『ばらの騎士』@DNO 千秋楽の大団円

c0188818_19525753.jpg













アムステルダム歌劇場に行くのは、今シーズンこの演目のみだ。ここに限らず、近頃どうも
オペラのTV放映に現を抜かして、ナマの舞台に触れる機会が少なかった。

アムステルダムは遠いので、日曜マチネしか狙えないのだが、冬は大雪がネックだし、週末は
保線のためオランダ鉄道はダイヤが乱れに乱れて、行く気が萎えてしまうのだった。
今回も、途中のデン・ボッス~ユトレヒト間の鉄道メンテのため、とんでもない迂回路になった。
デン・ボッスからユトレヒトへは電車でまっすぐ北に30分の距離だが、昨日は東に大きく迂回
してデン・ボッス~ナイメヘン~アルネム~ワーヘニンゲン~ユトレヒトとなったので倍以上の
時間がかかった。
しかも、そこから先はスキポール空港に直行という変則ダイヤになったので、アムステルダム
中央駅に行くにはユトレヒト乗換えになり、通常乗り換えなしなら2時間半でマーストリヒトから
アムステルダムまで行けるのだが、4時間近くかかった。マーストリヒト発8時26分の電車に
乗ってアムステルダム中央駅(12時15分着)から歌劇場に直行、13時半から18時まで
オペラを鑑賞して、終演後もまっすぐ駅に向かい、18時38分発の電車を乗り継ぎ、マース
トリヒト駅に着いたのは22時35分だった。

c0188818_19454221.jpg

       アムステルダム歌劇場脇に立つ、スピノザの銅像。
       最近、『エチカ』の手書き原稿がローマで発見された。
       運河を見ながら銅像脇のベンチで、近くのデリで買った美味しい
       サンドイッチの昼食。アムス遠征には、大概、朝昼晩とも
       3食サンドイッチになるのが通例。カフェに入る暇もない。


c0188818_19515085.jpgDer Rosenkavalier
Richard Strauss 1864 1949

muzikale leiding  Sir Simon Rattle
regie   Brigitte Fassbaender
naar een concept van  Willy Decker
decor/kostuums  Wolfgang Gussmann
licht  Hans Toelstede
dramaturgie  Klaus Bertisch

Die Feldmarschallin   Anne Schwanewilms
Der Baron Ochs auf Lerchenau  Kurt Rydl
Octavian  Michelle Breedt
Herr von Faninal  Michael Kraus
Sophie  Sally Matthews
Valzacchi  Niklas Björling Rygert
Annina  Carole Wilson
Ein Polizeikommissar  Rúni Brattaberg
Ein Sänger  Ismael Jordi

orkest  Rotterdams Philharmonisch Orkest
koor  Koor van De Nederlandse Opera

オクタヴィアン役のはずだったマグダレーナ・コジェナーが初日の直前に病気降板したので、
キャストティングが二転してしまった。というのは、2004年の同プロダクションでオクタ
ヴィアン役で、今回初日に歌うことになったミシェル・ブリートも病気でドタキャン。白羽の
矢が立ったのはオペラ・ザウドで今シーズン、オクタヴィアンだったカリン・ストローボスだ。
初日の新聞評はいずれも「スター誕生」扱いで彼女を絶賛していたが、私はどうも納得でき
なかった。
コジェナー復活の見通しは立たないから、仕方ない。ポジティブに考えよう、ストローボスでも
いいか、とあきらめもついた。
ところが、数日前にキャストをよく見ると、千秋楽にはミシェル・ブリートが歌うことに変わっ
ていた。
しめしめと思ってしまった。彼女はドイツやチューリッヒで幅広く活躍しているし、アンダーの
アンダーでは、ちょっとね。

