『カストールとポリュックス』『ゾロアストル』 ラモー二本立て

ラモーの『ゾロアストル』@ドロットニングホルム歌劇場をようやく観ることができた。(Bravaで)

c0188818_21243531.jpgKoor en orkest van The Drottningholm Theatre
en Les Talens Lyriques
指揮:Christophe Rousset.
演出:Pierre Audi
衣装・装置:Patrick Kinmonth
振付:Amir Hosseinpour

ゾロアストル:Anders J Dahlin,
アブラマーヌ:Evgueniy Alexiev,
アメリート:Sine Bundgaard,
エリニース:Anna Maria Panzarella,
ゾビール:Lars Arvidson,
ナンバノール:Marcus Schwartz,
オロマゼス:Gerard Théruel,
セフィー:Ditte Andersen

2006年にスウェーデンのドロットニングホルム宮廷劇場(世界最古の王室劇場とか。名称が長い
から略記できると便利なんだが)で上演されたもの。
このプロダクションは、作曲家、指揮者および楽団(の一部)、演出家、衣装・装置担当、
振付師が同じだったネーデルランド・オペラ(DNO)による『カストールとポリュックス』(2008年)
とどうしても比べたくなる。

c0188818_2212143.jpgCastor et Pollux
Jean-Philippe Rameau 1683 1764
orkest:Les Talens Lyriques
Koor van De Nederlandse Opera
指揮:Christophe Rousset
演出:Pierre Audi
衣装・装置:Patrick Kinmonth
照明:Jean Kalman
振付:Amir Hosseinpour

テライール:Anna Maria Panzarella
フェベ:Veronique Gens
クレオーネおよびフェベの侍女:Judith van Wanroij
カストール:Finnur Bjarnason
ポリュックス:Henk Neven
ジュピター:Nicolas Testé
大神官:Thomas Oliemans
メルキュール:Anders J. Dahlin


似てるところが多いこの二つのオペラ・プロダクションの違いを見ていこう。

まず、上演会場の箱の大きさと舞台インフラは、対照的と言ってもいいくらい違う。

ドロットニングホルム宮殿劇場は、バロック時代の劇場だから、舞台間口が狭く、高さもあまり
ない。ハイテク設備などは望みようもないだろう。襖のようなパネル式背景装置に、もしかしたら
ろうそく照明か、と思ったくらい古色蒼然とした雰囲気で、シャンデリアの光も温かみがあってよい。

c0188818_22402019.jpg

      舞台装置はほとんどない。宙乗りも奈落からのせり上がりも、いかにも
      バロック時代風のケレンミがある、という程度で小さい舞台に収まっている。


反対に、アムステルダム歌劇場は、1980年代に出来たモダンな劇場で、舞台面積は世界で2番目
に大きい(自称)という。(世界で一番舞台が広いのはいったいどこなのか知りたいと思っている)
ハイテク設備も(多分)万全なんだろう。オーディ演出の舞台では、炎や水を大量に使用することが
多い。電動装置も多用されるし、どんなモダン造形も舞台に収まる。

c0188818_22424725.jpg

      アムスの広い舞台を生かして、宇宙のような幻想的雰囲気。
      個々の装置は大きく、縦横無尽に空間が活用されている。


オーディの演出チームによる舞台は、ヴィジュアル的に全体の統一ラインがピシッと決まっていて、
逸脱することがない。
だから、一目で、ああオーディらしいなと思うことが多い。衣装デザインやヘア・メイクも全ての登場
人物は大体同じだが、色で変化をつけ、善悪を表現したりする。両作品とも、ダンサーやコーラスに
いたるまで全員のヘアスタイルが統一されている。


照明担当が両プロダクションとも同じ人かどうか、確かめられなかった。
しかし、ドロットニングホルムの方は、舞台に暗い部分が残されているのが目に付く。まるでろうそくの
ようなオレンジがかった色合いから、蛍光灯のような青白い色まで、シーンに応じての変化が絶妙。
しかも、人物の顔半分はいつも影になっているのが、HIPっぽく奥ゆかしい。この影の付け方は、とても
気に入った。

c0188818_2257223.jpg

        HIP的要素が、照明効果にも生かされている『ゾロアストル』


話の筋は、当然ながら全く異なる。しかし、オペラとしての展開には似たところもある。
善悪の対立、憎悪と嫉妬、魔法、犠牲、愛する者の死と魔界からの奪還、和解、ハッピーエンド
という流れである。

