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The White Countess『上海の伯爵夫人』と四人衆の行方

The White Countess『上海の伯爵夫人』と四人衆の行方_c0188818_17204073.jpg
Directed by James Ivory
Produced by Ismail Merchant
Written by Kazuo Ishiguro
Starring
Ralph Fiennes (Todd Jackson)
Natasha Richardson (Countess Sofia Belinskya)
Vanessa Redgrave (Princess Vera Belinskya)
Hiroyuki Sanada (Mr. Matsuda)
Lynn Redgrave (Olga Belinkya)
Allan Corduner (Samuel Feinstein)
Madeleine Potter (Gruchenka)

Music byRichard Robbins
CinematographyChristopher Doyle
2005 United Kingdom/United States/China


ジェイムズ・アイヴォリー監督作品でカズオ・イシグロが脚本とくれば、期待しないわけにいかない。
そして、主演は我らがレイフ・ファインズである。
しかも、このポスターを見たら、『イングリッシュ・ペイシェント』のような究極の大人の恋愛物語
を想像するだろう。

30年代後半、日本による侵略前夜の上海が舞台で、アメリカ人の元外交官ジャクソンとロシア
革命から逃れてきた伯爵夫人ソフィアとなぞの日本人松田(悪役の名前としては定番か?)らの
織り成す夢と野望の物語だ。
ジャクソンとソフィアの燃えさかるような恋愛がメインと言うわけではないし、このポスターのような
シーンはほんの一瞬。それよりも、主に描かれるのは歴史に翻弄された人びとの苦労の様子だ。

盲目のジャクソンを演じるレイフの演技が上手い。透き通るような灰青の目が、まるで何も映して
いないように見える表情が素晴らしい。
「何でも見えている。頭の中に描いてあるから」と、自分の好みやスタイルには確固たる自信が
あり、一種のダンディズムを貫き通す。そうして、頭の中に描いた夢を実現させる男だ。

片や亡命貴族のソフィアは、家族を養うために夜はホステスやマダムなどの水商売稼業だ。
母、義妹、娘、伯父、伯母らが同居するので、ベッドが足りず、ソフィアが横になれるのは昼間
だけという、まるで女工哀史のような生活。
ナターシャ・リチャードソンのメイクは、当時の水商売では流行してたのだろうが、けばけばしすぎる。
金髪と赤い口紅がド派手で、いかにもロシア人っぽい顔立ちに見える。アクセントも上手く研究して
いて役柄に説得力がある。
リチャードソンの実母ヴァネッサ・レッドグレーブが伯母役で、実際の叔母リン・レッドグレーブが
母親役なので、家族総出演の感がある。

謎の日本人松田役の真田広之の英語の台詞回しが上手いのにびっくり。いつの間にかハリウッドで
活躍する人になってたのだ。悪役らしい貫禄も少しついてきた。しかし、松田は表立って悪事を働く
わけではないから、スマートで、ダンディさではレイフのジャクソンと競ういい役だ。こんなカッコいい
日本人が外国映画に登場するのは珍しい。カズオ・イシグロに感謝だ。

アイヴォリーらしく、30年代の上海を、まるでイングランドのように薄い空気の中に閉じ込めて、
隠微な魔窟のような場所は登場せず、人はやたらと多いが大変スマートな大都市として描いている。
きれいきれいのコスチューム物としては手馴れたワザの作品だ。

しかし、ストーリーが、どうもスノッブすぎて映画向けではない。プライドの高い大人の男女二人が、
毅然としてお互いのプライヴァシーには踏み込まないのだから、いわゆる恋愛としての発展はない
のだ。ポスターからは想像がつきにくい淡白さだ。

イシグロは、この作品の原作を書いたのではなく、脚本を書き下ろした。そこにちょっと問題がある
のかもしれない。文学作品として読むなら面白いかもしれないが、映画としての壮大なドラマ構成
には欠ける。夢を追い求める男2人と、歴史の巨大な波のうねりに翻弄させられるヒロインという
面白い素材が揃っているのに、観念の中に閉じ込められたようでスケールが小さく感動を誘わない。


このところ、なぜか、『イングリッシュ・ペイシェント』で主要な役を演じた俳優4人衆(コリン・ファ
ース、レイフ・ファインズ、クリスティンスコット・トーマス、ジュリエット・ビノシュ)が出演した映画を
TVで見る機会が続いた。

コリン・ファース主演のGenova、クリスティン・スコット・トーマスとハリソン・フォード共演の
Random Hearts『ランダム・ハーツ』、ジュリエット・ビノシュとリチャード・ギア共演のBee
Season (邦題『綴り字のシーズン』)そして、この『上海の伯爵夫人』だ。

いずれも、4人衆に注目して身を乗り出して見たのだが、傑作とは程遠いものばかりだった。
それは4人衆の責任ではもちろんない。売れっ子ともなると様々な映画に沢山出演するから、
イマイチの出来という映画も多いのは仕方がない。
もう一度、4人衆が揃って登場する映画を見たいものだ。
by didoregina | 2011-10-05 11:51 | 映画


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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