Kahn
Junon  Machteld Baumans

Co-productie met Opera O.T. Rotterdam

まず、コンセプトが明快でわかりやすい。
舞台はディズニー・ランドを思わせるようなテーマ・パークで、主要登場人物は、御伽噺の
キャラクターの扮装をしている。プラテーは不思議の国のアリス、ジュピターとジュノーは国王と
王妃(継母っぽい)、アモールはティンカーベル風、マーキュリーは馬に乗った騎士といういで
たちで、舞台デコールも遊園地のアトラクションそのもの。
合唱団は遊園地スタッフのユニフォーム姿だが、場面によっては、アトラクションの客やショーの
キャストの格好をしたりもする。
女遊びの絶えないジュピターにやきもちを焼くジュノーの怒りを静めるため、皆で芝居を打ち、
醜い水の精プラテーとジュピターに偽の結婚をさせるという、たわいのないストーリーだが、
読み替えのコンセプトに破綻が見られないどころか、非常に的を得てどんぴしゃと決まっていた。
もともとこのオペラのストーリー展開は破天荒で場面も突飛に飛ぶから、それをテーマ・パークの
ショー仕立てにする、というアイデアは素晴らしい。

c0188818_200535.jpg

        一夜ごとに移動するから、大道具の設置も大変そうだが
        遊園地の雰囲気を上手く作ってある。

舞台の明るい雰囲気と登場人物の服装が、昨年アムステルダムで観賞したバロック・オペラの
『モレナ山中のドン・キホーテ』に似た印象だ。あちらは、巨大な本棚を舞台に古今東西の
名作文学のキャラクターの扮装をして飛び回っていた。両プロダクション共に、ファンタジーに
溢れた造形で、しかも誰でもが見覚えある登場人物なので、観客は安心して空想の世界に浸る
ことができる。
そういう風に、舞台そのものを観客の共同幻想の世界にしてしまうという発想が見事で、それを
実現させた演出家の手腕も素晴らしい。

c0188818_20193159.jpg

        
プラテー役のテノール、ハリー・ニコルの演技が抜群に上手い。容姿は醜いが恋に恋する夢見る
乙女という役をおっさんが演じて笑わせながら、純な心にほろりとさせる。(『モレナ山中のドン・
キホーテ』では空想の世界に行ってしまった認知症の老人のドン・キホーテをステファン・ドグーが
見事に演じ、同じように笑わせつつ最後にはほろりとさせた)

聞かせるような歌らしい歌はラ・フォリー以外にはほとんどない。そして、ラ・フォリー役のソプラノ、
クレーロン・マクファデンの歌唱には、動画の印象からかなり期待していたのだが、舞台ではイマ
イチ迫力不足であった。
澄んだ声は美しいし歌心が感じられるのだが、ちょっと響きが足りないのが意外だった。
彼女の歌が第一幕のハイライトで文字通りアトラクションなので、かなり盛り上がるはずなのに、
拍手もぱらぱらで寂しかった。2年前にはDNOの新作現代オペラ『楽園追放のアダム』での
イブ役の歌唱が力強く、存在感抜群で印象に残っていたのに、今回は拍子抜け。

もともとこの作品は、ルイ15世の王太子とスペイン王女の結婚式のためにラモーが作ったバレエ・
ブッファだからコミカルなストーリーに華やかな踊りが沢山入る。バレエ場面のための器楽演奏が
多いのだが、バレエの素養があるらしいダンサーは大人2人と子供3人くらいなので、ほとんどの
ダンスは素人でも踊れるような、テクニックを必要としないものだった。気取ったところのない、スト
リート・ダンスに近いものなので、親近感を感じさせて楽しいことは楽しい。

c0188818_20345747.jpg

         これは、珍しくバレエっぽいダンス。

最後のダンス・シーンは、合唱団や子供たちが揃って踊るウェスタン・ライン・ダンスで、なぜか
バロック音楽にぴったりはまるのだった。ここが結局最大の見せ場になり、拍手が一番多かった。
レイスオペラの弱点はいつでも合唱団だ。老人が多いため合唱の迫力に欠け、演技もノソノソして
いて見るに耐えない。だから、彼らが踊るもっさりしたウェスタン・ライン・ダンスは、ダサさ加減が
イメージにばっちりで、しかも音楽に合っていて効果抜群だった。

この夜の観客層は、いつもとかなり違うようで、知った顔が一人も見かけられなかったし、若い人が
多くファッショナブルで華やかだった。チケットがなかなか売れず、2枚で1枚分料金というオファーが
来たので主人と二人で出かけた。そういう人たちが大部分だったろう。多分、初めてバロック・オペラを
鑑賞する人ばかりだったのではないだろうか。エンターテインメントとして楽しめる万人向けのプロダク
ションでよかったと思う。これを機会に(バロック)オペラの客層が広がったら喜ばしい。
ただし、もっと笑ったり、途中で拍手をしてもいいのに、おずおずとした感じの観客が多くて、舞台と
いっしょになって盛り上がったり和気藹々とした雰囲気にはならなかった。多分、アムスでは違った
反応だったのではないか。地方の限界だろう。

