米元響子と地元LSO Meet & Greet

LSOというのは、非常に誤解を招きそうな名称であるが、地元の交響楽団Limburgs
Symphonie Orkestの略称がそうなので、いたしかたない。ロンドンのと区別するため地元LSOと呼んでいる。

米元響子さんは、2006年モスクワの国際パガニーニ・コンクールで優勝しているほか、各地のコンクールに入賞している若手ヴァイオリニストである。現在ベルギーにお住まいで、マーストリヒト音大のボリス・ベルキンに師事している。彼女の演奏は、2008年にやはり LSOとのコンサートでプロコフィエフのヴァイオリン・コンチェルト第一番その他を聴いた。昨年、ロシア人実業家が手に入れた3.5億円のグアリネッリを演奏したとかで、日本のメディアを騒がせたらしい。

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2010年 1月 30日 @Theater Kerkrade  LSO o.l.v.Dmitry Yablonsky
Sjostakovitsj Feestelijke Ouverture
Glazoenov Vioolconcert
Sjostakovitsj Symfonie nr.8

ショスタコーヴィッチの「祝典序曲」は、金管楽器が大活躍する、伸びやかで聞きやすいメロディーの短い序曲である。軽い疾走感が心地よく、明るい幕開けだ。
今回のプログラムは、ロシア人作曲家による「祝典と悲劇」がテーマだから、この後は、どんなに暗くなるかわからない。まずは、軽く景気付け。

グラズノフのヴァイオリン・コンチェルトは、初めて聴く曲だ。
プロコフィエフみたいな、難解なものではないかと、戦々恐々として待ち受けていたが、肩透かしというか、意外にも叙情的で聴きやすいものであった。シロフォンとのユニゾンの部分など、心が軽やかになる。
米元さんは、このマイナーなロシアもので、とにかく、聴衆の耳をそば立たせ、目を見開かせてくれた。
まだ若い女性ヴァイオリニストであるから、一人でオケをリードするわけにもいかず、オケとの絡みに少々歯がゆいものを感じていたかもしれない。自我を抑えつつ、クールでありながら叙情性を表現する演奏であった。外見にも音にも、めくるめくような華やかさはないが、深い滋味を感じさせる演奏スタイルが彼女の持ち味であろう。派手でポピュラーな曲とは正反対のこの曲に、あえて挑戦する姿勢にも好感が持てた。技術的には、余裕すら感じさせた。

休憩の後は、いわゆる「タコ8」。戦争がテーマの曲だから、重量級デスマッチともいうべき迫力が予想される。その重い曲の指揮には、やはり重量級のロシア人指揮者が適任というわけだろう。客員指揮者は、この人。

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              自称「相撲レスラー」のデミトリ・ヤブロンスキー。
              ヒールらしい面構えで、百貫目級。

しかし、見かけよりも指揮ぶりは繊細であった。
爆音で押せ押せになるかと思ったら、そうでもなかった。咆哮炸裂する音を期待していた人には、肩透かしであったかもしれない。
しかし、それは、指揮者のせいではない。LSOというのが、もともとそういうオケなのだ。普段から、管楽器にも弦のアンサンブルにも、あまり個性が感じられない楽団である。中庸主義とでもいおうか。全員一丸になって燃えたりすることは、めったにないのだ。
だから、普段より増強した団員で、これでもかと攻めてくるが、パフォーマンスに迫力が乏しい。これが、LSOの実力の限界である。オランダで一流とされるあの楽団とか、かの楽団が、あの指揮者とかで演奏したなら、こうなったかも、などという幻想を抱く方が間違いなのだ。
戦争のヴァイオレンスを激昂して訴えるよりも、その影にある静謐な悲劇性を強調するアプローチだったので、それなりに満足した。爆音だけの下品な演奏にはならなかったのだから、よしとしなければ。

今回のコンサートは、Meet & Greetといって、音楽学校の受講生は、アーチストにお目にかかり、解説やインタビューなど聴くことができる、というのが売り物だった。
米元さんに会って、お話を聞けたり、感想を述べたりできるのかと思って、楽しみにしていた。
ところが、ソリストは早々とお帰りになったのか、終演後の特別イヴェント・ゲストは、指揮者とクラリネット奏者であった。
指揮者の名前などノーマークだった。後半の始まる直前に、「おお、ロシア人か」と思った程度である。全く知らない人に、質問などできるわけがない。

