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『イドメネオ』@ザルツブルク2006年

Bravaでは、マイナーなものから順当にザルツブルク2006年版のモーツアルト・オペラを放映
してくれている。
今回の『イドメネオ』では、なんといってもマグダレーナ・コジェナーのイダマンテに注目だ。

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Ramón Vargas (Idomeneo),
Magdalena Kozená (Idamante),
Ekaterina Siurina (Ilia),
Anja Harteros (Elettra),
Jeffrey Francis (Arbace),
Robin Leggate (Gran Sacerdote),
Günther Groissböck (La Voce)
Andreas Schlager (Neptune)

Camerata Salzburg & Salzburger Bachchor,
Sir Roger Norrington
Stage directors: Ursel Herrmann, Karl-Ernst Herrmann



演出と舞台造形・照明・衣装はヘルマン夫妻担当で、この二人が手がけたDNOとモネ共同プロの
『ジュリオ・チェーザレ』と、視覚的に非常に似た印象だ。

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    『イドメネオ』の舞台構造は、オケ・ピットを取り囲む枠のように前方に
    張り出した部分と、通常の舞台に傾斜をつけた後方部分とで成り、
    水平面で奥行きを出している。背面は紙のスクリーン。

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    『ジュリオ・チェーザレ』でも、オケ・ピットの上に花道のように張り出した形で、
    後方の舞台上にビニールで出来た葦が幾何学的に茂るという装置のみで
    シンプルの極み。


『イドメネオ』は、今年3月にモネでマレーナ様がイダマンテ役だった舞台を鑑賞したので、
どうしても比較してしまうことになる。

このオペラは序曲が長いのだが、ザルツブルク版では、のっけからネプチューンと思われる
人物を登場させる。青緑色の服を着て体に貝を貼り付けた目つきの悪い男が、のっそりと舞台を
動き回るのみで、少々退屈。しかも、ネプチューンを具体的に人物として出すというのは、どうも
マンガチックというか単純過ぎるような気がする。しかも、このネプチューンは、イドメネオに影の
ように付きまとい、もう本当に邪魔、と思える場面が沢山あった。

モネでは、序曲の間、後方の大スクリーンに、トロイ出征前のイドメネオと幼いイダマンテのホーム・
ヴィデオおよび軍用機が棺を下ろす場面などCNNみたいな戦争のニュース映像を映していた。
こちらのほうが、状況・バックグラウンド説明としては上手い処理方法だと思う。
そして、ネプチューンは視覚化されず、無差別テロという形で出てくるのも、理不尽な神の怒りの
表現としては秀逸だった。


『イドメネオ』@ザルツブルク2006年_c0188818_2054743.jpg

      photo by Bernd Uhlig
      王として父親として苦悩するイドメネオを、ラモン・ヴァルガスが好演。
      久しぶりに馬鹿王でなく、誠実な王が登場するオペラである。
      ヴァルガスは典型的なテノール体型だが、役どころにぴったりの
      声と堂々とした演技。内面の葛藤を顔の表情でよく表わしていた。

『イドメネオ』@ザルツブルク2006年_c0188818_20103814.jpg

photo by Bernd Uhlig
      期待のコジェナーだが、赤毛のショートヘアに白いコスチュームが
      長身に映えているが、かなり癇の強い青年という風の表情と、姿勢が
      よくないのが残念。
      イリア役は、丸ぽちゃ体型が可憐な役柄には合ってるが、体型の欠点を
      全部出してしまう衣装で損してる。歌唱は、まあ普通。
      ラストまで初々しい恋人同士、という絡み。しかも、大人になりきれない二人
      みたいな含みで面白い。そういう人物像が現代的である。

『イドメネオ』@ザルツブルク2006年_c0188818_20154234.jpg

photo by Bernd Uhlig
      印象的なアリアがあって得なエレットラ役は、アニア・ハルテロス。
      身長が高くて小顔という抜群のプロポーション。しかもルックスが
      クラシックなギリシャ顔でノーブル。バロック・オペラの女神やローマ
      貴族の妻役などにぴったり。
      真紅のドレスもお似合い。スピントの声も歌唱も文句なし。
      邪悪な形相も上手いから、魔女も適役なはず。

『イドメネオ』@ザルツブルク2006年_c0188818_20223218.jpg

photo by Bernd Uhlig
      マレーナ様と比べてしまうから、総合点では損するコジェナー。
      この役は音域が高いためCTでは無理でメゾでしか歌えない、と
      マレーナ様がインタビューで語っていたが、メゾにとってもかなり高音だ。
      高音を張り上げさせないで歌って、若い王子の苦悩を表現したいという
      意図がモーツアルトの音楽にはあると思うが、どうしても人物像が弱弱しい
      印象になってしまうのは否めない。
      頼りない書生風の風采のコジェナーだと、特に表情で同情を誘うことが
      できないのであった。

しかし、コジェナーの歌唱のほうが、モネの舞台では少々精彩を欠いていたマレーナ様より
上だと認めざるを得ない。というか、コジェナーのズボン役はビジュアルではマレーナ様の足元
にも及ばないが、歌唱による感情表現の多彩さはさすがである。
今までは、コジェナーの女性らしさや大人っぽさが出ている曲が多いCDのほうが好きで、去年
発売されたヴィヴァルディCDは、イマイチ好きになれなかったのだが、聴き直そうという気になった。
そして、聴き直してみると、男性役のアリアなどにイダマンテの歌唱に通じるところが見出されて、
結構いいなあ、と思えてきたのだった。
5月にはアムステルダムで『薔薇の騎士』オクタヴィアン役を歌うから、この人のズボン役を
実際の舞台で見て聴いてみたい、と期待が一層高まる。

演出としては、ネプチューンを登場させるのは気に入らないが、それ以外はシンプルでモダンな
幻想風でもあり、音楽の邪魔にならない。
このオペラでは合唱が大活躍する。それが、TVだと全然迫力が伝わってこない。実際のモネの
舞台では、合唱の美しさにも感心させられたので、ないものねだりかもしれないが残念。

モーツアルトのオペラは、シェークスピア喜劇と共通点が多いように思えるブッファが好きだった。
というより、上演されるのは、ダ・ポンテ3部作ばかりで、それ以外の、セリアなんて、なかなか
鑑賞する機会がなかったのだ。それが、ここにきて、Bravaではセリアやマイナーものもいろいろ
放映するので、モーツアルト再発見の毎日だ。
      
by didoregina | 2010-12-02 12:54 | オペラ映像


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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