人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ルイ・マルの『さよなら子供たち』

ルイ・マルの『さよなら子供たち』_c0188818_16435044.jpgAu revoir les enfants
Louis Malle 1987
Gaspard ManesseJulien Quentin
Raphaël FejtöJean "Bonnet" Kippelstein
Francine RacetteMme Quentin
Stanislas Carré de MalbergFrançois Quentin
Philippe Morier-GenoudFather Jean/Père Jean
François BerléandFather Michel/Père Michel
François NégretJoseph

第二次大戦中の、フランスの寄宿学校が舞台。裕福な中学・高校生が親元を離れ疎開している。
主人公ジュリアン・カンタンはええとこの坊ちゃんで勉強もできて、教師から信頼されている。
無口な転校生ジャン・ボネと張り合いながらも、二人は友情を育む。ある日、ジュリアンはボネの
秘密を知る。ゲシュタポの目を避けるため、ユダヤ人であることを隠して、カトリックの学校に匿わ
れているのだった。


      
      ジュリアンがたどたどしく弾くと何の曲やらわからないが、
      シューベルトのピアノ曲『楽興の時』第2番だ。
      なんでもできるボネに、ライバル意識を燃やすジュリアン。

シューベルトのこの曲は、静謐な中に透明な哀しみが充満しているかのようだが、最後に薄日が
差しこむように、希望の灯火がまたたいて終わる佳品である。


男子だけの寄宿学校の生活というのは、荒っぽいもので、いたずらや小さないざこざが絶えない。
いかにもフランスという感じで、てんで勝手なことをする悪ガキたちだが憎めない。
日々の学校生活の様子が描かれるのは、ペールトーンの寒い冬の空気の中だ。戦時下であるという
不穏な情勢も寒々した雰囲気を作り出すのに一役買っている。しかし、あくまでも清冽なのである。

雪の校庭での竹馬の騎馬戦みたいなのが、別のフランス映画のリセを舞台とした場面を思い起こ
させた。


        ジャン・メルヴィル『恐るべき子供たち』(1950)
        (ジャン・コクトー原作)の雪合戦シーン。
        ベレー帽、マント、半ズボンという服装とやんちゃで
        へらずぐちが、どちらの映画でも共通。

ついでに、萩尾望都が漫画化した作品には、コクトーの原作を下敷きにしたというより、映画コピーの
要素がかなり強い。キャラクターの顔に萩尾望都らしい魅力が乏しいな、と違和感を感じたのが、
後年、映画を見て納得した。しかしここまでパクってもいいものか、との疑問も湧いた。


『さよなら子供たち』は、ユダヤ人を匿ったということで連行されていく神父が、最後に生徒たちに言う
別れの言葉だ。アデューではなく、また会おう、と。希望は捨てていない。この神父は、理想と信を
貫く人間であることが、映画のあちらこちらに散見される。
ルイ・マルの自伝的性格が強い映画のようだから、ジュリアンは監督の分身である。「3人のユダヤ人
生徒はアウシュビッツで、神父はマウトハウゼンで殺された。この1月の朝の出来事は一生忘れられ
ないだろう」というナレーションが被るエンディングで、マル自身の罪悪感・トラウマが癒えていないこ
とがわかる。

ゲシュタポに密告したのは、寄宿学校で炊事の下働きだったジョゼフだ。
知的ブルジョワ階級の子供たちとは正反対のジョゼフは、学校を解雇されたことを恨んで、親ナチの
憲兵隊に入ったのだ。
ジョゼフそっくりの無学で下流階級で鬱屈した青年を主人公にした映画もルイ・マルは作っていて
(『ルシアンの青春』)、連作の趣なので、戦争をまた別の観点から考えることが出来る。
被害者・加害者・レジスタンス・ナチ協力者など様々な面から描くことで、自分も巻き込まれた第二次
世界大戦を総括したかったのだろう。
by didoregina | 2010-12-10 10:12 | 映画


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


by didoregina

S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


以前の記事

2020年 09月
2018年 04月
2018年 03月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 08月
2016年 11月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 06月
2015年 04月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月

タグ

最新のトラックバック

カテゴリ

全体
バロック
映画
オペラ実演
オペラ映像
オペラ コンサート形式
着物
セイリング
コンサート
美術
帽子
マレーナ・エルンマン
イエスティン・デイヴィス
クイーン
CD
20世紀の音楽
旅行
料理
彫金
ビール醸造所
ベルギー・ビール
ハイ・ティー
サイクリング
ダンス
ハイキング
バッグ
教会建築
カウンターテナー
演劇
未分類

検索

その他のジャンル

ファン

記事ランキング

ブログジャンル

画像一覧