『イフィゲニア2部作』@DNOの出演歌手達

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2011年9月18日@アムステルダム歌劇場
Iphigénie en Aulide    Iphigénie en Tauride
Christoph Willibald Gluck (1714 - 1787)

muzikale leiding  Marc Minkowski
regie  Pierre Audi
decor  Michael Simon
kostuums  Anna Eiermann
licht  Jean Kalman
dramaturgie  Klaus Bertisch

Diane  Salome Haller
Agamemnon  Nicolas Testé
Clytemnestre  Anne Sofie von Otter
Iphigénie   Véronique Gens
Achille  Frédéric Antoun
Patrocle  Martijn Cornet
Calchas  Christian Helmer
Arcas  Laurent Alvaro


Iphigénie  Mireille Delunsch
Thoas  Laurent Alvaro
Oreste  Jean-François Lapointe
Pylade  Yann Beuron
Première prêtresse  Simone Riksman
Deuxième prêtresse  Rosanne van Sandwijk
Diane  Salome Haller
Un Scythe  Peter Arink
Le ministre  Harry Teeuwen
Prêtresses  Gonnie van Heugten, Madieke Marjon
 Maartje Rammeloo, Floor van der Sluis

orkest   Les Musiciens du Louvre.Grenoble
koor  Koor van De Nederlandse Opera
instudering  Martin Wright

モネ劇場との共同プロダクションなので、演出に関する感想は今回は省く。2年前のブリュッセル
での観賞記(『アウリスのイフィゲニア』および『タウリスのイフィゲニア』)を参照願いたい。

今回の公演では、特に女性歌手達に注目した。すなわち、アウリスのイフィゲニア役のヴェロニク・
ジャンス、その母クリュタイムネストラ役のアンヌ・ソフィー・フォン・オッター、タウリスのイフィゲニア
役のミレイユ・ドルンシュである。

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        アウリスのイフィゲニア、その母とアキレス

第一部での主役ジャンスは、ブリュッセルでも同役だった。古楽系で清々しく端整な歌声が、受身の
生き方で従順な役にぴったりとはまっていた。感情を押し殺し自己主張というものを禁じられたかの
ようなイフィゲニアには適役だ。ジャンスは、フランス人女性にしてはけっこう大柄な体型とは裏腹に、
顔立ちも声もどちらかというと地味だし声量もさほどないので、CDや映像ではイマイチその魅力が
伝わらない。ナマで聴いてみて初めて、しみじみとしたよさがわかるという、ちょっと損なタイプである。

モネ劇場の公演では、彼女の正統的古楽っぽい歌い方と、相手役アキレスの朗々とした明るい声が
どうもマッチしていなかった。今回のアキレスは、鼻にかかった甘めの声だし張り上げたりしない歌い
方なので、声量的にもアンサンブル的にも均整が取れていた。

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         アルカス、クリュタイムネストラ、イフィゲニア

しかし、アンサンブルの影の功労者は、母親役のアンヌ・ソフィー・フォン・オッターだ。
堂々とふくよかで芯のある歌声に、娘の行く末を案じる母親らしさが込められていて、しかも歌唱が
自己主張しすぎない。長身で立ち姿が美しく華がある歌手なのに、しっかりと脇役に徹している。
好感度抜群。それでいて、彼女が登場すると舞台が引き締まるのは、さすがだ。クールなディー
ヴァの面目躍如。

アガメムノンは、全く印象に残らなかった。専制君主的家長の威厳さを感じさせるわけでもなく、
ちょっと影が薄すぎた。
それに対して、金粉を塗ったスキンヘッドに筋肉のしっかりした上半身を裸身で誇示したアルカス役
のアルヴァーロが、押し出しの強さと不気味さで文字通り光っていた。

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           トアス王とタウリスのイフィゲニア

第二部の主役は、ドランシュだ。最近、かなり太り気味のような気がする。それともおめでたなのか。
離れ島で巫女として10年を過ごしたにしては、肉付きがよすぎるイフィゲニアなのでは、と突っ込み
を入れたくなるほど、他のほっそりとした少女のような巫女たちに混じると、どす~んとした下半身の
重さが目立った。
声は、重量に比例して力強い。ドラマチックで威勢のよい第二部の音楽には合っているが、どうも
役のイメージに対して重すぎる声に思えた。まろやかで持ち味自体は悪くないし、声そのものは嫌い
ではないのだが、歌唱にメリハリやニュアンスが足りないような気がして、イフィゲニア役としては
モネでのナジャ・ミヒャエルに軍配を上げたい。(ヴィジュアル的にも)