音楽で観客をノセることができなかった歌手やコンバッティメント・コンソール・アムステルダムの
スケール不足も原因かもしれない。もっと観客を煽ってもいいのに、チマチマとまとまっていて
ハチャメチャ感に欠ける。コミカルなバロック・オペラなんだから、もっと音楽的に爆発した演奏なら
より満足度が得られたのに惜しい、と思った。
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by didoregina | 2011-12-04 12:50 | オペラ実演 | Comments(6)
Commented by REIKO at 2011-12-04 21:59 x
巡業専門・・・というと、サーカスのオペラ版みたいなものでしょうか?(違うか?)
でもその割には凝った舞台で、楽しくユーモアのある雰囲気が写真からも伝わってきます。
ブスがコケにされる・・・という筋立ては(自分としては)ビミョーなものがありますが(笑)、このオペラは楽しさとキテレツぶりが尋常でないので、大好きです。
真面目系より断然コッチですね!
まあそういう内容なので、音楽面でバクハツが足りなかったのは残念ですが、半額なら超儲けモノでしたね♪
Commented by レイネ at 2011-12-05 03:36 x
REIKOさま、久しぶりに主人をオペラ鑑賞に誘ったのですが、楽しい舞台に満足だったようです。(一人でも行くつもりだったのに、タダで同伴者を連れて行けて財布も満足!)古楽器演奏のバロック音楽自体も楽しんだようです。

サーカスのように自前のテントを設営しての巡業ではなく、市民会館など地方都市の劇場が会場です。専用・専門の劇場がないので、セットはどうしても分解・組み立て・移動がしやすいものになるというハンディキャップを背負ってますが、それを欠点にしないよう演出に工夫を凝らすのが腕の見せ所ですね。

ブスがコケにされるというこのお話、ホラー映画の『キャリー』に似たてるから、最後に超能力でホラー的怒りを発散させてもよかったのに、と思います。傷心で寂しく沼に帰るプラテーが哀れだわ。
Commented by アルチーナ at 2011-12-05 13:22 x
おお、これはMevさまがご覧になったのと同じ団体のプラテーですね。
巡業専門とはいえ、セットもかなりしっかりしているようで、日本の演出が付きのオペラなのにコンサート形式にしか見えない物とは大違いです。

しかしプラテー・・可哀想ですよね・・
フランスのコメディー物って笑いどころがイマイチ分からなかったりします。

下のウェストブルックの特集記事、興味深いです。
記事の中身もそうですが、こういう企画が成り立つんだなあ・・と。
Commented by レイネ at 2011-12-05 13:38 x
アルチーナさま、そうです、Mevさんがご覧になったのと同じプロダクションのドサ周り。毎日が引越し公演みたいなものですね。セット運搬に大型トラック2台(かなり長いヤツ)、使ってましたが、当日、劇場周辺は地盤沈下で落盤の恐れあり、で立ち入り禁止。フェンスで囲まれて警官が立ってるの。終演後、トラック2台だけは劇場裏に横付けが許されてました。

『プラテー』は、今年4月にDNOでも上演されたんですが、里帰り予定だったのでチケット買いませんでした。結局日本には行かなかったのでオペラ見たかったけど、マチネは早いうちに売り切れでした。

ウェストブルックがゲスト編集委員という企画は優れものでした。「クラシックは、左翼エリートのためのもの」と大衆路線で議席を増やした極右政党から疎外の憂き目にあい補助金カットにさらされてるので、左翼エリート新聞の面目躍如。
Commented by Mev at 2011-12-05 16:28 x
マーストリヒトのチケットが半額だなんて、なんて羨ましい!!アムスはけっこう人が入ってましたよ。桟敷席は満席、バルコニーも8割くらいはじゅうぶん埋まってました。で客席では笑いが耐えないでおおいに盛り上がってました。マクファデンもやんやの喝采でしたし、CCAのオケも結構受けてました。ずいぶん違う雰囲気だったのですね。 私はコーラスの衣装はスーパーまたは安ホテルの制服みたいだなーと思いました。みんな安いビールのケース持ってて。 ダサ派手で楽しかった。地味なオペラ団体ですが好感持てますよね。「イポリトとアリシー」のときもすごくよくできていたのでよくやっているなーと感心していたのです。
Commented by レイネ at 2011-12-05 17:39 x
Mevさま、一足お先にご覧になってるのに、こちらからコメントできない設定なのが残念。
マーストリヒトではなく、ヘーレンの市民劇場でした。ところが、前日向かいにあるショッピング・センターの地盤沈没のニュースがあり、劇場からメールで「付近は通行止めなので車で来るのは避けるように」と。本当に周りは厳重警戒で立ち入り禁止になってます。

昨年観たDNOの『モレナ山中のドン・キホーテ』@アムステルダム市民劇場は、笑いと拍手で盛り上がっていい雰囲気だったので、多分、今回もアムスの観客の反応はいいだろうな、と思いました。

レイスオペラは意欲的にがんばってるのに、補助金カットで今後の存続が危ぶまれてます。オペラ・ザウドは、一応存続が決定しましたが。こういう巡業オペラ団は地方文化にとってはすごく貴重なのに。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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