c0188818_20122042.jpg

        ミシェル・ブリートのオクタヴィアンはみずみずしさ満点。

結論から言うと、彼女のオクタヴィアンは期待に背かない出来だった。
彼女が主役といってもよく、カーテンコールでも一番拍手喝さいを受けていた。
何が良かったかというと、童顔で丸顔、小柄だが均整がとれた少年っぽいスタイルと仕草で、
ヴィジュアル的にも、幕開けから一貫して説得力満点。もちろん、歌唱も堂々としたもの。
女装して小間使いマリアンデルに化けると、それがまた田舎っぽさが上手く表現できて可愛い。
もしもコジェナーがやっていたら、17歳という設定のオクタヴィアンにはちょっとトウがたち
すぎ、田舎娘の可憐さもだせたかどうか。


c0188818_20195769.jpg

        官能的な元帥夫人とのアヴァンチュールでは、
        オクタヴィアン役のブリートの一人勝ちといえるほど、
        印象的だった。まるで17歳の少年そのもの。

元帥夫人は、アンネ・シュバーネヴィルムスで、これもハマリ役といえる。まるで漫画のマリー・
アントワネットのイメージにそっくりなのだ。大人の女性の魅力をここまでノーブルに表現できる
という点で人後に落ちない。肉体的にも精神的にも成熟し、むんむんと香る女っぽさの出し方が
上品で好ましい。元帥夫人というのは、世間の物事をよくわかった、貴婦人の理想的姿だから。

(池田理代子女史の『ベルサイユのばら』は、オペラ『ばらの騎士』に相当影響を受けているの
ではないか、と思う。ロココという虚栄に満ちた時代のうつろい、はかなさ、甘さ、というものを
少女漫画の世界に取り入れている。オスカルというアンドロギュノス的人物もオクタヴィアンから
ヒントを得ているのではないか。また、愛人フェルゼン伯と小間使いロザリーもオクタヴィアン
からの派生だと思う。オペラ舞台では元帥は不在というのも、漫画でのルイ16世の存在感の薄
さに近い。)


c0188818_20388100.jpg

        気品があって大人の女性の理想の元帥夫人。


ゾフィー役はサリー・マシューズで、観賞前は彼女一番のはまり役ではないかと思った。
この人の声は、ヴィヴラートにちょっとドラマチックな暗さが入り込むので、大人に半分なり
かけた少女という設定に合っている。しかし、上手いことは上手いのだが、世間知らずのお嬢
様という役柄上、ちょっと華にかけるのが残念だ。少女っぽさの表現が型にはまり過ぎてる
きらいがあった。

c0188818_20483183.jpg

        可愛いのだが、どうも今回はイマイチ役不足というか、
        他の歌手に食われていたのが残念。


第一幕、歌手役でイスマエル・ホルディが出ているのを発見。去年の『ロメオとジュリエット』
でロメオ役が印象深かったイケメン・テノールだ。ちょい役だが歌が印象に残るので、カーテン・コールではかなり拍手をもらっていた。

オックス男爵役のクルト・リデルの歌唱が弱かった。コミカルな演技はいいのだが、声が出ない。
結構出ずっぱりで、低音の引き締め役が重要なんだから、もう少しなんとかして欲しい。
でも、それは、今回他の歌手にも大なり小なり言えるのだった。声量がオーケストラの音量に対
して負けている。

ロッテルダム・フィルは最初から威勢のよいラトルに合わせて、ちょっと爆音響かせすぎている
ように思えた。全ての音がクリアーすぎた。もう少しウィーンっぽいもやもやっと霞が混じっ
たような音だといいのに。冒頭の元帥夫人とオクタヴィアンの絡みで、オケの音響がでしゃばり
気味に感じられた。官能というより、健康溌剌とした響きなのだ。
間奏やワルツなどは悪くない。そして、第3幕になると、多分声量をセーブしていた歌手達も
調子が出てきたのと、甘い響きもオケから十分鳴るようになっていて、ようやく満足できた。
でも、観客は最初から大満足で、各幕の終わりと始まりに贈るオケに対する拍手が尋常ではない
ほどの大きさで、途中でも足踏み口笛も合わさり大熱狂の様相だった。