ジャンスの声量は、ドランシュには比ぶべくもない。二人が同時に舞台に立たなかったのは幸いだ。

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            オレスト、ピラデ、イフィゲニア

男性歌手は、オレスト役もピラデ役も、似たり寄ったりで個性にも魅力に乏しかった。この二人の
友情の絡みが第二部では重要なのに。
それに対して、第一部での不気味さで印象付けたアルヴァーロのトアス王が圧倒的迫力の歌唱で、
イフィゲニアとの掛け合いは丁々発止でスリリング。

プロダクションは同じでも歌手が変わると、かなり全体の印象が異なるものだ、と思った。

ブリュッセル公演ではモネ劇場専属オケだったのに対して、今回の器楽演奏担当は古楽オケのレ・
ミュジシャン・ド・ルーブル・グルノーブルだ。舞台上のコーラス席から、同じく舞台上で指揮する
ミンコさんの姿をほぼ正面から見ることが出来たのが楽しかった。

第一部の音楽はわりと淡々と進み、典雅な古典派らしさを保った形態なので、丁寧だが感情表現は
抑え気味の演奏だったのが、第二部になるとうってかわって、弾けたように奔放になった。作曲作法
自体が、新時代に入ったかのように全く変わったからだが、その変化が劇的で耳に判りやすい。
明暗がより一層くっきりと浮き彫りになった。
オケの音のほうが、歌手の声よりも直接届く位置だったからかもしれない。


終演後に女性歌手3人のサイン会があることを、前日に知った。美女達とのツーショットのチャンスで
ある。どんなに遅くなろうともサインをもらおう、と心に決めた。

舞台衣装から私服に着替えて、ヘア・メークもばっちり直した美女3人がデスクに並んで座った。
右端がジャンスでサインの列はそこから始まる。
こういう場合、それぞれの歌手に対して、なんと声をかけるべきか悩む。いずれも魅力的な歌手で
あるが、特に誰かの熱烈なファンというわけでもない。ジャンスには「このオペラは2回目の観賞です。
あなたの歌声がとても好きだし、よい舞台でした。」と、なんだかあたりさわりのないことを言ってみた。

真ん中にフォン・オッターが座っていた。彼女のCDは自宅に色々あるのだが、CDを作曲家別の
アルファベット順に並べてあるのが災いして、当日の朝急いでいたので、彼女のCDだけ見つからず
持って来れなかった。それで、「あなたのCDは沢山持ってるんですが、どれにしたらいいのか
悩んでしまって、失礼ですがパンフレットにサインお願いします」と、理由にならない言い訳をした。
すると、フォン・オッターは私の持っていた別のCDに目を留めて、手を伸ばしてきた。「これは、
ドランシュさんのCDなんです」と言うと、どれどれと眼鏡をかけてジャケット写真や曲目をじっくりと
見る。このジャケットのドランシュは金髪ショートで写真も小さいので、ちょっとフォン・オッターに似て
見える。フォン・オッターはドランシュのCDをなかなか返してくれないので「フランスの作曲家の曲を
集めたCDなんですよね」と言うと、「ふむ、なかなかよさそうじゃない」と鷹揚に言い放ち、姐御
の貫禄十分のフォン・オッターであった。

最後はドランシュだったが、フォン・オッターとのやり取りが長引いたので、彼女を待たすことになって
しまった。舞台の印象とは異なり、座ると小顔なのでほっそり美人に見える。ジャケットではなく、
CD本体にしてもらったサインは丸っぽくかわいくて、最後に加えたミレイユという字がよく読める。

サイン会のお礼として、劇場側から歌手3人に、劇場近くの有名チョコレート屋プッチーニの小箱が
プレゼントされた。
ドランシュに話しかける言葉が見つからなかったので、「このチョコ食べたことないんですよ」などと
言ってみた。オランダ人歌手だったら多分「あらそうなの、美味しいのよ」とか「私も初めてだわ。
あなたも食べてみる?」などと言う筈だ。ところが、彼女からは何の反応もなかった。とりなすように
劇場の人がチョコの説明を始めた。ドランシュは、ダイエット中なのに余計なものを、と思ったのかも
しれない。

普段使うデジカメは、マヨルカ島に出かけた主人が持って行ったので、長男のデジタル一眼カメラを
借りて来た。舞台裏写真は撮れたが、フォアイエは大きなガラス窓から差し込む日の光が明るすぎ、
手動でどうやっても絞りが効かずに、真っ白の写真ばかりになってしまった。
ツーショットも撮ってもらったのに、お宝写真は出来なかった。

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         サイン会での、(多分)フォン・オッター
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by didoregina | 2011-09-21 22:44 | オペラ実演 | Comments(6)
Commented by アルチーナ at 2011-09-22 14:21 x
あら・・・写真、残念でしたね・・
舞台裏からの写真の方はバッチリで客席が物凄く近くに見えるのがビックリです。

確かに、同じプロダクションでも歌手や指揮者が違うと印象が変わりますね。実際に色々と聴き比べられて羨ましい!!

