ハネス・ミナーのリサイタル@マーストリヒト音大

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         元は13世紀創建のドミニコ会修道院の教会。
         マーストリヒト(ということは多分オランダ中)で一番古い
         ゴシックの教会建築。
         フランス革命で没収されて以来、多目的に使用されている。
         現在は、、、

2010年のエリザベート王妃コンクール(ピアノ部門)でオランダ人としては初めて3位入賞
した、ハネス・ミナー(1984年生まれ)のリサイタルに出かけた。
今年は、コンクールをTV放送で追っていなかったので、なぜか、彼が優勝したんだと思い込
んでいた。そのくらい、オランダでは快挙ということで話題になったのだ。
会場は、上記写真の場所ではなくて、またフレイトホフ劇場でもなくて、マーストリヒト音大の
ホールであったのが残念。

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         長いこと、倉庫・自転車置き場・展覧会およびコンサート施設と         
         して使われてきた、この元教会、数年前から本屋になっている。
         確かに、ベネルクスで一番美しい本屋、と自慢するだけのことは
         あり、写真を撮ってる観光客が多い。
         祭壇だった所は、Coffee Loversという喫茶店がテナントに。


Hannes Minnaar (Pf) @ Conservatorium Maastricht 2010年11月28日

c0188818_16404169.jpgL. van Beethoven (1770 - 1827)
Sonate nr. 26 in Es majeur, Op. 81a "Les Adieux"
I. Das Lebewohl. Adagio - Allegro
II. Abwesenheit. Andante espressivo
III. Das Wiedersehen. Vivacissimamente

F. Chopin (1818 - 1849)
4 Impromptus
Nr. 1 in As majeur, Op. 29
Nr. 2 in Fis majeur, Op. 36
Nr. 3 in Ges majeur, Op. 51
Nr. 4 in cis mineur, Op. Posth. 66 "Fantasie-Impromptu"

K. Szymanowski (1882 - 1937)
Variaties op een eigen thema in bes mineur, Op 3

Pauze

M. Ravel (1875 - 1937)
Miroirs
I. Noctuelles
II. Oiseaux tristes
III. Une barque sur l'ocean
IV. Alborada del gracioso
V. La vallee des cloches

最初のベートーヴェンは、懸命に眠気をこらえるも、うとうとしてしまって、ほとんど記憶にない。
そのくらい迫力がなくて退屈だったのだ。ところどころに若々しい躍動感は感じられるものの、
この曲を特徴付けるはずの全体を通してのキラメキがない。もやもやと曖昧模糊としていて、
歯切れもイマイチ。噴出するはずのエネルギーは閉じ込められたまま。情念のうねりみたいな
ものも表出されない。
これが彼のベートーヴェン解釈だとしたら、それはそれである意味ユニークだ。
リサイタルには行かなかったピアノの師匠ペーターにそのことを話すと、「ああ、わかるような気が
する。アムステルダム音大で彼が師事した先生は、そういう指導をしそうなタイプだから」とのこと。

ショパンになって、少し持ち直した。わたしの体調も。でも、やっぱり、まだそれほど入り込めない。
しかし、ベートーベンよりは大分マシ。というか、彼のキャラクターには合っている。体格に似合わず、
軽みを身上とするようなタッチなのだ。だから、ポロネーズとかバラードとかではない、この選曲は
間違っていない。

シマノフスキーという、少々マイナーな作曲家の作品を入れるというのは、新人がレパートリー
お披露目という意味では効果的である。得意な曲で聴衆にピアニストのキャラクター・イメージを
植えつけなければならないのだから。ショパンの終わりごろから、だんだん上り調子になってきた。

本領を発揮したのは、ラヴェルの『鏡』だった。水を得た魚とは、まさにこのこと。ラン・ラン顔負け
アクションの演奏スタイルになって、縦横無尽に音を紡ぎ出す。しかし、若さや情熱だけにまかせたり
せず抑制が効いて、いかにもフランス的な洒脱さが漂う。不思議にも円熟してるような余裕で弾く
から、こちらもようやく音楽に身を任せる愉しみに浸れた。リズムの切れが信じられないほどいい。
ちょっとスペイン風の味付けの曲だから、スペイン舞踊のリズムの独特の間の感覚を掌中にして
いないと駄目である。そのノリを嫌味なく演奏している。メロディーもたっぷりと歌っている。

