クリスのフォルテピアノ@ルーテル教会

2週間経ってしまったが、せっかく7時間かけて行ったので、クリスティアン・ベズイデンホウト
(またはベゼイデンホウトもしくはビザウデンホウト。略してクリス)のリサイタルの報告を。

2月にハッセルト(ベルギー)の市民会館でのリサイタルを聴いてみて、「この会場では
だめだ。もしも教会か、お城のサロンなどでコンサートがあるなら、もう一度聴きなおしたい」
と思った。
フォルテピアノの場合、会場が大きすぎると、いくらステージの反響パネルで調節しても、音は
拡散してデッドになり、どうしても貧弱な印象を与えるのだ。それはあまりにも悔しい。
また、クリス本人も、その時の集客数には残念がっていた。こういう音が小さくて地味な楽器の
コンサートは、歴史的で趣のあるこじんまりした会場でやるべきだ。音楽も楽器も歴史的なもの
というこだわりなのだから、会場もそれに合ったものでなければならない。
空虚に響くモダンなホールの だだっぴろくてがらがらの客席に向かって演奏させるというのは、
演奏家に対しても失礼だと思う。主催者の良識が疑われる。

「日曜の午後だから、人が集まりにくいのはしかたない」とクリスはちょっと自嘲気味に言ったが
わたしは「日曜の午後は、典雅な気分になれるフォルテピアノのコンサートに最適。機会があれば
また聴きに来る」と言ってあげればよかった、と後悔した。だから、その3週間後にフローニヘンで
またモーツァルト・プログラムのリサイタルがあると知り、捲土重来と応援の気持ちで臨むことにした。


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        フローニヘンのルーテル教会のパイプオルガン。
        この教会は、大きさも音響もフォルテピアノにぴったりで文句なし。

曲目は当日まで未定となっていたが、多分ハッセルトと同じではないかと思った。
あるコネから、フォルテピアノはハッセルトで使用したのと同じ、1800年頃のローゼンベルガー
という情報を事前に得ていた。
果たして、プログラムはハッセルトと全く同じだった。アンコール曲までも。
本人が言うには次のCDに収録される予定の曲目だから、録音のための練習も兼ねているかも。
そうすると、このローゼンベルガーを使ってどこかの教会で録音するのかもしれない。


c0188818_18463780.jpg

        今回のローゼンベルガーもエドウィン・ブーンク氏のコレクション。
        椅子も同じだ。。。
        舞台に上がって近くから見ることができた。かなりシンプルで
        装飾のないストイックなデザインなのに、エレガントな印象。


c0188818_18532085.jpg
2011年3月13日@Lutherse Kerk in Groningen

Wolfgang Amadeus Mozart (1756 - 1791)

Sonate in F, KV 332
Allegro / Adagio / Allegro assai

Variaties in F over "Ein Weib ist das herrlichste Ding", KV 613

Pauze

Fantasie in c, KV 396

Sonate in Bes, KV 333
Allegro / Andante cantabile / Allegretto grazioso






前回との違いは、会場だ。音響がいいのは無論のこと、客層もいい。主催者がクリスの売れっ子
ぶりを強調(昨日はケンブリッジ、今日はフローニヘン、明日はミュンヘン)し、モーツァルトは絶対
フォルテピアノでしか演奏しないという彼のこだわりを説明したので、身を乗り出して応援しようと会場が
一丸となったようで、熱気が感じられる。

演奏の印象は、前回とさほど変わらない。エレガントで、妙に歯を食いしばったりしない無理のない
タッチである。フォルテピアノは、楽器の構造上、がんがん力を込めて演奏しても仕方ないし、
脱力した軽いタッチでニュアンスを作らなければならない。強弱の幅も広くないから、どう盛り上げるか。
クリスの場合、モーツァルトのピアノ・ソロ演奏には、明るさとユーモアが洗練された形で表現される
のが特徴である。自由奔放というのとも違う、優雅な洒脱さというべきか。

