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「タウリスのイフィゲニア」@モネ劇場

「アウリスのイフィゲニア」の10年後のお話。

「タウリスのイフィゲニア」@モネ劇場_c0188818_5245430.jpgmuzikale leiding | Christophe Rousset
regie | Pierre Audi
dramaturgie | Klaus Bertisch
decor | Michael Simon
kostuums | Anna Eiermann
belichting | Jean Kalman
koorleiding | Piers Maxim

Iphigénie | Nadja Michael
Oreste | Stéphane Degout
Pylade | Topi Lehtipuu
Thoas | Werner Van Mechelen
Diane | Violet Serena Noorduyn

Symfonieorkest en koor van de Munt

今回、モネでは「イフィゲニア2部作」を、1時間の休憩を挟んで一挙に上演してしまった。
ストーリーの継続性から考えると、この一挙上演は快挙と言えよう。
しかし、音楽的には、ほとんどこの2作に継続性はないように思えた。というより、「アウリスのイフィゲニア」作曲から5年たっているのだ。音楽性が変化しても不思議はない。

観客からすれば、「アウリス」(1部)を見たので、ストーリー背景が飲み込め、「タウリス」(2部)の世界にすんなり入り込めるし、演出家としても、説明的プロローグなどを付ける必要がないから、1部2部続けての上演は、双方にとって便利だ。

舞台装置は、ロイヤルボックス(軍司令部もしくは宮殿、2部では神殿)に繋がる階段の角度が、わずかに歪曲したのみで、大きな変化はない。

ディアナの加護によって命が助かったイフィゲニアは、スキタイのタウリス島で女神に仕える巫女になっている。
「タウリスのイフィゲニア」@モネ劇場_c0188818_5414337.jpg

     神殿を守る巫女たちというより、捕虜収容所か精神病院に入れられてる
     若い女の子たち。

タウリス島のイフィゲニアは、ナジャ・ミヒャエルが歌う。
ナチュラル・メークでスリップドレスの彼女からは、ナイーブで精神を病んだ少女らしさが漂う。
しかし、ミヒャエルの声は、古楽系のヴェロニク・ジャンスとは全く異なり、ドスを利かせたヴィヴラートを力強く響かせるので、まるで「サロメ」か「エレクトラ」みたいだ。
彼女の声を聴いただけで、10年の年月が過ぎ、アウリス島のイフィゲニアとは異なる境遇の、別人のようになった主人公という設定であることがわかる。
「タウリスのイフィゲニア」@モネ劇場_c0188818_62253.jpg

         メークのきついナジャ・ミヒャエルのポートレート。

また、ここで聞けるグルックの音楽も、バロックから決別して、新たな潮流に入ったことを明白に示す。しかも、ミヒャエルの声の印象から、古典派を飛び越えて後期ロマン派の音楽のようにも聞こえる。もう、R.シュトラウスの世界からそれほど遠くない。

ストーリーも、ギリシア悲劇に基づいているから「エレクトラ」に似ている。
弟のオレステスが、母と継父を殺して、タウリス島まで流れて来た。元はといえば、その母クリュタイムネストラが、夫アガメムノンを殺した、そのあだ討ちだったのだ。血塗られた家系の一家である。

「タウリスのイフィゲニア」@モネ劇場_c0188818_695792.jpg

        目隠しされ、生贄にされる寸前のオレステス。

オレステスは、親友ピラデスと共に、罰のため異国に流されたのだが、スパイ的使命も担っている。
タウリス島に流れ着いた異国人は、生贄のために殺されることになっている。ディアナからの神託を授かった巫女イフィゲニア自らの手で。

ここから、ドラマは深刻さを帯び、登場人物は皆、苦悩する。
イフィゲニアは、弟と知らずにオレステスに会うが、故国への手紙を託すため、オレステスかピラデスの一人だけ、命を助けることにする。
そこで、二人の男の友情が絡むのだ。どちらも相手を助けたいと願って。
その苦悩する男の一人、ピラデスを演じたのが、トピ・レティプー君だ。
「タウリスのイフィゲニア」@モネ劇場_c0188818_620973.jpg

        素顔に近いメークで、長身で颯爽としたトピ君。

テノール(ピラデス)とバリトン(オレステス)のデュエットもあり、互いに相手の命を救いたい男の友情、とくれば、「ドン・カルロ」を思い出さずにはいられない。
トピ君のことは、bonnjourさんのブログ記事を読まなかったら、ノーチェックだったはずだ。変わった名前だから、一度目にしたら忘れない。たまたま、当日しかも休憩時間に、トピ君が歌うことを知り、これはこれは、と注目した。
注目に値する、さわやかな容姿と伸びやかな声のテノールである。古典派の音楽に向いてる声質だから、モーツアルトやグルックのオペラの役がぴったりだ。これからも、期待しよう。

「タウリスのイフィゲニア」@モネ劇場_c0188818_631686.jpg

        ロイヤル・ボックスはディアナ(右)の神殿。

結局、あわやの時に、姉と弟だということがお互いにわかり、またもやディアナのご加護によって、命が助かる。精神病棟のガードマンか監獄の看守みたいなスキタイ王も、ピラデスの手によって殺され、めでたしめでたしで終わる。

1部2部ともに、ディアナ役は同じ歌手で、舞台を見守りつつ、重要な時になると必ず現れる。ストーリーのカギを握る人物だからだ。そんな風に、神の手のひらの上で踊らされている人間、というのは、まだまだバロック的考えであろう。グルックの音楽は、過渡期というより、もうバロックからは抜け出ていたが、R.シュトラウスのオペラ世界まではさすがにまだ行っていない。

これで、グルックのオペラは「オルフェオとエウリディーチェ」「パリーデとエレナ」それにこの「イフィゲニア2部作」の計4作を鑑賞したことになる。この「イフィゲニア2部作」を聴いてようやく、彼の音楽の簡潔さが、なるほど古典派の楷書のような端正な味なのだと、納得できた。
多分、ルセのアプローチもその辺をしっかりと狙って、ダ・カーポ・アリアを省いたり、オケもモネ劇場専属オケを使ったのだと思う。

「タウリスのイフィゲニア」@モネ劇場_c0188818_7112634.jpg

         スキタイ王と右手後方に指揮者ルセ。
by didoregina | 2009-12-27 23:02 | オペラ実演


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


by didoregina

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プロフィール

名前:レイネ
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性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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