デュモーが歌う「オルランド」

日本では発売が延期になってしまったらしい、マルゴワール指揮でデュモーがタイトルロールを歌う「オルランド」が、ドイツアマゾンから速攻で届いたのは、もはや2週間近く前である。
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なかなかレビューが書けなかったのは、この盤にはイタリア語の歌詞も英語その他言語の対訳も全く付いていないからだ。レーベルのサイトからダウンロードできるとジャケットには書いてあるが、ダウンロードできるのは今のところ写真のみ。ためしに他のCDをクリックすると、歌詞がダウンロードできるものがあるから、もしかしたら「オルランド」は対訳が出来上がっていないのではないか。それで、日本発売が遅れているとか?ううむ、着々と進みつつあるらしいヘンデル対訳プロジェクトに、「オルランド」もぜひ入れてもらいたいものだ。

いずれにせよ、わたしにとってこのCDは、デュモーがタイトルロールを歌うという点が最重要ポイントである。
なぜかというと、彼がトロメオ・イメージ脱却を図るには、この「オルランド」は、まことに的を得た役柄とアプローチであるからだ。
それでは、まず、トロメオとオルランドのキャラクターを比較してみよう。

トロメオといえば、権力志向、ずる賢く卑怯で、奸智に長けるが、どこか間が抜けていて、結局のところ甘やかされて育ったボンボンなのだ。皇太子の弟、みたいな感じで、帝王としての教育がイマイチ徹底されていないから、のんびりおおらかなところもあり、基本的に楽天的である。物事の見極め方が甘い。だから、その両極端の性格が内面でせめぎあい、一種独特のキャラクターを形成している。
そういうヒステリックでエキセントリックなトロメオを演じ歌ったデュモーは、嫌なヤツとしてのトロメオを印象付けるのに成功した。

一方、オルランドのほうは、エキセントリックという点では、トロメオに負けてはいないかもしれない。しかし、それは彼の育ちや本性からくる性格ではなく、彼にとってあまりに厳しく不利な状況の産物なのである。
辺境の地での異教徒との戦いという使命によって、見も心も疲れ果てていたであろう。もともとロマンチストでメランコリックな性格だったとも思える。愛か騎士としての使命かの板ばさみに悩んでいた。しかし、決定打は、何と言っても愛する人の裏切りである。自分は悪いことをしていないのに、愛するアンジェリカは、別に男を作って駆け落ちをしようとしている。それがきっかけで、欝が狂気に変貌した。

その場面は、ミヤ様「オルランド」の動画がわかりやすい。


ミヤノヴィッチ演じるオルランドは、舞台が精神病棟というせいで、最初から狂という病状が明らかにされている。騎士としての使命か愛を取るかというロマンチックな悩みというより、欝と躁との間を行ったり来たりしている。
ただ、このアリアを歌うミヤ様の声には、なぜか精彩さが欠ける。特にコロラッチューラに滑らかさがなくブツ切れの音の連続だ。リズム感が悪い。細すぎて体力のない彼女には、この役は重すぎたのか。

上記を踏まえたうえで、デュモーによる同じアリアを聴いていただきたい。


どうだろう、この力強い躍動感と歯切れのよさは。騎士としての本領は失わずに、嫉妬に狂う男を見事に表現している。さすがアスレート系のデュモー選手である。息切れもせずに、見事なコロラッチューラを披露している。ミヤ様同様ライブ録音なので演技もしながら歌っているのに、この違いは、男女の体力の差から来るのかもしれない。
伴奏も、風雲急を告げるかのようで、事態の深刻さが明瞭である。
このCD中でもクライマックスで、出色の出来だと思う。

ああ、だからこそ、動いているデュモーを見たい!DVDになっていないのが残念。

デュモーの肉体美は、フラームス・オペラの写真を見て我慢してもらおう。
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    「ジャゾーネ」最後のシーン。
     考古学の遺跡発掘現場が舞台という
     始まり方だったので、登場人物は
     発掘物として箱に入れられる、という
     きちんとしたエンディング。
     しなやかなデュモーの体に注目のこと。


