『イル・トロヴァトーレ』@リエージュは、イタリア・オペラ節炸裂!

リエージュでオペラ実演を観賞するのはなんと、二年ぶりである。二年前の夏から歌劇場の
改修工事が始まったので、それ以来、公演は別の会場で行われている。
二年前、最後に観賞したのは、ホセ・クーラ主演の『サムソンとデリラ』で、会場はなんと
近隣の山村にある大きなバスケット・ボール専用体育館だった。オペラを観たという気が全く
しなかったし、音響うんぬん以前の最悪の環境だった。クーラは、よくまあ出演を承諾した
ものだ、と思う。
その後の公演は、リエージュの町外れの空き地に建てられたサーカス・テントのような仮設
ホールで行われている。音響に不安を感じ、そこには一度も足を踏み入れていなかった。
その代わり、ネットでのオンライン・ライブ配信を視聴したり、オランダに引越し公演をしに
来たりしたのは実演を観賞していた。

今回、『イル・トロヴァトーレ』を観に行ってみようという気になったのは、ヨーロッパでのオペ
ラ鑑賞は初めてという人が同行するので、主演歌手もよさそうだし演目としてもわかりやすいし、
美しいメロディーばかりのこの作品なら、と思ったからだ。わたしは、格別ヴェルディのオペラ
に萌えるタチではない。

c0188818_18492745.jpg2011年9月20日@リエージュ
Direction musicale: Paolo Arrivabeni
Mise en scène: Stefano Vizioli
Décors et costumes: Alessandro Ciammarughi*
Lumières: Franco Marri
Nouvelle coproduction: Opéra Royal de Wallonie &
Teatro Lirico Giuseppe Verdi de Trieste

Orchestre et Choeurs: Opéra Royal de Wallonie &
Choeur d'Opéra de Namur
Chef des Choeurs: Marcel Seminara

Manrico: Fabio Armiliato
Leonora: Daniela Dessi
Il Conte di Luna: Giovanni Meoni
Azucena: Ann McMahon Quintero*
Ferrando: Luciano Montanaro
Inès: Ninon Dann
Ruiz: Xavier Petithan
Un vieux gitan: Edwin Radermacher
Un messager: Raffaelle Lancellotti

まず一番の心配は、会場の音響だった。外から見るといかにもビニールで出来たような仮設
テントである。
とっつきのテントに入場すると、そこがフォアイエで、いいにおいが立ち込めている。
中央に飲み物のバーがあり、ケータリングもあるので軽食を取る人が大勢テーブルについている。
熱気がこもる。狭いが、トイレも完備されている。
天井からはプリーツを寄せた布やシャンデリアが下がり、壁面には過去のプロダクションの写真が
大きく飾られている。パリ・コレのショーなどで使用されるような大掛かりで立派なテントなので、
内装をちょっと豪華にすればまあまあの雰囲気だ。

c0188818_18584618.jpg

            テント内のフォアイエのデコレーション。
            黒と赤が基調で、シャンデリアも沢山。

演奏会場に入ると、どでかいテントで天井が高い。壁面は板で補強してあるので反響はある。
平土間と、その後方に段差をつけて傾斜を出した雛壇のような座席が設置されている。
私達の座席は一列目のほぼ真ん中だ。オケはピットではなく平土間と同じ高さに座っているので、
指揮者が少々邪魔になる位置であるが、舞台は間近でよく見える。字幕(仏・蘭・独が上下3列)
も読める。

音楽が始まると、メロディアスで威勢のよいヴェルディ節が炸裂して、思わず笑みがもれる。
これだ、これでなくては、いけない。
オーケストラはリエージュのワロン歌劇場専属だが、指揮者はイタリア人。主要歌手もイタリア人だ。
普段とは打って変わったように、恥じも外聞もかなぐり捨ててダイナミックで、甘さも誇張した演奏
だ。音楽で聴衆を酔わせるのが目的なのだから。
音響は、意外にも悪くない。特に最前列で聴いたせいか、オケの音も歌手の声も直接届くから、
問題なかった。

c0188818_19114790.jpg

         ファビオ・アルミリアートのマンリーコと
         ダニエラ・デッシーのレオノーラ

期待していたのは、主役二人。先シーズンからリエージュ常連のようになったこの二人のナマの
声を聴きたいと思っていた。耳を慣らすため(?)にその日の昼間は、この二人が主演する
『アイーダ』をTVで観ていた。リセウの豪華舞台セットのプロダクションだ。アルミリアートの
高音が美しく伸びていた。期待は高まった。

