サヴァール指揮 モンテヴェルディの『オルフェオ』

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2002年@リセウ
L'Orfeo
Furio Zanasi (Orfeo)
Montserrat Figueras (La Musica)
Arianna Savall (Euridice)
Sara Mingardo (Messagiero)
Cécile van de Sant (Speranza)
La Capella Reial de Catalunya
Le Concert des Nations/Jordi Savall
Gilbert Deflo (Stage director)

またまた、BravaTVのオペラDVD放映だ。
かなりHIPな『オルフェオ』である。演奏と楽器はいわずもがなのピリオドだが、それにもまして
舞台造形・衣装および演出が、なんとも古式ゆかしい雰囲気なのだ。

まず、冒頭にくる「トッカータ」の映像をごらんあれ。



ファンファーレのような小気味よいテンポが痛快だ。しかし、サヴァール登場の仕方は尋常ではない。
そして、指揮者も楽器奏者もみな、まるで17世紀の宮廷楽士のようなHIP衣装なのだ。
HIPなのは衣装ばかりではない。
舞台には小さな鏡を沢山張ったような幕が下がっている。『オルフェオ』が1607年に初演された
場所、マントヴァ公の宮殿の鏡の間をイメージしたものらしい。

最初に登場する歌手は、音楽(モンセラート・フィゲラス)で、バロック初期のオペラによくみられる
様式の口上のようなアリアを歌う。
その彼女の衣装や、半ばあたりで登場するシルヴィア(サラ・ミンガルド)など重要な女性登場人物の
コスチュームは、まるでスルバランの描く聖女単身像を模したようなデザインで絹の質感が美しい。

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     スルバランの『聖ルフィナ』(1635-1640頃) プラド美術館蔵
     硬い感じのドレープが、練り絹っぽい雰囲気を出している。

それに対して、牧夫や村の娘など一般人の服装は、ギリシャ風の柔らかなドレープが沢山とられ、
頭のところだけ出るように丸く切り取った四角い布のようにカッティングは単純なものだ。
文字通りアルカイックなのである。ニンフの踊りもしかりで、HIP度が高い。



    しかし、オルフェオ役は、もう少し若々しい歌手にしてもらいたかった。。。
    冥界の王や三途の川の渡し守役のほうがふさわしいような風貌のフリオ・ザナージ。

明快できびきびしたリズムの器楽演奏だが、サヴァールが画面の半分以上を占める大写しに
なることが多かった。器楽奏者も歌手に負けないくらい長時間映るのだった。公平な配分といえば
いえる。。。

フィゲラスもミンガルドもまたエウリディーチェ役のアリアンナ・サヴァールも、役柄にぴったりの声と
ルックスで、その他の歌手にもまったく不満がない。
特筆すべきは、シルヴィア役のミンガルドで、エウリディーチェを見殺しにしてしまったという罪の
意識に苛まれ、苦悩を表情と声ににじませる歌唱が素晴らしかった。彼女も客席の中央通路を
通って登場・退場した。長い余韻を残して。

ミンガルドの写真の代わりに、役柄と似たイメージのスルバランの絵を掲げる。
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   『聖アポロニア』(1636) ルーブル美術館蔵

ついでに、ペルセポネや人格化された希望はノーブルで気位が高い印象で、下の絵のイメージだ。
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   『聖カシルダ、もしくはポルトガルの聖イザベル』(1640頃)プラド美術館蔵

ちょっと平面的で正統的・古風だがトータルなコンセプトがぴしっと決まった舞台で、歌手にも
器楽演奏にも文句のつけようがない。きっと映像抜きの音楽だけでも楽しめたと思う。

しかし、歌われる歌詞がそろいもそろっていい子ちゃん風、または教訓的なのにはまいった。
道徳の教科書に使ったら文部省から折り紙つきで推奨されそうだ。基本的に悪人は出てこないし、
悪巧みや悪事は起こらない。皆、ひらすらまじめに苦悩する。
おなじ作曲家による『ポッペアの戴冠』とのなんたる違い。当時パトロンだったマントヴァ公の
好みが反映しているのだろうか。
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by didoregina | 2010-09-15 13:18 | オペラ映像 | Comments(12)
Commented by galahad at 2010-09-15 21:31 x
うっわー、これいいですね、DVD買おう。 ”楽士”さんたちがかっこいい! こういうの大好き。おっしゃるとおり、オルフェオのルックス偏差値がもうちっと高いともっと良いですね。 この演出では結末をどのように処理しているのかしら、楽しみにしておきましょう。
Commented by sarahoctavian at 2010-09-15 22:11 x
ほんとほんと!素敵なDVD。衣装の色合いも舞台装置の形も美しくってコダワリを感じます。まったくBravaTVなんて素晴らしいチャンネルが受信できるレイネさんちが羨ましいですっ。
ところでそろそろウィーン遠征が近いのでは?そちらの方もた・の・し・み。
Commented by レイネ at 2010-09-15 22:29 x
galahadさま、このDVDは音だけ流してもよさそうだし、オーソドックスな映像だから何度観ても飽きがこないと思います。オルフェオ役の歌手だけルックス的にマイナスなのが残念。キーンリーサイドと比べてはいけませんが。。。
とにかくHIP度が高いという以外は奇をてらったところがまるでない、正統派です。手堅くきちんとしているというか。
DVDを買うとボーナスでいろんなバックグラウンドが見られるのがよさそう。TVではさすがにそこまでは放映してくれないので。
Commented by レイネ at 2010-09-15 22:38 x
sarahoctavianさま、正攻法の時代がかったアプローチのプロダクションです。プルハール女史の「愛の劇場」に入ってる「トッカータ」もかっこいいけど、このDVDではきりっとした音と映像も見られてもっといい。昔の録音などを聴くと、びっくりするほど悠揚迫らぬテンポでしまらないのがありますからね。
ドイツならArteでもなかなかいいもの放映しますよね。ドイツ語吹き替えってのが難だけど。

