ベッリーニの「清教徒」TV放映

オランダ第二放送の「オペラ月間」のトリを飾ったのは、ベッリーニの「清教徒」だった。
2009年2月のDNOプロダクションが、同じ年の年末にTV放映された。

c0188818_17103664.jpgmuzikale leiding Giuliano Carella
regie Francisco Negrin
decor Es Devlin
kostuums Louis Désiré
licht Bruno Poet

Lord Gualtiero Valton Daniel Borowski
Sir Giorgio Riccardo Zanellato
Lord Arturo Talbo John Osborn
Sir Riccardo Forth Scott Hendricks
Sir Bruno Roberton Gregorio Gonzalez
Enrichetta di Francia Fredrika Brillembourg
Elvira Mariola Cantarero

Nederlands Philharmonisch Orkest
Koor van De Nederlandse Opera

オペラTV放映の長所は、日曜日の午後、のんびりとワイン片手に鑑賞できることと、放映前や休憩には、練習風景映像や、出演者・指揮者・演出家へのインタビューや、オランダの檀ふみみたいなタレントの司会兼ツッコミ役とオペラ・エキスパートによる解説も入ることだ。
込み入ったストーリーなので、視聴者へのサーヴィスとして、出演者自らが役どころを説明してくれた。しかし、これがかえってわたしには混乱を招いた。知ってる歌手は誰も出ないので、彼らが普段着でメークなしで説明してくれても、その後でステージ上の登場人物と一致しないのだった。

短いトレーラーが見られるので、DNOのサイトにリンクを張る。

演出家のネグリンは、DVDにもなっているショル兄の「ジュリオ・チェーザレ」および「パルテノペ」を演出した人である。論理派・硬派・社会派・ストイック、という印象を持っている。
議会派=清教徒と国王派=カトリックとの対立を背景に、客観的にエルヴィーラの狂乱の心理を抉り出して見せた。
異なる宗派の確執が悲劇の原因なので、宗教への盲信を象徴的に表現するため、背景には大きく点字で聖書の文句が立体的に打ち出されている。
c0188818_17502498.jpg

       議会派の衣装はストイック。背景も無機質なグレー。

点字を視覚的デコールに用いるというアイデアは素晴らしい。
そこに書かれている内容は、目明きには解読不能のコード同様だからだ。聖書にしろなんにしろ、蒙が啓かれていない一般民衆にとっては、その内容は解読不能、盲信する人にだけわかる閉じられた世界なのだ。
そういう暗示以上のメッセージを発しないから、点字で書かれた内容がどんなに過激なものであっても、見ている人にはわからない。使いようによっては、サブリミナルよりずっと深層の(無)意識領域にしか訴えないから、ソフトでスマートな方法だといえる。
       
「わたしは、ベルカント・オペラを歌うために生まれてきたのだと思う」と、エルヴィーラ役のソプラノ、マリオラ・カンタレロ(すごく覚えにくい名前だ)はインタビューで言っていたから、聴き所は、彼女の狂乱アリアだろう。
c0188818_188178.jpg

         「花嫁衣裳まで着て待ってるのに、
          花婿は別の女と逃げてしまった。。。」

声はベルカント向きだし、やや古風で嫋々とした歌唱もいいのだが、どうも、彼女のルックスが同情を誘わないのだった。もう少し、可愛い感じの美しいソプラノ歌手に歌って欲しかった。やはり、今時のオペラ歌手には、ルックスも重要なのだ。

アルチューロ役のジョン・オズボーンの出来には、賞賛が集まった。全く無理がなく、どんなに高音になっても安心して聴いていられるのだが、やはりちょっと物足りない。それは、舞台での華がイマひとつないからだ。

その二人の愛を謳うシーンの背景は、聖書の文句の点字ではなく、筆記体の手紙の文句である。
こうして、無機質と有機体との対比で、人間同士の愛を強調したのだと演出家は言う。
c0188818_18192671.jpg


それ以外の舞台背景も、転換が面白かった。
あの巾広いアムステルダムの歌劇場の舞台背景が、回り舞台のようにではなく、上手から下手へとスムーズに横に動いて変わる。登場人物は舞台に立ったまま、背景だけをあのように動かす仕掛けをうまく考えたものだ。このプロダクションはアテネ歌劇場との共同制作だが、アテネの歌劇場舞台も相当広くないと、この装置は使えないだろうに。

