Opera Zuidによるヤナーチェクの『カーチャ・カバノヴァー』

マーストリヒトに拠点を置くオペラ・ザウドが、今シーズンは『カーチャ・カバノヴァー』を
クプファー演出で上演すると知って以来、実演を心待ちにしてきた。
ヤナーチェクは好きな作曲家だし、地方のドサ周りオペラ団がクプファーに演出を依頼する
という意気込みに、これは見逃せないと思ったのだ。

実際、クプファー自身がオペラ・ザウドの歌手たちに演技指導をしている映像など見たり、
今回は意地悪な姑役で自ら出演する芸術監督でもあるミランダ・ファン・クラーリンゲンが
ブロシャーに書いた解説を読んだりすると、期待はいや増しになった。
開演前には、レン・ファン・シャイク女史による解説(元オペラ歌手の女史と音響技師の夫君の
コンビによるオペラ解説は、筋・演出・歴史背景などの説明のほか、登場人部を象徴するモチ
ーフ旋律や楽器、聴きどころなどの録音を交えた偏らない内容で素晴らしい)を聞いたりして、
泥縄式予習も行った。

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katja kabanova   L. Janáček  2011年11月20日@フレイトホフ劇場
regisseur  Harry Kupfer
dirigent  Stefan Veselka
decorontwerper  Hans Schavernoch
kostuumontwerper  Yan Tax
lichtontwerper  Jürgen Hoffman
assistent dirigent  Tjitte de Vries

orkest Limburgs Symfonie Orkest
koor  Het Zuidelijk Theaterkoor

Johanni van Oostrum  Katerina (Katja), vrouw van Tichon
Mark Duffin  Boris, Dikojs neef
Miranda van Kralingen  Kabanicha Kabanová
Michael Baba  Tichon, zoon van Kabanicha
Henk van Heijnsbergen  Dikoj, koopman
Elmar Gilbertsson  Kudrjás
Karin Strobos  Varvara, pleegdochter Kabanicha
Jacques de Faber  Kuligin, vriend van Kudrjás
Marjolein Bonnema  Glása, dienstbode
Saskia Voorbach  Feklusa, dienstbode


幕が開くと、舞台一面に泥のようなものが敷き詰められ、不気味なシルエットの幹と枝だけの
木立と電柱、梯子、そして傾いたチェストやテーブルや椅子などが全て黒で、存在を浮き立た
せている。
登場人物は皆、息詰まるような因習に束縛されたかのように、首まできっちりと詰まった上着で
その上に女性はコルセットで固く締め付けられている。そして、裾模様のように見えるが、実は
衣装の下の方には泥の汚れが固く付着しているのだった。

視覚的にかなり単純化された舞台デコールとコスチュームだ。逃げ場のない暗さが澱んでいる。

c0188818_22245429.jpg

      ヴァルヴァラ役のカリン・ストローボス(左)と
      カーチャ役のヨハンニ・ファン・オーストルム(右)は、
      昨シーズンの『ばらの騎士』コンビだ。


純な人妻カーチャは、専制的家長である姑カバニハに自由を束縛され、息が詰まるような毎日を
送っている。マザコンの夫は全く無気力で母の言いなり。出張で留守をする前には「実の母同様に
姑を愛すること」などと妻に誓わせたりする。
奔放で情熱的な青年ボリスは、教会で見初めたカーチャに夢中になり、所在無げなで欲求不満
気味のカーチャは夫の留守中に義妹ヴァルヴァラに焚きつけられて、ボリスと密会することになる。
ロシア文学によく見られるパターンであり、悲劇的結末はお約束のようなものだ。
カーチャはあまりに一途な性格であり、ボリスとの情事を浮気として軽く楽しむことができず、
罪悪感のみを抱く。自分(そして神)を偽ることができない生真面目な性格が命取りになる。


c0188818_2237061.jpg

         居丈高で意地悪な姑の最愛の息子は情けない駄目夫


人物描写が、舞台デコール同様、あまりにも白黒はっきりしすぎていて、まるで30年前の昼ドラ
もしくは新派の芝居みたいにチマチマしているのにはびっくり。意地悪な人たちはひたすら性悪で、
虐げられるタイプの人たちはひたすら弱弱しく、若者は奔放、と、あきれるほど単純な図式化で、
特に悪役はほとんどクサイとしかいいようのない演技である。
今どきのオペラにこんなのありか、人物造形にもう少し含みや奥行きがあってもいいのではないだ
ろうか、クプファーさん、といちゃもんを付けたくなった。
しかも、クライマックスのカーチャが身投げするシーンなど、あまりにスケール感がない影絵のよう
なもので、もうがっかり。

音楽はといえば、ヤナーチェクなのに、リンブルフ・シンフォニー・オーケストラの演奏にはドラマ
チックな迫力が全く欠けていて、覇気もなければ高揚感もない。ひたすら暗くて、ストーリー同様
に閉塞感に満ちている。う~む。これはつまらない。
指揮者はチェコ人だから、ヤナーチェクのオペラに不可欠な要素であるチェコ語の発話旋律指導
にも問題はないはずだが、もうすこしヤナーチェクらしさを演奏に出してもらいたかった。
オケの演奏があまりに盛り上がらないため、マチネ公演なのに眠気を堪えるのに必死になってしま
ったほどだ。(途中、実際にうとうとしてしまった。)
歌手は皆上手く、難癖つけるところはないのに。。。

というわけで、期待したものの半分も満足感を得ることができない公演だった。残念である。
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by didoregina | 2011-11-25 15:08 | オペラ実演 | Comments(2)
Commented by Mev at 2011-11-27 04:37 x
そういうソープオペラそのもののオペラもあるのですね。しかもヤナチェクで。へー!って、却って見てみたいような。。。。  でも舞台そのものが泥沼になっているっていうのもすごいですね~。
Commented by レイネ at 2011-11-27 06:17 x
Mevさま、素材はいいのに料理の仕方を間違えた、としか言いようのない実演を目の当たりにして、がっくりです。
マーストリヒトを皮切りに各地巡業してますから、お近くに来るようでしたら、ご覧になってご感想をお聞きしたいです。
それより、ナショナル・レイス・オペラの『プラテー』もうすぐですね!わたしは来週土曜日に行きま~す。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
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