タン・ドゥンの「マルコ・ポーロ」

Brava局はわが道を突き進む。またまたレアもの、今度は現代オペラの放映だ。

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Marco Polo by Tan Dun (1957 - ) @DNO (2008)
musical director Tan Dun
director Pierre Audi
set and light design Jean Kalman
costumes Angelo Figus
orchestra   Nederlands Kamerorkest
chorus   Cappella Amsterdam

MEMORY/Polo Charles Workman
BEINGS/Marco Sarah Castle
Kublai Khan Stephen Richardson
NATURE/Water Nancy Allen Lundy
SHADOWS/Rustichello/Li Po Zhang Jun
Sheherazade/Mahler/Queen Tania Kross
Dante/Shakespeare Stephen Bryant

世界初演は1996年@ミュンヘン。
副題に An opera within an opera とあり、リブレットはPaul Griffithsによる。

予備知識なしに、このオペラのTV放映を鑑賞した。これは、ある意味でよかったかもしれない。
全くの白紙状態だったので、まるで身構えていなかったから、わりとおもしろいと思えた。
あとであらすじを読んでみて、ほお、こういうことだったのか、こういう意味があったのか、と始めて
知ることばかりであった。しかし、知ったからといって、理解できたわけでは全くない。
DNOの英語あらすじページにリンクを貼るので、興味がある人には、読んでみてもらいたい。
あまりに抽象的・観念的・哲学的なので、これを読んだだけで頭が痛くなるかもしれないが。
実際に歌われた歌詞は非常に簡潔なので、オペラを鑑賞しただけでは、ここまで濃いというか
難解な内容を含んでいるとは想像できなかった。

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         左からダンテ、ポーロ、マルコ
         単純なカッティングなのに舞台衣装としては機能的で優れたデザイン。
         文字通り直線断ちまたは丸いだけだが、さまざまに着こなしの変化が出せ、
         舞台効果抜群。(その昔、黒くて丸い穴の開いたフエルト帽を小道具にして
         ナポレオンなど色々な人物に早代わりする漫才師みたいな人がいた。
         それと同じ形状の丸いフエルトのマントが使われていたし、ダンテの帽子は
         まさにその漫才師の物と同じだ。)

まず、主要登場人物で重要なのは、マルコとポーロ(この二人は対照的な別人格を持つ男女)と
狂言回し役・ナレーターの中国人だ。この人物は、たぶん京劇の俳優(歌手)が演じているが、
役どころの意味するところがナンなのか見終わってからもちっともわからなかった。
この人、終始京劇独特の甲高い声で歌い、アクロバティックな所作で動き回る。声はよく通るし、
役者としても上手い。最後に一番拍手をもらっていた。

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         フビライ・ハンと孫悟空のような謎の狂言回し

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         衣装とメイクの主要モチーフは、マルコ(赤)が円で
         ポーロ(青)は直線、と対照的。

なんだかよくわからないストーリー進行だが、ダンテの道案内でマルコとポーロが、西遊記の玄奘
三蔵法師のような苦難の末、シルクロードを通って中国の皇帝の所に到着する。しかし万里の長城の
入り口は閉ざされている。そこを突破して究極の目的を達成しなければならない。
オリエントへの旅は、また同時に内面への旅だった、ということらしい。思索と行動との調和、東洋と
西洋との拮抗。未知の世界への憧憬は実は自分自身を発見する旅であった。
と、書いていて恥ずかしくなるような単純な陰陽(イン・ヤン)みたいな世界観・人生観で出来ている。

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        孫悟空みたいな京劇俳優兼歌手が最後に扉を打ち破る。

しかし、音楽は楽しめる。舞台がシルクロードで、作曲家が中国人だから、胡弓やシターやタブラや
バラライカや、名前は知らないが面白いオリエントの楽器が大活躍するし、京劇風の発声で中国語
のように抑揚のあるアクセントの英語で歌われるから、非常にエキゾチックである。
しかし、歌手は大変だったろう。無調どころではない、西洋音楽でもない実験的な旋律を歌わなければ
ならないのだから。
ただし、全体の調子はミニマルであるから、現代音楽でも聞きやすいのである。

