プッチーニの『3部作』 Opera Zuid 

TV放送局のBravaとL1が組んで、5月はリンブルフ州特別月間としている。
リンブルフ・シンフォニー・オーケストラ(地元LSO)やオペラ・ザウド(Opera Zuid)の映像や
特集番組をびしばしと放映するのである。
地元LSOの演奏自体はどうでもいいのだが、オペラ・ザウドの見逃したオペラが見られるのは
うれしい。

5月1日は、プッチーニの『3部作』だ。2007年にオペラ・ザウドが上演したプロダクションで、
これはマーストリヒトで実演を観た。そのときの印象がなかなかよかったので、TV放映も再び
見てみようという気になった。TVのカメラアングルだとまた別の印象を持つかもしれない。
2007年にはノーマークだったドナイちゃんが脇役で参加しているので、彼女を追う楽しみもある。

Il Trittico Giacomo Puccini
Opera Zuid 
première 16 november 2007, Theater aan het Vrijthof Maastricht
orkest  Limburgs Symphonie Orkest
dirigent  Ed Spanjaard
regisseur  Ben Davis
decorontwerper  Dick Bird
kostuumontwerper  Magali Gerberon

solisten Il Tabarro

Nabil Suliman, Jeroen Bik, Alexander Schröder, Henk van Heijnsbergen, Anna Dragan, Martine Straesser, Bassem Alkhouri, Donij van Doorn, Kara Lundsdatter, Edith van Rijswijk,
Lilit Sarian, Saskia Voorbach, Hadewijch Voorn, Helen Lepalaan en Alexander Schröder

solisten Suor Angelica
Francis van Broekhuizen, Yvonne Schiffelers, Helen Lepalaan, Hadewijch Voorn, Martine Straesser, Else-Linde Buitenhuis, Lilit Sarian, Cecile Schijns, Kara Lundsdatter, Donij van Doorn, Edith van Rijswijk, Saskia Voorbach, Kai Yi Min en Florine Vogel

solisten Gianni Schicchi
Mauro Buda, Machateld Vennevertloo, Yvonne Schiffelers, Bassem Alkhouri, Jeroen Bik, Francis van Broekhuizen, Cecile Schijns, Niels van Doesum, Henk van Heijnsbergen, Willem de Vries, Helen Lepalaan, Tom Haenen, Marcel van Dieren, Christoph Plessers

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        第一部 『外套』は、パリの船上生活者の三角関係の悲劇。
        橋の上は都会生活を謳歌する人々。
        
ダンテの『神曲』の地獄・煉獄・天国になぞらえたという、プッチーニの『3部作』は、3つの全く
異なるストーリーのオペラ(いずれも1時間弱)を連続上演することになるので、作曲家の意に反して、
まとめて3作が上演されることはあまりない。セットやキャストなどを各幕ごとに全て変えなくてはいけ
ないので、費用効率が悪いためだ。
わたしは、この3部作は、音楽的にもストーリー的にも非常に変化があって一晩で3粒美味しい気分に
なれるし、冗漫でなく美しい音楽も堪能できるから、プッチーニの作品ではかなり好きである。

この『外套』での陰惨な中年男ミケーレ役にまず、注目した。ナビル・スリマンというペルシャ的な
名前なのですぐに憶えられるが、その前年にモネの金曜ランチ・コンサートで彼のソロ歌唱を聴いて、
好感を持ったバス・バリトンなのだ。
ルックスも声質も地味なので、モネでは脇役ばかりだったのが、ここリングルフで初めて一幕モノ
ながら主役を張るのだから、応援しようと思った。しかし、今回はどうも顔の表情が硬くて演技も
あまり上手くない。声にも生気がほとんど感じられない。コンサートではあんなに生き生きと様々な
アリアを歌って気迫溢れて魅力的だったのに、実舞台では光っていない。これでは永遠の脇役の
まま終わってしまうかもしれない。残念だ。

セットは非常に上手く出来ている。パリのセーヌ川に注ぐ運河の船上と暗くて湿っぽい河岸で生活する
下層階級と、その橋上で人生を謳歌する明るいブルジョワ階級との対比が上手い。
この河岸の雰囲気が、今は再開発が進んで明るくなったサン・マルタン運河やバスティーユ近くの
アルセナル港のかつての姿なんだろうな、と思わせる。

