Savall meets Koopman

サヴァールとコープマンが共演するコンサートなんて、空前絶後。古楽コンサート今シーズンのトリを飾るにふさわしい。というわけで、会場の聖ヤン教会には、早くから聴衆が詰めかけ予想以上の盛況だった。

c0188818_2212361.jpg2010年6月5日@Sint Janskerk in Maastricht

Diego Ortiz (ca.1510 - 1570)
Folia IV
Passamezzo antico I
Passamezzo moderno III
Ruggiero IX
Romanesca VII
Passamezzo II

Tobias Hume (ca.1579 - 1645)
A Souldiers March
Captaine Hume's Pavin & Calliard
Harke, harke

Johann Jacob Froberger (1616 - 1667)
Toccata nr. 2 in d-klein
Tombeau de Mr. Blancrocher in c-klein

Johann Sebastian Bach (1685 - 1750)
Sonata II BWV 1028 in D-groot
Adagio - Allegro
Andante - Allegro

pauze

Marin Marais (1656 - 1728)
Prelude
Muzettes I & II
Menuets I & II
La Sautillante

Louis Couperin (ca.1626 - 1661)
Chaconne in G-groot

Sieur De Machy (actief 2de helft 17de eeuw)
Prelude in D-groot

Marin Marais
Les Voix Humaines
Folies d'espagne

マーストリヒトでの(古楽)コンサート会場には、この聖ヤン教会のほか、聖母教会や聖セルヴァース教会、セレブルダース・チャペル、福音ルーテル教会などが使われるが、音響面では、この聖ヤン教会が一番好みである。マーストリヒトでは珍しいプロテスタントの教会で、ゴシックの赤く塗られた塔が独特。
プロテスタントらしくあっさりとしたインテリアでほとんど装飾らしいものもなく、広さと天井の高さがちょうどよく、コンサートにおあつらえ向きである。残響が少なく、わんわんと響きすぎず、かといって音が壁面や天井に吸収されすぎないのだ。安心して聴くことが出来る。

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         中央の説教檀前にしつらえたステージ。
         客席は、コの字型に取り囲む格好。

プログラム前半では、オルティスとバッハをチェンバロとヴィオラ・ダ・ガンバの二人が合奏し、ヒュームはサヴァール、フローベルガーをコープマンが独奏し、後半でも同じく、最初と最後のマレを合奏し、クープランをコープマンが、ド・マシーをサヴァールが弾いた。

c0188818_2257417.jpg

         チェンバロの蓋の上には
      If music be the food of loveの文字が。
         シェークスピアの「十二夜」の中の台詞。
         パーセルの歌曲にも同タイトルのものがある。
         チェンバロの制作年代と国は不明。

70年代にはこのコンビでよく活動していたようだが、最近はお互い別々の仕事に忙しく、スケジュール的に折り合わないから、ジョイント・コンサートの機会もめったにない、とのことである。
まあ、スケジュールうんぬんというより、二人の音楽的な方向が異なって行ったと考えるべきなんだろうが、何年かに一度は、この二つの彗星の軌道が交差する時期がある。お互いはるか彼方に遠ざかったかに見えても、軌道は楕円を描いているので、出会うときにはがっぷりと四つに組むのである。
そして、そのコンビネーションは抜群であった。しょっちゅういっしょに会ってるわけでもないのに、何十年か経っても昔の親友同士、すぐに話が弾み、離れていた年月を感じさせない。そんな印象である。
特に、前半最後のバッハでのアンサンブルは絶妙。この二人で2回も、バッハのヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタを録音しているようだから、手馴れたものかもしれないが。チェンバロもヴィオラ・ダ・ガンバも同じくらいの比重での演奏が丁々発止と進むのだが、まるで緻密で複雑な織物を鮮やかな手わざで縦糸と横糸を織り上げていく名人の仕事のような爽快さだ。二つの楽器の織りなす綾、その色と模様が目に浮かぶような気がする。(プログラム・ブックには、ソナタ2番BWV1027ニ長調と記載されていたが、BWV1028の間違いだと思う)

