デルフトの眺望

このところ毎週、デルフトに出かけている。長男の部屋探しのためである。
デルフトは、隣のデン・ハーグやロッテルダムに比べ、町自体が小さい。
しかし、世界中から学生が集まる工科大学があるから、学生数が人口の割に多い。
貸し部屋の供給に対して需要が大幅に上回るから、なかなか気に入ったものは見つからない。

デルフトでは、部屋探しに関して、学生の自治権が非常に強いのが、第一の困った点だ。
つまり、キッチンやバスルームやリビングをシェアするタイプの学生アパートの場合、空き部屋ができても次の住人を決めるのは、現在そこに住んでいる学生なのだ。大家は基本的に関知しない場合が大部分である。
ネットの空き部屋広告に対して、自分を売り込むメール(写真つき)を送り、そこに住む学生達のお眼鏡に適うと面接に呼ばれる。そこでまた自己アピールして、うまくいけば、部屋に住まわせてもらえるという仕組みである。
これが、まるで就活と同じくらい大変だ。20以上応募しても、面接にこぎつけたのは2つだけだった。

次に極少数だが、不動産周旋屋の物件で出ているものもある。この場合なら、借り手が気に入ったものを選ぶことができるが、絶対数が少ない。しかも、基本的に専用のキッチンやバスルームが付くから、値段は高めになる。
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第一の方法では、全く埒が明かないので、第二の方法に切り替えた。
2週間前に見せてもらった部屋はまあまあだったが、他に比べようがないので即決しなかったが、そんな悠長なことをしている間にすぐに売れてしまうのだと、後になって知った。

先週の木曜日に、周旋屋とのアポを4時に取りつけた。2時に学生住人が新人住人を決める部屋の面接があるから、組み合わせるにはいい、と思ったのは、甘かった。
マーストリヒトからデルフトには電車で3時間近くかかる。昼前、電車に乗っていると、周旋屋から「今日お見せする予定だった部屋は、今、借り手が決まりました」と電話があった。
「それでは困るから他にないのか」と問うと、空きそうなのがあるから、翌日連絡するという。
翌日金曜日に、部屋が空くことがはっきりしたので、月曜日に見学アポを取った。その際、わたしたちが一番最初に見る権利(すなわち最初に決定できる)を主張した。
そして、今日、またデルフトに行ってきた。

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マリア・ファン・イェセ教会のある並木の通りで、マルクト広場から程近く、お店も多い一等地だ。駅にも徒歩10分。
前回、たまたま見つけて入ったこの教会は、デルフトには数少ないカトリックの教会で、祭壇など装飾が多く、ロウソクも灯されて、普段見慣れた作り。入場料も取らず、「この教会の維持には1日に127ユーロかかります。皆様の浄財で賄いたく、よろしくお願いします」という、清廉な姿勢に心打たれ、財布の中の小銭を全部寄付してきた。
その心意気が神に通じたのだと思った。

今日案内された部屋は、割と立派なキチネットがあるストゥディオで、広告のよりずっと広い。
値段も思っていたのより160ユーロも高い。目をつけた広告の部屋の隣の部屋だった。
目をつけた広告のは、既に借り手が付いていたのだという。またしても無駄足か、とがっかり。

わたしたちが探しているのは、こんな立派なものではない、キッチンもバスルームもシェアでいいのだ、と強調しても、そういうのは、なかなかない。しかし、今日という日は絶対に無駄にしたくないから、食い下がった。
すると、実は、凄く変わった作りの部屋が空く予定だという。
どこが変わっているのかと問うと、トータルは15平米だが、7,5平米の部屋が二つで間に専用トイレとシャワーがある。しかし、その2部屋は廊下の端と端に位置しているから不便なため、格安だという。
まだ人が住んでいるが、とにかく粘って、今日中に見せてもらうことにした。どんなにヘンな部屋でも覚悟が出来ていた。どんな部屋でもいいから、何か確保してからヴァカンスに行きたい。デルフトに基盤さえできれば、新学期が始まってから、またゆっくりと時間をかけて気に入った部屋を探せばいいのだ。

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    マリア・ファン・イェセ教会の天井には、ゴシック窓の絵があって可愛い。

そのヘンな部屋というのは、思ったほど変な部屋ではなく、道路に面した表側にキチネットのある部屋、裏側に寝室、その間がバスルームで、それぞれが廊下で繋がっているが、離れているというだけだった。
しかし、そのロケーションは抜群!キチネットのある部屋の割りと大きな窓から、フェルメールの「デルフトの眺望」をすこし東にずらした風景が広がるのだ。眼下に小さな公園と運河と跳ね橋と、絵にも描かれた東門がほぼ正面にさえぎるものなく見える。
息子は、「デルフト随一の眺めのいい部屋だ」と、大乗り気である。即決した。