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         ギュスターブ・カイユボット(1848-1894)の
         『ヨーロッパ橋』(1876) ジュネーブのプチ・パレ所蔵。
         鉄道橋の上を闊歩する幸福そうなブルジョワ・カップル。

オペラ舞台の橋の上では、街頭芸人が『ラ・ボエーム』のストーリーを紹介していたりするのに
にやりとさせられた。『ラ・ボエーム』のような社会から疎外された日の当たらない貧乏人の運命が、
このオペラではよりヴェリズモ風に描かれて、19世紀的にやるせない。


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         第二部『尼僧アンジェリカ』
         貴族の令嬢アンジェリカは、未婚で子供を産み
         家名を汚したため修道院に入れられた。薬草栽培の名人。

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         修道院の門と庭と建物のセットが、この絵にそっくりでびっくり。
         Meester van de Virgo inter Virgines(1475頃-1510頃)
         『聖処女たちに囲まれた聖母子』(1495~1500頃)
         アムステルダム国立美術館蔵。

このオペラはもっともっと独立上演されてしかるべきと言いたくなるほど、天国的に美しく叙情的な
音楽に溢れている。
舞台設定は修道院で、音楽もそれに似合った清らかさなのだが、お話自体は哀しい。

アンジェリカは子供を産んですぐに入れられた修道院に7年暮らしている。突然訪れた伯母から
妹の結婚話および財産移譲を一方的に告げられ、しかも子供の死を知らされ動転し、自ら調合した
毒薬を飲む。しかし、死の間際、自殺では天国に行けないことを悟る。八方塞りで希望のかけらもない
状況だが、修道女達の慰めと聖母の加護によって死んだ子供が現れる。天国に登ることが許された
ことを暗示して幕。

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         ドナイちゃんの修道女姿がこの絵に瓜二つ!
         ロヒール・ファン・デル・ワイデン(1435-1440)の
         『若い女性の肖像』(1435頃)ベルリン国立美術館蔵。

舞台には、修道女萌えの人にはたまらなくなるだろうほど、若くてきれいで清楚な女の子たちばかり
登場する。

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         リンブルフのオペラ団だから、修道女役はほとんど
         オランダもしくはベルギー人の地元音大の学生だ。
         だから、皆、フランダース・プリミティブの絵のような容貌。
         ロベルト・カンピン(フレマールの画家)(1375頃-1444)の
         『女性の肖像』(1430頃)ロンドン・ナショナル・ギャラリー蔵。


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         第三部『ジャンニ・スキッキ』
         これは独立して上演されることが多い喜劇。

資産家の遺言を巡るコメディーだ。
現代仕立ての舞台で、フゴーの老人が住むのはペントハウス。
フィレンツェ市内やその近郊の地名が次々と、名所尽くしのように歌われるのが、能の謡のようで
面白い。


     誰でも知ってるし歌えるラウレッタのアリア『わたしのお父さん』
         オレンジ色のジャージ姿がジャンニ・スキッキで上手い。
         スパイダーマンに扮した男の子が登場したりして楽しい舞台だ。
      



        
         
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by didoregina | 2011-05-03 14:59 | オペラ映像 | Comments(2)
Commented by ろき at 2011-05-05 06:15 x
これ、上演する側は本当に大変でしょうね。
統一感なんてまるでない、別々の話で。
でも聴く方にとってはバラエティに富んで楽しいですよね。
最後に喜劇でしめるというのも良い。
スパイダーマンも出てくる「ジャンニ・スキッキ」、笑えますね。

ギュスターブ・カイユボットの橋の絵、初めて見ました。日差しがやわらかで、いい感じ。
Commented by レイネ at 2011-05-05 06:53 x
ろきさま、セットだけでも各幕ごとに全く異なるものが3つですから大変。このプロダクションは舞台が絵画的だったりして、チープでなくよく練られていました。
TV映像だと人物のアップも見られるのがいいです。
歌をこってりたっぷり聴かせるという趣向ではないオペラですから、小皿で出てくるコース・ディナーみたいに変化のある味と各皿の美しさを楽しむ感じですね。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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モットー:Carpe diem

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