フォルテピアノの演奏では、楽器を選択する段階でかなり色が付く、と思う。楽器の個体差が激しい
からだ。だから、演奏家のアプローチの結果の音なのか、楽器による制限のためなのか、ちょっと
判りにくい。しかし、このローゼンベルガーの音は、姿同様、とてもストイックに聴こえる。
制作年代はモーツァルトの時代に近いが、わたしのイメージとは少々ずれているように、今回も
前半のプログラムでは感じた。後半になって、耳が慣れたのと、好きな曲目でもあるので、ようやく
納得できた。

来シーズンは、ブリュッセルでヴィクトリア・ムローヴァとベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタの
演奏会がある。この組み合わせでヨーロッパ各地を回っているから、きっとオランダでもどこかで
あると思う。ぜひまた駆けつけたい、と少し追っかけ気分である。




        
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by didoregina | 2011-03-27 12:42 | コンサート | Comments(6)
Commented by galahad at 2011-03-27 23:04 x
7時間!かけて行かれた甲斐がありましたね。 綺麗な教会。 先日クリスのお名前がまたすごい表記になってたんですが、忘れてしまいました(ベツォーイデンハウトみたいな)。 彼、来年また日本にも来てくれる予定なんですけど、その頃には安心してきてもらえるようになってたらいいな。 ほんとだったら今日はファン・デル・スプールコンサートのはずだったんです(涙)。
Commented by レイネ at 2011-03-27 23:43 x
galahadさま、熱狂的な聴衆だったので、クリスも日曜昼間でも演奏しがいがあったと思います。次男は前半、爆睡してましたが。。。入場料は大人20ユーロ、18歳以下はタダだったので、子供二人連れて行ったんです。だから若者がもっと沢山聴きに来ればいいのに、17歳の次男が一番若そうで、会場の平均年齢は60歳は超えてる感じ。
クリスは、5月に日本でコンサートの予定ですが、はたして行けるのかしら。ファン・デル・スプール、キャンセルでしたか。オランダ外務省が旅行制限勧告してるから。。。わたしも4月の里帰りは、秋に延期します。
Commented by ろき at 2011-03-29 06:44 x
ああ~モーツァルト、よかったでしょうね。
先日ラジオで放送したFantasia (K.475@ウィグモアホール)も、心が晴れる演奏でした。
フォルテピアノは個体差が大きいのですね、次から注意して見よう。
ベートーヴェンもぜひ聴いてくださいね。

5月に日本ですか・・・行けるのかなあ、心配。
Commented by レイネ at 2011-03-29 15:15 x
ろきさま、わたしはそちらでのベートーヴェン、ヴァイオリン・ソナタ・プログラムがうらやましいです。嫉妬深い人だったら仲を疑うような、ムローヴァ姐さんとの息が合った演奏、聴きたい!
クリスの演奏の特徴は、のびのびとした明るさ。特に幻想曲やロンドに彼らしさが現れると思います。教えていただいたのに、ラジオ放送、聞き逃しました。

5月の日本でのコンサートは、実現難しそうな状況ですね。。。
Commented by REIKO at 2011-04-01 00:54 x
「どう盛り上げるか」・・・なるほどそうですね、現代ピアノのようなダイナミックな演奏は無理なので、聴かせどころが難しいかもですね。
どうしても現代ピアノによる演奏が耳に残っているので、それとは違う方向で「良い演奏」をするのは、なかなか大変かもしれません。
でもモーツァルトを現代ピアノで弾くと、鍵盤が両脇いっぱい余っちゃって・・・(笑)
これくらいのフォルテピアノだと、ちょうど「使い切る」感じでしょうかね?
Commented by レイネ at 2011-04-01 03:10 x
REIKOさま、フォルテピアノの音は地味だし強弱付けにくいし、ダイナミックかつドラマチックに盛り上げるのは難しいですね。同じ曲をモダン・ピアノでの演奏と聞き比べたら、ほとんど勝負になりません。だから、クリスの場合、お茶目っぽさのある解釈と顔芸で勝負!そうすると、モーツァルトの望んだ演奏はきっとこういう軽めのものだったに違いない、と思えるんです。
バロックやモーツァルトまでの古典派の曲って、音域が狭くてちまちましているから、ピアノだと指も腕もあまり伸ばせず、物理的にせせこましく息苦しくなるので、後期ロマン派から20世紀モノと組み合わせて練習すると丁度いいです。。。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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