「しかし、最初の部屋のどこが気に入らなかったんです?」と周旋屋が聞くから、
「立派過ぎるのが気に入らないの」と答えた。
「学生には苦労させろ、というお考えなんですね」と言うから、
「でないと、親が苦労するはめになるから」と言うと、「もっとも至極の名言です」と。

デルフト随一の眺めのいい部屋の家賃は、月額245ユーロと超破格値で、予算を大幅に下回り、今日最初に見た部屋の半額である。
親子ともども満足だ。これで、ようやく安眠できる。

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     今日はカメラを持っていかなかったので、「デルフトの眺望」の写真なし。
     前回撮った、ベーステン広場に真ん中に立つカラフルな牛の像。
     広場には大きなプラタナスが15本ほど。その周りはカフェのテラス。
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by didoregina | 2010-07-06 01:09 | 旅行 | Comments(11)
Commented by Mev at 2010-07-06 09:30 x
身につまされるおはなしです。 うちの長男も間もなく受験で、合格してくれれば下宿探しをする予定です。(不合格だと予備校の寮に住まわせる。予備校の寮は適度にカンヅメ)。もっとも、日本の首都圏で下宿探しとなると、「トイレ共同、風呂なし,眺望どころか窓を開ければ鼻先に隣家の壁」というものか、あるいは「オートロック&セントラルヒーティングの高層マンション,賄い付き」という超デラックスの2極端のパターンという畏れが。。。郊外でも家賃は高いですしね。

デルフトで学生生活とは、うらやましいことであります。
窓から見えるのはフェルメールの絵のような?
Commented by sarahoctavian at 2010-07-06 14:27 x
デルフトは学生の町でもあるのですね。学生が多い町の雰囲気って好きだなぁ。希望に適った、しかも眺めのいい部屋が見つかって良かった。しかし、どこの国の学生も宿探しが大変なんですね・・・。今の世の中ドイツでも、大学も親元から通えるならそれが一番経済的という考えが広まってます。それは確かにそうだけれど、条件が許すのならば1人暮らし又はシェア生活して人生を学んで欲しいなぁと思う。そして、最初から便利すぎる環境を与えたくないというのに全く同感です。若者は耐久力ありますから、多少の不便なんて苦にならないでしょうし。
Commented by レイネ at 2010-07-06 15:19 x
Mevさま、この1ヶ月は、部屋探しのせいで、イライラ・とげとげになり、家族関係も悪化していました。とにかく、やっと決まってほっとしました。

首都圏なら、物件だけは多いから、なんとか見つかるでしょう。土地勘もあるから、割と探しやすいのではないかと。
その前に、受験という難関もありますから、ひとまずは、それをクリアですね。がんばって!

古いこじんまりした都市での学生生活は、おとなしい長男向き。
Commented by レイネ at 2010-07-06 15:28 x
sarahoctavianさま、高校という世間からはわりと隔絶された温室から、知らない町での一人暮らしという、環境の変化が、どう子供の成長に影響を及ぼすことやら。
非常におとなしい長男なのに、なぜか最初から、自宅から通える大学に行くつもりはなかったようです。
親も、子供が自立していくのは大歓迎。しかし、経済的には苦しくなる、というジレンマ。
経済力の強い親の場合、部屋探しなどせずに、ぽんとアパートや家を一軒買って一部屋に住まわせ、残りの部屋は貸す、ということもできますが。2,3人子供が同じ町の大学に行くというなら、貸さなくてもそのほうが安上がりだし、資産にもなる。でも、先立つものがないから無理だわ。
Commented by sarahoctavian at 2010-07-06 16:26 x
長男君の志、偉いと思う。楽をしようと思えばできるところを、あえて外の世界に飛び込もうとしてるんですね。素晴らしい人生経験になることでしょう。
ところで先ほど書き忘れましたが、昨日アムス行きの航空券も購入しました!まだ半年以上あるとはいえ、行くのは確定してるんだからWhy not?ってわけで。帰りは夜7時の便にしました。コンヘボから空港までどのくらいかかるか未調査ですが、これなら余裕よね?
Commented by レイネ at 2010-07-06 19:00 x
sarahoctavianさま、かに座の長男は、こちらでは早生まれだし、同年齢でも男の子は女の子より子供っぽい気がするので、親としてはついつい色々口出し・手助けしてしまうの。昨日18歳になったことだし、これからはオトナとして扱わなければ。

コンヘボから空港まではバスだと30分以上かかると思います。地元民だったMevさんが、その辺はお詳しいかと。時間に余裕があれば、出待ちもできるかも?

