DNOの『西部の娘』 一年後のTV放映

丁度一年前にアムステルダムのミュージックテアターで上演されたプッチーニの『西部の娘』が
ようやくオランダ第二TVで放映された。
昨年も今年同様、大雪の12月だった。行こうか行くまいかと迷った末、年末にTV放映があると
の情報だったのでナマ舞台はパスした。しかし、それが1年後のことだとは思わなかった。
だから、待ちに待ったTV放映だったのだ。

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La fanciulla del West
Giacomo Puccini 1858 1924

muzikale leiding   Carlo Rizzi
regie   Nikolaus Lehnhoff
decor   Raimund Bauer
kostuums   Andrea Schmidt-Futterer

Minnie   Eva-Maria Westbroek
Jack Rance   Lucio Gallo
Dick Johnson   Zoran Todorovich
Nick   Roman Sadnik
Ashby   Diogenes Randes
Sonora   Stephen Gadd
Trin   Jean-Léon Klostermann
Sid   Leo Geers
Bello   Peter Arink
Harry   Pascal Pittie
Joe   Ruud Fiselier
Happy   Harry Teeuwen
Larkens   Patrick Schramm
Billy Jackrabbit   Tijl Faveyts
Wowkle   Ellen Rabiner
Jake Wallace   André Morsch
José Castro   Roger Smeets

orkest   Nederlands Philharmonisch Orkest
koor   Koor van De Nederlandse Opera

上記キャストの通り、登場人物の大部分は男性だ。女性は主役のミニーと端役のウォークルのみ。
西部劇だから、基本的に男の世界なのだ。
時代設定は、ゴールドラッシュの頃よりは現代に近づけて、摩天楼の下の暗黒街が舞台だ。

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        西部劇の要素も残しているのがポイント。
        大草原でギターを弾き語る男はまさに
        ジョニー・ギター。

基本的にフェミニストなのではないかと思われるプッチーニの、オペラのヒロインは、普通一般の女性
とは別の世界に生きてるような、特異な境遇の女性であるのは通例だが、ミニーはその中でもまた
格別に異色だ。
荒くれ男の中の紅一点である。だから、彼女を中心に展開されるストーリーなのだが、その性格は
なかなか、つかみ所がない。気丈な酒場の女であるかと思えば、実は純な生娘で、気風は姐御肌
なのに、信心深い教師もしくは優しい母親代わりの役割を演じたりする。かなり複雑で分裂気味だ。
もしくは、そういう風に千変万化・臨機応変に対応できる世間智のおかげで、ナイーブな男たちの信頼
を勝ち取っているというべきか。
ともあれ、ミニーはまさにマドンナ体現しているのである。

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        摩天楼の下に蠢く暗黒界の
        女ボスみたいに登場するミニー。
        50年代の映画をパロった演出。

男勝りで気丈な西部の女、というイメージは、1954年のニコラス・レイ監督の映画Johnny Guitar
(邦題『大砂塵』)の主役ヴィエンナ(ジョーン・クロフォード)から拝借しているようだ。当時の
ウエスタン映画では珍しく、女性同士の決闘シーンもあり、男と張り合う強い女が主人公だ。

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金の詰まった金庫の管理を任されてるミニーに近づく色男のディック・ジョンソンは、実はお尋ね者の
メキシコ人ラメレス。
しかし、二人は互いの中に似たものも感じ、純粋に惹かれあう。

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        純情な女ミニーは、精一杯おしゃれをして
        ディック・ジョンソン(ラメレス)を
        迎える。どピンクのトレーラーハウスが
        彼女のシュミをあらわしていていい。

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        追われるラメレスを匿うも、保安官ランスに
        見つかる。
        しかし、いかさまポーカーでランスを負かして
        首尾よくラメレスを逃がす。
        
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        逃亡して再び捕らわれたラメレス。 
        ラメレス役は、アラーニャをぶっ壊して
        ロバート・デ・ニーロの味付けを加えたような
        風貌のソラン・トドロビッチ。

