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グノーの『ロメオとジュリエット』@DNOのTV放映

今年10月にアムステルダムのミユージック・テアターで上演されたプロダクションが、12月に入って
すぐTV放映された。毎年12月はオペラ月間として、毎週日曜日に4回連続でDNO特集が組まれる。
来週は『さまよえるオランダ人』、その後はエファ=マリア・ウエストブルックが出演した『トロイの人々』
と『西部の娘』!

グノーの『ロメオとジュリエット』@DNOのTV放映_c0188818_17332153.jpgRoméo et Juliette
Charles Gounod 1818 1893
muzikale leiding  Marc Minkowski
regie   Olivier Py
decor en kostuums   Pierre-André Weitz
licht   Bertrand Killy
choreografie   Wissam Arbache

Juliette   Lyubov Petrova
Stéphano   Cora Burggraaf
Gertrude   Doris Lamprecht
Roméo  Ismael Jordi
Tybalt   Sébastien Droy
Benvolio   Jean-Léon Klostermann
Mercutio   Henk Neven
Paris   Maarten Koningsberger
Frère Laurent   Nicolas Testé
Grégorio   Mattijs van de Woerd
Capulet   Philippe Rouillon
Le Duc/Frère Jean   Christophe Fel
Manuela   Oleksandra Lenyshyn
Pepita   Maartje de Lint
Angelo   John van Halteren

orkest   Residentie Orkest
koor   Koor van De Nederlandse Opera

多分DVDになるんだろう、そのためか、本編が始まる前の出演者、演出家、指揮者への
インタビューを含めたメイキング部分が長い。ゆうに30分以上はあった。
演出家のピィによると、舞台を紛争中のボスニアに移して、死が日常であるという異常事態下での
愛を描いたという。彼の考えでは、芸術とは死への意識を喚起させるものでなくてはならない。
それがないものは芸術とはいえない、無理に名づけるならお菓子とでも呼ぶしかない、
死をいかに完結させるか、そして愛と死をいかに両立させるかが人の生き方の根本である、という。
そういう考えに導かれたのは、エイズが完治不能の難病・奇病として登場した頃かららしい。
18か19歳だったピィは、エイズの脅威に戦々恐々となるよりは愛をとりたい、愛のない人生なら
死んだほうがましだ、という若者らしい刹那的な愛と死生観に取り付かれた。
この作品の主人公たちも一目ぼれして即結ばれる。そして死に急ぐ。この切羽詰った感覚をわかり
やすく提示するためにボスニアを舞台に設定したそうだ。

グノーの『ロメオとジュリエット』@DNOのTV放映_c0188818_17594045.jpg

    序曲の後、合唱団がロメオとジュリエットの悲劇の結末を歌うプロローグ。
    状況説明を最初にはっきりと行い、二人の死の理由や原因を糾弾するような
    エピローグはなく、比較的オープンなエンディングに説明はつかない。
    棺の中からロメオとジュリエットが起き上がり、実際の劇が始まる。

グノーの『ロメオとジュリエット』@DNOのTV放映_c0188818_1872736.jpg

    荒廃した戦地のボスニアで、人々は刹那的享楽に耽る。
    ジュリエットの父親がそれを体現して、最初登場したときはバットマンの
    ジョーカーそっくりのメイクアップだった。
    仮装パーティでのロメオは、死の天使の扮装。なかなかのイケメン。
    ジュリエットはマリリン・モンロー風衣装。その後、鬘とドレスを脱ぎ
    捨てて本来の清純なジュリエットに戻った。

主役二人は、役柄に似合ったルックスと声だ。特にロメオ役のスペイン人テノール、イスマエル・
ホルディは甘く細く高い声がいかにも若いロメオ。
ジュリエット役のペトロバは、まあ普通に上手い歌唱だが、歌声はあまり印象に残らない。