しかし、その晩の実演では、彼は不調だった。高音域に近づくのが怖いみたいな、おどおどした
発声で張りも伸びもない。もともと線が細い声なので、さほど魅力を感じさせない中音域よりも
高音に期待したのだが、声は割れるは、びくびくしたように歌うから音程も微妙で、ハイCなど
望むべくもない。しかも音量はくぐもって矮小化している。演技もなんだか、自信がなさそうで、
主役なのにまことに冴えない出来であった。

c0188818_19325937.jpg

        
彼以外の歌手は、なかなかよかった。

まず、近くで見る舞台上のダニエラ・デッシーの可憐ともいえる顔立ちにびっくり。ステージ・メイク
のせいか、肌のたるみなどの年を感じさせるものが見えない。顔の線がすっきりしている。夏の間
にフェイス・リフトでもしたのか。それともダイエットの成果か。

彼女の声は、ミレッラ・フレーニに似ていて好きなタイプである。嫌味や無理がなくて、イタリア・
オペラを歌うのに最適な正統的ソプラノ・リリコだと思う。歌唱は堂々と安定している。運命に弄ば
れる悲劇のヒロインの心情を切々と歌い、ほろりとさせるのが上手い。それでいて、声量もしっかり
あるのだ。見直した。この調子で、若手と張り合って末永く歌い続けてもらいたいものである。

c0188818_19461270.jpg

          アズチェーナ、フェランドとルーナ伯爵

アズチェーナ役のマクマホン・クインテーロだけ、主要出演歌手の中でイタリア人ではない。
体格・声量・表情が大きく派手で、いかにもジプシーらしい歌唱も演技も大迫力だ。ヴェルディ
向きの歌手である。
アズチェーナは、荒唐無稽なストーリーの鍵を握る重要人物だ。それを意識した演技と歌唱で、
カーテン・コールでは一番大喝采を貰っていた。

ルーナ伯爵役のメオーニは、それほど印象に残らなかった。これは役のせいかもしれない。以前
聴いた『椿姫』でのパパ・ジェルモン役は説得力があった。それとも、主役のアルミリアートに合
わせて少々、声量を落としていたのかもしれない。

フェランド役は、なかなかに押しが強くて、主要登場人物のアンサンブルをきりりとまとめて締めた。
それから、男声合唱もヴェルディのオペラらしく、いい雰囲気を盛り上げた。

c0188818_2002270.jpg

              鍛冶屋の合唱シーン

演出は、取り立てて言うべき内容はない。アクロバット的な殺陣が目に付く程度で、小難しい
演技や振りが主要登場人物についているわけではない。読み替えなど全くないし、ヴェルディの
オペラにふさわしくわかりやすいものだ。とにかく、音楽が重要で、歌手が中心なのだから。

久方ぶりに、歌を聞かせることに的を絞った正統的なイタリア・オペラ実演を観賞した。
観て聴いて、心も耳もスカッとする。頭で考えずに体感で満足できる。
たまには、こういうのもいい。

         
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by didoregina | 2011-09-24 13:23 | オペラ実演 | Comments(8)
Commented by hbrmrs at 2011-09-25 12:29 x
こんにちは。テントのリエージュがどうなっているのか気になっていたのでレポを興味深く読みました。あながち悪くないのですね。

キャストは手堅い。アリッヴァベーニも定評があるし、何と言ってもデッシー&アルミリアートコンビ。こういうキャストを常連として呼べるなんて、さすがリエージュ。

それなのにアルミリアートが不調だったとは・・・。好調な時のアルミリアートは本当に素晴らしいのに残念です。

デッシーは目鼻立ちがはっきりしていて、舞台上ではとても美しく見える、まさに舞台で映える役者のようですよね。でも、素顔はこてこてのイタリアンマダムです(笑)。

演出がどうであろうと、ストーリーがめちゃくちゃであろうと、歌と音楽でそれを超越させてしまうヴェルディはやっぱり素晴らしいですね!
Commented by レイネ at 2011-09-25 17:15 x
hbrmrsさま、テントでもしっかりした造りで反響版(?)も貼ってあるので、最前列だったためもあり、音響に問題は感じられませんでした。ほっと一安心。