「オルランド」の躁状態を表すアリアFammi combattere を聴くには、ミヤ様の動画がいい。第一幕での、ミヤ様の本領発揮。コロラッチューラも素晴らしい。


愛と戦いの使命を両立させるぞと、意気軒昂のオルランド。なのに、どこか病的でもある。

デュモーも、元気いっぱい。ただし、ヴィヴラート利かせすぎかも。


全体を通して、デュモーのオルランドは、ミヤ様よりは病気の度合いが軽い印象である。
何と言っても、気品を失わないで力強く歌えるというのがデュモーの長所だ。
それは男女の体力差から来るのだけではない。筋力鍛錬を怠らないデュモーの勝利なのだ。
彼の歌声のノーブルさは、そのパワーとあいまって、ここに理想のオルランド像を築き上げたと言えよう。だから、どんでん返しのハッピーエンドも生きるのだ。愛情面では負けてきっぱりと身を引き、騎士としての本懐に戻る、という男らしさが充満するオルランドは、デュモーでなければ表現できないだろう。
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by didoregina | 2010-06-11 10:44 | バロック | Comments(4)
Commented by REIKO at 2010-06-12 02:28 x
うんうん・・・デュモー選手、これはいいですね!
やっぱ男の子は違う(笑)というか、スピード感とパワーがすごいですね。
ただライブのせいか、仕上がりの緻密さがイマイチで、オケに対して先に走りすぎたり、ちょっと合わない部分が散見されますが。
ミヤ嬢のオルランドも、上手くやってるとは思うんですよ。
あの無表情で能面みたいな顔でずっと歌うって、演技としては超難しい部類に入ると思います。
ただそれを見ていて面白いか?っていうと微妙で、カーテンコールで彼女が、普通のお嬢さんぽい素敵な笑顔で笑った時に、「ホッ♪」としちゃうんですよね。
やっぱ女性って、男性よりも表情が豊か(に見える)のが特徴なんで、それを殺しちゃう演出はもったいないな・・・と思ったことです。
Commented by レイネ at 2010-06-12 06:14 x
REIKOさま、このCDはデュモーで持つ、と言い切ってもいいと思います。他の歌手がイマイチで。ゾロアストロはもさっとしたオヤジみたいだし、アンジェリカの歌声には全く魅力が感じられず、めどーろは全く印象に残らず、ドリンダが出てくると少しほっとするというくらいで。登場人物が極端に少ないんだから、もう少しいい歌手を揃えてもらいたかった。オケ演奏は、歯切れがよくてライブらしい熱さも感じられますが。
疾走するデュモーに対して、ミヤ様の歌は時にオケに対して遅れ気味だなあと感じました。彼女、あんまり速いパッセージは苦手なのかも。演技面では、心を病んだオルランドという役作りは上手い、と思います。
デュモーのオルランドの演技は、数少ない写真から想像するほかないのですが、しなやかな体の動きと、豊かな表情で、素顔はあっさり地味なのに舞台では海老様みたいな求心力、かと。舞台栄えする男の子です。
Commented by アルチーナ at 2010-06-12 15:02 x
確かに、演奏も含めてデュモー選手の方が勢いもあるし、映像がなくても感情が伝わってくる歌で良いですね!特にE questa mercedeの方!!

ミヤ様は当初、やはり線が細いと言うイメージを持っていたのですけれど、ヘンデルのアリア集は結構好きで何度も聴いています。でもあのCDはオケの演奏、遅いんですよね。あまり、速いコロラトゥーラは得意では無いのかしら・・?でもFammi combattereで聴かせる低音は素敵です♥

そうそう!フラ様が出ていた『テゼオ』のCDもライブ録音で、歌手も全てに置いて良いとは言い難い出来、なんですよね・・実演なら、結構楽しめそうなんですけれど、CDだとちょっと・・・物足りない歌手が・・という感じ。
なかなか、オペラのCDも難しいですね。

でも若手がタイトルロールをやろうとするとそうならざるを得ないのかもしれませんね・・・
Commented by レイネ at 2010-06-12 16:23 x
アルチーナさま、ようやく宿題提出し終わり、ほっと一息ついてます。
このCDでは、マルゴワールによるヘンデルオペラと「オルランド」の紹介、各トラック・タイトル(インチピト)、各幕(CD別)のあらすじ、登場人物の説明、歌手紹介だけしかブックレットに入っていないのです。それらをつき合わせるためページを行きつ戻りつしながら、この歌はこういう場面で多分こんな内容なんだろうなあ、と想像しつつ、頭の中で舞台を構築しながら聴かなきゃいけなくて、疲れました。イタリア語歌詞と英独仏語対訳があれば、もっと楽だったのに。
オペラ全幕ものCDは、作るほうはライブ録音だけでいいけど、聴くほうは想像力を駆使しないといけないので大変。だから、歌手に相当魅力ある人を揃えないと。。。。やっぱり、オペラは舞台を見てナンボ。

若手・フラ様チェーザレでベテラン・バルトリ姐クレオパトラという凄い組み合わせもあったじゃあありませんか。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
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