「通常のエンディングと異なるけど、秘密よ」とオランダの檀ふみは言った。
それで、どうなるんだろうとあれこれ想像して、想像が膨らみすぎてしまった。あまり気を持たせることを事前に言われて、かえって、なあんだそういうことか、と気が抜けた。
ハッピーエンドになるかと思ったら、アルチューロは最後に殺されてしまうのだ。恩赦を待たずに。
二人の再会も、それを巡る両派の対立・混乱も、実は全てエルヴィーラの錯乱した妄想に過ぎなかったのかもしれない、という暗示と共に。
c0188818_18401366.jpg


指揮はイタリア人のジュリアーノ・カレラだったから、ベッリーニの美しい音楽が、本当にイタリア的に歌われていた。オケ演奏もベルカントそのものだった。
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by didoregina | 2010-01-05 10:51 | オペラ映像 | Comments(6)
Commented by Mev at 2010-01-05 21:51 x
私はサプライズエンディングを知らずに見ていたので、主人公が撃たれてあまりにも驚いてぼーっとしてしまったんですよねえ。そういえば。
それにしてもさすがレイネさんの批評は知的ですばらしい。私なんぞ、動く舞台をみてドリフの8時だよみたいだなあと思ったりしていたんですよ~。なんたる違いでしょう! ベルカントって悲劇なのにストーリーに全く関係なく優雅な旋律を歌いますよね。メロディーを聴かせるための舞台なんですね。純粋に音楽を楽しむという面では、すごくよくできていると思います。好きです。
Commented by straycat at 2010-01-06 01:19 x
こんにちは!

オペラにしてもそうですが、ヨーロッパの美術や音楽って歴史や宗教の理解なしには理解できないし語れませんよね。私の場合、清教徒ってなんだっけ?というところから躓いてしまうのがちょっと悲しかったりします。世界史をもう少し真面目に勉強すればよかったな~なんて。
ところで、
>上手から下手へとスムーズに横に動いて変わる。登場人物は舞台に立ったまま、背景だけを・・
というの新国立でも見ましたよ。椿姫でしたが、新国立では下手から上手へ、背景だけでなく舞台全体(舞台手間?)が人物ごと左から右へ移動しました。私はそれを見て心底驚きましたが、誰かが感想で、芸のない演出とかなんとか書いてあるのを見て、それにも又驚きました。人の感想って様々なんですね。

このトレーラーも重量感のある声で中々のものではないですか?
声、声、声・・声の競演で圧倒されるベルカントと言うものを一度生で聞いて見たいというのが私の望みです。
Commented by レイネ at 2010-01-06 02:31 x
Mevさまは、これもナマでご覧になったのね。帰国が決まってから凄い勢いでいろいろ。
やっぱり、このオペラはTVでは伝わってくるものが少ないと思います。ナマの声を聴かなきゃあね。ジョン・オズボーンは一瞬、フローレス様に見えたりすることもあったけど、ちょっと魅力が足りませんでした。
リエージュではベルカントものがけっこう多いんです。もうすぐ「カピュレッティとモンテッキ」で、パトリツィア・チョーフィが歌うから、聴きに行こうかな。
Commented by レイネ at 2010-01-06 02:38 x
straycatさま、クロムウェル頃のイギリスの歴史って、とってもややこしいですね。高校時代、世界史クラブというのに入っていて、世界史の先生を好きだったせいで、西洋史は大好きでした。。。

この舞台装置、新国同様、背景だけじゃなく人物が乗ってる部分も動いたりして、とっても面白いと思いました。「8時だよ全員集合」的というご意見もあり、視覚的にたのしめますよね。

日本でも、やっぱり、ベルカントものはあまり上演されないんですね。歌える歌手が少ないのかしら。
Commented by アルチーナ at 2010-01-07 11:07 x
ベッリーニやドニゼッティはあまり聴いたことがなく、ちょっと苦手意識もあるのですが、確かに日本であまり上演されないから、というのもあるかもしれません・・
新国の横に舞台がスライドするというのは『椿姫』で特に印象的でした。意外とスピードが速かったような・・・皆さんこけないかちょっと心配になるくらいに・・
点字の壁というのも素敵ですね。
先日テレビで見たのですが、日本のナイキショップでスニーカーの靴底を正方形に切って、塗装して、タイルのように並べた、内装を見ました。それも良いアイデアだなあと思ったことを思い出しました。
Commented by レイネ at 2010-01-07 21:40 x
アルチーナさま、ベルカントものは、歌手で勝負だ、と思ってましたが、オケ(指揮者)も重要だと、認識を新たにしました。日本公演だと、外タレをそろえなきゃいけないので、ベルカントものは高くつきそう。

廃物利用のインテリア展というのをバルセロナでやってたようで、とても美しいものが多いので、ご覧下さい。この方のブログに写真が沢山アップされてます。ー>gyuopera.exblog.jp


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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