Arias de zarzuela barroca 超レア・マイナー・バロック

拙ブログに不定期で登場する超レア・マイナー・バロックというシリーズに格好のCDを買ってしまった。
先月初めて聴いて、その摩訶不思議な面白さにハマッた、スペインのバロック期作曲家ブラスコ・
デ・ネブラの別の曲を探していたら、これが見つかったのだ。

c0188818_21192731.jpg
マリア・バーヨの歌うスペイン・バロック・オペラ(バロック・サルスエラ)アリア集。
器楽演奏は、ルセ指揮レ・タラン・リリック。
2003年録音だが、現在Naiveの Baroque Voicesシリーズに入っていて、お買い得。


Jose Melchor de Nebra Blasco (1702 - 1768)
Iphigenia en Tracia, zarzuela (1747)
1. Aria d'Orestes Llegar ninguno intente
2. Recitatif d'Iphigenia Suspéndete tirano
3. Aria Piedad, Señor


Vincente Martin y Soler (1754 - 1806)
La Madrileña, o Tutor burlado, zarzuela (1778)
4. Ouverture
5. Seguidilla de Violante Inocentita y niña

Jose Melchor de Nebra Blasco
Amor aumenta el valor, zarzuela (1728)
6. Récitatif Triste cárcel oscura
7. Aria d'Horacio Ay! amor! Clelia mia

Antonio Rodriguez de Hita (1724 - 1787)
La Briseida, opera (1768)
8. Aria No. 4. Amor, sólo tu encanto

Luigi Boccherini (1743 - 1805)
La Clementina, zarzuela (1786)
9. Ouverture
10. Cavatina de Clementina Almas que amor sujetó

Antonio Rodriguez de Hita
La Briseida, opera
11. Aria No. 13. Deydad que las venganzas

Jose Melchor de Nebra Blasco
Amor aumenta el valor, zarzuela
12. Aria d'Horacio. Adiós, prenda de mi amor
13. Iphigenia en Tracia, zarzuela: Ouverture
14. Amor aumenta el valor, zarzuela:
Aria de Porsena. Más fácil será al viento


しかし、これが、早とちりであることに気がついたのは、CDが届いてからだった。
このCDには、全14曲中、デ・ネブラ・ブラスコの曲が8曲収められている。しかし、その名前を
よく見るとブラスコ・デ・ネブラとは異なるではないか。どちらも生きていたのは18世紀ではあるが、
生年も没年も少しずれている。二人は、全くの別人であった。。。

しかし、気を取り直して聴いてみたら、これが予想以上にいいのであった。

どこがいいのかというと、まず第一に、マリア・バーヨのとろけるような声で歌われるスペイン語
のアリアである。ダイナミック、ヒステリック、エキセントリックという形容詞とは無縁の、澄んで
伸びやかな歌声には、聴いていると耳が洗われるような気がする。

マリア・バーヨは、インゲラ・ボーリン、ソフィー・カルトホイザーらと一組でバロック系ソプラノの
ぶりっこ3人娘を結成している、という認識がわたしにはある。すなわち、可憐で甘い声のソプラノ
で、出演および録音のオペラは、無垢な存在ゆえに悪人に横恋慕されるようなカマトト役ばかり、
という印象なのだ。
どうしてぶりっこなのか、というのは、写真を見てもらえばわかると思う。声とは裏腹に、ルックス
には少々トウが立っているからだ。
c0188818_2220253.jpg

       2009年夏@ブルージュ古楽祭でのマリア・バーヨ

例えば、ヌリア・リアルが同じ役を歌ったとしたら、これは彼女の地のままなんだろうな、と思わせる
ものがあり、ぶりっことは呼ぶのは憚られる。元祖清純派美少女でしかも美声の持ち主という魅力に
は抗し難いものがある。聖にして犯すべからざる清純さそのものであり、ヌリアちゃんなんか嫌いだ、
という人にいまだかつて出会ったことがない。


そして、次に、スペイン語の歌詞を読みながら聴いてみると、バーヨの魅力が少し解明できた。
本人がライナー・ノーツに書いているように、スペイン語の歌詞の発音は恐ろしく難しいようである。
しかし、全くひっかかるところもなく、滑らかに、無理なく喉から発せられているように聴こえる。
会話での現代スペイン語は、イタリア語に比べて、一般的に荒いというか、非音楽的に聴こえる。
(これは、地方や階級による発音の違いもあるから、そうでない場合もまれにある)
それが、ここまで耳に心地よく響く優しい声で歌える、というのは、天性の才能に間違いない。
ぶりっこだなんて失礼しました、もうあなたの声の虜です、と、ひれ伏したくなった。



Jose de Nebra(1702 - 1768) Amour aumenta el valor
ポルセンナのアリア Mas facil sera al viento

       「風が磐石を揺るがすほうが、
        地獄の闇の洞が甘く歌を歌うほうが、
        よほど易かろう、
        我に与えた賜うた命を奪おうとする
        ローマを、我があきらめる(滅ぼす)よりも。