歌手にはかなり高度な演技力が要求されたようで、演技はすごくリアル。まるで映画かミュージカル
みたいだった。長いし誰でも知ってるストーリーだから、長丁場を飽きずに見させるための工夫だろう。

期待のオランダ人バリトン、ヘンク・ネーフェンのメルキューシオは、ルックスが若い頃のニコラス・
ケイジに似てるだけでなく、迫真の演技も上手かった。若者らしい甘さと苦さが入り混じった歌声は
貴重な存在だ。

舞台装置は、アムステルダム歌劇場で可能なテクニカル・インフラを全部使いました、ともいうべき
もの。ステージは上下昇降のみならず、左右にも分かれたり、回転したり。また、本物の犬も登場
させ、リアリティ再現には惜しみない。

グノーの『ロメオとジュリエット』@DNOのTV放映_c0188818_18252384.jpg

      クスリでラリッているジュリエット。
      麻薬の過剰服用での仮死というわけだ。
      ロメオも仮装パーティに行く前に、気つけ薬代わりの
      ヤクを打っていた。

全体にやりすぎ、という感じは受けない、筋が通っている演出であった。
ロメオとジュリエットが一目ぼれしたり愛を歌う場面での、壁の落書きはCARPE DIEMで
非常時での刹那的愛を表現。
そして、小姓ステファーノは、それだけでは問屋が卸さないことを悟らせるため、壁に
NO FUTUREと落書きする。ステファーノ役は、キュートなコーラちゃん。小姓にぴったりの
ルックスと声。ショートへアに迷彩服が似合ってた。

グノーの『ロメオとジュリエット』@DNOのTV放映_c0188818_18342736.jpg

      ステファーノらが処刑される場面では、落書きの文句がオランダ語で
      「星の責任」。これだけでは、外国人には意味をなさず、オランダ語が
      読めても、演出家のインタビューを見てないとなんのことやらわからない。

演出家ピィは、運命論者のようである。死と並んで、この演出のもう一つのテーマは星のさだめ
とでも呼ぶべきものであった。運命は星が定めるものであり、人はそれから逃れられないという
考えが基本にある。インタビューでも盛んに、星という単語を連呼していた。

しかし、なんでボスニアにいきなりオランダ語の落書きが出てくるんだ、というツッコミがあっても
おかしくない。そこに、深遠なる考えをめぐらせると、オランダ現代史に暗い影を投げかけている
ボスニアでのオランダ平和軍駐屯下に起こった、セルビア人によるモスリム系ボスニア人大量殺戮
事件に、強引に結びつけることは可能である。そこまで、演出家の意図があるのかどうかは、別
にしても。

ロメオとジュリエットが運命に縛られていることを、ごく具体的に示した小道具として手首に結んだ
ロープがある。運命から逃れられないということを象徴するには明らか過ぎて、これには賛否両論
があるが、わたしは、悪くない、と思った。時に手首からロープを外して、十字架の墓に掛けたりする
のも暗示的で。
一番迫力があったのは、ヴェローナから追放されたロメオが、舞台から客席の中央通路を
駆け抜けて行くシーンだ。その時もロープは手首に結ばれたままで、疾走する姿と張りつめられた
ロープとが緊迫感を表現して圧巻だった。
駆け抜けるロメオ、で青春を象徴させたのは、1974年に蜷川幸雄も使った手法である。


アムステルダム歌劇場には、専属オケがいない。演目に応じて、コンセルトヘボーや、ロッテルダム・
フィルや古楽アンサンブルなどがそれぞれに合った指揮者と共に演奏する。
今回のオケは、デン・ハーグのレジデンシー・オーケストラ(日本名ハーグ・フィル?)で、指揮は
ミンコフスキーだった。レジデンシーはオランダの中では一流とは言えないオケだが、TVで聴く限り
甘美な音を出していた。
      





    
by didoregina | 2010-12-08 10:57 | オペラ映像


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


by didoregina

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プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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