ヨットの構造を彫金テクニックに応用

彫金を習い始めた年には、様々なテクニックを次から次へと習った。
金属板を長方形に切って、チューブ状に丸めてロウ付け、そのチューブを金属圧延ローラーの
穴に通して引っ張り、穴を徐々に小さくして引っ張るという作業を繰り返して、針金がようやく通る
くらいの細い管にする、というテクニックがあった。
出来上がった細い管を使って蝶番(ちょうつがい)を作る。そして、蝶番をデザインに盛り込んだ
ペンダントかブローチを作る、というのが課題だった。

蝶番を作るテクニックは、なかなか勉強になるが、デザインに盛り込むのは、結構難しい。
というより、アクセサリーに蝶番を使うという必然性のあるデザインを考えるのは、至難の技である。

当時は寝ても覚めても彫金のデザインを考えていたから、何か意味のあるデザインに応用しよう、
と考えに考えを重ねた。
デザインと、初心者が実現可能のテクニックとの格差もある。
親しんでいたヨットの帆の構造を蝶番で表現してみた。

ヨットの帆の構造は名古屋大学体育会ヨット部による解説にリンクを張ったので参照されたい。

c0188818_681517.jpg

          出来上がったヨットのブローチ。
          キールと一体化した船体の真ん中にマストを立て、メイン・セイルを張る。
          前方に張り出すジブは、中央のマストとは直接交渉はない。
          船体のみならず、帆にも風が孕んだような丸みを叩き出した。

c0188818_693411.jpg

          左のジブと右のメイン・セイルを、各々蝶番式に動くようにした。
          その日の気分でセイルの向きが変えられる。風向きしだいというわけ。
          マストの裏側にブローチの留め具をつけた。

初心者にしては凄いデザインだ、よく作品に出来た、日本人ならではだ、などと先生たちから
言われた。
それはそうだ、一体どれだけ時間をかけて考えて、制作にあたったことか。

しかし、実を言うと、このブローチでは、厳密な蝶番にはなっていない。
手近にあるドアなどの蝶番を見てもらいたい。
日本語の蝶番という言葉は、言い得て妙である。つまり、真ん中に通る芯に対して、二つ
(つがい)の羽のように分かれる部分が別個に付いているはずだ。
だから、蝶番式にセイルをマストに付けるなら、ジブもメイン・セイルも真ん中のマストを
中心に左右に広がるべきである。

ヨットの構造を知らない人や子供にヨットの絵を描かせると、一本のマストの左右にに帆が二枚
付いているという風になる。彫金の先生もそう思ったらしい。
しかし、実際のヨットでは、メイン・セイルは中心のマストに付いているが、ジブは船体の前方に
張り出しているから、別のラインがいるのだ。
ヨットの構造を簡略化したデザインでも、マストの左右に帆を二枚、というのでは、子供っぽ過ぎる。
だから、実際のヨットの構造を重視した結局、ブローチのヨットの帆の付け方は、厳密な蝶番とは
呼べないデザインになった。
でも、蝶番の構造を知っている人も少ないかもしれないから、これはこれでよいのだと思うことにする。
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by didoregina | 2010-07-14 00:00 | 彫金 | Comments(8)
Commented by アルチーナ at 2010-07-14 08:26 x
おぉ!本当に凄いアイデアですね。確かに丁番ではないですけれど・・
でも、メインセイルの方は輪っかの部分が表側を向いているからマストを強調していますし、ジブは輪っかの部分が裏にあるのと叩き出しで風をはらんだジブセイルの感じが出ていますね!

アイデアも本当に素晴らしいですけれど、作るのも大変そうです・・
私にはこんな細かいことは無理です・・
Commented by レイネ at 2010-07-14 14:46 x
アルチーナさま、細部までよくご覧いただき、ありがとうございます。
別物で、本当の蝶番を使うデザインも考えて、デッサンはあるんですが、実現はしていません。必然性のあるデザインだと自負してるんですが。
金属チューブは、最初大きく作って、伸ばして細くしていく課程でできる様々な直径のを切っておくと、後々、ブリリアント・カットの石の台座に使えます。台座に必要な輪っかはごく少量ですが、石には大小さまざまなサイズがあるので、台座も色々なサイズが要ります。だから、必要なサイズの輪っかは生徒同士、手持ちのものを譲り合ったりもします。

彫金の作業は、非常に細かくて気を抜けないのと、特殊な道具がやたらと沢山必要、しかも力仕事です。
Commented by galahad at 2010-07-14 21:06 x
すごい! レイネさんはなんでもお出来になるんですね。 
彫金は技術も必要ですが、デザイン力がないとおもしろくないと見るばっかりの私は思います。 セイルの向きがかわるなんて楽しい。 これは素材は何ですか? 銀?
そしてなにげにN大学の部活動サイトはいろいろと役にたってるみたいですね。(古楽研究会のサイトも見てあげてください)
Commented by レイネ at 2010-07-15 05:20 x
galahadさま、始めたホビーはいろいろあるんですが、飽きっぽくて長続きしないんです。変わりだねホビーでは、ボビンレースというのもやってました。
これは初心者用の彫金素材で、アルパカという合金です。銀に亜鉛が混じってるのかな?銀よりも黄色がかってます。とにかく硬くて、切り出しや叩きだすのが大変。融点も銀より高いので、かなり高温でなめし、ロウ付けは銀でします。値段が安いのだけがとりえ。

N大学は、galahadさんの地元ですよね。中部地方では名門大学。古楽研究会のサイト見てみますね。
Commented by ロンドンの椿姫 at 2010-08-05 08:20 x
横レスですみませんが、galahadさんの仰るN大学とは?名門ということは、私が卒業したN大学とは違うんでしょうね。こっちは今週末に学長様(外人)がロンドンにいらっしゃるので皆で大騒ぎしてる最中なんです。
そう言えば、galahadさんは12月にロンドンにいらっしゃるんですよ。レイネさんもいかがですか?例のショル&ジャルとバルトリ姐ですが、かぶりつきで。
Commented by レイネ at 2010-08-05 21:58 x
ロンドンの椿姫さま、地元では略称名大で通っているので、実際のイニシャルNにぴんと来ないかもしれませんね。別のN大で学長がガイジンというと、南山かしら?そちらもなかなかの名門ですよ。

12月のロンドン行きは、まだ家族の様子見の段階なんです。9月にウィーンに行くことも、ようやく先週、カード支払いでばれたので、家族に明かしたくらいですので。。。
Commented by ロンドンの椿姫 at 2010-08-06 03:57 x
>12月のロンドン行きは、まだ家族の様子見の段階なんです。

了解です。でも、切符代も安いことだし(ショルジャルは18ポンド弱、バルトリは40弱)、是非前向きに考えて下さいませ。ショルジャルかぶりつきは残り1枚となりました。galahadさんとレイネさんってとても雰囲気が似てらっしゃると思うので、きっと気が合いますよ。

>9月にウィーンに行くことも、ようやく先週、カード支払いでばれたので、家族に明かしたくらいですので。。。

すみません、高い切符代を立替て頂いてしまい、恐縮です。
Commented by レイネ at 2010-08-06 06:36 x
ロンドンの椿姫さま、galahadさんとは好みが合いそうな気がしていましたが、わたしたち雰囲気も似てるんですか。。。

いえ、オペラの切符代は、ばれなかったんですが、オーストリア航空とウィーンのホテルの支払いで、ボロが。
あんまり遠出すると、遊びまわってると思われて顰蹙を買うので、主人が遊びで留守の時期を狙って出かけるんです。それなら、どっちもどっちだから。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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