        信じるがよい、
        平和(包囲の陣)を守るのは、
        我の栄誉の礎となろう
        砦を得んがためなのだ。」

ここで歌われているのは、ローマの初期共和制時代に、ローマを包囲したエトルリアの王ポルセンナの
アリアだ。このオペラは、ローマ愛国少女クロエリアとその許婚のローマ兵ホラティウス、クロエリアに
横恋慕するポルセンナ王らが登場する歴史モノらしい。断片的なアリアしか収められていないので、
ストーリーはよくわからないが、なかなかにヘンデルっぽい。
(上記拙訳は、スペイン語の原詩の英訳からのまた訳。CDブックレットの英訳がちょっとわかりにくい
ので、別の英訳も参考にした。両訳が内容的に全然違う。括弧内はブックレットの英語を訳したもの)
びっくりしたのは、このCDには、ホラチオやポルセンナ、オレステスなど男役の歌のほうが女役の歌
よりも多く収録されていることだ。当時は、いったいどういう歌手が男役を歌っていたんだろう。


サルスエラといえば、スペインのオペレッタみたいなものだと思っていた。
19世紀後半に出てきたサルスエラは、確かにそのとおり、軽い喜劇オペラなのだが、実は、
サルスエラはバロック時代(17世紀~18世紀)に創成期を見たのだ。歌詞はスペイン語だが、
当時のバロック・オペラの中心地だったイタリア風の音楽をいいとことりして出来上がっている。
時代的な理由から、デ・ネブラ・ブラスコの曲は、まるで、ヘンデルとヴィヴァルディにグルックと
モーツアルトを加え攪拌した混合物質のようだ。

ともあれ、バロック・サルスエラは、今では全く埋もれてしまってスペイン本国ですら省みる人が
ほとんどいず、ごく最近になって研究・発掘が始まった、という状況のようだ。
サルスエラの語源になった、スペイン王家の別荘サルスエラ荘の王室劇場で上演されたバロック・
オペラというジャンルは、だから、宝の詰まった遺跡かもしれない。今後の発掘に期待したい。
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by didoregina | 2010-11-15 15:03 | CD | Comments(8)
Commented by アルチーナ at 2010-11-16 11:04 x
ヌリアちゃんは・・
彼女、太りやすい体質のような気がしませんか?
数年経ったら肝っ玉母さんのようになってしまわないか、ちょっと不安です・・

それはそうと・・まだまだ色々知らない曲、作曲家が沢山いますね!バロックも良いですが古典派の初期も結構好きなので、この辺りの曲も気になります。
Commented by レイネ at 2010-11-16 16:13 x
アルチーナさま、そうなのよ、スペイン人って老けるのが早いような気がします。お肌の老化と肥満とで。
マリア・バーヨは、今日Bravaで放映の『道化師』のネッダ役なので、期待してます。彼女のサイトによると2月にアントワープでバロック・サラスエラのリサイタル予定なんですが、ホールのサイトだと全然別の団体のコンサートになってる。ナマで聴きたいのに。

バロックから古典派って、埋もれた曲や作曲家が、まだまだ無尽蔵に眠っているような気がします。
Commented by alice at 2010-11-16 20:15 x
マリア・バーヨ!大好きです。初めて聴いたのは忘れもしないイラク戦争が始まったばかりの2003年春、ボローニャでの『ジュリオ・チェーザレ』のクレオパトラ。名前も知らなかったので、その張りのある美しい歌声に驚嘆、容姿もまだ若くて綺麗でしたよ。いっぺんにファンになって、翌年のペーザロの音楽祭にも行きました。でもロッシーニよりヘンデルなどのバロックがあっています。

スペインのバロック・サルスエラ、全然知りませんでした。ご紹介ありがとうございます。
Commented by レイネ at 2010-11-16 22:40 x
aliceさま、年季の入ったバーヨ・ファンでしたか!彼女、フローレス王子さまやヴィリャゾン、ドミンゴ先生なんかとも共演してるスペインの花形なんですね。

たった今『道化師』をTVで見たんですが、やっぱりどうも老けて見えるルックスで、華がないんです。ピオーとヌリアちゃんとジュリー・アンドリュースの声を足して3で割ったような、全く嫌味がなくて万人に好かれそうな清々しい声なのに。。。
こういう声は大好きなので、ちょっとおっかけてみたくなります。
Commented by Mev at 2010-11-16 22:44 x
動画の曲、心なしかヴィヴァルディに似ているような気がするのですが。すみません、とんちんかんで。。。。
Commented by レイネ at 2010-11-16 22:49 x
Mevさま、ヴィヴァルディにもヘンデルにも似てると思いません?まあ、イタリア・バロック・オペラの亜流みたいなものなんですが、歌詞がスペイン語というのが新鮮。音楽的にも、言われなきゃわからないけど、ほんの少しだけスペイン風味付けが入ってるようです。
Commented by REIKP at 2010-11-17 14:51 x
うッ!このCD持ってるのに(だってルセだもん♪)、あんまり良く聴いてませんでした・・・もったいない!
動画の曲、良いですね!
これに限りませんが、スペインバロックというか「イベイリアもの」って、穴だと思うんですよ。
知られてないけど、面白い曲が一杯あるんですよね。
どうしてもヨーロッパの端なので、マイナー扱いになってしまうのが残念です。
Commented by レイネ at 2010-11-17 17:41 x
REIKOさま、ブックレットのルセの写真、目がきらきらして(瞳孔が拡大してる。。。)かわいく撮れてますね。ひさしぶりに、聴いてみてください。テンパラメントと抑制が上手くマッチした好演奏!

広義のイペリア音楽って、地理的歴史的背景から、かなり面白いジャンルですよね。中世から現代に至るまで、地下水脈の流れは相当なのに、地上にはちょこちょこ、ちょろちょろとしか出ていない。スペイン系のメジャー演奏家が少ないからなんでしょう。(全部サヴァールの担当、、、)


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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