マレーナ・エルンマンとマーラー室内管弦楽団@ケルン その2

はっきり言って、このコンサートに出かけたのは、マレーナ様を拝みたい、あの豊かな低音に
しびれたい、そしてあわよくばまたおしゃべりしたい、という点に尽きる。
マーラー室内管には悪いが、わたしにとってオケは添え物であった。

Malena Ernman + Mahler Chamber Orchestra
2011年11月2日@ Kölner Philharmonie

BENJAMIN BRITTEN Sinfonietta op. 1
DMITRI SCHOSTAKOVICH Chamber Symphony op. 110a
BENJAMIN BRITTEN Phaedra op. 93
SERGEI PROKOFIEV Quintet op. 39 / Symphony no. 1 in D major op. 25 "Classical"

Conductor Teodor Currentzis / Mezzo-Soprano Malena Ernman

プログラムをご覧いただくと判るとおり、マレーナ様はブリテンの『フェードラ』のソロ歌唱担当で、
舞台にいる時間は15分から20分程度だ。
それはもちろん知っていた。それでも、わざわざケルンまで万難を排して出かけた。(当日の
朝まで、ケルンからはずっと離れたアムステルダムにいた)
そして、当日昼過ぎからようやく、文字通り泥縄式に『フェードラ』の予習を始めたのだった。
今年になって、サラ・コノリーが『フェードラ』が入ったCDを出している。買おうかと思ったが、まだ
手に入れていない。サイトに彼女の歌う動画は見つからない。

この曲は、ブリテンがジャネット・ベイカーのために作曲し、作曲家の死の半年前にベイカーの歌で
初演された。
しかし、ネット上で音源を探すと、ジャネット・ベイカーのよりもずっと怨念の籠もった迫力のある
歌唱を見つけ、断然こちらが気に入った。
ロレイン・ハント・リーバーマンの歌う『フェードラ』だ。(彼女は2006年に亡くなっている)



フェードラは、ギリシア神話のパイドラーのことで、テーセウスの妻となるも、愛の神アフロディテー
の姦計によって義理の息子ヒュポリュトスに恋してしまうが拒絶されてしまう哀れな年増美女である。
この話はラシーヌが書いた戯曲で有名で、ラモーがオペラ化している。
フランス語のフェードラという名前には、誇り高く艶かしい響きがあるので好きだ。(自分の子供に
名付けたいとは思わないが)

c0188818_4282477.jpg

          お気に入りのエスプレッソ・カップは
          2005年のIlly Collection のFedra

ブリテンの『フェードラ』は、なかなかに激しい内容で、ことの成り行きを語るフェードラの台詞は
愛や呪詛の言葉に満ち満ちて、クラシック音楽の歌詞というよりほとんど演歌である。


ケルンでのマーラー室内管のコンサート・プログラムは、20世紀の音楽だったが、メリハリが利いた
変化のある内容である。

ブリテンの室内楽シンフォニエッタで始まった。フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルン
と弦楽五重奏からなる。初めて聴く曲である。1932年作曲だが、現代的な響きがする。

次のショスタコーヴィッチの室内交響曲になってから、指揮者が登場した。ギリシア人のテオドール・
クレンツィスという若手で、ギリシア人にしてはかなりの長身だ。オケの男性メンバーは皆、クラシック
な燕尾服姿なのに、指揮者だけカジュアルなブラウスにピタ・パンツというのがいただけない。
指揮ぶりは大分オーヴァー・アクション気味で、それもわたしの好みと相容れない。

このオケの特性なのか、指揮者によって引き出されたのか、はたまたホールの音響のせいなのか
いまひとつはっきりしないが、きびきびとしてクリアーな音で好感が持てる演奏だ。

3曲目で、ようやくマレーナ様の登場。
しかし、なんと、ソロ歌手なのにオケの前ではなく、後方の打楽器の横辺りに立っている。前から
5列目中央といういい席なのに、ヴァイオリン奏者達がじゃまになって、マレーナ様がよく見えない。
なんで、後ろに立つのよ!

マレーナ様のいでたちは、長い金髪を腰まで垂らして、シンプルなラインだが胸元がくっきり開いて
体の線がはっきり出るブルー系のロングドレスに、底が厚いピンヒールを履いているので、彼女の
筋肉質で長身の美しさが究極まで発揮されている。
女性らしさが強調されて、フェードラの熟女のイメージというより、ジュノーのような神々しを感じさせ、
堂々たるもの。
恨みつらみの歌の、特に低音部分のソフトな優しさがいい。アルトに近いメゾの声域が一番美しく
聴こえるのだ。

1週間前には、ズボン役でコミカルかつスポーティーな動きを見せながら、高音で意表を突いて
くれた彼女であったが、今回は本来の女性らしさをヴィジュアルでは顕にして歌声は低音の魅力を
聴かせる。そのギャップがたまらない。
ああ、やっぱりケルンまで来た甲斐があったというものだ。

体力的には青年のズボン役で主役はかなりきつかっだろうと思う。今後は、女性役のほうが喉には
いいのかもしれない。しかし、女っぽい役にも青年役にも違和感のないアンドロギュノス的魅力と
説得力のある演技力がマレーナ様の武器であり、それは他のメゾの追随を許さない専売特許である。
やはり、毎年最低2作品のオペラに出演してもらい、男性役と女性役の両方を観たいものだ。


休憩後はプロコフィエフで、最初はオーボエ、クラリネット、ヴァオイリン、ヴィオラ、コントラバスの
5重奏で、ソロとして演奏するときはオケのメンバーも自由闊達で粋な雰囲気になる。この曲は特に
ジャジーな味があるので、気ままなジャム・セッションというイメージが楽しい。

最後の『古典的』は、実にハイドン的な曲で楷書のような美しさをなぞったようなところがパロディー
っぽいのだが、オケの若々しい演奏によるのかこのホールの音響のよさのためか、実に生き生きと
して楽しい音楽になった。

音が塊としてぼ~んと響いて来るのではなく、一つ一つの楽器の音がクリアーな粒子として見える
ような感じで、それでいて全体が纏り個々に乖離していない。他のホールではなかなか感じたことの
ない不思議なサラウンド感だ。音の世界の中心に立った自分が、四方八方から優しく包まれて音楽と
一体となったとでもいうような絶妙の音響である。
この感想は、同行者およびマレーナ様のマネージャー女史とも一致した。
ケルン・フィルハーモニー・ホールは、ベルリンのフィルハーモニーのような作りで、インテリアは
モダンで内装には木が使われている。客席の斜面の傾斜が非常に急で天井が高い。
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by didoregina | 2011-11-11 21:37 | コンサート | Comments(2)
Commented by 守屋 at 2011-11-22 23:43 x
こんにちは。書き込みは本当に久しぶりです。

 本題ではなくて申し訳ないですが、リーバーマンの歌唱は僕も大好きです。なくなる前に、ロンドンのコンサートのチケットを購入しておいたのですが、彼女の病欠で機会を失いました。彼女の人気は、イギリスでは根強いようです。
Commented by レイネ at 2011-11-23 01:44 x
守屋さま、お久しぶりですが、そちらにはちょくちょくうかがってます。

リーバーマンって最近名前を聞かないなあ、と思ったら、亡くなっていたのですね。彼女の声は深みがあって表現力も素晴らしい、と思いました。英語の歌詞だからといって、必ずしもネイティブの歌唱でなきゃ、とは思わないのですが、彼女の歌唱には惚れ惚れです。生の声に接する機会が失われたのは残念ですね。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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