その後、絞首刑にされる寸前のラメレスを、ミニーが啖呵を切って救う。荒くれ男たちの心情に
マドンナの魅力で訴えかける。
そのラストのミニー登場シーンが、またもや古きよきハリウッド映画調なのだ。MGMのライオンの
ロゴが背景に映し出され、大階段をラメも鮮やかな裾を翻すロングドレスで颯爽と降りてくる。
助かったラメレスは、いつの間にかタキシードに着替えて、フィナーレはキスシーンというハリウッド流
お約束もばっちり取り入れている。
ゴールド・ラッシュの西部という荒唐無稽の舞台設定で、性格は分裂気味のヒロインという、もともと
破天荒なオペラなので、この演出はぴったりだ。


ミニーは、エファ=マリア・ウエストブルックのハマリ役だ。(オランダでは彼女には、われらの、
という人称代名詞が冠詞のごとく付く)
本編の前に、今回は指揮者や演出家による解説はなくて、主役3人の歌手、特にウエストブルックの
インタビューにかなりの時間が割かれていた。

「この作品のCDとDVDはもちろん全部集めてます。ドミンゴがディック・ジョンソン(ラメレス)を
歌ったものが特に気に入ってます。後にROHでミニーを歌うことになったとき、演出がその一番
好きなDVDと同じものだったので、びっくり。西部劇風の衣装とセットが美しく、どのシーンも
まるで映画みたいに完成度が高いんです。憧れであり目に馴染んでいたプロダクションを舞台で
自分が歌い演じるというのが、不思議な気がしました。あのシーンを今わたしが演じてるんだわ、
この小道具も同じ、と、思わず笑みが漏れるほど。」

さらに、自宅のリビングでは夫君でテノール歌手のフランク・ファン・アーケンもインタビューに登場して、
「ミニーはエファそのものだと思います。彼女のために作曲されたかようで、こんなハマリ役も
めったにあるものではありません」などとコメントするのだった。

世界の歌劇場での彼女の活躍ぶりは素晴らしいから、オランダの誇るソプラノ歌手ということで、
国民的祝日には彼女の歌が欠かせない。5月5日の開放記念日の運河コンサートでもメインだったし
コンセルトヘボウのクリスマス・マチネ・コンサートで歌うのもTV中継される。そして、『西部の娘』
に続いて、彼女がカッサンドラ役だった、今年4月の『トロイの人々』もTV放映される予定だ。
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by didoregina | 2010-12-21 00:14 | オペラ映像 | Comments(10)
Commented by アルチーナ at 2010-12-22 14:11 x
ああ!!先を越された!って競争じゃないんですが、まだ見てません。
冒頭だけチラッと見て面白そうだとおもったので時間に余裕のあるときにキチンと見たいと・・
荒くれ男たちと流しのギター弾きみたいな人と、プッチーニの甘美なメロディーのギャップがとても可笑しいな・・と、思って(笑)
Commented by レイネ at 2010-12-22 20:16 x
アルチーナさま、娯楽性の高いプロダクションなので、皆様おそろいの時にご覧になると愉しいかと。お酒飲みながらわいわいと。。。
プッチーニって異国情緒をちりばめるのが好きみたいで、当時のオペラ作曲家としては相当進んでたように思えます。それなのに、イタリア・オペラの枠組みから外れてないってところが凄いんです。キャッチーなアリアはないけど、面白い作品ですね、これ。
Commented by galahad at 2010-12-22 21:38 x
オランダでウェストブルックは「われらの」という人称代名詞がつくほどの国民的歌手なんですね、知りませんでした。 旦那さまには付かないのでしょうか。 今回彼はスカラにも出たし、いっしょにがんばってほしいものですね。あんまり目立たないタイプのようですが…。
Commented by レイネ at 2010-12-23 03:36 x
galahadさま、ウェストブルックの旦那さんのファン・アーケンは、まだ本国では有名ではありません。ドイツの歌劇場が主な活動の中心だからでしょう。奥さんの七光りで、今後脚光を浴びるかもしれませんが、ヴィジュアル的にイマイチ魅力がないから、よっぽど歌が上手いとかでないと、難しいかもね。ワーグナーものには共演したりもしてますし、レパートリー的には被るから、ダニエラ・デッシーとアルミニアートみたいに夫婦で共演なんてこともありうるかも。でも、醒めてるオランダ人観客には、そういう企画自体ウケそうにありません。
Commented by straycat at 2010-12-23 13:22 x
私はプッチーニってどこか基本的に好みじゃなくて、でも人気があるのか新国立でもよく上演されます。ヒロインのタイプとしてはこれはトスカに当てはまるんじゃないでしょうか?私はミミやリューや蝶々さんより、いっそ押しの強いイケイケ姐ちゃんのトスカの方がまだしも好もしく思えるので、これ面白そうだな~なんて拝読しました。キッチュなハリウッド風に徹しているところも好き。プッチーニって異国情緒を取り入れるといっても、ヨーロッパを遠く飛び出して、中国から日本、果てはアメリカまで(ぁ、反対?)地球を一回りして題材を求めているんですね、その貪欲さってある意味あっぱれかも?笑
Commented by レイネ at 2010-12-23 18:07 x
straycatさま、メロディメーカーとしては凄い作曲家なのではないかと思います、プッチーニって。お話としても、だいたいが女の一生みたいでわかりやすく、イタリア・オペラの典型的要素満載だから、上演しやすいのでしょう。ヴェルディみたいにイタリアやヨーロッパの歴史を題材にしてるのよりは、普遍的なストーリーである、というのも日本でのプッチーニ人気の理由かと。
このオペラは、上演回数が他の作品に比べると、かなり少ないのは、キャッチーなアリアがないためだと思いますが、アメリカが舞台だからジャズっぽい雰囲気が感じられる音楽で、バーンシュティンを思わせるところがあります。
Commented by hbrmrs at 2010-12-23 21:00 x
こんにちは。
このレーンホフ演出、私は「ディック・ジョンソンはハリウッド界のスカウトで、彼によってミニーはギャングの世界からセレブに転身したが、残されたギャング一味は、その出世を喜びつつ、寂しさも募らせる」という風に読み取りました。
着眼点は面白いと思いましたけど、若干唐突感が否めないかなーと(笑)。実際、会場でたくさんの失笑が溢れるのが録音にしっかり収められていますね。