それでも、着物を着ていたので、こちらより先に指揮者のほうから、「こんにちは」と日本語で挨拶してきた。
見よ、着物の威力の絶大さ。そして、わたし達の着物姿を褒めてから、自分は「相撲レスラーみたいでしょう」と言ったのである。
それで、いっしょにお写真など撮らせていただいた。ロシア人にしては、人当たりがフランクで英語が非常に上手い。その後の、経歴説明で、ロシア生まれではあるが、ジュリアード音楽院とエール大学と教育はアメリカで受け、その後西ヨーロッパで活動しているということで、なるほどと思った。
知らない人だから、お話を拝聴するだけで、曲目にも詳しくないから、コメントもできない。残念であった。

クラリネットや、トランペットや、フルートが活躍する場面の多い曲であったから、クラリネット奏者も呼ばれた。
彼は、普段は第二奏者なのだが、本番直前に第一奏者が病気になり、ソロ・パートを1日で勉強して演奏したそうだ。(まあ、1年くらい前からプログラムは分かっていたのだから、クラリネット・パートが重要だとは認識して張り切って練習してはいたはずだ)
ロシア人指揮者とは、月曜日に顔合わせして、3日間のリハーサルの後、木・金・土とコンサート。その日は土曜日で最終だったから、5回のリハーサルを終えて、やはり一番いいできばえで満足したそうだ。

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          泥藍大島に、スカーフのようなモダン柄の塩瀬帯。

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          泥大島に、橙色の羽織のバービーさん。
          羽織のポイント柄が、九谷焼の花瓶の写しで華やか。
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by didoregina | 2010-01-31 20:23 | コンサート | Comments(6)
Commented by アルチーナ at 2010-02-01 10:19 x
米元響子さん、名前を知りませんでしたが、成長が楽しみですね。
相撲レスラー指揮者も確かに迫力ありそうなお顔です。体重もあるようなので、実際に見たらさぞや迫力、あるでしょうね。
日本のオーケストラも迫力不足とかサラリーマン的演奏と言われることがあるようですけど、どうなのかしら??高い外来オケなどには殆ど行けないのでワカリマセンが・・

あ、それからゾマーはヘンデルアリア集を買いました!ちょうど、このところ日本でもCDを買ったりしていたのであま沢山は買えませんでした。いつ頃届くのか、ちょっと不明ですが、楽しみに待ちたいと思います。
Commented by レイネ at 2010-02-01 16:47 x
アルチーナさま、米元さんは、派手さはないけど実力がじんわりと印象に残るタイプなので、若さと美貌が勝負ポイントの女流ヴァイオリニスト界で、しのぎを削るより、マイペースで着実に成長・活躍して欲しいと思ってます。
日本のオケは、優等生タイプとも言われますね。指揮者の色に染まりやすいと。

まあ、わたしも昨日、ヨハネット・ゾマーのコンサートに行って、ヘンデル・アリア集を買い、サインしてもらったんですよ!今、聴いてますが、オーボエとの組み合わせが、なかなか新鮮なアプローチです。
Commented by Deborah at 2010-02-01 20:33 x
レイネさまのブログに、ときどき、出演されていた、バービーさんですが、ついに、ご本人さま、登場ですね!
後ろ姿も、大変、お美しいです~☆
Commented by レイネ at 2010-02-01 21:08 x
Deborahさま、よくご存知のバービーさんのお着物姿、すてきでしょ。
着物で目立ったので、ロッテルダムのファッション展覧会とシンポジウムに行ったという人(どこかの美術館の学芸員)をはじめ、何人かともハナシが弾んだんですが、帰りは吹雪。滑ったらいけないので、高速道路も50キロで、雪国育ちのバービーさん指示の通りに運転して、なんとか帰ってこられました。一人だったら、立ち往生してたでしょう。
Commented by straycat at 2010-02-01 22:34 x
お二人で大島だったんですね。柔らかモノに比べて派手さはないですが、それが却ってこういうコンサートにはピッタリかもしれませんね。レイネさんの帯はモダンで知的、甘くなりすぎなくて良いですね。白地の塩瀬は使いやすそう。。ご友人の羽織の朱色が何てステキな深みのある色なんでしょう。
Commented by レイネ at 2010-02-02 03:32 x
straycatさま、カタモノに慣れると、着易さからもついつい手が伸びて、柔らかモノは、なんだか気恥ずかしくてあまり着なくなりますね。大島は、汚れや雨にも比較的強いし。会場の雰囲気にはぴったりでした。
この帯、ダントツに気に入ってます。でも、他に合いそうな着物がないので、この組み合わせばかりに。
バービーさんの羽織は、本当に素敵な色で、しかも芸術的な絵付けなんですよ。


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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