卯月は花見月

日本は寒かった。
2週間強の滞在中は、強風、連日の雨、真冬並みの寒さと所によっては雪に見舞われ、しかも後半はアイスランドの火山噴火の影響で、ヨーロッパに無事帰ることができるのだろうかという不安に苛まれた。
しかし、人生万事塞翁が馬。悪いことばかりが起こるわけではない。思わぬメッケモノにも遭遇した。寒さのせいで、桜満開の期間が例年になく長かったのだ。
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          期待してなかったから、うれしさもひときわの満開の桜。


今回、絶対に見たかった花がある。牡丹である。
高校の古典の授業では、花といえば桜、と習った。しかし、わたしにとって、花といえば、牡丹、芍薬、チューリップである。どうも、肉感的な花が好きなのだ。
牡丹園のある可睡斎という寺に出かけた。しかし、屋外の牡丹はまだ一割の半分の5分咲きだった。あまりに開花が遅れているため、入場料を取られなかったのはラッキーというべきか。そうこうするうち、牡丹にとっては酷な雨も降り出した。
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             雨にぬれる牡丹

だが、この寺院には屋内牡丹園というものもあるのだ。精進料理を予約しておいたら、寺院内部拝観および屋内牡丹園入場はタダだった。一つ悪いことがあると、何か別のもので帳消しになる、というのは、やはり仏の功徳か。
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      旬の筍と蕗がたっぷり。胡麻豆腐は白とピンクの層で桜を表現。
      手抜きしていない料理を個室で頂くから、リッチ感抜群。

この寺には、日本一と自慢する東司、すなわちトイレがある。何が凄いかというと、トイレの真ん中にこういう立派な木像が立っているのだ。しかも、寺院のトイレにしては珍しく、戦前から水洗だったという。
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          烏蒭沙摩明王(うすさまみょうおう)

拝観を終え、土産物など物色していると、見知らぬ人から声をかけられた。
地元の新聞のカメラマン兼記者であるという。牡丹園の写真を撮りに来たが、雨天のため見物客がいない。花だけで人物なしの写真では新聞に載せられないから、わたし達にモデル(というかサクラ)になって欲しいという頼みである。
そこで、数少ない開花している牡丹の後に立っての写真撮影となった。さすがにプロである、位置を変え、モデルのポーズに注文をつけながら数十枚は撮った。そのうちのベスト写真が、翌日の朝刊のなんと一面ド真ん中に載った。休刊日の翌日でよほど特ダネがなかったと見える。撮影の後、おしゃべりが弾み、ついでに撮ったスナップ写真ともども引き伸ばして送ってくれるとの約束もしてくれた。
驚くことなかれ、新聞に載った写真は大きく引き伸ばされ、それ以外の5,6枚の写真も実際に送られてきたのだった。

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       これは後日、天気のいい日に再訪し、わたしが撮った写真。


それから、熊野(ゆや)の長藤というものも一度見てみたいと、願っていた。能「熊野」で有名な熊野御前が植えたと伝わる樹齢400年の藤の花で、房は1メートル以上になるというものだ。
開花予定は4月下旬から。わたしが行った日は、正式オープンの翌日で、まだ2分咲き位。

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       確かに房は長いが、まだあまり花が開いていない。

東海道は池田の庄の娘、熊野は、平宗盛の寵愛を受け京に住む。母危篤の知らせが届き、暇を請いたい熊野だが、馬鹿殿宗盛は、熊野といっしょに清水寺に花見に行きたいと無理強いする。母の死に目を看取りたいという望みを歌に託し、その思いがようやく伝わるというストーリーで、能では人気絶大の演目だ。
ところが、わたしは10代の頃、三島由紀夫の「近代能楽集」に収められている「熊野」を最初に読んだおかげで、熊野というと、本歌とは違ってコケットで小悪魔的なファム・ファタールのイメージが植えつけられてしまった。

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        藤の庭園には、能舞台も設えられている。
        母お気に入りのグリーンの結城紬に葛布の帯。

