「タメルラーノ」は、ファンタスティック・オペラ

ドミンゴ先生がバヤゼット役の「タメルラーノ」@テアトル・レアル・マドリッドのTV放映を鑑賞した。
さほど期待していなかった、というより、はっきり言って、ドミンゴ先生が朗々と艶のある、もしくは
悲劇性を強調するあまりしゃがれたような声でバロック・オペラを歌うのは、どうも似合わないような
気がして、積極的に観たいと思っていなかったのだ。
しかし、これは、とんでもない偏見であることがわかった。

Tamerlano by Handel@Teatro Real Madrid
Dirección musical:Paul McCreesh
Dirección de escena:Graham Vick
Escenografía y figurines:Richard Hudson
Coreografía:Ron Howell

Tamerlano:Monica Bacelli
Bajazet:Plácido Domingo
Asteria:Ingela Bohlin
Andronico:Sara Mingardo
Irene:Jennifer Holloway
Leone:Luigi De Donato



第一幕では、こちらもまだ色眼鏡で観ていたせいか、耳になじみが悪かったが、二幕目からは
ドミンゴのバヤゼットも、いいではないか、と思えるようになり、特に先生が登場する場面はさほど
多くないためか、彼の存在など気にならないようになって、ひたすらファンタスティックなオペラ世界に
はまり込んでしまった。やはり、彼の歌い方も声もテクニックも、ヘンデルのバロック・オペラには
不釣合いであった。先生、許して。


このオペラをファンタスティックと呼びたいのは、まず、その簡潔なステージ造形の美しさによる。
円と丸をモチーフとした舞台背景は白と黒とグレーで統一。この円と丸が衣装のターバンの
造形にも使用されていて、モノトーンなのにロマンチックな表情を作り出す。

半円形に作られたステージの天井から大きな玉が下がり、その上に大きな足。
敵方タタールのタメルラーノの圧制に喘ぐオスマンのバヤゼットとその娘アステリアは白服姿で、
重いくびきの下に置かれていることが一目でわかるような登場の仕方だ。

ストーリーはたわいないもので、捕らわれのオスマン王バヤゼット、敵方の王タメルラーノが惚れて
いじめるオスマン王女アステリア、タメルラーノに邪険にされて傷つく許婚イレーネ、アステリアが
好きだが気の弱いアンドロニコなどが、皆各々の思惑と邪心でくっついたり離れたりするが、
バヤゼットの死によって、敵対関係も愛憎関係も清算される、という話だが、オペラ展開は悠長だ。

登場人物のキャラクターは、清廉な善人Vs馬鹿で権力を振り回す悪人という単純な二極に分かれる。

しかし、衣装や振付も含めた統一感が素晴らしく、圧倒的な様式美で、とにかく視覚的に楽しめる
オペラだった。過剰も無駄もなく、美的均整がとれて素晴らしい舞台は、夢幻の世界のようだった。

以下、写真で追ってみよう。

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          存在自体がジョークのようなタメルラーノと
          そんな変態王に惚れられて困ってるアステリア

虐げられた境遇のバヤゼットが歌うアリアは、常に重苦しく悲劇の調子を帯びる。
背後に控える宦官みたいな兵士達の踊りも、だから静的でミニマルな振付で効果的だ。

それに対して、タメルラーノは、粋で洒落た格好で、権威を傘に振りかざして好き勝手の馬鹿王。
そのキャラクターを表現する歌も軽薄そのものである。
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           この衣装、特にターバンが最高。被ってみたい!        
           でも、このタメルラーノ、どうしても男性には見えない。
    
主役のバチェットは、顔が女優のエマ・トンプソンそっくりのオバサン顔で、体格も貧弱なので
全然、エキゾチックな王には見えない。どんな表情の演技をしても、ヒステリックな中年女の地が
出てくるだけ。
ここは、やはり、マレーナ様にこの役デビューをしてもらいたいものである。

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          この衣装と鬘を着けたマレーナ様を想像してもらいたい。
          失神するファン続出、必至である。

善人アンドロニコも、衣装はカッコイイ伊達姿だ。
c0188818_22364214.jpg

           サラ・ミンガルドの男役は、まだしも見られる。でも、衣装負けしてる。
           なんだか声に艶がなくてがさがさしているように聞こえた。
           声が小さいから、無理に音を補強するような録音にしたためだろうか。

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           ステージ背景がモノトーンでシンプルなので、
           原色でポップな大道具が映える。しかし過剰ではない。

