マスネの『サンドリヨン』 オペラ・ザウド

オペラ・ザウドはマーストリヒトを本拠地とするオペラ団だが、マーストリヒトには専用の
歌劇場がないので、オランダ各地の市民会館を巡業する。
首都アムステルダムの歌劇場にしょっちゅう行ける幸福な人の数は限られている。地方在住の
人にこういうドサ回りオペラ団はまたとない機会を提供してくれるありがたい存在だ。
北部エンスヘデーを本拠地とするナショナル・レイスオペラも、同じような地方巡業専門の
オペラ団だ。

舞台装置やセットを規模の異なるステージに毎回設営しないといけないので、あまり凝った
ものは使えないというのが移動公演の短所だが、それは頭の使いどころ・腕の見せ所だ。
シンプルにして効果的、しかもポータブルなセットや大道具で舞台を作り上げなければならない。

だから、大掛かりなロシアものオペラやグランド・オペラ、スペクタクルな要素が前提となる
ようなヴェルディのオペラなどは、移動公演向けでない。主要登場人物がさほど多くないものが
好ましい。
また、地方のオペラ団としてさけた方がいい演目としては、メジャーで有名ななもの。がっかり
する度合いが高いのだ。メルヘン風のもいいチョイスだ。

そういうことをオペラ・ザウドは熟知しているから、割とマイナーなオペラを取り上げることが
多く、その場合、大体成功している。はじめて見る・聴くオペラだったら、比べようがないから
満足度が高いのだ。

Bravaで今回放映されたのは、マスネの『サンドリヨン』だった。

c0188818_19312882.jpgpremière15 februari 2008,  Theater aan het Vrijthof Maastricht
dirigent Ivan Anguélov
regisseur Carolyn Sittig
decor- en lichtontwerper Johann Jörg
kostuumontwerper Uta Winkelsen
choreograaf Marishka van Loon

リュセット  Francis van Broekhuizen,
妖精   Maria Soulis,
王子   Helen Lepalaan,
継母   Natacha Kowalski,
ノエミー  Machteld Vennevertloo,
ドロテー  Martine Straesser,
父親   Marcel van Dieren
国王    Zhenhua Chan,

Limburgs Symphonie Orkest
Koor   Conservatorium Maastricht

おなじみシンデレラ物語だが、マスネの音楽には夢見る乙女の気持ちがそっくり表現されていて、
フルートの多用とヴァイオリンの高音のトゥッティで浮遊感と夢想感が溢れる。
流れるような心地よい旋律の展開はバレエ音楽みたいだ、と思ったら、マスネのバレエ『マノン』
にオペラ『サンドリヨン』の合奏部分がかなり流用されているらしいので納得。
プロコフィエフのバレエ『シンデレラ』で聴かれる邪悪なメロディーと跳躍感を強調したリズムの
刻み方とは対極をなす、いかにもおフランス的ふんわりパステル・カラーの色どりの音楽だ。


c0188818_19454127.jpg

        継母と義姉妹はお約束の意地悪さ。 
        父親は尻に敷かれ、リュセット(サンドリヨン)は
        家政婦代わりにこき使われている。


サンドリヨンの家族や妖精たちの服装も、インテリアもモダンなデザインなのだが、王子と王様
や家来はなぜかルイ15世の宮廷っぽい服装だ。


c0188818_1956052.jpg

        妖精に助けられて大時代的なドレス姿に変身。
        やっぱり女の子の夢はピンクのふりふりドレスだ。
        

愛情に飢えた王子は、孤独感にさいなまれメランコリーの病に冒されている。だから、華やかな
舞踏会や王宮よりも、孤独が強調されたシーンが多かった。


c0188818_19582373.jpg

        メランコリックな王子はブルーの世界に籠もる。


舞踏会での短い邂逅の後、互いを忘れられない王子とリュセットが互いに夢の中で出会う。
リュセットは王子の寂しさをわがことのように感じ、胸を痛ませる。森の中で目かくしをした
まま、愛情を求める王子と自己を犠牲にしても王子を救いたいと思うリュセットのデュエットが、
オペラのクライマックスだ。
ここでのシンデレラは、従来のシンデレラ物語に欠かせない玉の輿に憧れる上昇志向とは無縁だ。
王子は心を病む甘えん坊で、白馬に乗って救いに来てくれるようなタイプではない。それが
かえって、リュセットの(母性)本能をくすぐり、助けてあげたいと逆に思うのだ。


c0188818_2093025.jpg

        一目ぼれした王子を置いて、妖精との約束の12時に
        家に帰らなければならないリュセット。


結局、最後はあっけなくハッピーエンドになるのだが、幸せをつかんだのはリュセットという
よりは王子の方だったように思える。リュセットにはもともとシンデレラ・コンプレックスも
物欲もなかったし、舞踏会とて一夜の夢として満足していたのだから。リュセットの愛情を得て
孤独から救われたのは、子供っぽく頼りない王子であった。リュセットは救済の天使だ。
森の中で盗まれた王子の心臓が、リュセットによって戻されるのが二人の関係を象徴していた。

さて、主役歌手のフランシス・ファン・ブルックハウゼンは、若いのにオペラ・ザウドでは大
活躍だ。
プッチーニの『3部作』の尼僧アンジェリカから、プロコフィエフの『賭博者』のヒロイン役
まで幅広い役柄をこなす。ミレッラ・フレーニを髣髴とさせるようなちょっと古風な声質のリリ
コ・スピントで、上手い。彼女のマノンなんか聴いてみたいと思う。
しかし、惜しむらくは、清純な役にはそのルックスが微妙にそぐわない。
彼女を最初に見たとき、悪いけど思い出したのは『不思議の国のアリス』のハートの女王だった。

c0188818_20212566.jpg

        髪が黒くて、どんぐり眼の眉間にいつも縦皺、しもぶくれ。
        体つきはでっぷりではないが、ごつい。本当はジョン・テニエルの
        描く挿絵の女王によく似ているのだが、その絵をアップするのは
        さすがにはばかられるので、可愛いアニメのほうにした。


ちょっとあっけないが大団円。↓


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by didoregina | 2011-05-26 13:44 | オペラ映像 | Comments(0)


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