マドリッド王立劇場の『ドン・ジョヴァンニ』

c0188818_591497.jpgCarlos Álvarez Don Giovanni
Alfred Reiter Commendatore
Maria Bayo Donna Anna
José Bros Don Ottavio
Sonia Ganassi Donna Elvira
Lorenzo Regazzo Leporello
José Antonio López Masetto
Maria José Moreno Zerlina
Chorus of the Teatro Real
Mise en scène Lluis Pasqual
Chorégraphie Nuria Castejón
Orchestre Orchestra of the Teatro Real
Chef d'orchestre Victor Pablo Pérez


Bravaで放映するオペラを作曲家別に見たら、モーツァルトのがダントツだろう。
毎日何かしらやっている、と言っても過言ではあるまい。
その中で、マイナーだが光る作品とプロダクションという点では、ザルツブルク2006が筆頭で
わたし好みである。
ダ・ポンテ3部作なら、DNOやRHOやグラインドボーンのプロダクションをよく放映している。
しかし、それらに口をさし挟むほどのこともないような気がして、ブログ記事にはしていない。
この『ドン・ジョヴァンニ』は、マドリッド王立劇場で2005年に上演されたもので、マリア・バーヨが
ドンナ・アンナ役というのに興味を覚え、見てみようと思った。

ドン・ジョヴァンニとレポレッロは、金満家とその運転手という感じで、映画『麗しのサブリナ』に
出てくるような車に乗って登場する。女性の服装から察するに、時代設定は1940年代らしい。
マンテーリャを被っていたりするドンナ・アンナであるから、舞台は正真正銘スペインである。
もともとの設定もスペインだし、歌手もスペイン人が多いし、劇場はスペインだし、妥当であるが、
時代以外は読み替えがほとんどないのが、かえって珍しい気がする。

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       虚飾の権力を誇示する、なぞのドン・ジョヴァンニ

しかし、マリア・バーヨにドンナ・アンナを歌わせる、というのがちょっと不思議な気もする。
老け顔でちょっとさびしい顔立ちの彼女だから、ヴィジュアル的にはドンナ・アンナでも無理がないが、
甘くて可愛い声だから、えっ、ちょっとこれは、と少々引けてしまう。
年齢不詳だけど、声は軽く甘く若々しいので、ぴったり合った役柄がなかなかない、というのは
マリア・バーヨの背負った宿命だ。声質に合った若い娘役だと、顔が老けてるのでカマトトぶって
見えてしまう。
『セヴィリアの理髪師』のロジーナ役なんて、歌は上手いし声だけならぴったりなのに、地味で
老けた顔がちぐはぐで、フローリス演じるアルマヴィーヴァ伯爵とはヴィジュアル的に似合いでない
カップルだった。
今回のドンナ・アンナは、こういう人選もありかも、と納得することも出来るが、ツェルリーナ役の
モレーノと声が似すぎている。バーヨの声質だったら、実際ツェルリーナのほうが向いているのだ。
しかし、ルックスおよび演技では、高貴なドンナ・アンナらしさは出ていた。

ドン・ジョヴァンニというのは得体の知れない人物である。だから、さまざまな演出が可能になる
わけだが。カルロス・アルヴァレスは、なかなかにいやらしい中年の好色さを強調した役作りで、
今回の設定にはよくあっていた。セクシーでは全くなく、金力となにやら暗そうな権力を持ってる
なぞの男である。

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       騎士長の亡霊がドン・ジョヴァンニを地獄に連れ去る。

最後に種明かしがされた。
悪いやつは地獄に堕ちるのだ、悪事にしっぺ返しは付きもの、因果応報、とコーラスで歌うフィナー
レのバックにはフランコとファシズム台頭のフイルムが流れる。
フランコ独裁政権は、ナチやムッソリーニとは異なり、戦後も命脈を保った。スペインの暗い時代は
長く続いたのだ。
自由の足音を聞く喜びを歌い上げるフィナーレとは裏腹に、そのフイルムを回すのは、地獄に堕ちた
はずのドン・ジョヴァンニであった。暗黒の時代に色と権勢を誇った小悪党のドン・ジョヴァンニは、
やはり、闇の商人的な才覚のある男だったのだ。
これで、妙に大衆操作に長けたドン・ジョヴァンニのキャラクターのなぞが解けた。
仮面舞踏会や移動遊園地などのきらびやかな場面でも、どこか陰鬱な雰囲気が漂ったのも納得。
自由が抑圧された、それほど遠い昔ではない時代の話だったのだ。

戦後フランコ独裁の時代に育ったというスペイン人に出会ったことを思い出した。
カトリックの彼らは、日曜日には教会に行くことが厳しく義務付けられていたから、教会嫌いになり、
フランコが去り、信教が自由になって、教会の隣に住んでいても、自分から教会に行く気はしないと
言っていた。
信仰すら強制されたので、反発心がたまったのだ。
そういえば、スペインの警察管轄はいまだに複雑だ。
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by didoregina | 2011-02-14 22:36 | オペラ映像 | Comments(2)
Commented by Mev at 2011-02-20 21:34 x
はあ~。思い切った演出ですよね。 スペイン人にとってはベタになりそうなリスクもあるような。 マドリッド恐るべし。
Commented by レイネ at 2011-02-21 04:12 x
Mevさま、マドリッド恐るべし、というのはその通りです。ヨーロッパに住んでる利点がそこにあります。各国の意欲的な歌劇場(過激城)を逐次訪問したいと思っています、1年半後に次男が家を出たら。格安航空便なら、マドリッドなんて20-ユーロくらいで行けますものね。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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