フランク・ファン・アーケンが夫君だったんですねー。知りませんでした。
2005年シュトゥットガルトで、お二人が共演するエレクトラを見ました。旦那が演じたエギストはイマイチ冴えませんでしたが(笑)。
Commented by レイネ at 2010-12-23 21:16 x
hbrmrsさま、「ミニーのハリウッド界進出」説は、なかなか説得力ある解釈ですね。保安官の暗躍にも、裏がありそうです。
会場からもれた笑いは、失笑というより、MGMのロゴを使ったことへの賛辞とわたしは受け取りました。マドンナの「マテリアル・ガール」風エンディングで、ハリウッド映画のパロディーだとはっきり公言したようなものなので。

ファン・アーケンとウェストブルックは、きっとシュトゥットガルトで知り合った職場結婚なんでしょうね。共演もしてるし。旦那のほうは、どうもイマイチみたいですけどね。
Commented by Mev at 2010-12-23 22:00 x
アメリカ西部を舞台にしたオペラを作っているってことじたい、リベラルでいいなあって思います。 
ヒロインの多重人格系落ち着きの無さは、ラ・ボエームの主人公もなんだかよくわからないキャラなので、理解(?)できます。 
METライブビューイングで1月末に上映されるので観に行こうと思います。ホントはDNOのものをみたいですけどね~。。。。
Commented by レイネ at 2010-12-23 22:16 x
Mevさま、そうそう、今丁度METのライブビューイング、次は何だろうと調べたら、これが出てきたので偶然にびっくり。見に行くつもりはないんですが。。。(だって32ユーロ50セントなんて高すぎ!)代わりに行ってぜひご覧になってね。

ワケわからんキャラを演じるのは、ウェストブルック上手いです。欲におぼれたり、どすが利いてたり、可愛かったり、慈悲深かったりと、表情をくるくる変えることができるから。声量も安定しているし、安心して聴いていられます。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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