彼のピアノ演奏の真髄はエスプリ溢れる軽い洒落味だから、フランスものこそ骨頂、と確信した。
コンクール入賞の決め手となったコンチェルトもサン・サーンスを選んで印象づけたようだし。
ドビュッシーなど聴いてみたいものだ、と思ったが、彼のサイトでレパートリーを確かめると、意外や、
ドビュッシーは漏れている。そのかわり、フランクやフォーレなどがやはり入っていた。

こんなに上等なラヴェル演奏なら、スペインものもきっと素敵に弾くに違いない、と思えた。すると、
なんとアンコールに、ファリャの『火祭りの踊り』を弾いてくれた。おもわず膝を打った。

終演後、HとTが待っていた。わたしは彼らには気がつかなかったが、帽子姿でわたしがいるのが
わかったという。スペイン舞踊を始めたTも、このピアニストのラヴェル演奏で見せたリズム感に
唸ったという。


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        コンサートとビールは、切り離せない。
        今回は、行く前に飲んでしまった。それが眠気の原因。
        ピアニストには申し訳ない。
        地元リンブルフの醸造所、ブランドのダブル・ボック。
        50くらいあるボック・ビールの中でも逸品。
        甘くなく、苦味と酸味と炭酸のバランスが絶妙。
        PINT品評会で、今年のボック・ビール1位に選ばれたの
        も納得。

ボック・ビールとは、10月終わりから2月まで期間限定の季節スペシャル・ビールである。
なぜかというと、8月の終わりから9月始めに収穫された大麦(および小麦)を、発芽させてから
芽と根を取り除いて1ヶ月休ませ、酵母を分解させないといけないのだ。そうして10月に1週間かけて
液状麦芽にしてから、また1ヶ月濁りを沈めるために寝かせる。ようやく11月頃醸造になる。
液状麦芽とは麦芽に湯を加えたもので、そのマイシェンと呼ばれる過程で出来る酵母がでんぷんを
分解して糖分になる。その状態での糖度含有率(プラーテン度)が最低でも15.5度であることが、
ボック・ビールの基準条件である。でんぷんの糖分を発酵させアルコールに変容させるが、最終的に
アルコール度数が6%前後のビールになる。
色はルビーからアンバーの濃いめで、焙煎の加減にもよるがほのかな甘みがポイント。ヘタな醸造所
のだとべたべたと甘いだけ。(オランダ北部のメーカーには注意。HやAやGといった有名メーカー
のは、甘いだけで味に深みがなく美味しくない)

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        ボック・ビールの育ての親、バイエルン公ヴィルヘルム5世

ボックという名前の由来には、楽しい説がある。
ニーダーザクセンのEinbecherというところのビールは中世から美味しいと評判だった。バイエルン
公ヴィルヘルム5世(1548-1626)は、ことのほかそのビールを好んだが、領地外からの輸入
ということで関税・酒税がかさむ。それで、1591年からホーフブロイハウスで独自に作り始めるが
あまり美味しく出来なかった。それで、アインベッヒャーからエリアス・ピルヒャーというビール親方を
1612年に連れてきた。そうしたら、ようやく納得のいく味のビールが出来た。
Einbecher bierというのは、バイエルンの方言でAinpochisch Bierと呼ばれた。その発音が
Einbockに近いため、Ein Bockに変化し、ボック・ビールになったのだという。
ボックというのは牡山羊という意味なので、ラベルには山羊の絵が描いてあることが多いが、上記の
説に従うと、本来、山羊とは関連がない。

オランダで最初のボック・ビールが工場生産されたのは1982年だから、まだ比較的新しい味だ。
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by didoregina | 2010-11-30 10:23 | コンサート | Comments(2)
Commented by Mev at 2010-11-30 20:47 x
あー、コンサートもいいですが、うまいビールが飲みたいですね~。しみじみと。
Commented by レイネ at 2010-11-30 23:19 x
Mevさま、もうあと半年切ったんじゃありません?そうしたら、うまいビールも飲み放題ですよ。春にはレンテ・ボック・ビールってのも近年は出てますし。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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