いずれにしろ、熊野は実在の人物なので、熊野とその母の墓も、寺の境内にはある。
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寺から程近いところに、天竜川の池田の渡しがあった。
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by didoregina | 2010-04-25 23:43 | 旅行 | Comments(12)
Commented by アルチーナ at 2010-04-26 10:52 x
お帰りなさいませ!!そうそう、火山の噴火の報に際しては私も気になっておりました。そして・・本当に寒かったですよね・・
牡丹、綺麗ですね!!しかし精進料理がやはり気になります。美味しそうっ!
それからトイレも随分広そうですね。
Commented by sarahoctavian at 2010-04-26 14:41 x
すっかり春たけなわとなりました。お帰りなさい!火山灰騒ぎでレイネさんは今頃どうしてるかな~?と案じておりました。そのへんのこともまじえての日本滞在記を楽しみにしてます。
ニッポンのサクラや牡丹を満喫できて良かったですね。そういえば今年の春は(当地でも)ひんやりする天気のせいで花が長持ちだなぁと思ってたのよ。あ、サクラの花びらが舞うスキンも素敵。
Commented by レイネ at 2010-04-26 16:05 x
アルチーナさま、ただいま。今回もオフ会大盛況(4人だけだけど)でしたね。
可睡斎には、百合の苑もあり、牡丹の後はゆりが見事らしいです。境内には楓の木も多くて、秋の紅葉の頃もよさそう。精進料理は、心を込めて丁寧に作ってあり、お値打ちでした。名物のぬれおかきは、お餅みたいな食感で後引く味。寸又峡や丸子まで行っちゃうお二人ですから、ここにもぜひ足を伸ばしてみてください。
Commented by レイネ at 2010-04-26 16:10 x
sarahoctavianさま、ただいま!その節は、ご心配いただき恐縮です。火山爆発なんて天変地異だから、手をこまねくしかなく、イライラしました。
オランダに帰ったら、桜が満開で、花見も二度楽しめました。春爛漫、しかし、花粉症の季節でもあり、外出は自粛しないといけないのがつらいところです。
Commented by ろき at 2010-04-27 06:28 x
レイネさん、お帰りなさい。
日本を堪能しましたね~、桜も見られて羨ましい。
新聞に載ったなんて、きれいに撮ってくれただろうし、いい記念ですね。
ちなみにわたしも『熊野』は三島のを思い出してしまいます。
とんでもない娘ですよね(笑)。
Commented by レイネ at 2010-04-27 14:55 x
ろきさま、ただいま。例年ならいい気候の時節なんですが、恐ろしく寒い日本でしたのよ。
新聞に載った写真は、あくまでも牡丹がメインなので、人物はボケ気味。それでも、第一面だったので、すぐに気がついて、写真と記事をコピーしてくれた人もいました。。。。
近代能楽集では、ゆやという名前がとっても気に入ったのですが、今では彼女のキャラクターはうろ覚え。こういう風に男を手玉に取りたい、と思った気がします。
Commented by Mev at 2010-04-27 17:33 x
予定通りご無事にオランダに帰られてよかったです~。私の夫も一時帰国できました。あまりデータの蓄積がないのに噴煙が飛んでいるようだから危険にちがいないということで、運行差し止めになってしまった航空会社各社は相当怒っているようです。だけど過去にエンジンが止まったことがあるというなら、やはり噴火直後の運行は怖いですよねえ。

長藤、すごくいいですねえ。そして着物姿がまた素敵です。
Commented by レイネ at 2010-04-27 22:58 x
Mevさま、ご主人様もなんとか帰国できて、よかったですね!でもご自宅のあるフェーンはスキポールから近いから、空港に足止めってことにはならないのがまだしもの救いでしょうか。
わたしは、エンジンがストップする危険性があるなら、運行しないでほしい、と思ったクチです。ただ、いつから飛ぶのか、飛ばせないのかはっきりしなかったのが、イライラの原因でした。

オランダに到着したら、気温18度だったので、暑いと感じました。オフ会の日の東京は特に寒うござんしたね。
Commented by takataka at 2010-04-30 06:38 x
桜・藤・牡丹と日本を満喫されて帰国されたんですね。
火山灰の影響で飛行機の運航ができない状態が続いたので
日本から出国できないじゃないかと、心配しておりました。ご無事でなによりでした。
Commented by レイネ at 2010-04-30 15:07 x
takatakeさまにも、ご心配いただき恐縮です。
やはり日本の春は格別です。ただ、長雨が続き予想外に寒くて、着たきりすずめになってました。
日本はGWですね!一年で一番いい時候。どこかにお出かけのご予定?
Commented by momoneko at 2010-05-03 15:29 x
サイトの雰囲気変わりましたね。桜散る風情がしっとりとして素敵です。ちょうど同じ時期にご帰国されていたというので興味深く記事を拝見。桜に牡丹に藤…。花三昧のご旅行だったのですね。私も奈良で、樹齢700年以上とされる古木、「砂ずりの藤」で有名な春日大社に行ってきたのですが、花はまだ堅くその蕾を閉じていました。
Commented by レイネ at 2010-05-03 19:27 x
momonekoさま、スキンを変えただけなんです。もう少しの期間、これ使えますよね。
京都や奈良にも行かれて、日本の美を堪能されたことでしょう。いいな。ブログ記事、楽しみにしています。
今丁度、こちらでも藤が盛りです。散歩道やスポーツ・ジムの裏庭など、そこここに。

さて、16日にアントワープに行かれるようでしたら、業務連絡メールくださいね。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
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音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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