グラインドボーンの『こうもり』

新春を飾るにふさわしい演目といえば、シュトラウスjrの『こうもり』だ。
Bravaでは年中放映しているが、マレーナ様がオルロフスキー役で出演しているこの
グラインドボーン版を全編鑑賞するのは、実は初めて。
イギリスやオランダのオペラ評では、妙に暗い舞台だと言われているのと、マレーナ様の髭面も
今回の役作りもあまり好みではないので、それほど積極的に見る気はしなかったのだ。
ともあれ、ようやく鑑賞した。

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Alfred: Pär Lindskog
Adele: Lyubov Petrova
Rosalinde: Pamela Armstrong
Gabriel von Eisenstein: Thomas Allen
Dr Blind: Ragnar Ulfung
Dr Falke: Håkan Hagegård
Frank: Artur Korn
Prince Orlofsky: Malena Ernman
Frosch: Udo Samel
Ida: Renée Schüttengruber


London Philharmonic Orchestra (Leader Pieter Schoeman)
The Glyndebourne Chorus (Chorus Master Bernard McDonald)
Conductor: Vladimir Jurowski
Director: Stephen Lawless
Set Designer Benoit Dugardyn

キーワードは「シャンペン」。
まず、緞帳の柄がシャンペンのラベルを模したもの。そして、後半は終始シャンペンを飲みながらの
馬鹿騒ぎ。シャボン玉の飛ぶバックもまるでシャンペンの泡立ちのようで、酔いとともに登場人物が
瓶の中に閉じ込められてるイメージだ。

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       アイゼンシュタイン家の館のロザリンデとガブリエル夫婦。
       インテリアもクリムト風模様の衣装も世紀末の薫り高い。

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       室内着のクリムト風衣装に注目のこと。

確かに、舞台は薄暗いが、これは世紀末の雰囲気を高めるためのものであり、こういう薄暗い
室内でこそ、クリムト風金襴の衣装と装飾の妖しい美しさが映えるのだ。
世紀末を表現するのにこの陰影のニュアンスはまさに最適。当時、ブルジョワの家に掛けられていた
装飾性の強いクリムトの絵画が光芒を放ったのは暗い室内だったからこそと同様だ。

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       オルロフスキーの館は、間口が狭くても高さはある
       グラインドボーンの舞台を最大限に利用するように、   
       階段とアールデコ風の回り舞台。ダンスや歌の
       最中でも舞台はしょっちゅう回る。

c0188818_1182030.jpg

       ロシア貴族オルロフスキーは、メランコリーな病に冒されてる
       という設定の割には、歌も台詞も躁っぽい。
       エキセントリックな役柄は、マレーナ様の得意とするもの
       だが、この役はちょっと合わないような気がする。

マレーナ様の、低い声でしゃべるロシア訛りのドイツ語の台詞回しは上手い。
しかし、歌になると、高音の多いこの役の音域のためか、女性っぽく聞こえるのだ。
演技は抜群なのに、バロック的な歌い方のせいか、どうも世紀末的なアンニュイが感じられない。
声だけ少年みたいで清々しくなってしまうのだ。
この役は、CTが歌うほうがいい。

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       アデーレ役は、聞かせどころアリアが多くて得だ。
       歌手も期待に応えている。


この演出では、こうもりの復讐に重きがかかっているので、無口で無骨・無粋なのに、
こうもり博士は、影で全てを操ってるような役柄だ。
丁度、ポール・デルボーの絵によく描かれているジュール・ヴェルヌのリーデンブロック教授
みたいな雰囲気で、独特の存在感を出している。陰湿さが匂ってくるかのような。

全体的に笑いを取ることに重点が置かれていないのも、このプロダクションは妙に暗い、と
いわれる所以でもある。見ながら、わっはは、と笑える要素が非常に少ない。

しかし、まるでオスカー・ワイルドの母親がそうだったように、やっと目を凝らすと見えるような
暗い室内で装飾華美な服装と濃い化粧を凝らしてじっと座っていて、そこだけ不気味にぼっと
灯った薄明りのような味わいの、陰影礼賛的なこのプロダクションは結構気に入った。
世紀末やベルエポックの陰影に沈んだ中の微妙なかび臭い空気を味わわせてくれたからだ。