アルミリアートはかわいそうなくらい不調で、コントロールがきかずにいらいらしてるみたいで本当に残念でした。その分、デッシーが張り切って、、、という訳にも行かない夫婦の事情があるようで、夫を盛り立ててがんばりすぎない歌唱、という感じ。
素顔は、いかにもマダムのイメージのデッシーですが、舞台では可愛らしさも感じられる美人。

リエージュは、演出にさほど凝らないのでちょっと二の足を踏んじゃうんですが、面白そうな演目なら行こうと思います。
Commented by straycat at 2011-09-26 10:44 x
レイネさん、テントでのオペラ公演とは変わってますね。ミュージカルみたい。でも音響板が設置されていて、音に配慮してあるのはさすが。体育館よりはマシだったのでは?ホワイエのシャンデリアなど調度品もお着物とマッチしていて、中々のものですよ。
>観て聴いて、心も耳もスカッとする。頭で考えずに体感で満足
そうなんですか、10月に新国でもイル・トロヴァトーレがあるんですが、来日公演と重なってしまって、すっかり霞んでしまった感じです。しかもコテコテのイタリアオペラですものね、あまり関心が向かなかったのですが、レイネさんの記事を読んでちょっと食指が動きました。
Commented by アルチーナ at 2011-09-26 14:04 x
オペラを好きになりはじめの頃に気に入ったオペラが『イル・トロヴァトーレ』でした♪面白い環境で、スカっとするイタオペ!良いですね。演出の読み替え等をアレコレ考えながら見るオペラも楽しいですが、何も考えずスカっと出来るのも楽しいですよね!

夏のマルティナ・フランカ音楽祭の『新ジャゾーネ』を怪我の為キャンセルしたデッシーも出演したようで(と言っても、コンサートでは歌っていたので大した怪我ではなかった筈ですが)何より・・で、その時のすっぴんの写真やコンサートの動画を見ていたので、このデッシーの写真にはビックリです!舞台映えする方なんですね・・
Commented by レイネ at 2011-09-26 15:14 x
straycatさま、体育館とは比べたらすばらしい環境です、テントでも。しかも、チケットの値段設定は、通常の歌劇場でよりも抑えてあるのがうれしい。
この着物と帯は会場に映えたようで、かぶりつき席だったのでカーテンコールではデッシーがうれしそうに何度も視線を合わせてくれました。

『イル・トロヴァトーレ』は音楽としては、ヴェルディの頂点に位置するのではないかと思うオペラですから、上手い歌手が揃う舞台をナマで観賞したら、気持ちよくなること請け合いです。
Commented by レイネ at 2011-09-26 15:23 x
アルチーナさま、わたしはオペラ鑑賞を始めた18年くらい前、ヘタな歌手によるヴェルディのオペラを立て続けに観・聴いたので、ヴェルディやイタリア・オペラが苦手になりました。。。その後、15年くらいたってから、ようやく見直すことができました。ヴェルディが悪いわけじゃないのに、災難。

デッシーは、わたしもインタビュー動画や普段メイクの写真を観て、オバサンぽいなあ、という印象だったのが、舞台では素敵だったのでびっくり。かぶりつき席で見ても惚れ惚れとするルックスでした。歌唱も期待通りによかったし、満足です。
Commented by desire_san at 2011-10-08 15:12
こんにちは。

私も、「イル・トロヴァトーレ」は好きな作品なので、リエージュでオペラ実演のお話を興味深く読ませていただきました。

「イル・トロヴァトーレ」は、ヴェルディ節という表現がふさわしい作品だと思いますので、「ヴェルディ節が炸裂」というのは、この作品の公演としては成功していることの証ではないでしょうか。

私も新国立劇場の「イル・トロヴァトーレ」の感想を書いてみましたので、是非読んでみてください。

よろしかったらブログにご意見、ご感想などコメントを頂けると感謝致します。。


Commented by レイネ at 2011-10-10 05:43 x
desire sanさま、ようこそ、いらっしゃいませ。
さほどヴェルディのオペラ・ファンではないのですが、「イル・トロヴァトーレ」は、男女それぞれ2人の主要歌手4人の役割と歌の配分がほぼ均等で、歌唱も音楽もこってりと濃厚で満腹感のある作品ですね。ストーリー自体はオペラにありがちで荒唐無稽ですが、全体の構成も音楽もバランスよく出来てるなあ、と。主要歌手4人の実力が拮抗していないと成功しないのに、男性二人はちょっと弱かったけど、全体的には満足できました。

新国でも『イル・トロヴァトーレ』公演があったのですね。
のちほど、そちらにもおじゃまさせていただきます。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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