c0188818_20464879.jpg


今回は、一階バルコン(日本風には2階)の右よりで、指揮者をほぼ真横から見る位置。
ステージも近かったので、カーテンコールの写真もわたしにしては上手く撮れた。
しかし、隣に座ったのが、箸がころがってもおかしがる人物(70歳くらいの女性)で、最初から
最後までオペレッタを見に来たようなノリで、笑いまくり。笑いと全く関係ない場面でも
「あはは、ははは」という声を出すので、こちらは頭に来た。たとえば、上の写真のシーンで
笑う人がいたら、どうする?オクタヴィアンがカッコよくさっと銀のばらを差し出したら、隣の
老婆は「アハハ」と笑ったのだ。。。
第三幕の3重唱のクライマックスでも。。。
そして、本当に笑うべきシーンでは高いびき。最後の方、元帥夫人が身を引くあたりで涙が出
そうになったので、もしここでこの老婆が笑ったら首をしめてやろうかと思ったが、なぜか
笑わなかった。
不可解というより不気味だった。

c0188818_218222.jpg

      観客も大熱狂の大団円のカーテンコール。
      サー・サイモンも満足げ。最後にカーテンが閉まったら
      舞台からキャーと言う声が聞こえた。出演者も皆大満足。
[PR]
by didoregina | 2011-05-30 14:10 | オペラ実演 | Comments(6)
Commented by hana at 2011-05-31 06:34 x
お久しぶりです!

私も、すっごい迂回路で帰りました・・・途中携帯電話と定期を落とすというおまけ付き・・・。当然、今日はほぼ一日あちこちの窓口と電話をたらい回しにされ・・・、さらに、帰宅しようとしたライデン行の電車が、もうあと5分でライデンという、その場所で事故。そのまま、またスキポールへ逆進・・・
なんなのでしょう?なにか悪いめぐり合わせなのでしょうか。潔斎食にでもして、精進に努めるべし、ということなのでしょうか・・・

ぐったりの一日でしたが、オペラ!ふむむ~~~面白そうですね!!なんかすっかり元気をいただきました。

ありがとうございました!
Commented by straycat at 2011-05-31 13:31 x
わ、可愛いオクタヴィアンですね!
写真はいつもレイネさんが撮ったのを使ってらっしゃるんですか?きれいですね。
ばらはオクタヴィアンの出来が全体の評価を左右すると言ったら言い過ぎ?でもオクタヴィアンがいいと、幸せ度がグンとアップしますよね。
衣装も完璧なロココではないようですが、パステルカラーでフェミニンなデザイン、帽子もかつらもちゃんと揃ってて、そうこなくっちゃ!って感じですね・笑
元帥夫人にも満足されたようでなにより。
今は小難しいものより、こういう洒落っ気があって幸せな気分になれるものが見たいです。
それにしても開演時間に間に合ってよかったですね。
Commented by レイネ at 2011-05-31 16:05 x
hanaさま、お元気ですか。携帯と定期なくしたら痛いですね。盗まれたとかじゃなくて?
丁度、運の波が下降気味なんでしょう。キリモミ状ににまっさかさまに堕ちて行くみたいな。。。でもまた上昇気流に乗れますから大丈夫よ。
オペラに興味がおありでしたら、ご一緒しましょうよ!また、ディナーかセイリングもね。(長男が大学のヨット部に入り、火曜の夕方と週末に、スキポール空港近くの湖までトレーニングおよび試合に行ってます)
Commented by レイネ at 2011-05-31 16:14 x
straycatさま、オクタヴィアン役の歌手は結構気に入りました。終演後にサイン会があったので、ツーショットも撮れたし。(ブログの写真、舞台シーンは歌劇場のサイトのを借りてます。カーテンコールは自分で撮ったもの。)
昨日は時間が足りなかったので、演出に関しては書けませんでした。すっきりした舞台背景と大道具でした。装置らしいものや仕掛けは全くでなしでストレートの直球。続きを別の記事にしますね。
Commented by Mev at 2011-05-31 17:53 x
レビュー楽しみにしていました!大評判らしく(ラジオで言っていた)行かれる方をうらやましく思っていました。
オクタヴィアン、予告編だと「おばちゃんやんか」と思っていましたが、若手が代わってくれてよかったですね!ほんとラッキーだと思います。マーストリヒトからの長旅はお疲れ様でしたが、素晴らしい舞台でその甲斐がありましたね!ただ、となりのおばあちゃま、、困りましたね。