       
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by didoregina | 2011-01-07 17:54 | オペラ映像 | Comments(9)
Commented by REIKO at 2011-01-08 16:03 x
黒と金を主体にした、高級感のある舞台ですね。
もともとこの作品て、オペレッタとしては別格の「準オペラ」扱いですが、写真からもその雰囲気です。
クリムト風のガウン?すごい!
でもやっぱり「こうもり」は、ウサを忘れて大笑いしたいですよね。
真面目なオペラはいくらでもあるのだから、この作品にしかできない楽しさをバクハツさせて欲しいものです。
アンニュイで暗いけどガハハと笑える・・・まで行くのは難しいし。
オルロフスキーは、やはり「非日常的な」カウンターテナーで演じた方が、役の持ち味が出るようですね。
Commented at 2011-01-08 16:11 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by sarahoctavian at 2011-01-08 20:12 x
この演出、とってもゴージャスですよね。グラインドボーンらしい・・と言えるんでしょうか。オルロフスキーはCTで、という意見に私も同感。世紀末の怪しげな雰囲気がより効果的に表現できるような気がします。なんたって、チェンチッチの女装版が私のお気に入りでございます。
ところでグラインドボーン今夏の演目をチェックしてみたら、出演者的にも気になるお方が・・・(ルカ・ピサローニさまも!) リナルドもやるそうです。主演がプリナ姐だけど。どうせあそこまで遠征できないからいいんですけどね、と強がりを言う私。
Commented by レイネ at 2011-01-09 19:38 x
REIKOさま、このプロダクションは、『こうもり』をオペラとして扱ったアプローチだと思います。あくまでもハイブロウで上品な演出なので、従来の『こうもり』とは別物みたいです。

こうもり博士が最後に、全ては復讐のための芝居であったことを告白すると、一緒に組んでいたオルロフスキーが、ショートへアの鬘と髭を取りはずして、ロングヘアをばっさりと出すんです。マレーナ様が演じると、その時点でかえってオルロフスキーが男性的に感じられる、という、複雑な虚構性に唖然となりました。
アンドロギュノス的なオルロフスキーの性格を如実に表したこの演出では、この役はマレーナ様以外はありえないんです。
Commented by レイネ at 2011-01-09 19:52 x
sarahoctavianさま、チェンチッチの女装版オルロフスキーって、きっとはまり役でしょうね。見てみたいわ。
女性歌手によるオルロフスキーだったら、最後にグラインドボーン版みたいに、実は女性だったと種明かしする演出も可能ですが。

グラインドボーン、一生に一度は行ってみたいものです。『リナルド』は、ダントーネ指揮でティム・ミード、ピオー、ピサローニなど魅力的な出演者ですね。プリナ姐のタイトルロールは怖そうだけど。。。
あと、ダニエルちゃんが『愛の妙薬』のアディーナってのも。。。
『ニュルンベルクのマイスタージンガー』は、マクヴィカー演出でトピ君も出演!なかなか話題性がありそう。
Commented by マリナ at 2011-01-09 20:20 x
遅くなりましたが、新年おめでとうございます。

「こうもり」はやっぱり豪華な舞台、演出が楽しいですね。
この世紀末風の危うげな雰囲気、私は好きです。オルロフスキー、私も男女両方みましたが、個人的には女性の方が色気があっていいような気がします。

今年も舞台の紹介楽しみにしています。
Commented by レイネ at 2011-01-10 04:26 x
マリナさま、おひさしぶりです!明けましておめでとうございます。今年もよろしく。

オルロフスキーは女性のほうがいい、というご意見、今のところ貴重です。理想のオルロフスキー歌手は誰だ、というテーマでディスカッションしても面白そう。マレーナ様以外だと、サラ様かコジェナーかしら、違和感なさそうなのは。

メルマガからブログに、劇場レポを移動されたようですね。これからもバンバン、アップしてください。
Commented by Mev at 2011-01-10 10:49 x
プリンス、実は女だったという種明かしも別の楽しさですね。衣装と木目込風のフロアがロシア貴族風で素敵。  ただ、笑える場面も入れてほしい気もする。だって「こうもり」は明るいオペレッタという印象で観に行く人もそれなりの期待があると思うんで。 ああ、それにしてもグラインドボーンは憧れです~。
Commented by レイネ at 2011-01-10 11:30 x
Mevさま、マレーナ様が最後に金髪ロン毛ばっさりと出す、というのは、なかなかに意味深です。結局、全てが復讐のための劇中劇だった、という種明かしのためなのですが。だから、登場人物が皆揃ってシリアスな演技で笑いも封印されてたんです。

グラインドボーン、これぞという歌手と演目が揃ったら、行きたいですね。しかし、ダニエルちゃんは、グラインドボーンご当主のヨメという玉の輿に乗ったためか、よく出ること。。。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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