フランス・バロック・オペラは正式名トラジェディ・リリックだから、イタリア・バロック・オペラと異なり
聴かせるアリアはほとんどなくて、芝居の台詞のようにしっかりした歌詞にフランス語の抑揚に
合う音楽を付けたレチタティーボみたいなのばかりで成り立っている。歌ではなく器楽演奏で音楽を
聴かせるというのが基本姿勢だから、ヴィジュアル的に変化を持たせるためバレエが多用される。

c0188818_23222362.jpg

        地獄の魑魅魍魎たちは、モダンな虫みたいな動き。 
         (『カストールとポリュックス』)

そのバレエというかダンス振付は、両方ともアミール・ホセインプールだ。
この人の振付も一度見たら、すぐにわかる。男女2組であっても踊りのパートは同じで、振りは対称
形になっている。手の動きで感情を表すことが多く、それは手話を連想させるようなあわただしい
動作だ。
『カストールとポリュックス』のほうは、双子が主人公だから、ダンスも相似形で、星座をモチーフに
使った振りの形が見てとれる。

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        双子のカストールとポリュックスをダンサーが表現。

輪郭のはっきりした動きのダンスだから、『ゾロアストル』では、踊りのシルエットを影絵のようにした
シーンがあって、ホセインプールの振付の特長が最大限に生かせていた。
また、『ゾロアストル』は、劇場の特徴を生かすため、HIP要素がところどころ演出の味付けに
加えられているのが面白かった。たとえば、ダンスにもバロック・ジェスチャーの所作が少しだけ
入っている。

c0188818_239468.jpg

        この写真の次のシーンでは、主役歌手がコーラスたちに各々
        異なるバロック・ジェスチャーを付けていくのが面白かった。
        (『ゾロアストル』)


歌手では、おなじみアンナ・マリア・パンツァネッラが両方に出演しているが、この人、カマトトの
役(テライール)よりも、悪女役(エリニース)のほうがずっとキャラクターに合っていて、
印象に残る。別の言い方をすると、テライールは、もっと若くて可愛い清純派歌手に歌ってもらい
たい。

c0188818_23253737.jpg

        テライールとフェベ (『カストールとポリュックス』)

悪役といえば、ヴェロニク・ジャンスの、心を嫉妬に燃えたぎらせるフェベ役が意外で、上手かった。
ポリュックス役のヘンク・ニーフェンはオランダ人若手バリトンだが、ルックスはニコラス・ケージの若い
頃みたいだが、もうちょっと可愛い。苦悩する役に声質も合っている。今後も期待できる。
カストールは正反対のキャラクターだから、これもぴったりのテノールだったが、トピ君だったら
どうだろう、と考えた。
ザラストル役歌手は、悪くはないが、やはりトピ君が歌ったら役にぴったりではないかと思った。
その他の歌手も皆よかった。


書き忘れるところだったが、両プロDVDの最大の違いはカメラワークだ。
『ゾロアストル』のほうは、撮影用カメラが多角的に使われていて、舞台後ろから前を見たところや
天井から舞台を映したりしている。冒頭の登場人物紹介クレジットにもTVディレクターの名前が大きく
出ているのと、しょっぱなから変わったカメラアングルが使われるので、「ああ、これはまるで
『ザイーデ』みたいに落ち着かなくて、こうるさいカメラアングルになるのか」と心配した。
それほど嫌味な使い方はしていなくて、舞台装置がないに等しいドロトニングホルムのプロダクションを
DVD化するのだから、このくらいの味付けを加えても許せるという程度のものだった。
『カストールとポリュックス』は、生の舞台で見たらもっと面白いだろうな、と思わせる、シノマト
グラフィー的要素のまるでない、のっぺりと平面的で芸のない映像だった。
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by didoregina | 2010-10-15 23:27 | オペラ映像 | Comments(6)
Commented by Mev at 2010-10-15 23:58 x
ラモーのオペラなんて日本に帰るとほぼ見られないんじゃないかと思います。そういう意味で「イッポリト~」は観に行ってほんとによかったと今更ながら思います。 
オーディの演出のものは見てみたいです~。DVD買おうかなあ。