歌手で知ってる人は、ポーロ役のチャールズ・ワークマンとシェヘラザードおよび皇后役のタニア・
クロスのみ。
ワークマンは、最初わからなかったが、どうも見覚えがある、と思ったら、去年「エイシスとガラテア」
@ROHでエイシス(ダニエルちゃんの相手役)だった。けっこうハンサム。
タニア・クロスは、オランダで売り出し中というよりすでに中堅になったアンティレン出身のメゾだ。
昨年グラインドボーンで「カルメン」主役を歌ったらしい。そのあと、オランダのナショナル・レイス・
オペラでも「チェネレントラ」主役の予定だったのに、なぜかキャンセル。その他、ヤーコブス指揮で
モネとDNO共同プロの「ジュリオ・チェーザレ」でブライアン・アサワとのダブル・キャストでトロメオを
歌ったり、数年前DNOで「カヴァレリア・ルスティカーナ」のローラを歌うのを聴いたから、けっこう
役どころは広い。

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舞台造形や演出は、全体的にいかにもオーディのトレードマークみたいな雰囲気がただようので、
毎度おなじみの懐かしさに安心感を覚える。幻想的かつ、ハッタリや無理のない調和の世界であった。
京劇と西洋のオペラを融合させた、しかも現代物だが、視覚的にも聴覚的にもけっこう楽しめた。
もしかしたら、このオペラが発するえもいわれぬ懐かしさと安心感は、シルクロードという背景のせい
かもしれない。西遊記(とNHKのシルクロード・シリーズ)に親しんだ日本人は、既視感を覚え、
シルクロードにはなぜか郷愁をかきたてられるのだ。
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by didoregina | 2010-08-26 22:22 | オペラ映像 | Comments(4)
Commented by galahad at 2010-08-27 21:31 x
タン・ドゥンは、「始皇帝」の人ですね! 歌手でわかる人はワークマンしかいませんけど、バロックレパートリを持っている歌手が歌っているということはそれ相応のテクニックがいる曲なんでしょうか。 舞台写真や使用されている民族楽器など、とてもおもしろそうで観てみたいです。 あらすじは…え?自分探しの旅? 私哲学的なのはぜんぜんわかりません…。
レイネさんがご覧になるBrava局みたいのが日本にもあるといいな~。
Commented by レイネ at 2010-08-28 03:42 x
galahadさま、そうです、「始皇帝」の作曲家。彼のもうひとつの作品「ティー」というのをDNOが上演したので、これもTV放映されないかしらと期待してます。
歌のテクニックとしては、まず西洋音楽の声楽の発声とは違うようだし、音とりも相当難しそうです。
オペラ鑑賞しただけだとなんとなく筋はわかっても、解説を読まないかぎり、細かい点はと全然伝わってきませんでした。

Bravaでは、月曜日に同じくローラン・ペリー演出の「連隊の娘」を放映してくれます。ROHのプロダクションで、フローリスとデセイが主演なので、これもてぐすね引いてるんです。楽しみだわ!
Commented by kametaro07 at 2010-08-30 21:16 x
演出が「ディオニュソス」と同じアウディですね。
どうもアウディはMETの「アッティラ」であまり良い印象がなかったので引いてしまいますが、写真を拝見するとおもしろそう!

>無調どころではない、西洋音楽でもない実験的な旋律・・・
そこがちょっと鑑賞する不安要素^^;ではありますが・・・。

「東方見聞録」やマルコ・ポーロがクビライと謁見したという話をベースにした物語のようですが、マルコとポーロに分けるのがなんとなくマンガチックですし、ダンテやシェークスピアまで登場するのも???
でもいろいろな意味が隠されてるようで、謎解きのおもしろさがありそうです。

>ローラン・ペリー演出の「連隊の娘」を放映
こちらは理屈ぬきでお楽しみください^^。
Commented by レイネ at 2010-08-31 00:25 x
kametaro07さま、NYでの「アッティラ」演出、皆さんのブログを拝見すると相当評判悪かったようですね。オーディは、アムステルダムの歌劇場の芸術監督として21年という実績で、オランダでは一目置かれてる人です。この人の長年にわたる聴衆への教育成果で、そうとうとんがった演目でもアムスならチケットがさばけるので。去年、ザルツブルク音楽祭の次期総裁候補との噂が飛んだんですが、本人は否定してました。(ちょっと、ありえないと思うけど)
レギーテアターは嫌い、と本人も言ってるし、いつもシンプルだけど幻想的な舞台造詣で、ツボにはまると安心して観ていられる演出ではあります。洗脳されたのか、わたしは彼の演出にはピンとくる方です。

「マルコ・ポーロ」は、一回観ただけでは消化しきれないオペラですが、もう一度鑑賞したいという気もあまり。。。

今、「連隊の娘」見終わったところです。デセイの歌と演技のうまさに脱帽。フローレスも期待通りだし、楽しい舞台でした。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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