Bienvenue chez les Ch'tis ようこそシュティの国へ

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2008年 Dany Boon 監督作品

Kad Merad - Philippe Abrams
Dany Boon - Antoine Bailleul
Zoé Félix - Julie Abrams
Anne Marivin - Annabelle Deconninck
Line Renaud - De mama van Antoine



2008年に公開されて、フランスで観客動員数ナンバー1
になったコメディー映画である。
ようやく、昨晩TVで見ることができた。
なんで、いまさら、ではなく、ようやく、と力が入るのかと
いうと、この映画には、知る人ぞ知る悲しい思い出がつき
まとうからだ。


2年前の冬(2009年初頭)ヨーロッパは大雪に見舞われた。夜になると気温はマイナス20度
くらいまで下がるのだった。
そんな1月のある月曜日の晩、家族揃って映画を見に行くため、早めに夕食をすませた。
アートハウス映画館リュミエールでは、月曜夜と水曜昼は5ユーロ50セントで最新映画が見られる
からだ。4人ともなると割引だって馬鹿にならない。だからいつも月曜夜を狙うのだ。

すでにフランス語圏では大ヒットしたこの映画が再上演されるというチャンスを逃したくなかった。
あわただしく外に出て車に乗ろうとした。しかし、家族の誰もキーを持っていないことが判明するのに
1分とかからなかった。
玄関のドアは閉められ、家の鍵も車のキーも持たずに外に締め出されてしまった。

積もった雪が硬くなりはじめて、外気はいったいマイナス何度なんだろうと、考えるのも怖い。
澄んだ夜気に寒さがひときわ身にしみる。

さて、鍵がなければ車にも家にも入れない。徒歩15分くらいのところに住む叔父のところに寄って、
預けてある予備の鍵をもらってから、映画を見に行けばいい、どうせ通り道だし、と楽天的だった。

叔父の家に行くと、さっきまでお客様がいたらしく、おいしそうなオードブルとアペリティフが沢山
残っている。冷えた体を温めるため、遠慮なくいただくことにする。そうして、主人と次男が歩いて
家に戻り、予備の鍵で家に入り、車で迎えに来るという算段を立てた。
ところが、玄関の内側から鍵が穴にささったままなので、予備の鍵でも外からは開けられないことが、
それから30分後に判明した。
残る手段は、30キロ離れたところに住む義母に預けてある、裏口の鍵を使って家に入ることだ。
30キロは、雪道でなくても歩いては行けない。電車で行こうというわたしたちを不憫がって、叔父が
車を出してくれた。雪道だから、往復1時間はかかるだろう。映画は、もうあきらめるしかない。

こうして、家族揃って映画を安く見ようという思惑は、雪と共に潰えたのであった。
お互い責任をなすりつけ合ったが、悪いのは皆同じである。こんな風にけちがついた映画は、翌週
以降も見に行く気がしなくなった。いや、雪はますます深くなって、寒さはましに増し、夜の外出など
考えたくなかったというのが本当だ。


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       うらぶれた炭鉱町(作り物)を南フランスから来た局長の妻に
       案内するシーンは、『グッバイ・レーニン』を思わせた。
       他の地方の人が抱く偏見・期待を裏切ってはいけないのである。

ダニー・ブーン主演・監督のこの映画は、フランス語圏以外では、ちょっとウケにくいかもしれない。
フランスの北部ベルギーと国境を接するノール・カレー県のベルクという町を舞台に、その地方の方言
シュティ語を話す人たちと、南フランスから左遷されてきた郵便局長とで繰り広げられる涙と笑いの
人情コメディーである。
非常に単純な、大昔からありがちのストーリーだ。フランスの他の地域に住む人から見た、極寒の
未開の地方に住み、風習が異なり、粗野で話す言葉は訛がきつくて理解不可能、というステレオタイプ
の偏見をストレートにお笑いにしたもの。ダニー・ブーンはシュティの人である。

