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Alida Withoosのボタニカル・アート

海洋国家オランダの黄金時代は、東インド会社(VOC)発足の1602年から1799年の解散までの約200年間だ。海洋オタクにとって、VOC(Vereenigde Oostindische Compagnie)という単語は、わくわくする響きを持つ。また、その黄金時代の文化は、特に美術の分野において、オランダならではの、味わい深い花々を咲かせ果実を実らせた。

チューリップ・バブルとも呼ばれる、チューリップの球根売買が投機の対象として株式市場をフィーヴァーさせた時代に水彩で描かれたチューリップの絵は、当時の商品カタログの役目を果したので、図鑑的な精密さもさることながら、写実的なだけではない瑞々しい美しさに溢れている。

アート・フェアや古版画専門店で、そういった水彩画や、それを基に彫られた銅版画に彩色されたものなどをよく見かけるが、いつか手に入れたいと思いつつ眺めるのが常である。対象となる花そのものや、色・形態、また紙の状態と値段の兼ね合いで、満足のいけるものには未だ出会っていない。いずれそのうち、と思いながら気長に出会いを待っている。


ワーヘニンゲン大学の図書館で、所蔵品の小さな展覧会をみることができた。
Alida Withoosのボタニカル・アート_c0188818_2145342.jpg

Alida Withoos(1661?-1730)という女流画家が、エキゾチックな植物や昆虫を水彩で描いた、いわゆるボタニカル・アートである。

Alida Withoosのボタニカル・アート_c0188818_2145448.jpgワーヘニンゲン大学が所蔵するSimon Schijnvoet(1652-1702)が編纂したKonstboeckというボタニカル・アート集に、彼女の描いたものも6枚納められているので、リンクを張った。
アリーダの手によるこの絵の中の蝶や蛾は、まるで宝石のようで、本来のはかなげな美から変身を遂げ、結晶のような美に昇華されている。
花の命同様、虫の命は短い。それを永遠の姿にとどめようという試みがボタニカル・アートの目的だろう。



当時、女性画家が学術的目的もしくはカタログとして描くことを許されたテーマや対象は限られていた。
植物画や庭園などの風景画にほぼ限定され、動物や人体などの解剖学的なものは、ご法度だった。
VOCが海の果てから持ち運んだ、ヨーロッパ原産ではない植物を描くのは、女性ならではの繊細な感性が生かせる分野だ。しかし、男性画家のように弟子入りした親方の工房で絵画を学ぶ道は閉ざされていたから、女性の場合、画家であった父親の家業を受け継ぐ形で訓練を受け、絵の注文を得るのが常道だったようだ。


絵の注文主が女性の場合もある。
VOCによる貿易で財を成した商人を中核とする市民階級が勃興したのが、オランダの黄金時代である。貴族や王族以外のいわゆるブルジョワも、その財力とエキゾシズム趣味を誇示するために、競ってアムステルダム郊外やオランダ中部森林地帯に別荘を建てた。リッチな商人の奥様達は、室内装飾に凝ったり、庭園や温室で異国の植物を栽培したりの趣味に没頭する。そして、それら物品や植物の財産目録として、絵を描かせたのである。
そのような女性注文主と女性画家のコラボの結果として残された、アーカンサスを描いた絵が印象的だった。
Alida Withoosのボタニカル・アート_c0188818_21563122.jpg


アーカンサスのモチーフは、ギリシャの神殿の柱頭やフリーズに好まれ刻まれているが、オランダではかなりエキゾチックな植物だったろう。とても男性的で、力強い美しい姿の植物だと思う。
今は、品種改良のおかげか、家の裏庭でもよく育ち、多年草なので毎夏、凛々しい立ち姿を見せてくれる。
by didoregina | 2009-11-16 14:09 | 美術


コンサート、オペラ、映画、着物、ヴァカンスなど非日常の悦しみをつづります。


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プロフィール

名前:レイネ
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性別:女性
モットー:Carpe diem

オランダ在住ですが、国境を越えてベルギー、ドイツのオペラやコンサートにも。
ハレのおでかけには着物、を実践しています。
音楽、美術、映画を源泉に、美の感動を言葉にしていきます。


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