二人とも、特にこのバッハの演奏には満足したらしく、結んだ手を高々と上げ、聴衆の拍手に応えた。
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         満足げな二人。

休憩のとき、サヴァールは一旦舞台に戻ってヴィオラ・ダ・ガンバを置いていった。1697年ロンドンのバラク・ノーマン製作。美しい楽器。それをこんなに無造作に置いたままでいいのだろうか。触ろうと思えば触れられる位置。
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そして、サヴァールは通路を通って楽屋に行ったのだが、わたしは彼の前を歩いていた。びっくりしたのは、彼が小柄なこと。スペイン人だからそんなに珍しいことでもないが、コープマンも彼と同じくらいだから、コープマンはオランダ人にしては、異常なくらい小さい。多分二人とも160センチそこそこ。

独奏では、ヴィオラ・ダ・ガンバの方が聴いていて楽しめるから、チェンバロより分がいい。
特に、ヒュームの曲が面白かった。このイギリス人作曲家は船乗りで大佐を名乗り、なかなか興味深い人物だ。西洋音楽では初めてコル・レーニョ奏法指示の曲を作ったそうだ。



アンコールでは、フランスの(多分プロヴァンス地方の)トラッドのインプロヴィゼーションをトンとジョルディが。インプロヴィゼーションというとジャズのアドリブ・セッションを想像してしまうが、この二人の演奏した曲は対位法的な音楽で、これでもインプロヴィゼーションと呼ぶのか?と思うほど緻密なアンサンブルだった。音楽的には二人は仲良しなんだなあ、とこちらは思わず同窓会に招かれた教師のように目を細めてしまうのだった。
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by didoregina | 2010-06-08 16:41 | コンサート | Comments(12)
Commented by takataka at 2010-06-09 16:05 x
おっと、、こんなコンビが出逢うとは想像もできなかった。
70年代にはアンサンブルや収録をしていたなんて知らなかったです。
手持ちのものの音源のクレジットをしっかり見なければならない。
(いつものことです、汗;;)

それにしても、うらやましいですね。こんな組み合わせの演奏に接することができるなんて~~。

「トンとジョルディ」の教師のような眼差しですか?
気心が知れた、旧友との再会に乾杯!
Commented by Mev at 2010-06-09 20:55 x
まあ、うらやましいっ! なんて素敵なコンサートでしょう!
コープマンは生で聞きたいと思っているのですが、この二人の組合せで聞くことは果たしてできますかどうか。。。。
ビオラ・ダ・ガンバは美しい楽器ですよね。
Commented by レイネ at 2010-06-10 00:22 x
takatakaさま、80年代以降二人は異なる方向に進んだので、現在の在り方から見ると、ちょっと考えられないコンビですよね。でも、予想以上にしっくりぴったりのアンサンブルでした。
そして紡ぎだされたのは、瑞々しい音楽でした。二人とも、年齢を感じさせない若々しい演奏だから、逆にわたしだけ年を取ったような気がしてしまって。。。

Alia Voxプロモーション月間で安くなってるので、「イスタンブール」を買おうかと。
Commented by レイネ at 2010-06-10 00:27 x
Mevさま、まあめったに聴けないコンビのコンサートだと思います。
師匠主催のピアノ・リサイタル(先日エリザベト王妃コンクールに入賞した日本人の)が同日にあったのに、振りきってこちらに行ってのですが、価値あるものでした。

ヴィオラ・ダ・ガンバは、無伴奏の独奏に堪えられる美しい音色の楽器ですね。
Commented by REIKO at 2010-06-10 17:41 x
この二人って同じ関西でも(笑)、コープマンが大阪でサヴァールが京都みたいな感じじゃないですか。
大丈夫かなあ?なんて思いますが、どこか根底で互いに触れ合う部分があるのでしょうね。
記事中の「二つの彗星の軌道が」から「がっぷりと四つに組むのである」の部分、名文です♪
だいぶ前ですが、コープマンは来日公演を2度見たことがあります。
でも、そんなに小柄だとは気づきませんでした。
ニコニコ笑いながら、大股でヒョコヒョコ歩いて舞台に出てくる姿、今も変わってないでしょうかね?
Commented by レイネ at 2010-06-10 18:34 x
REIKOさま、なんたって関西系のトンとジョルディですからね、独特の世界を形成してました。この二人を「やす・きよ」に例えたCD評を読んだことがあるような気がしますが、それ、もしかしてREIKOさん?