世界一の広さはシドニーかなあ。とか思います。 アムスの場合、舞台部分を観客席にせり出したりする演目もあるので、さらに広く見えるかも、ですよね。
Commented by レイネ at 2010-10-16 00:12 x
Mevさま、速攻コメントありがとうございます。追記しましたように、DVDとしてみると、『ゾロアストル』のほうがずっと面白いものでした。音楽的にも、ラモーのオペラとしては後期なのでいろんな要素が入ってるし、筋も複雑で、満腹感が得られますので、こちらをお勧めします。

METも広そうですけどね。来年春からまたアムス歌劇場通い出来ますね。いいなあ。
Commented by アルチーナ at 2010-10-16 11:16 x
ああ・・まだ『フェイス・オフ』を見ていない・・(笑)
それはそうと、こうやって見比べると面白いですね。衣装も全く違いますし・・ラモーは一度日本に来たとき、観に行きましたよ!!クリスティ指揮で『レ・パラダン』、トピ君が出ていた奴で、ピオーがキャンセルした><オペラです・・でも・・又見られる日が来るのだろうか・・そういえば、エルヴェ・ニケが今後、コンスタントに日本来るようになりそうなので、ソチラに期待かしら?

舞台の広さって、奥舞台や袖舞台もいれた広さですよね?
どこが一番広いのでしょうね~~・・新国も結構広いはずですが・・
Commented by レイネ at 2010-10-16 17:36 x
アルチーナさま、カストールとポュックスで、やはり『フェイス・オフ』を思い浮かべましたか。ヘンク・ネーフェンがニコラス・ケージに似てるから、特にね。
『カストールとポリュックス』は、だいぶ前に観たんですが、ちょっとクールすぎる感じで感動がイマイチだったので、『ゾロアストル』と比較のために出してきました。こちらの方が山場がエキサイティング。

日本にもニケならマイナーもの持って行きそうですね。期待できる。

ホールって建築面から見ても興味が尽きませんね。
Commented by REIKO at 2010-10-17 16:49 x
オペラも、DVDとして売り出すならそれはもう「DVD商品」なので、カメラワークも大事な要素ですよね。
単なるナマ公演の「記録」では、つまらないと思います。
まだこの2作品はちゃんと聴いていませんが・・・って、よく見たら両方共ルセが振ってるじゃないですかッ!!!!
彼がこんなに頑張っているのに、私は何をしているのッ!
「ハイ、ヘンデルの対訳やってます」・・・って。(爆)
実はラモーの対訳もやりたいんですが、いまいちフランス語はのめり込めません。
でもやっぱりラモーとヘンデルは、バロック・オペラの東西横綱ですからね♪
Commented by レイネ at 2010-10-17 18:51 x
REIKOさま、書き忘れましたが、『ゾロアストル』DVDでは、スローモーションも数箇所使われていて、劇的効果をほんのりと高めてました。ぎりぎりで許せる範囲のTV演出です。
そうよっ、指揮はルセよ!アムスでのバロック・オペラ上演には、この人欠かせませんから。

「はい、ヘラクレスの対訳、全然進んでません」<-皆さんががんばってるのに、恐縮。
ラモーの歌詞はどうも高踏的な感じがするのと、ダ・カーポ・アリアもないし、レチテティーボ風語り部分に内容が凝縮されていて、訳すのに手間がかかりそう。
トラジェディ・リリックは、やはりヘンデル・オペラに比べてアリアを聴かせる場面が少ないので、両横綱とはいえいろいろな面で対照的な二人ですね。(ジャンスのCD『トラディジェンヌII』遅ればせながら買いましたよ)


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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