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           タメルラーノの許婚イレーネは、カラフルなサリー姿。
           女性は皆、頭にストールを真知子巻きして登場する。
           そのパシュミナ風のストールが、とってもいい。

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           イレーネ役のジェニファー・ホロウェイは、割と好きな声。
           顔と体型は料理研究家のナイジェラ・ローソン似。

c0188818_2252242.jpg

            こちらは、本物のナイジェラ・ローソン。

c0188818_22541217.jpg

            派手なピンクのタメルラーノと清楚な白いインド風衣装のアステリア。
            インゲラ・ボーリンは、姿が可憐で歌も演技も上手くて、役にぴったり。
            彼女とマレーナ様だったら、お似合いカップルなのに。。。。

結局、ドミンゴ先生以外の登場人物は、ほとんど全て女性が歌っているので、ドミンゴ先生の男ぶりが
いやでも映える、という仕掛けになっている。上手く考えたものだ。
ズボン役の二人が冴えないのだけが問題だった。これは、マレーナ様がタメルラーノ、アンドロニコ役に
デュモーで、あとの歌手はそのまま残して、このプロダクションで上演したら最高だと思う。
(今季、LAでB.メータがタメルラーノを演る。マレーナ様のブログにつぶやきによると、先日彼女は
LAでオーディションを受けたらしい。もしかして、タメルラーノ役ではないのか、と予想したのだが)
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by didoregina | 2010-08-18 16:33 | オペラ映像 | Comments(13)
Commented by ろき at 2010-08-19 06:22 x
これはすばらしいステージ造形ですね!シンプルだけど凝っていて、斬新。
ターバンがナイス~。
人物も変テコで素敵だし、ぜひベスト・キャストで見てみたいです。

PS:「ジェニファー・ホロウェイ=ナイジェラ・ローソン」同意です(笑)。
Commented by アルチーナ at 2010-08-19 12:10 x
インゲラ・ボーリンは今回『ベレニーチェ』で初めて聴き、ちょっと物足りない印象を受けましたが、男役だったからかもしれませんね・・彼女の声は可憐な印象。

これ・・確か日本でも放送したような気がするのですが、我が家ではまだ見られる環境で無い時期だったのかもしれません・・
再放送してくれないかしら?見てみたいです・・

確かに・・ズボン役がハマるメゾやコントラルトって案外少ないかもしれませんね。

マレーナ様とサラ様、ミヤ様くらいかしら?
あ!痩せてる時のアリス様も!
Commented by sarahoctavian at 2010-08-19 17:58 x
これは椿姫さんがレビューを書かれていた、ロンドン版と同じ演出ですよね?ドミンゴ御大がヘンデルも歌うなんて意外でもあり、オペラファンのクロスオーバーのために貢献してるのかな・・などと思いましたが。。。ちょっとくすぐったい感じがします。
しかし、明確でシンプルな舞台とオリエンタルで華麗な衣装が程よくマッチしていて素敵ですね。ポップな青い象も決まってるし。私もこういう雰囲気が好き。
ナイジェラ姐さん風イレーネも色っぽくてよいのに、おばさんみたいなタメルラーノは残念。もっとワルを体現できる方=マレーナ様なんてきっと体当たりで思いっきり悪党を演じてくれるでしょうね。サラ様も役的には悪役の方がずーっと魅力を感じると申しておりますし。。。
Commented by REIKO at 2010-08-19 18:11 x
思いっきり巻き巻きを強調したターバンや、エキゾチックな衣装と、モノトーンでモダンな舞台が、面白いコンビネーション?
青い像の写真にはビックリしました、こんなものも「出た」のですね!
ビリャソンのヘンデルアリア集を聴いた時に思いましたが、(ドミンゴもそうだけど)ああいうテノールの人達って、バロック様式の歌い方とは多少違っても、役への没入度や伴奏付きレチタティーヴォの上手さなんか、相当なものだと思いますよ。やっぱ舞台数踏んでるだけのことはあるというか・・・。
アルチーナさんがおっしゃってるように、この映像は去年日本でも放映されましたが、ウチも見れる環境ではなく残念でした。
Commented by REIKO at 2010-08-19 18:15 x
・・・うッ!「青い像」⇒「青い象」ですね、ゴメンなさい・・・。
何度も見直してるのにど~して!?
Commented by galahad at 2010-08-19 22:12 x
昨年テレビ放映があった時に見ました。 ヴィック演出のファンシー趣味な部分がうまく強調されてなおかつシンプルという珍しくもいい舞台だなと思いました。 整列して動くゾウさん、大きなゾウさん、可愛すぎで大喜びで観てました。 ドミンゴ先生はお衣装とキャラクターはよくお似合いだと思いましたけど、歌唱がバロック的でないということもさりながら、なんとなくヨレヨレしている部分が散見されてドキドキしました。
レイネさん提案のキャストいいですね。デュモーは衣装もきっとぴったり。
Commented by レイネ at 2010-08-20 04:23 x
ろきさま、本当にビジュアルの美しさに圧倒されました。だから、音楽の印象があまり残っていないんです。
タメルラーノは、相当エキセントリックな人物なので、そういう役にハマル歌手、マレーナ様かデュモーがベストだと思うのです。