わたしも、ウィーンのオペラ・チケットとホテルは予約したので、早くフライトも決めなくちゃ!
Commented by Mev at 2010-07-06 19:02 x
男は18歳になったら家を出るべし、と思っています。親も懐具合は苦しいけれど、外に出してやることが務めと思っています。勉学だけでない、生きていく能力を身につけるときですよね。学生時代って。

横レスですが、コンセルトヘボウからスキポール空港へはタクシーで30分ほどでしょう。コンヘボのチケットブース側にタクシーが待っている場所あります。値段は30ユーロちょっとというところかと。
トラムを使うなら5番でZuid WTC(World trade center)へ行き、そこから電車でひと駅でスキポール。安いです。しかもトラムはコンサートチケットがあればただで乗れます。ただ、時間が読めません。変なところでトラムが止まると泣きますよね。タクシーもあんまり流してないし。でも2時間以上余裕があればまず大丈夫でしょう。
Commented by レイネ at 2010-07-06 19:20 x
Mevさま、生きていく能力を身に付けるってのが、なかなか難しい感じです、長男を見ていると。今までは、勉強さえできたらスイスイ来られたけど、これからは困難・試練の繰り返しでしょう。部屋探しの苦労が、その最初の関門でした。

コンヘボ横からスキポール空港バスが出ているはず。5月に泊まったホテルの宿泊客コメントを読むと、それが理由でホテルを選んだ人が多かったので。バスなら、乗り換えなしだし、安そうだし便利。電車だと、荷物持って駅のホームに行くのが結構大変です。
Commented by sarahoctavian at 2010-07-06 20:24 x
レイネさん&Mevさん、ありがとう。アドヴァイス今後ともよろしくお願いしますね。今、コンヘボに近くてしかもリーズナブルな宿探ししてたんですが、やはり70ユーロくらいは覚悟ですかね。。。日本人経営のホテル・ヴェルディなんてのもありましたが(ご存知ですか?)、週末は2泊以上のみ可だって。さらに調べていくと、劇場から徒歩1分の裏道にいい感じのB&Bを発見。前金払えってのが気に食わないけど、マークしました。ちなみにレイネさんが以前お泊りになったというホテルはどこですか?
Commented by Mev at 2010-07-06 21:54 x
おお,バスはあんまり使わなかったですが、ミュージアムプレイン(コンヘボ前広場)から197番の緑のバスだったと思います。ただ、バスの場合、スキポール空港のターミナル手前の長期駐車場で止まって乗り換えることもあるので(乗り換え便は頻繁に来ます)、スキポールナントカと言って下ろされても、ターミナルビルが見えない場合、空港に行きたいといえば、あれに乗り換えろと運転手が教えてくれるでしょう。乗り換えても合計で1時間ほどみておけば到着できるはず。バスがストしているとき(よくあるパターンで、20分待ってこなければバスはやめたほうがよい)は、前述のトラム+電車(NS)で早ければ40分ほど。
あのへんのホテルは安くても危険ってことはないです。ボロいかもしれないけど、ロケーションがいいほうがいいですもんね。50~70ユーロくらいじゃないでしょうか?シーズンオフだし。
Commented by レイネ at 2010-07-07 00:22 x
Mevさま、sarahoctavianさま、コンヘボ付近は、アムスの中ではかなり安全な地域ですよね。ただ、ヨーロッパの中でも、アムスほどホテルのコストパフォーマンスが悪い都市はなかなかない、と思えるくらい、狭くて古いのにこの値段?というのが多いです。きっと、もっと料金が高かったらいいのだろうけど、わたしが泊まれるクラスの値段だと、ろくなホテルがありません。
アムスでは、フォンデル公園やP.C.ホーフト通りやミュージアム広場付近に宿泊することが多いですが、どれも似たり寄ったりで、一長一短。
サラ様コンサートの時泊まったBoutique Hotel Kasteelenは、コンヘボに近くてきれいで気に入ったけど、ツインだったのでシングルはわかりません。ここ、なぜかBooking.comでの評価が低めですが。
コンヘボに直に隣接するホテルにも泊まったことがあります。水回りがひどかったし、トラムの音がうるさかった。
5月には、コンヘボの道路はさんで向かいのすごい安ホテルに泊まりました。値段以外は、お勧めできる内容ではありません。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
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音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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