いま、ブラバでサラ・コノリーのチェーザレを見ています。初めて見るのでうれしくて!(今はデ・ニースの妙な踊りです。なんすかね、このパラパラもどきは。)
Commented by レイネ at 2011-06-01 00:40 x
Mevさま、こういう正統派ウィーン・オペラものをひねりのないオーソドックスな演出でやる、というのがアムステルダムでは珍しいですが、上質な音楽と演奏に観客は大熱狂でした。やっぱり、ロマンチックそのもののオペラ、というプロダクションもたまにはいいものです。
オクタヴィアンのミシェル・ブリートもそれほど若くはないのですが、演技と歌が少年っぽくて若々しいの。予告編で歌ってるのはいったい誰なんだろう?

Bravaは再放送が多すぎで、『ジュリオ・チェーザレ』もしょっちゅうやってますが、見逃したものが見れるのはありがたい。来週の火曜日(7日)8:30からオペラ・ザウドの『ばらの騎士』が放映されます。DNOにも抜擢されたストローボスのオクタヴィアンが見られますよ。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


by didoregina

プロフィールを見る
画像一覧

S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30

プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


最新のコメント

Vermeerさま、多分..
by レイネ at 01:38
トマスのソロ・コンサート..
by Vemeer at 01:25
Vermeerさま、この..
by レイネ at 20:56
詳細なレポート、楽しく拝..
by Vermeer at 18:02
ロンドンの椿姫さま、それ..
by レイネ at 17:03
大満足のマスタークラスで..
by ロンドンの椿姫 at 23:41
鍵コメさま、ヴェロニカ・..
by didoregina at 18:57
Mevrouwさま、北海..
by レイネ at 18:46
レイネ様も怒涛の更新で、..
by Mevrouw at 23:33
Mevrouwさま、サー..
by レイネ at 22:10
Mevrouwさま、夏の..
by レイネ at 22:05
新作オペラに挑むのは本当..
by Mevrouw at 20:56
クロアチア~ベネチアを自..
by Mevrouw at 20:27
Mevrouwさま、ご高..
by レイネ at 20:19
ようやく一息つける日なの..
by Mevrouw at 19:57
Mevrouwさま、癒し..
by レイネ at 16:49
このところネットからも音..
by Mevrouw at 16:37
斑猫さま、もうすでにパリ..
by レイネ at 16:57
ロンドンの椿姫さま、まさ..
by レイネ at 16:54
こんにちは CT研究会..
by 斑猫 at 00:16

以前の記事

2016年 11月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 06月
2015年 04月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月

タグ

最新のトラックバック

究極の愛を描いたワーグナ..
from dezire_photo &..
バッハが人類に残したメッ..
from dezire_photo &..
バッハが『ロ短調ミサ曲』..
from dezire_photo &..
ルター派のプロテスタント..
from dezire_photo &..
ダンテの『神曲』 ”地獄..
from dezire_photo &..
ポン=タヴァン派、総合主..
from dezire_photo &..
倉冨亮太さんの繊細な美し..
from dezire_photo &..
ダイナミックで刺激的な多..
from dezire_photo &..
贅沢と快楽に生きる娼婦な..
from dezire_photo &..
バッハとヘンデルの音楽性..
from dezire_photo &..

カテゴリ

全体
バロック
映画
オペラ実演
オペラ映像
オペラ コンサート形式
着物
セイリング
コンサート
美術
帽子
マレーナ・エルンマン
イエスティン・デイヴィス
クイーン
CD
20世紀の音楽
旅行
料理
彫金
ビール醸造所
ベルギー・ビール
ハイ・ティー
サイクリング
ダンス
ハイキング
バッグ
教会建築
カウンターテナー
演劇
未分類

検索

ファン

記事ランキング

ブログジャンル

音楽
映画

画像一覧