公開当時中学3年だった次男は、学校のフランス語の授業でこの映画の一部を見たという。
だから、別にフランス語が堪能でなくても、笑えることは笑える。

笑いをとるような方言や風習は、ベルギー国境地方が舞台だから、わたしたちには異色ではなく、
当たり前のことが多い。ジュネーヴァという強い酒を昼間から飲み、ポテト・フライが主食で、
豚肉のビール煮込みとかシコンのグラタン、くさいチーズを食べ、広場には教会とは別に鐘楼が立ち、
カリヨンの音が響く。そして町には運河が流れる。。。典型的なフランダースではないか。

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           広場で取る昼食は毎日ポテト・フライ

もともと、その辺りはフランスのフランダース地方なのだ。
現在のベルギーを南北に真っ二つに切る言語境界線は、昔ローマ人が作った、ライン川沿いの
ケルンから北海のブーローニュに繋ぐ道にほぼ重なる。
現在の北フランスの英仏海峡辺りまでは、フラマン語(オランダ語の方言)地方だったのだ。
それは、言葉にも風習にも人や土地の名前にも建築様式にもしっかり残って、今でもはっきりとわかる。


さて、アルチーナさんが、すごいニュースをキャッチして報告してくれた。
クリストフ・デュモーが、とうとう『ジュリオ・チェーザレ』のタイトル・ロールを歌うという。来年の5月、
場所は、指揮者マルゴワールの本拠地トゥルコアンである。
トゥルコアンとは、いったいどこにあるのか。探してみると、フランス北部、ベルギー国境に近いリール
と隣接している。
おお、ということは、映画のようにシュティ人の住む地方ではないか。なんという偶然。
ついでにグーグル・アースで市立劇場の辺りを写真で見ると、どうも華やかさが全く感じられない。
ネット・サーフすると、トゥルクアン出身のフランス人配偶者をお持ちという方のブログにいきあたったが、
犯罪多発ですさんだ雰囲気の町だそうである。
う~む、デュモー主演のチェーザレの舞台を見ることはわたしの悲願であるが、トゥルコアンは避けた
方がいいかもしれない。ランスやヴェルサイユでもやるから、そちらを狙うべきだろうか。
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by didoregina | 2010-10-09 21:52 | 映画 | Comments(10)
Commented by Mev at 2010-10-10 10:45 x
え~っ? レイネさまのお宅でロックアウトだなんて考えられない。慎重かつ落ち着いている家族であっても「うっかり」の瞬間ってあるんですね。思わぬところで人間らしいレイネさんを発見してしまい微笑ましく思ってしまいました。

地味でも優れたコメディ映画ってあるんですよね。興行時にはさほどでなくてもDVDになって根強い人気を保つ作品もありますし。実はそういうことをつらつら思ってツタヤレンタルの会員になったところです。
Commented by レイネ at 2010-10-10 16:52 x
Mevさま、その年の大雪には、きりきり舞いさせられました。同じ週の月火水と3日続けて大変な目にあったので、記憶から離れません。失態はブログの話題に出さないだけなんです。

この映画、それほどおかしいとかほろりとさせられる、というものではありませんでしたが、フランス人一般が、離れた他の地方の人を見る時のステレオタイプ感がわかりました。

デュモーが、とうとう、チェーザレの主役よ!うれしいじゃあありませんか。
Commented by アルチーナ at 2010-10-10 21:18 x
雪の日の思い出・・確かにこのような思いをしてしまうともう出かける気が削がれてしまいますよね・・

で、デュモーのチェーザレ、場所はどこなのかしら?と思っておりましたが荒んだ町と言われるとちょっと腰が引けてしまいますね・・
でも!!丁度デュモーがチェーザレを歌うニュースと、ご覧になった映画の場所が近いなんて!!ホント、偶然とはいえ、面白い!!やはり観に行かねばならないでしょうね!!しかし、どこへ行くのが良いのかしら??今後のレイネさんの行動に期待しております♪
Commented by Mev at 2010-10-10 22:53 x
そうそう、それでデュモーのチェーザレの歌、Youtubeで見つけて聞いてみました。声しかないですけどね。コンサートで歌ったみたいですね。
http://www.youtube.com/watch?v=qziGvKYMn5U フライブルグオーケストラと。
Commented by レイネ at 2010-10-11 03:14 x
アルチーナさま、小指の思い出ならぬ、小雪の思い出(実際は大雪)、公開してしまいました。

