チェチリア・バルトリの「神への捧げもの」

昨年秋にリリースされたバルトリのCD、Sacrificium(邦題「神への捧げもの」)をようやく購入した。リリース直後に試聴し、気になりつつも、今まで放っておいたのに、ついに買ってしまったのは、デパートの期間限定セールで10ユーロになっていたからだ。もちろんデラックス版ではないので、ボーナス盤もカストラート事典もついていない、そっけないものである。

食わず嫌いは何にしろよくない。特にバルトリ姐の場合、ナマで聴けるチャンスが今年は巡ってきそうな予感なので、今のうちから予習して歌声に慣れておくのがよかろう。

そんなにびくびくしなくてもよさそうなものだが、彼女の迫力には、聴く前からこちらは萎縮気味であった。

そして、実際に聴いてみると、やはり第一曲目からすさまじい技巧のコロラッチューラ全開で、CDから唾が飛んできそうな雰囲気だ。アントニーニ指揮のイル・ジャルディーノ・アルモニコも、ビシバシという感じの濃いめの演奏で飛ばし、バルトリ姐に負けていない。
この迫力に呑まれたら、聴くほうの負けである。

こういう歌唱と演奏には、ケルメス姐のCD同様、何度も聴いて慣れるしかない。

何度も聴いた。歌詞も読み込んだ。
すると、どうだろう、なかなかにイケルではないか、と思えるようになった。反復学習というものは、だから重要なのだ。

何かいいかというと、アップテンポで走り抜ける曲と、スローテンポでゆったりと歌い上げる曲とがほぼ交互に収録されているから、緩急のメリハリが利いて、聴くほうもほっと一息つける。

今回バルトリ姐による世界初録音という曲が多く、なじみのないラインナップなのだが、わたしが気に入った曲は、大抵ポルポラ作曲のものだということに気付いた。
特に、スローな曲に優れたものが多いと感じたのだが、動画付では見つからなかったので、CD第一曲目のCome nave in mezzo all'onde (Sifaceより)



波間にたゆたう舟のように
お前の心は千千に乱れる。
怖れることはない、
熟練の舵手がお前の行く手を導くのだから。

嵐の最中には
わが愛こそお前の求める慰め、
澪標、星、そして心安らぐ港となろう。



この動画のよさは、ナポリ郊外のバロックの宮殿、ヴェルサイユとも比せられるカゼルタを舞台にしていることに負うところも大きい。
大理石でできた大階段も、バルトリが歌っている宮殿内の劇場も、雰囲気抜群で、彼女のこだわりがよく表れている。
学究心溢れる彼女のことだから、埋もれた名曲を掘り出したり、それに適した歌い方や、動画にぴったりのロケーションや衣装までよくよく考えられている。CDジャケット写真しかりである。
こういうアプローチは本当に好ましい。
こういった一連のバルトリのバロック音楽界への貢献は、後世にも語り継がれるだろう。
生きながら伝説化しそうなバルトリ姐を同時代で体験でき、恐れおののきつつも晴れがましい気持ちになる、そんなCDだ。
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by didoregina | 2010-04-04 12:20 | バロック | Comments(12)
Commented by sarahoctavian at 2010-04-04 20:25 x
このCDは未聴なんですが、レイネさんの仰ることよく分かります。私もよほどのことが無い限り、聴いてるうちに愛着が湧いてくる・しかも大好きになるCDが多いです。買ってしまった以上聞き込まねばって思いも手伝っても、どうにもダメな失敗も時にはありますけど(例えばカサロヴァ”様”のヘンデル集とか)。
バルトリ姐さんは確かに機関銃みたいなコロラチューラが人間じゃないみたいで怖いくらいで、こういうのをライブで体験したら凄いでしょうねぇ。来シーズンも来るんだったら(フランコ様従えて?)私も思い切って行ってみようかな。あ、それからケルメス姐さんのラヴァでもポルポラの曲とてもよかったわよね。この二人でコンサートしないかしらん。
Commented by Mev at 2010-04-04 23:47 x
おお、レイネさまもとうとうお聞きになったのですね! 圧倒されるでしょう? もう、「文句あっか?」というできで、ただただ聴いている方はひれ伏すしかないような勢いですよね~。私はど・しろうとなので、反復する必要はなくて、1回聴いただけでぶっとんでしまいました。
Commented by REIKO at 2010-04-05 00:36 x
まさに「唾がドバーッ!」的歌唱ですよね。(爆)
私も彼女が好きか?と言われると、「う~~ん・・・」な点もあるのですが、やはりこれだけ上手いと、感嘆せざるを得ません。
良く考えると、自分が最初に「バロック・オペラのアリア」というものを認識したのは、もう25年くらい?前ですがたまたまFMで流れていたバルトリが歌う、ヴィヴィアルディの「Agitata da due venti」でした。超絶技巧曲ですが、それをやはりこの動画のように、ものすごいテクと迫力で歌いきっていました。当時そんなに歌える人は、他にいなかったし、「ヴィヴィアルディのオペラ?そんなのあるの?」の時代でした。彼女の探求心と技巧・表現力があってこそ、埋もれたレパートリーも少しずつ日の目を見るようになってきたのでしょう。
そう言えばビリャソンも、バロックに興味を持ったのは、バルトリがきっかけ・・・と書いていたし。
Commented by レイネ at 2010-04-05 04:35 x
sarahoctavianさま、愛着が湧くというのは、大枚はたいて買ったCDだから、投資した分はいい気分として回収したいという気持ちから来る部分もありますね。何回聞いてもだめだと、それは格下げにするしかないでしょう。
機会があったらやはり、一度はナマで聴いてみたいと思います、バルトリ姐の歌声。しかし、高いのよね、チケットが。
研究熱心・勉強家の彼女も、ドイツ語だけはチャレンジできず敬遠、とインタビューで言ってました。別に、無理してドイツ語の歌にまでレパートリー広げなくてもいいわよね。
Commented by レイネ at 2010-04-05 04:40 x
Mevさま、はい、とうとう買いました。バイエンコルフのバーゲンで!
ジャケットやライナーノーツ写真のギリシャ・ローマ彫刻ポーズも決まってるし、とにかく勉強家でしかも趣味がよろしい、と感心しました。
最初数回聴いただけでは、あの迫力に気おされてしまいましたわ、わたし。
Commented by レイネ at 2010-04-05 04:56 x
REIKOさま、バルトリはテクニックが凄すぎなんですが、特に好きな声でも歌い方でもないので、敬して遠ざけていたんですが、ついにCD買いました。
このCDには記念碑的な意味合いがありますからね。
そして、Mevさん発見の「ドバー」は、これからもわたし達の間で語り草として残るでしょう。。。。

