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ペリアネスによるブラスコ・デ・ネブラのピアノ・ソナタ集

聞いたことのない名前のピアニストによる、初めて聞く名前の作曲家のピアノ・ソナタ集である。

ペリアネスによるブラスコ・デ・ネブラのピアノ・ソナタ集_c0188818_2310522.jpgブラスコ・デ・ネブラ
・ピアノ・ソナタ第1番ハ短調(アダージョ-アレグロ)
・ピアノ・ソナタ第2番変ロ長調(アダージョ-アレグロ)
・ピアノ・ソナタ第5番嬰へ短調(アダージョ-プレスト)
・マニュスクリプト2998(モンセラート古文書館より)
・ピアノ・ソナタソナタ第3番ニ長調(アダージョ-アレグロ)
・ピアノ・ソナタ第4番ハ長調(アダージョ-アレグロ)
・ピアノ・ソナタ第6番ホ短調(アダージョ-アレグロ)
・パストレーラ第2番ヘ長調(アダージョ-パストレーラ-メヌエット)
・パストレーラ第6番ホ短調(アダージョ-パストレーラ-メヌエット)
 ハビエル・ペリアネス(ピアノ)
 録音時期:2009年7月

HMから2010年にリリースされたこのCDは、ひょんなことから家にやってきた。

クロアチアで知り合ったHとT夫妻とは妙に趣味が合い、その後もお付き合いしていることは、
報告済み。
Hはフルートを趣味で吹くので、一度、わたしのピアノと合奏したいと言う。
楽譜を準備してくれるならOKと返事をした。その時点で、わたしはラモーのクラブサン曲を
アレクサンドル・タローのように弾きたいと思って練習中であった。だからバロックもしくは20世紀の
曲ならフルートと合わせるのも楽しそうだ、と注文をつけた。
Hはスペイン語も上級レベルだ。わたしは、グラナドスとかアルベニスなどのスペイン人作曲家の
ピアノ曲が妙に肌に合うことも付け加えた。

そうしたら、先月食事に招待したとき、このCDと楽譜を持ってきてくれたのだ。

マヌエル・ブラスコ・デ・ネブラ(1750 - 1784)はスペイン・アンダルシア出身の作曲家で、
生年も没年もほぼモーツアルトと同じだ。こちらのほうがもっと若くして亡くなったが。
鍵盤曲は170ほど作曲した。若死にしたのにそんなに沢山作ることが出来たのは、彼の
ソナタは、まるでドメニコ・スカルラッティのソナタのように短いからだ。
これは、わたしにとって非常に喜ばしいことである。
彼が生きたのは古典派の時代だ。古典派のハイドンやモーツアルトはたまたベートーベンなどの
ピアノ・ソナタは、長くて退屈なので敬して遠ざけている。聴くにはいいが弾くのは大変なのだ。
(実は、現在また、バック・トゥ・ベイシックスと称してモーツアルトのソナタを練習しているのだが)

このCDに収められているのは、チェンバロもしくはピアノのためのソナタ1番から5番、
鍵盤楽器のためのソナタ(モンセラット修道院古文書館写本ソナタ)3,4,6番、
鍵盤楽器のためのパストレーラ(モンセラート修道院古文書館および音楽古文書)2,6番。

まず、作曲家の経歴を知らず楽譜を見ないでCDだけ聴くと、いったいいつの時代の曲なんだろう、と
大きな疑問符が頭に浮かぶはずだ。知っていても、これはいったい何?とびっくりしたくらいだから。
聴こえてくるのは、まるでショパンかジョン・フィールドのノクターンみたいで、ロマン派音楽のような
響きの、そしてドビュッシーに通じるような霧のかかったような近代的な陰影のある音なのである。
繰り広げられる音楽の予想外に多彩なニュアンスに驚く。

そして楽譜を読みながら聴き、自分でも弾いてみると、妙に納得できるのである。
ああ、これは、ピアニストの独自で素晴らしい解釈と腕の賜物なのだと。
スペイン人若手、ハビエル・ペリアネスは、端倪すべからざるピアニストだ。
彼の演奏・解釈には、アレクサンドル・タローによるラモーやクープランのクラブサン曲のピアノ
演奏に通じるものがある。
紡ぎ出される音には、静謐と洞察および深い内省そして秘められた情念が揺らいでいる。
モダン・ピアノによるクラブサン曲の、とても現代的な表現である。
包まれると非常に心地よい、場の雰囲気が作られている。

ユーチューブで探しても、彼の演奏による動画が見つからないのが残念だ。(バレンボイムの
マスタークラスでベートーベンを弾いているのはみつかったが、ブラスコ・デ・ネブラのは、ない)
そして、他のピアニストによるピアノもしくはフォルテピアノ演奏と聞き比べてみると、ペリアネスの
オリジナルな表現能力に唸ってしまう。

マイナーな作曲家による音楽は、このピアニストに出会って稀有な美しさに昇華された。
バロックと近・現代音楽好き、マイナーな作曲家の知られざる曲を聴きたいという方には、
力を込めてお勧めしたい。
by didoregina | 2010-10-07 17:19 | CD


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


by didoregina

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プロフィール

名前:レイネ
別名: didoregina
性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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