ケルンのポッペアのチケットがまだ取れてません!すごく行きたいのに。。。
デュモーのチェーザレは、春だから、ランスかヴェルサイユ観光と組み合わせられたら最高かと。トゥルコアンでも、電車で行けて駅と劇場が近いなら問題ないのですが。上記の方のブログによると、住宅や車への放火が相次ぎ、シカゴみたいに犯罪多発のイメージで、ご当地出身のご主人も15年ぶりに帰郷したけど、もう二度と再訪したくない、とのことで、治安に相当問題ありのようなのです。なんで、そんなところでバロック・オペラなんてやってるんだろう、マルゴワールは。。。
Commented by レイネ at 2010-10-11 03:20 x
Mevさま、知ってますよ、このコンサートのことは。だって、わたしたちが行ったコンヘボのサラ様コンサートと日程が近くて、似たような選曲で、伴奏・器楽演奏もフライブルク・バロック菅なので、驚いたんです。デュモーのチェーザレ、悪くない、と思いません?
今年から、事務所によると、チェーザレのタイトル・ロールの練習に取り組んでたようです。だって、舞台版だったら、歌だって相当沢山覚えて自分のものにしなきゃなりませんものね。
Commented by momoneko at 2010-10-16 17:28 x
大雪のエピソード、家族4人が右往左往している横を雪がひたすら深々と降り積もっている、窮地に立った家族に、周囲の人から助けの手が、なのに常に裏目裏目となり、結局…?何か映画の脚本を読んでいるよう。私もずっと昔まだNYで仕事をしていた時に、記録的な大雪でマンハッタンで閉じ込められたことがあります。友人は凍った雪道で滑って骨折したり。確か寒さで貧民街のお年寄りもたくさん亡くなったと記憶していますが、雪降る景色はどこまでも静かで美しい…。雪の魔力って確かにありますね。
昨年から今年の初めにかけて、ベルギー、ルーヴァンでもたくさん雪が降り、雪道での運転に慣れていない私は、朝、客のためにパンを買いに出かけ、車を凍った雪にすべらせてフロントをあてて修理費1200€という事故に。結局その日朝ごはんにパンが上ることはありませんでした…。雪で記憶を辿ると色々ありますね。
Commented by レイネ at 2010-10-16 18:18 x
momonekoさま、雪には慣れていないので振り回されてしまいますね。皆さん、雪にまつわる悲しい思い出があるのね。去年も大雪だったし。いろいろありました。
2年前の1月のある火曜日(ロックアウトの翌日)、車がスリップしたので、事故を避けようとしてハンドルを切ろうと力任せにしがみついたので、左手首を捻挫。完治するのに長くかかりました。車は大丈夫でしたが、運転してる本人が怪我なんて。。。
雪道に慣れてる人に、去年運転のコツを教わって実習したので、少し安心してます。
今年の冬も、大雪かしら。。。
Commented by amore_spacey at 2010-10-23 01:14
レイネさん、はじめまして。さっそくやってきました。そんな苦い思い出を作ってしまうと、心のしこりになってなかなか観ようと言う気にはなれませんね。因みに私が暮らす街では、映画館によって水曜日が5ユーロ、それから平日夜7時までに入ったら5ユーロという割引があります。でも必ずおつまみを買ってしまうので、普通料金以上の出費に…。この作品には大笑いしました。Kad MeradとDany Boonのコンビが最高によかった!こういった風習は、レイネさんがお住まいのところにもあるんですね。というか、そのもの?
Commented by レイネ at 2010-10-23 21:34 x
amore spaceyさま、いらっしゃいませ。沢山映画を見てらっしゃる貴女ですから、やはりなるべく安く上げたい、と思うのは当然ですね。イタリアの映画館のおつまみって、何があるのか、興味津々。地元名産のおいしいものとか、それともやはりポップコーンが定番でしょうか。

オランダ最南端のこの辺りは、かなり方言がきついので、首都圏からはシュティのように思われてます。風習も、シュティに非常に似てるから文句言えませんが。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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