ナイジェラは、我が家のアイドルなので、家族も喜んで、いっしょにTVでオペラ鑑賞しました。(舞台の美しさに引き込まれて、長時間なのに苦にならずにすんだ)
Commented by レイネ at 2010-08-20 04:28 x
アルチーナさま、再放送してくれるといいですね。(DVDは出てますが)
インゲラ・ボーリンは、清純なお姫様・お嬢様役がぴったりの声質とルックスなので、彼女の男役って、ちょっと想像つきません。小姓くらいだわ、まだ似合いそうなのは。
本当にズボン姿に違和感を感じさせない女性歌手って、そういわれてみると、実は少ないですね。だからあの3人は貴重。
Commented by レイネ at 2010-08-20 04:40 x
sarahoctavianさま、貼り付けたトレーラーはROHが予告用に作ったものですが、使われてるもともとの動画は、わたしが見たヤツです。ロンドンでは、同プロ別キャストで今年上演されたんですが、どこかでまたやるようなら、ぜひナマで見たいプロダクションだわ。ドミンゴでなくてもいいから。。。
そういえば、ロンドン公演では、タメルラーノ役だったストテインが皆さんに不評でしたね。そして、すぐに病気理由に降板なんて、冴えないわ。オランダ人なので残念。でも、彼女のキャラにも声質にも合わない役なのに、なんで抜擢されしかも引き受けたんだろう?これで当分大劇場からはお声がかからなくなるかも。DVDでのタメルラーノ役歌手も、たいして上手くないような気がしますが。。。
Commented by レイネ at 2010-08-20 04:48 x
REIKOさま、たしかに腐ってもドミンゴ、という感じでさすがに上手(うわて)だなと思わせました。華もあるし。でも、やっぱり一人だけ普通のイタリア・オペラそのものの泣きのこぶしを利かせるので浮いちゃうんです。表情も演技もなんかヴェリズモ調になってしまって。。

作品としては面白く、DVDになってますから、安売りしてたら買っても損はしないと太鼓判を押せるプロダクションです。
Commented by レイネ at 2010-08-20 04:55 x
galahadさま、おお、日本でのTV放映見た人がようやく登場です!
わたしたちの好みのツボにはまるプロダクションですよね。
ドミンゴ先生、やつれたお顔で、3幕目なんて声も喉から絞り出すという感じで、迫真の演技というか本気出してました。でも、衣装は一人だけ妙によれよれで安っぽくみえるのが残念。彼の体格には似合わないわ。
わたし提案のキャスト、誰かが賛同して実現してくれないかなあ。(と、ブログで願を掛けると夢が実現、ということがけっこうあるんです)
Commented by Mev at 2010-08-20 20:54 x
いえいえ、現役でいられるうちにどんどん何でも舞台やっておこうという老いらくの野心じゃないでしょうかね、ドミンゴも。 ベルカントばかりじゃ飽きちゃうだろうし、再来年あたり、声がちゃんと出るうちにオリンピックの開会式で歌っといたらどうかなと思います。

近ごろ慌ただしすぎて音楽鑑賞とは程遠い生活をしておりまして、ちょっと落ち着きたいと焦っているところなので、どーだーっていうベルカントのCDでも買っちゃおうかなーと思っています。 もちろんドミンゴの。
Commented by レイネ at 2010-08-20 22:18 x
Mevさま、年取っても野心を持ち続けられるというのは、ある意味、素晴らしいことですよね。オリンピックの開会式で歌わせてもらう、というのはグッドなプランね。「誰も寝てはならぬ」みたいな大ヒットを最期に(?)に放つなんて、歌手冥利に尽きていいかもね。

ドミンゴ先生のCDねえ。。。やっぱり、はしりの若い子や今が旬で油が乗り切った人の声(ナマなら最高)のほうが、わたしはいいわ。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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