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エマニュエル・アックスのピアノ・リサイタル

BravaTVにはオペラ放送で毎度お世話になっている。しかし、それだけではない。
ニュースレター会員登録してあるので、2週間に一度ほどメルマガが届く。
こういう文化系商業メルマガには、コンサート・チケットやCDが当たるというクイズや懸賞が必ず
あるので、これはと思うものには応募している。そして、またも当選してしまったのである。
エマニュエル・アックスのリサイタル・チケット2枚が。

アックスは、来週コンセルトヘボウでハイティンクとブラームス・プログラムを3日間行うのだが、
それらは全てソールド・アウトである。アムステルダムまでは遠いのでマチネしか狙えない。
いくらタダ券をもらっても、泊りがけになってしまっては大変だから、そういう懸賞があっても
応募しない。
しかし、今回のは、うちからすぐ近くのヘーレン市民会館でのリサイタルで、懸賞のお知らせが
来たのはコンサートの2日前だ。チケットの売れ行きがよくないんだな、しかも田舎だから
応募する人も少ないだろう、と思った通り、翌日、当選のお知らせメールが届いた。
次男といっしょにでかけた。

市民会館のカフェには、ピアノをペーターに習っているカリンとクリスも来ていた。
音楽学校の先生お勧めだったので、顔見知りの生徒もいるかと思ったが、見当たらない。

アックスは6,7年前にユトレヒトまで聴きに行ったので、今回はパスするつもりだった。
というのは、あまりに地味な演奏だったので、嫌いじゃないが、また聴きたいとは特に思わなかった
のだ。
前回は、ショパンを中心にしたプログラムだったと思う。そして、アンコールはドビュッシーだった
ように記憶している。

今回は、シューベルトとショパンである。
予定では、前半がシューベルトのソナタD960で、後半がショパンというプログラムで、いきなり最初に
重いものを持ってくるというのが意表を突いていて、この人は、失敗を恐れて先に難しいのを終えたい
んだろうかといぶかった。
しかも、なかなか会場に入れてくれない。ぎりぎりまで練習してるんだろうか、とさらに疑問が湧いた。

舞台に登場したアックスは、椅子に座る前に、「今晩は、予定していた曲順を入れ替えて、前半に
ショパン、後半にシューベルトといたしますが、よろしいでしょうか」と聞くなり、有無を言わさずに
ショパンから弾き始めた。
なあんだ、よかった、とこちらもほっとして演奏に臨むことができた。

Emanuel Ax ピアノ・リサイタル@ Theater Heerlen 2010年12月11日

Frederic Francois Chopin (1818 - 1849)
Barcarolle in Fis opus 60
3 Mazurkas opus 59
no. 1 in A minor: Moderato
no. 2 in A flat: Allegretto
no. 3 in F sharp minor : Vivace
2 Nocrurnes opus 27
no. 1 in cis-moll: Larghetto
no. 2 in Des-dur: Lento sostenuto
Scherzo no. 2 in bes opus 31


Franz Schubert (1797 - 1828)
Sonata no. 21 in Bes D 960
Molto moderato
Andante sostenuto
Scherzo: Allegro vivace e con delicatezza
Allegro, ma non tropo

ショパンの優しい曲から始めて、肩のこらないマズルカとノクターンをいくつかの後、ドラマチックな
スケルツオという、無理のない展開だ。
この人のピアノ演奏には、総じて無理がない、と言いきることが出来る。生真面目な、四角四面の
ショパンという感じだ。
リズムを揺らしすぎたり、大仰に悲壮感を漂わせたり、音に酔ったふりをしたり、恍惚感を表情に出した
りは絶対にしないのだ。

今回初めて知って意外だったのは、彼はポーランド生まれで10歳までそこで育ったということだ。
以下の動画も、ちょっとありえないような場所で演奏していて、びっくり。



   寒々としたアウシュビッツでの演奏は、淡々として文字通りデッドな響き。
   特に、二曲目のワルツは、まるで鎮魂歌のよう。このワルツには華やかな
   舞踏的雰囲気はもともとないのだが、ここまで寂しさを出した演奏も珍しい。


休憩後に、シューベルトの大曲ソナタだ。
このソナタは、わたしが一番好きなシューベルトの曲だが、アックスが演奏すると、これまた枯淡の
響きで、非常にドライである。とにかくテンポを揺らすのが嫌いみたいで、きちんきちんと弾くから、
まるで小節ごとの線が見えるような気がしてくる。
ダイナミックの振幅も弱音に偏り勝ちで、クレッシェンドの道のりもフォルテもごく短い。
ヘタな小細工を弄して聴衆を手玉に取ったり乗せるのは照れくさいし苦手、という印象だ。
まるで、モーツアルトの曲のように聞こえるシューベルトであった。
ここまで、ドラマチックな盛り上がりを意識的に避けたかのような演奏も珍しい。

モーツアルトから受け継がれたものが、シューベルト、ショパンへと続いた流れがあるのは事実だが。
それを、これほど明白に表わされたので、かえってびっくりした。

アンコールは、シューベルトの即興曲D899 Opus90 の第3番だった。これも好きな曲だ。
重いソナタの後で、こういう優しさの漂う小品はほっとできて非常にいいのだが、この段になってようやく
演奏に乗ってきたのか、ソナタの続きみたいな、暗さを強調した重厚な響きになっていたのには、
驚かされた。最後にアンコールで観客を乗せちゃえ、という気になったようだ。
正統な路線を突き進むと、かえって意外性が発見できるというパラドックス。普通のオジサンっぽい外
見にそぐわず、その演奏と解釈は一筋縄ではいかない、アックスであった。

   
by didoregina | 2010-12-13 01:08 | コンサート


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


by didoregina

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プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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