オランダでは小人並みの背丈のコープマンのサイトを見ると、どうやら補助金がもらえるようになったようで、よかった。しかし、この人の怒った顔って想像できないわ。。。人がよすぎて損してるような感じ。
Commented by さわやか革命 at 2010-06-10 23:02 x
サヴァールとコープマンですか……。この先、両者がそれぞれ来日することはあっても、二人一緒のステージは見ることはできないでしょうなあ。
しかしこの二人、音楽面では互いに譲らずみたいな印象があるんですが、若い頃一緒にやっててケンカとかしなかったのかしらん、と思ってしまいます。どちらかがボケ役に徹してた?
Commented by ろき at 2010-06-11 00:38 x
素敵ですね~、ロケーションといいプログラムといい。
バッハを聴いてみたかった。
アンコールも、盛り上がったことでしょう。
古楽は特にライブ演奏が体に染み(?)ますよね。
Commented by レイネ at 2010-06-11 00:44 x
さわやか革命さま、二人の個性が激突してカオス炸裂!になるのか、と期待したら、全然そんなことありませんでした。個性云々を超越して、ぴったり息の合った音楽世界という感じ。どちらも相手を立ててる雰囲気で。
合奏と独奏が半々というプログラム構成がよかったかと思います。どちらかが伴奏(ツッコミ)に徹するようなパートがないから、ボケ2人で力関係が対等だったと、いうのがコンサートの成功要因。
Commented by レイネ at 2010-06-11 01:11 x
ろきさま、普段は、カーテンコールやアンコールの後などでも写真を撮る人はあまり見かけないんですが、今回は写真を撮ってる人がやたら多かった、ということからも、このコンサートのレア度がわかります。
この二人のバッハ「ヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタ集」はお勧めです。

そうなんです、CD買うお金を、ライブに回したほうが満足度がずっと高い!今回のチケット代は30ユーロで、古楽コンサートにしては高めだったのですが、十分に元取れました。
Commented by アルチーナ at 2010-06-11 10:33 x
そうですか!関西系なんですか!なかなか生では勿論の事、CDでも聴けていないので・・今度図書館で探して聴いてみます。
私はREIKOさんのように文学的な所に関心を寄せず、昔一緒に演奏していたが方向性が変わって離れていったけれど、年を経てまた共演しているロックアーチストを思い浮かべてしまいました・・トホ・・

それにしても素敵なロケーションで良い演奏。
シーズンのトリを飾るのに相応しい演奏会でしたね!!
写真を見ると響きそうな教会に見えますけれど残響もそれ程多くないと言うのもいいですね。
Commented by レイネ at 2010-06-11 15:16 x
アルチーナさま、この二人で録音しているCD、この機会にオトナ買いしようと思っています。といってもあまり沢山はない。
どちらかが指揮して、片方が演奏するんだったら、音楽的に反発が起きそうな気がしますが、二人だけの合奏と独奏だったので、上手くまとまりました。

当初、聖ヤンの隣の聖セルファース教会が会場だと思っていて、「響きすぎていやだな。ベルギーのコンサート会場のほうに行こうか」とも考えたのですが、聖ヤンは古楽や現代音楽のコンサートに最適の音響なので、ここにしたんです。ここで「ヨハネ受難曲」やメシアンやストックハウゼンのピアノ曲を聴いた限りでは、響きの具合が丁度よかったので。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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