あさって金曜日にウィーンに出発で~す。
Commented by アルチーナ at 2010-09-16 10:18 x
あ!これ好きです♥私もテレビで見たので特典映像などは無かったですが、いきなりサヴァールがカッコイイですよね。パーカッションのペドロ・エステバンさんも好きですけど。
牧夫や村の娘などの衣装の色、サーモンピンクと緑は何色というのか分かりませんけれど、とっても素敵でまるで動く絵画みたいだと思いながら見てました。

フィゲラス・・片目から涙流しながら歌ってませんでした?
凄い!!と変なところに感動してしまいました。

セメレ・・放送があると良いのですが・・聴きたいな~~!!
Commented by レイネ at 2010-09-16 16:09 x
アルチーナさま、もとのライブは2002年とずいぶん前のものだけど、DVDは去年発売だったようです。TVで観れるとお得感ありますよね。

ユーチューブで演出家がしゃべってるボーナス映像を見たんですが、デフローってベルギー人なのね。オランダ語のしゃべりでスペイン語字幕ってのが普段と逆。たしか、能のシンプルな様式美を演出にも取り入れたとか、言ってたような。カロンの船なんて能の作り物みたいな動きだし、最後に天から降りてくるアポロの乗り物は時代がかっていて、わざと吊り下げてる線を見せてるのがHIPらしいです。

たしかに、右目から涙流して歌ってましたね。(ミンガルドだったような気もするけど、フィゲラスなら涙流しそうだ)
Commented by REIKO at 2010-09-16 23:34 x
これは超正攻法のHIP、ど真ん中ですね♪
ハンパじゃなく、徹底してるところがいいと思います。
むしろこういう演出を、新鮮に感じるのが皮肉ですね。
これだとお客さんも当時の服装で出かけないと、身の置き場がない?
最初の動画で、左端に写ってる太鼓叩いてるおじさん、たぶんペドロ・エステバンだと思いますが、彼のファンなんですよ。
(もちろん「見た目」じゃなくて演奏がですよ)
服は全然似合ってませんけど・・・(笑)
Commented by レイネ at 2010-09-17 00:50 x
REIKOさま、オケの楽員も当時の服装で演奏というのは、一歩間違うとウィーンとかヴェニスの観光客用音楽会とかアンドレ・リューのオケみたいになっちゃうから、びみょ~です。。。
サヴァールは颯爽としていていいけど。あの太鼓のおじさんってアルチーナさんもコメントしてますが、ファンが結構いるんですね。太鼓たたきってオケの中では稼ぎ頭だと聞いたことがありますが、本当かしら。

歌手はみな上手くて、特に女性に気を取られてたので書き忘れましたが、カルロス・メナ(CT)も牧人の役がよかったです。
Commented by Mev at 2010-09-17 08:44 x
楽しいです! 冒頭のファンファーレでガウンなびかせて指揮者登場っていうの,私も好き。歌舞伎みたい。
太鼓のおじさん、雰囲気はダンブルドアみたいですね。日本ではオケの楽員の給与は全員同じだと聞いたことがありますが、欧州では差があるんでしょうか。。。。


Commented by レイネ at 2010-09-17 14:24 x
Mevさま、サヴァールが着てるのはよっぽど薄いガウンなのね、あんなに風を孕ませるなんて。
音楽学校の某教師によると、太鼓たたきは一番高給取りとか。オケにもよるんでしょうが。コンヘボの楽員は比較的薄給とも聞きました。スイスの地方楽団に比べると。
Commented by galahad at 2010-09-25 19:09 x
ご紹介いただき、さっそくDVDを観ました。 私もオルフェオの記事を書きました。 こちらの記事をリンクする許可をいただきたいのですが、よろしいでしょうか。
Commented by レイネ at 2010-09-26 02:35 x
galahadさま、リンクどうぞ、どうぞ。DVDご覧になったんですね。
HIPのひとつの形として、なかなか好ましいものだと思いました。スペインとイタリアで固めた歌手・演奏家陣も、統一が取れてるし。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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