ああ・・サイン会。私なんて言葉も分からないのもありますが、万が一日本語で話すことが出来たとしても、なんて話したらよいか分からないなあ・・難しそうですね。でも、何となく人となりの一端が垣間見られそうで、楽しいですね(ミーハーw)

それにしても舞台裏だけでなく社員食堂を見ることが出来たり・・いいなあ・・
Commented by レイネ at 2011-09-22 14:56 x
アルチーナさま、今回のオペラ鑑賞は、ミーハー精神爆発させました。
カメラは、感度がよすぎて暗いところはばっちり写ってるのに。。。どうもなれないのは使いづらいです。サインよりツーショットのほうがありがたいのですが。
デスクに3人横並びのサイン会ってのがビミョ~で、歌手全員を同等に扱わないといけないような気がして、何と話しかけたらいいのか頭を悩ませました。オランダ人オペラ・ファンにはミーハーが少ないので、私一人だけでしたね、ツーショット頼んだりして最後まで残ってたのは。だからガードローブも閉まる寸前で、帰宅準備してる係の人が別のところから私のジャケットと傘を出してくれました。。。

社員食堂にいたオーディに、感想を言わなかったのを悔やんでます。ミーハー度と修行が足りないわ。。。
Commented by Mev at 2011-09-22 15:45 x
サインまでもらえてよかったですね!!
フォン・オッター。さすがという大御所ぶりですねえ。

私はかなり後方の席に座っていたので、他の歌手に比べてドランシュの朗々とした歌声が響き、本当に頼もしく、強い女を表していて好感が持てました。体型は衣装のせいもあったかしらと思いましたが、ジャンスがほっそりとした美脚に迷彩コートという惚れ惚れな出で立ちだったので差がでてしまったかしらと思います。(ドランシュは私達と同年代みたいですよ、どうやら) 

アルヴァロかっこよかったですよね。見とれちゃいました、私。
Commented by レイネ at 2011-09-22 19:33 x
Mevさま、フォン・オッターのCDを持っていかなかったのが悔やまれます。サインよりツーショットのほうをメインに考えていたのですが。。。

ナジャ・ミヒャエルのイフィゲニアが精神を病んでる女の子っぽい脆弱さを表現してたのに、ドランシュは声も体型も野太くって、ちょっと繊細さに欠けるような気がしました。あやういイフィゲニアに強い女のイメージは合わないように思えて。
歌手はコーラス席の花道にも来たりして、わたしの座席は距離的には近いのですが、舞台では後ろ姿を目にすることが多いのでした。そうすると、ドランシュの腰周りの立派さとヒップの大きさが目立ちました。

第一部のアルヴァーロは上半身裸で、ちょっと描き足してたけど背中の筋肉がいい感じ。第二部では、フレディーみたいな小ぶりのヒップに注目。鍛錬した体型だし、声もよく響いてましたね。それ以外の男性の声が弱くって。。
Commented by galahad at 2011-09-22 21:54 x
ドランシュの声は好きなんですが、たしかにミヒャエルに比べるとどっしり、なんでしょうね。
CDを返してくれないフォン・オッターには情景を思い浮かべて笑ってしまいました。写真は残念でしたね。
舞台の裏から見る席というのもとても興味深いし、見てみたいですが、実際あまり身動きするなと言われると緊張してしまいそう。
Commented by レイネ at 2011-09-22 22:57 x
galahadさま、3人ともかなり好きな部類に入る歌手なんです。でも声質が今回の役柄に合ってるかどうかというと、ドランシュだけほんのちょっと微妙な気が。。。ミンコさん好みの歌手を揃えたなあ、と感心しました。
一般的オランダ人の国民性もしくは態度として、リラックスしてしかも醒めてるという特徴があるので、日本人とはある意味正反対。だから、だれも多分緊張なんてしてなさそう。。。わたしも、結構リラックスして楽しんでました。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
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