バロック声楽のパイオニアとしてのバルトリ姐には敬意を表しますが、歌手としての好みの問題とは別物、というのは人間の声が楽器であるからには仕方ないことですよね。だからわたしは今まで、積極的に聴いてみようという気になれなかったんですが、今回のCD購入も、実はマレーナ様がらみでの接点がきっかけです。

そうそう、ビリャゾンが歌ってるモンテヴェルディの「タンクレディとクロリンダの戦い」CD注文しようと思っています。
Commented by アルチーナ at 2010-04-05 08:51 x
バルトリ”ドバーッ姫”は、やぱり一度は生で聴いてみたいですね!
本当にチケット、高いんですけれど・・
先日、「禁じられたオペラ」も聴き返して見ましたけれど
この新譜はまた一段とパワーアップしているような気がしました。
Commented by レイネ at 2010-04-05 09:43 x
アルチーナさま、バルトリ姐またの名をドバーッ姫も、あまり声量のある人ではないようですね、ナマのオペラ舞台では。大体がそうですよね、バロック系の歌手は。
だから、テクニックで声量のなさをカバーできるというか、別のパワーを感じさせることができる彼女は、やはり大したものですね。(CDとDVDの印象しか知らないから、ナマだとまた別印象を持つかもしれませんが。。。)
Commented by sarahoctavian at 2010-04-05 20:44 x
そう、バルトリ姐のコンサートは高いんですよね~売れ行きも早いのも手伝って今までチャンスを逃してましたが。ミュンヘンでは一番キャパの大きいガシュタイクの大ホールのことが多く、安い席=はるか彼方=からだと豆粒だし(バロック音楽だと特に)声は届かないし・・というジレンマ。今年フランコ様と来る時は前の方で聴きたいんだけどねぇ。どうなりますか、当地ではまだ新シーズンのオペラ&コンサート情報は出てないんです。早く知りたい~。
ところで今朝私はレイネさんとアムスのサラコンサートに行った夢を見てしまいました。コンサートが長引いて帰りの飛行機に間に合わないっとか焦ってた。ぜーぜー。
Commented by レイネ at 2010-04-05 22:55 x
sarahoctavianさま、バルトリ姐は、9月にウィーンでマレーナ様も出演なさる「セメレ」で聴きます!とにかく、チケット・ゲットに全力投球の構えよ。でも、なんで4回しかないの、ぶつぶつ。。。

まあ、夢でお会いしたのね、わたしたち。実は、サラ様とロージー嬢のデュエットCD、まだ買ってないわたしです。ああ、許して!
ところで、マレーナ様のつぶやきによりますと、次回は2014年にモネ劇場出演!とありました。長いなあ、それまで待つのが。その前には、またアムスに来てもらいたいです。
Commented by ロンドンの椿姫 at 2010-04-10 04:22 x
バルトリを近くで聴きたい方、12月8日にロンドンに来て下さ~い!リーズナブルなかぶりつき席が何枚か確保してございますのよ。このURLで去年秋のコンサート記事に飛びますが、同じような席ですよ。
Commented by レイネ at 2010-04-26 00:18 x
ロンドンの椿姫さま、里帰り中だったため、コメントを認証制にしていて、なかなか反映されず失礼しました。
ロンドンに行きたしと思えども、ロンドンは遠し。。。って、実は全然遠くないけど、あまり遊び歩くのも気がとがめるので、家族旅行という手にしようかと色々考え中なんです。もしも、チケットが売れ残ったら、お願いします。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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